第27章:ヘヨン
——夜明けの光が、紙窓を淡く照らし始める。
それでも、私はまだ眠れずにいた。
——何度目だろう。瞼を閉じるたびに、テウォンが打たれる光景が蘇る。
——耐え難い。
そして、ようやくその記憶を追いやったと思えば——
もっと恐ろしい考えが、脳裏にこびりついて離れない。
それは——
マンチュンの行動の根底にある“何か”。
——彼は、あたかも私を守ろうとしているかのように動いている。
だが、それが本当に“大莫離支の娘の信頼を得るため”なら——
なぜ、ここまで執着するのか?
それが策略ならば、なぜもっと露骨に仕掛けてこないのか?
——わからない。
彼の狙いも、彼の本心も——何もかも。
——答えを探すように、私は寝台の上で身じろぎする。
夜明けの白い光が窓を淡く染める。
それでも——
私は未だ、答えを見つけられずにいた。
——その時だった。
——廊下の床板が、軋んだ。
私は息を殺し、耳を澄ませる。
——次の瞬間。
戸を三度、短く叩く音。
そして——
——ゆっくりと、扉が引かれた。
——身を起こすと、ちょうどマンチュンの姿が扉の向こうに浮かび上がるのが見えた。
静かに足を踏み入れる彼は、もう杖を使っていない。
——それでも、歩みにはまだ僅かな鈍さが残っている。
「立つ必要はない。」
布団から足を抜こうとした瞬間、低い声がそれを制した。
仕方なく、私は布団の端に腰を掛けたまま、そっと膝を引き寄せる。
それは寒さのせいではなく——
ただ、彼の視線から寝間着を隠したかっただけ。
——彼はそれを察したのだろう。
私の隣に腰を下ろしながらも、礼儀正しく距離を取る。
それは、普段彼が私に対して見せる態度とは、まるで噛み合わない仕草だった。
「……テウォンは?」
聞いてはいけないとわかっていても、その名を口にせずにはいられなかった。
——そして、案の定。
彼の背筋がわずかに強張るのを感じる。
「……まずは、自分の心配をしたらどうだ?」
——冷たい、刺すような声音。
どうしてここまで冷酷になれるの?
どうして、自分の弟に対してさえも——
私は思わず布団を払いのけ、床に膝をついた。
「お願いします。私からの願いは、それだけです。ただ、彼の無事を確かめさせてください。」
「——お前は、彼のことをほとんど知らないはずだ。」
——それなのに、跪いてまで助けを乞うのか。
彼の声に滲んだ嫌悪が、私の背を冷たく撫でた。
「……彼には、借りがあります。」
震えながら、それでも言葉を絞り出す。
「二度も私を庇い、そのせいで傷を負いました。何もしないなんて、そんなこと——」
「——それは彼自身の選択だ。」
あまりに簡潔な言葉に、息を飲む。
彼は、なんの躊躇いもなく、そんなことを言えるのか?
——これが、兄を殺した怪物の本性。
心臓がひどく冷える。
忘れるな。彼がどんな人間か、決して見誤るな。
私は顔を上げ、彼を正面から見据えた。
すると、彼もまた、微塵の動揺も見せず、真っすぐに視線を返してきた。
「——そんな顔をされると、まるで俺よりも俺の弟を案じているみたいだな。」
皮肉げな微笑とともに、言葉の端に込められたひとつの強調。
——『弟』ではなく、『異母弟』。
肘を膝につき、彼はわずかに前傾する。
「お前が彼に何を感じようが、お前が俺をどれだけ憎もうが——」
「それでも、お前の命は俺のものだ。」
——言い切る声音は、揺るがない。
「だから覚えておけ。俺のものに手を出した者は、必ず報いを受ける。それは、テウォンとて例外ではない。」
——これは、警告ではなく、脅し。
残忍で、独占欲にまみれた、歪んだ執着。
「お前の命は俺のものだ」
……ああ、そうか。
——ならば、試してみるしかない。
私は、素早く枕元の簪を掴む。
鋭い先端を、迷わず喉元へと突きつけた。
「……もし私に彼を確かめさせず、これ以上脅し続けるのなら——」
静かに、けれどはっきりと言い放つ。
「——私は迷わずこれを突き立てる。」
「さあ、本当に私の命があなたのものか、確かめてみて。」
彼が、どう出るのか。
——私の命をどうでもいいと思っているなら、止めることはしないだろう。
だがもし、少しでも私を必要としているのなら——。
——彼の目が細められる。
彼はすぐさま腕を伸ばして私の手を掴もうとした。
しかし——
——私は、予測していた。
すぐさま後退し、さらに顎を上げる。
視線を逸らすことなく、簪の先端をぐっと皮膚に押し当て——
——チクリ、と、痛みが走った。
そして。
——赤い雫が、喉元を伝い落ちる。
その瞬間。
マンチュンの動きが、止まる。
まるで、その一滴に、何かを突きつけられたかのように。
沈黙が、二人の間を埋め尽くす。
彼は、私を見つめていた。
ただ、見つめ続けていた。
——何かに葛藤するように、
迷うように。
——やがて。
彼の差し出された手が、わずかに震えながら、ゆっくりと拳を握る。
そして、何かを噛みしめるように、それを自らのもとへと引き戻した。
「……そこまでして、奴を守りたいのか。」
——怒りは、ない。
あるのは——ただ、失望。
「なら、試してみるといい。」
私もまた、一歩も引かぬように睨みつけ、言い放つ。
「——私がどこまで覚悟しているか、思い知るといいわ。」
「『代償を払う』覚悟がどれほどのものかも。」
彼がかつて口にした言葉を、わざとそのまま返してやる。
その瞳が、一瞬だけ奇妙に揺らめく——
しかし、すぐに光を失い、冷たく沈んだ。
「……好きにしろ。」
低く、吐き捨てるように言うと、彼は立ち上がった。
「そこまで言うなら、行って確かめるがいい。」
——本気なのか?
それとも、これは罠……?
疑念を拭えぬまま、私は警戒を解かずに立ち上がる。
彼との距離を保ちつつ、簪の先をまだ喉元から離さない。
そして、戸口にたどり着いた瞬間——
私は、簪を下ろした。
振り返ることなく、一気に廊下へと駆け出す。
——テウォンのもとへ。