表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/62

第33章: テウォン

また、一日をこの閉ざされた図書館で過ごす。

ここに閉じ込められて、もう十日が経つ。

新たな伝令は、一通も届いていない。

周囲の誰もが、私は完全に孤立していると思っている。

だが、彼らがどれほど注意を払おうとも——

私が外と連絡を取る方法を、未だに見破れてはいない。

連中は徹底的に調べ上げようとする。

定期的にこの部屋を捜索し、私が読む書物の一頁一頁まで入念に検める。

それでも、書架の下に隠された緩い石板には気づきもしなかった。

私は慎重に石板を元の位置に戻した。

その瞬間——図書館の扉が軋みを上げて開く。

私は即座に立ち上がり、本を手に取ると、何気ない仕草で振り返った。

——そして、心臓が一瞬止まる。

扉の向こうに、ヘヨンが立っていた。

「ヘヨン。」

私は本を机に戻し、微笑んだ。

「ここへ来てはならない。兄上に知られたら、お前が咎められるぞ。」

だが、彼女は軽く肩をすくめ、何食わぬ顔で言い返した。

「本を探しに来ただけよ。図書館に入るのは、禁じられていないでしょう?」

「……だが、ここが今の俺の居場所であることは、皆が知っている。」

「それが何か問題?」

私は眉をひそめた。

——彼女の態度には、どこか違和感があった。何かを隠している。

私はゆっくりと彼女へ歩み寄る。

「……何かあったのか?」

彼女の表情が、一瞬ためらいに揺れる。

慎重に、私は彼女の肩に手を置いた。

そのとき、ヘヨンが顔を上げた。

——不意に、彼女がひどく儚く見えた。

まるで、世界にたった一人取り残されたかのように。

——そして、その目に映るのは、俺だけだった。

「……三年前。」

彼女が、ぽつりと呟いた。

だが、すぐに言葉を止める。

——三年前?

彼女の声音に微かに震えが混じるのを感じ、私は静かに問いかけた。

「……聞かせてくれ。何が知りたい?」

彼女は、まっすぐに私を見つめる。

「三年前、王・ヨンニュに仕えていたのは——あなただったの?」

——息が止まりそうになった。

——なぜ、それを今聞く?

彼女の問いの終わりにかすかな震えがあった。

しかし、それ以上に気になったのは——

——彼女が、俺に向かって「あなた」と呼んだこと。

——つまり、彼女は俺を誰かと間違えている。

最初に出会ったときから、その誤解があったのは分かっていた。

彼女が「俺」と思っているのは——

おそらく、兄・マンチュンだ。

——問題は、俺にも分からないことが多すぎるということだ。

兄・マンチュンの過去は、謎に包まれていた。

彼がかつてどこにいたのか、何をしていたのか、誰も知らない。

その時期、父上ですら彼が平壌にいたかどうかを把握していなかったのだ。

彼が安市に戻ったのは、大莫離支による政変のほんの数ヶ月前だった。

王によって任命され、父を補佐するために呼び戻された。

その目的は、父の後を継ぐ「次の指導者」を育てるためだった。

——王の政策を受け継ぐ後継者を。

それ以来、マンチュンは自らの過去を誰にも語らなかった。

——そんな彼の空白の時間について、ヘヨンが今、問いかけている。

——ここで一つでも間違えれば、彼女は俺を疑い始める。

——それだけは避けなければならない。

私は、一瞬の間を置いた。

そして、答えの代わりに、静かに口を開いた。

——話題を変えなければならない。

——私は、わずかに目を伏せた。

それは、計算された「懇願」の仕草だった。

「……俺の過去は、語るべきものではない。」

私は静かに告げる。

「それに、あれはすでに終わったことだ。俺は、かつての自分とは違う。

——李世民の宮廷へ向かう前の俺とは。」

「……何?」

彼女の戸惑いをよそに、私はわずかに笑った。

「長安へ向かったとき、ちょうど世は乱れていた。」

「ゲソムンが政変を起こし、俺は人質として唐へ送られた。」

「当然のように、俺は唐の貴族たちから疑われた。」

「—間者かもしれない、暗殺者かもしれないと。」

「だが、彼らも俺を簡単には殺せなかった。

——李世民は優れた策士だからな。」

「たとえ、俺がただの辺境の司令官の息子であろうと、

外交問題を引き起こすような愚策は、彼には無縁だった。」

「……それで、どうなったの?」

彼女の声が、僅かに震えた。

私は肩にかけた手の力を強めると、さらに身を寄せて囁いた。

「……何があったかなど、もはやどうでもいい。」

「過去なんてものに、意味はない。」

「ただ一つ残ったのは——」

「誰も俺を信用していないという事実だけだ。」

「俺の家族すらも。」

「だから、俺は隔離され、監視され、所持品まで調べられる。」

「——たとえ、高句麗のためだけを思い、長安へ赴いたというのに。」

「今や、誰もが俺を裏切り者と見る。」

「——お前以外はな。」

「なぜ?」

彼女が問い詰めるように言った。

「なぜ、あなたの兄は、あなたを信じないの?」

私は、冷笑を漏らした。

「……信じるも何も、最初から疑っていたさ。」

「では、彼が安市の城主になる前は?」

「あなたと同じく、王宮にいたの?」

——王宮、か。

彼女のその言い回しに、私は内心で興味を抱く。

つまり、彼女が俺を「誰か」と誤解しているのは確かだ。

——そして、その「誰か」は、王・ヨンニュの宮廷にいた。

——ならば、彼女もまた、そこにいたのではないか?

彼女は一体、何者なのか?

王族か?

重臣の娘か?

それとも、皇太子の婚約者か?

私は肩をすくめ、努めて軽く流した。

「さあな。兄は、何も話さない。俺にすら、な。」

「昔から、自立したがる性分だった。」

「——だからこそ、あの大莫離支の前で、ただ一人跪かなかったのだ。」

「……では、彼の目的は?」

私はゆっくりと首を振った。

——もし、それが分かるなら、とうに奪い取っている。

「兄の目的が何であれ——」

「——俺は、それを徹底的に破壊するつもりだ。」

「——すべてを奪う。」

「彼の望むものも、持っているものも、俺が根こそぎ奪い尽くしてやる。」

——そして、その視線をヘヨンに向ける。

ゆっくりと、穏やかに微笑んだ。

「——まず、お前からだ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