敵の腕に抱かれて [初唐高句麗の第一回戦争の前夜における三角関係と復讐]

第28章：テウォン

——ベッドの縁に腰を下ろし、考え込む。

彼女は、一体何者なのか。

なぜ、兄はあれほど彼女を気にかけている？

それはただ彼女が大莫離支の娘だから、というだけではない。

それ以上の、何かがある。

——そう。

彼が、俺に嫉妬するほどの何かが。

……兄が、嫉妬？

その考えに、思わず笑みがこぼれた。

まさか、俺に？

——それは初めてのことだ。

俺は今まで、兄が羨むようなものを何一つ持ってはいなかった。

……いや、まさか。

仮にそんな日が来るとして、それが女のことでとは——。

——皮肉なものだ。

ゆっくりと韓服の襟を合わせる。

痛みをこらえ、顔を歪めながら。

——果たして、彼女のために受けた傷は、報われるのか？

それは、まだわからない。

だが、少なくとも兄が彼女に抱く「興味」の正体は知る必要がある。

そのためにできることは、ひとつ。

——もっと、彼女のことを知ること。

時間の問題だ。

これまで積み重ねてきた労力が、無駄になるはずがない。

彼女はもう、俺を信用しつつある。

——もっとも。

俺を、別の誰かと勘違いしているだけかもしれないが。

——例えば。

マンチュンとか？

俺と同じ、金の光を帯びた瞳を持つ唯一の男——

他にそんな特徴を持つ者を、俺は知らない。

——コン、コン、コン。

突然、扉を叩く音。

短く、規則正しく。

再び——コン、コン、コン。

——ここでは、誰もこんな風に俺を訪ねたりしない。

兄の手下どもは、俺の行動を常に制限している。

そして、兄もマナも、俺に敬意を払うような人間ではない。

——つまり、訪ねてきたのは……たった一人。

彼女だ。

口元に、またひとつ笑みが浮かぶ。

「さて——」

「どれほど俺のことを気にしてくれているのか、試してみようか。」

手早く、着ていた上着の襟紐をほどく。

それだけでなく、下に着ていたもう一枚も脱ぎ捨てる。

——もちろん、痛みは走る。

しかし、ここで怯んでは意味がない。

「……ああ、くそ……！」

苦痛を噛み殺しながら、傷の包帯をさっと確認。

——よし、見た目は十分「みすぼらしい」。

適度に無防備な姿勢を作り、わざと半身だけ扉に背を向け——

「……入れ。」

滑るように扉が開き——

その直後、入りかけた足が止まるのを、背中越しに感じる。

——そう来るか。

「さて、どんな顔をしている？」

彼女の反応を見るため、わざと服を手に取ってゆっくりと羽織ろうとする。

しかし。

まだ完全に向き直らぬうちに、痛みが込み上げ、思わずうめき声が漏れた。

——わざとじゃない。

本当に、痛む。

そして、その瞬間。

「動かないでください！」

駆け寄る気配。

——思った通り。

彼女は白い衣の端を私の手から取り上げ、不器用ながらも懸命に羽織らせようとする。

「君だったとは知らなかった」

顔を上げ、彼女の瞳を見つめながら、あえて親しげに語尾を崩す。

「……こんな姿を見せてしまって、すまない。」

「誰もお世話をしてくれる人がいないのですか？」

驚いたように尋ねる彼女。

「侍女も、侍従も？」

彼女がなおも敬語を崩さないことには目をつぶり、悲しげに笑みを浮かべる。

「殴り殺されなかっただけ、まだ運が良かったと考えるべきだろうね。」

「……君のおかげで。」

「礼も言えていなかったな。」

そう言いながらも、私は衣を羽織り続け、痛みをこらえながら表情を保つ。

「私がやります。」

彼女は引かずにそう告げる。

「よせ。」

私は首を振った。

「……相応しくない。」

「兄が知れば、お前を罰する。」

「私のせいで、あなたは傷を負ったんです。」

「だからこそ、私が手伝うべきです。」

「……彼がどう思おうと関係ありません。」

衣の襟に手を伸ばす彼女の指先が、わずかに私の指と触れた。

その瞬間、思わず小さく震えが走る。

彼女は迷うことなく私を手伝い、一つひとつ丁寧に衣紐を結んでいく。

至近距離から、微かに香る彼女の匂い。

「……君を俺たちの家族の問題に巻き込んでしまって、すまない。」

小さく呟くと、彼女は何も言わなかった。

