第47章:マンチュン
机に広げた地図の上で、筆を滑らせる。
李世勣の前衛部隊の動き——
最新の報告を、慎重に書き写していく。
彼らは単なる帝国軍ではない。
彼らはすでに、複数の部族を味方につけている。
それぞれ異なる特性を持ち、それぞれ異なる力を備えた軍勢。
——李世民の野心は、計り知れない。
高句麗が、この圧倒的な軍勢を前に持ちこたえられるかどうか——
それは、すべて防衛線にかかっている。
もし千里の長城と国境の要塞を突破されれば——
残るのは安市と烏骨城のみ。
……それだけでは、あまりにも心もとない。
李世民は賢く、狡猾で、容赦がない。
「戦神」の名に相応しい男だ。
どんな堅牢な城壁も、半月もあれば陥落させる——そう言われている。
だが——
私の目が地図の上の戦線をなぞりながら、思考は別の方向へと流れていく。
本来なら、戦争のことだけを考えるべきだというのに——。
ヘヨンの完全な出発を手配するのは、もう数日の問題にすぎない。
完全な——
彼女が砦を去るとき、それは永遠の別れとなる。
唇に、いまだ残る微かな痺れ。
それは数日前のあの口づけの名残。
——交わした口づけ。
なぜなら、あのとき、彼女は……応えてくれた。
ただそれだけのことが、何かを変えてしまった。
ずっと築き上げてきた壁を、すべて壊したい衝動に駆られる。
もう、自分を抑えることはできない。
少なくとも、彼女に関しては。
いや——
彼女を永遠に失うかもしれない今となっては、なおさら。
彼女を遠ざけていたのは、間違いだった。
彼女のためを思い、守るべき存在だと考え——
数え切れないほどの制約を自らに課してきた。
けれど、本当はただ——
すべてを忘れたかった。
この世界の理も、本来あるべき関係も、全て——。
だが、それを願うには、もう遅すぎる。
……別の人生なら、あるいは。
「準備は整いました。」
スジンが指揮所に入ってくるなり、そう告げた。
「出発は週末の夜明けになります。」
私は地図から視線を上げる。
「他には?」
スジンは少し言い淀んだあと、
「実は……テウォン様の件です。」
と続けた。
私は眉をひそめ、促す。
「……何かあったのか?」
「ご命令通り、我々が不在の間も彼は軟禁されていました。ですが——」
「だが?」
「監視に問題がありました。」
スジンの言葉に、指先が止まる。
「数十羽のガチョウが囲いから逃げ出し、その混乱で警備が手薄になった時間がありました。」
「それはいつの話だ?」
「つい今朝、偶然知りました。監視の緩みは、線香一本分の時間ほど続いたようです。」
私は椅子の背にもたれ、思案する。
——偶然と呼ぶには、出来すぎている。
相手がテウォンである以上、なおさら。
スジンの顔に一瞬、ためらいの影がよぎる。
「……何だ?」
「……司令官。」
彼は言いにくそうに言葉を選びながら、
「あなたは……少し、彼に厳しすぎるのでは?」
と続けた。
すぐに思い浮かぶのは、テウォンのあの目だ。
「何を迷っている?」
そう言って、忌々しい笑みを浮かべたときの——。
スジンは躊躇しながらも、
「その……」
「彼は砦に戻ってからずっと孤立していました。」
「彼の部屋は何度も抜き打ちで調査されていますが、何も見つかっていません。」
「そして、彼は誰とも接触していません。」
「寺で襲撃を受けたことを忘れたのか?」
「……ですが、あの情報を漏らしたのが彼だという確証はありません。」
「誰にでも、伝えることはできたはずです。」
「つまり?」
「何を言いたい?」
「司令官が彼に苛立つ理由は分かります。」
「ですが、彼はただの一途な若者ではありませんか?」
「彼なりのやり方で、何度も姫様を守ろうとしていました。」
「司令官が不在の時でさえ。」
「実際、彼はそのせいで負傷し、痛めつけられたこともあります。」
一途な若者?
……テウォンに?
私の弟に?
