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第54章:マンチュン

「指揮官!」

南壁の兵士が、慌ただしく指揮所に駆け込んできた。

私が何か言う前に、彼はすでにスジンの手に小さな巻紙を差し出していた。

「秘密の書状が届きました。」

スジンはそれを受け取り、素早く兵士を下がらせる。

兵士が去ると、彼は迷うことなく私にそれを差し出した。

私はそれを広げ、目を走らせる——

息が詰まる。

「馬の準備をしろ。信頼できる兵を数名選んで同行させろ。」

「……何?」

スジンに巻紙を返す。

彼はそれを読み、眉をひそめる。

「この情報だけで砦を離れるおつもりですか?」

「今は、どんな些細な情報も重要だ。」

スジンは、私の考えを見抜いたように言う。

「これは罠かもしれません。

本当に新羅が精鋭部隊を送ったとは限らない。

誤報を流し、あなたを動かそうとしている可能性もあります。」

「それがどうした。」

私は即座に切り捨てた。

「今この瞬間、確実なのは——行動しなければならないということだ。」

私の言葉に、スジンが口を開こうとしたそのとき——

マナが指揮所に飛び込んできた。

「……何があったの?」

彼女の視線が私の顔からスジンへ、そして彼の手の中の巻紙へと移る。

彼女は、すべてを察した。

スジンが慌てて紙を握りつぶそうとするが、遅い。

マナはすでに、一歩近づいていた。

「——何が起こっているの?」

沈黙だけが彼女に返答する。

しかし、それだけで彼女はすべてを察した。

「……あなたが護衛するはずだった『客人』に何か問題が?」

——胸が痛む。

スジンはそっと目を逸らし、私は何も言えずにいた。

罪悪感がのしかかる。

今のところ、この情報が確かなものかは分からない。

だが、それでも——

ヘヨンが危険にさらされている可能性があるというだけで、息が詰まりそうになる。

昨日、彼女が去るのを見送ってから、魂の一部が欠けたような感覚が続いている。

——それを埋めるものは、何ひとつない。

胸の奥にぽっかりと空いた穴が、ますます大きくなる。

その感情を彼女は見抜いたのだろう。

「——私が行くわ。」

彼女の声は、決意に満ちていた。

「あなたが行くわけにはいかない。」

彼女は続けた。

「今朝、砦の周辺を監視していた斥候のひとりが戻らなかった。

彼の馬だけが、血で汚れた鞍をつけたまま帰還した。

何かが起こっている可能性があるなら、私が行くべきよ。」

——胃が締めつけられる。

指先まで冷たくなり、胸の穴がさらに広がるのを感じた。

「まだ何も起こったと決まったわけではない。」

スジンが気遣うように言う。

私は彼らの方を振り向き、目を見開いた。

そこには、静かだが決して引かないという強い意志を秘めた妹の顔があった。

私が言葉を発さないことを、彼女は躊躇いと誤解したのだろう。

「もしかして……もう、私を信じられないの?」

——違う。

私は、彼女を信じている。

許してはいない。

だが、彼女の価値は知っている。

それに、彼女が今、私の信頼を取り戻そうとしていることも。

私はしばらく彼女を見つめた後——

ゆっくりと頷いた。

「スジン、彼女を護衛する兵を選べ。」

彼は黙って頭を下げ、すぐに部屋を出ていった。

私と妹だけが残る。

私は彼女の目を見据え、ついに心に渦巻く疑念を口にした。

「……何かがおかしい。」

「新羅が花郎の小隊を送り込む以上、確実な情報と内部協力者がいるはずだ。」

「花郎?」

彼女の表情が強張る。

「それが書状に? こんなに深く我が領内に?」

私はただ頷いた。

「……テウォンは今どこに?」

——彼女が口にしたのは、まさに私が考えていた疑問。

「いつもの通りだ。図書館にいる。」

彼女は一瞬、ためらった後、深く息を吸い込んだ。

「……テウォンも何かおかしいわ。彼はかつて、あの女に執着していた。」

「それなのに——あなたが正式に彼女を離縁したとき、何も反応しなかった。」

「テウォンが欲しいものを前に、黙って見過ごすはずがない。」

——欲しくてたまらないものを。

その言葉が胸に刺さる。

——矢を向けたときのことを思い出す。

喉元に当てた矢尻。

あと少し、手首を傾ければ、それで終わったはずだった。

彼を生かしたのは間違いだったのかもしれない。

私は、今のこの状況が彼に関係しているのではないかという疑念を拭えないでいた。

「だからこそ、あなたは砦を離れてはいけない。」

彼女は強く言い切った。

「花郎は精鋭部隊。」

「彼らは戦うことだけが目的ではない。」

「敵の弱点を利用し、戦わずして勝つことが彼らの真骨頂よ。」

「何が起こるか分からない。あなたは、あらゆる可能性に備えなければならない。」

彼女は口を閉ざした。

——しかし、その続きを言葉にする必要はない。

私には、彼女が何を考えているのか分かっている。

「高句麗への忠誠」を取るのか、「愛する者」を取るのか——。

いずれ、選ばねばならない瞬間が訪れるのかもしれない。

「国の安定のために、彼らを生かしておくことはできない。」

数日前、彼女が放ったその言葉が、今になって呪いのように響く。

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