そして、最後の紐を結び終えた彼女の手の上に、そっと私の指を重ねる。

彼女の肩が、微かに強張った。

しかし——

手を引こうとはしなかった。

「これで……マナももう、君にちょっかいを出すことはないだろう。」

「それが何よりの安心だ。」

「君があんなふうに虐げられるのを、もう見たくない。」

彼女が顔を上げる。

視線が交わった瞬間——

心臓が、一瞬、止まったように感じた。

ほんのわずかに身を乗り出せば、触れられる距離。

だが、その刹那——

彼女はそっと指を解き、慎重に距離を取った。

「誤解しないでほしい。」

彼女の戸惑いに気付き、私は低く告げる。

「ただ……君に感謝しているだけだ。」

「ここで俺を気にかけるのは、君だけだ。」

「皆、俺を間者扱いする。」

「……長安から生きて戻れたというだけでな。」

「だから、誰も寄りつかない。」

「もっとも……孤独には慣れているが。」

その言葉に、彼女の表情がわずかに曇る。

私はそっと、彼女の頬に落ちた髪を払おうとした——が、

彼女はさらに一歩、後ずさった。

「それでも……」

彼女は静かに言った。

「あなたが傷を負ったのは、私のせいです。」

「……しかも二度も。」

「あなたの無事を確かめることくらい、私にできる最低限のことです。」

先ほどまでの自然な仕草が消え、慎重さだけが際立つ。

——このままでは、彼女はここから去ってしまう。

何としても、引き留めなければ。

私は膝に力を込め、立ち上がろうとする。

——だが。

痛みが走る。

体が重く、すぐにベッドへと崩れ落ちる。

小さく呻いたその瞬間、彼女が即座に動いた。

「支えます！」

すぐに腕をとらえ、私を助け起こそうとする。

「……動くだけで、これほど痛いとはな。」

彼女の腕に、必要以上に体重をかける。

ようやく立ち上がると——

彼女がすぐそばにいた。

体が密着し、彼女の息遣いすら感じるほどの距離。

私はそっと、まだ私の腕に添えられた彼女の手に触れた。

そして、そのまま、口を開こうとした——

——だが、その瞬間。

バンッ！

——扉が、勢いよく開いた。

そのまま抱き合うような格好で——

私は、兄と目を合わせた。

彼は、目を細めた。

次の瞬間には、すでに目の前に。

彼は力任せにヘヨンを私から引き剥がした。

「——もう、十分だ。」

冷え切った声が、空気を切り裂く。

兄を窮地に追い込むまたとない機会を、逃す手はない。

「兄上。」

私はあえて穏やかに呼びかける。

私の弱々しい声が、彼の怒りの昂ぶりと対照的であればあるほど、彼の理性を揺さぶることができる。

「彼女を乱暴に扱わないでください。」

兄の腕にそっと手を添え、彼女を解放するよう促す。

——そして、兄は思った通りの反応を示した。

苛立ったように、手のひらで私の胸を押し返す。

私は大げさに身を仰け反らせ、力なく寝台へと倒れ込んだ。

すぐに、咳が込み上げる。

「……その茶番はやめろ。」

兄の冷たい声が落ちる。

私は息を整えながら、彼を見上げた。

「何を企んでいるかなど、お見通しだ。」

「誰もお前の芝居には騙されん。」

「もうやめて！」

ヘヨンが、兄の手を振りほどきながら叫ぶ。

「あなたには心がないのですか？」

「お兄様は傷を負っているのに、どうしてさらに痛めつけるのですか！」

「……お前に口を挟む資格はない。」

兄は苛立ったように言い捨てた。

私はその反応を見て、内心で笑みを噛み殺す。

そして、さらに——

ヘヨンが私のもとへ駆け寄ろうとした瞬間、兄は彼女の腕を強く掴んだ。

先ほどよりも、はるかに乱暴に。

「……離して！」

ヘヨンが叫ぶ。

「いい加減にしろ！」

「そのように振る舞って……自分の立場を忘れたか？」

兄はあえて言葉に力を込めると、彼女を引きずるようにして扉へと向かう。

彼女が必死に抵抗するも、彼は意に介さない。

私は、彼らが消えていくのを黙って見送った。

「——自分の立場を忘れたか。」

その言葉が、なおもこの部屋に響いている。

まるで、内側から私を切り裂くように。

拳を固く握る。

——兄上、お前の破滅は、もはや避けられぬ運命だ。

そして、その時が来れば……

お前が『所有する』すべては、私のものとなる。

——彼女も、だ。