——笑わせるな。
スジンは、他の者たちと同じように、あいつに騙されている。
「お前まで、やつに欺かれるとはな。」
そう、冷たく言い放つ。
スジンはわずかに口を引き結んだ。
しかし、その次の言葉は——
「それよりも、司令官。」
「私が真に警戒しているのは……テウォン様よりも、マナ様です。」
沈黙が落ちる。
スジンは微動だにせず、私の反応を待っていた。
「……私が不公平だとでも?」
冷えた声で問い返す。
スジンは一瞬、言葉を探すように喉を鳴らした。
「……不公平とは、申しません。」
「では、何だ?」
彼は頭を下げ、膝をついて謝罪しようとするが、私はそれを制する。
「膝をつくことは許さない。」
彼は戸惑いながら立ったまま、顔をそらせる。
「質問をしたはずだ。」私は念を押す。
「……警戒心。」彼は唇の端でようやくそう呟く。「砦の状況は把握しているし、我々が日々どのような危険と向き合っているかもわかっている。ただ、あなたが彼に対して抱く警戒心は、少し行き過ぎのように思える。」
彼の言葉に思わず身震いする。それでも彼は続けた。
「庶子でありながら、ただの駐屯地の指揮官の息子として、異国の都で三年間人質として過ごすことは、さぞ辛かっただろう。彼が姫に興味を示すのも、その環境のせいかもしれない。彼女はここで唯一、彼を人間として扱っているのだから。彼の姫に対する意図を認めるつもりはないが、それでも彼の動機は理解できるし、正直に言えば、警戒心よりも同情の方が勝る。」
彼は不安げに私を一瞥し、気まずい沈黙が落ちる。それだけで十分だった。彼は、私が禁じたにもかかわらず、膝をつく。
「指揮官、私は出過ぎた真似をし、あなたに無礼を働きました。どのような罰でもお受けします。」
私はため息をつき、顔を手で覆う。
—— 彼の言うことは、本当に正しいのか?
だが、その疑問が浮かんだ瞬間、心の奥底に違和感が生まれる。
違う。テウォンには何かある。魂の奥深くで、私はそれを感じる。
彼は変わってなどいない。
彼が変わるはずがない。もしそれが事実なら——今度こそ、怪物なのは私の方だということになる。
「立て。」私は命じる。「正直に話したことで罰するつもりはない。」
彼は一瞬躊躇したが、やがて従った。
「もう行け。私はやるべきことがある。」私は目の前の地図を示しながら言う。
彼は頷き、いつもより丁寧に敬礼すると、音もなく部屋を後にした。私は一人、考えに沈む。
テウォンは昔から人を利用し、誤った認識を植え付け、巧みに操って自分の思い通りに導くのが得意だった。
長い間、そのことを見抜いていたのは私だけだった。父ですら、最後の瞬間まで彼の本性を知らなかった。
だが——私は本当に彼と違うのか?
私もまた、人の目を欺き、真実をねじ曲げ、自分の望む方向へ導いている。
「私は正当な理由のためにやっている」と、自分に言い聞かせる。
だが、それは本当に真実なのか?
私が命を捧げると誓った王は、もうこの世にいない。彼の処刑の日、私は忠誠を誓った王のために、正当な後継者へ王座を取り戻すと決意した。
だが、内心では、そんな高潔な動機とは程遠かった。
私はただ、彼女を生かすためにここまでやってきたのだ。
そして、彼女を傍に置いておきたかった。
彼女の不在に耐えられなかった。
私にとって、答えは単純だった。ボクドクに王座を取り戻すことができれば、私は彼女とともに宮廷へ戻れる。
それこそが、私の唯一の目的だった。彼女が関わっていなければ、ボクドク王子を救おうなどとは決して考えなかっただろう。他の駐屯地の指揮官たちと同じように、ケソムンのクーデターをただ遠巻きに眺めていたはずだ。
—— 私は本当にテウォンと違うのか?
その夜、寺院で私がしたことは、ただの自己中心的な行為だった。どの瞬間においても、もはや存在しない王に対する誓いを守ろうとしたわけではなかった。
あのとき私が仕組んだ演出も、それ以来繰り返してきた隠された嘘や半端な真実も……。
どうして、ほんの一瞬でも「彼女にふさわしい」と思えたのか?
私は傲慢で貪欲だ。まるで兄と同じように。それに、私の利己的な行動は、結果として彼女を常に危険にさらすことしかしてこなかった。彼女のためにも、一刻も早く距離を置くべきだ。
「数日だけだ」と自分に言い聞かせる。たった数日。その後、私たちのつながりは完全に断たれる。
永遠に——。