第26章: マンチュン
——冬の終わりの灰色の夜明けが、ゆっくりと空を侵食する。
夜を追い払い、薄明が広がり始める頃——
俺はついに、砦の刑務所へと足を向けた。
「……後にした方がいいのでは?」
隣で、スジンが静かに言う。
「今は、お休みになられた方が——」
——俺は言葉を返さず、ただ歩みを進めた。
ここで引き返すつもりはない。
たとえ、どのように挑まれようと——あるいは裏切られようと——
俺の方針は一貫している。
問題が発生したなら、迅速に対処すること。
決断力を示すことこそが、他者の敬意を勝ち取る唯一の道だ。
——胸の傷が、まだ酷く痛む。
しかし、数時間の休息のおかげで、どうにか杖なしで歩ける程度には回復した。
それでも、一歩踏み出すごとに、衝撃が全身を駆け抜ける。
だが、俺は奥歯を噛み締め、痛みを無視して歩き続けた。
最後までやり遂げる。
何があろうと。
それが妹であろうと——関係ない。
——砦の刑務所の門に近づくと、衛兵たちは即座に反応した。
彼らは慌ただしく両扉を押し開き、俺の前に恭しく頭を垂れる。
俺は足を止めず、そのまま中へと踏み込んだ。
——そこは、光の届かぬ細い石造りの通路。
春が近づいているはずなのに、遼東の湿り気を孕んだ空気が纏わりつき、呼吸を重くする。
揺らめく蝋燭の明かりが、湿った石壁に歪んだ影を映し出していた。
重苦しく、閉塞感に満ちた空間。
この場に染みついた、沈黙という名の静謐な脅威が、ひしひしと肌に迫る。
「——彼女の元へ案内しろ。」
低く、しかしはっきりと命じる。
スジンは無言で頷き、燭台の火を使って手にした松明に火を灯すと、俺の前に立ち、先導した。
——マナがどこに閉じ込められているのかは知らない。
だが、昨夜の独房が、彼女に必要な教訓を与えたことは確かだ。
曲がり角を三度過ぎ——
——そして、ようやく、一枚の重い木製の扉の前で足が止まる。
——今ここで、彼女が俺にどんな言葉を投げかけるのか。
その答えを知ることが、ほんの少し怖いとさえ思う。
「開けろ。」
命令の声が、周囲の石壁に吸い込まれる。
「——それと、俺たちを二人きりにしろ。」
スジンは軽く頷くと、錠前を外し、扉を引いた。
——軋む鉄の蝶番。
彼が脇に退くと同時に、俺へと松明を差し出したが、俺はそれを手で払い除けた。
「不要だ。」
——朝の冷たい光が、牢の小さな横長の窓から差し込んでいた。
それで十分だった。
——マナは、隅に蹲っていた。
膝を抱え、壁に背を預け、頭を腕に埋めている。
その下に敷かれた藁の寝床は、無数の染みで汚れ、崩れかけていた。
——俺が中に足を踏み入れた瞬間、マナは頭を上げた。
視線が交わる。
そして——
彼女の瞳の奥に、俺は今まで見たことのない感情を見た。
恐怖。
絶望。
——あのマナが、こんな表情をするとは思わなかった。
彼女は俺を見つめ、何かを探すように瞳を揺らす。
だが、今の俺には、それに応える言葉を持ち合わせてはいなかった。
無言のまま、彼女へと歩を進める。
「……兄上。」
ようやく、彼女が口を開く。
それは、幼い頃、俺の庇護を求める時に使っていた声音だった。
「やっと来てくれたのね。」
その響きに、胸が僅かに軋んだ。
だが——
俺は、それを振り払うように無感情な顔を保ち、
——狭い寝床のすぐ傍で足を止めた。
——俺は、ゆっくりと膝を折り、彼女の目線に合わせた。
——朝の淡い光が、彼女の蒼白な肌をより際立たせる。
「……お前の小細工は、俺やこの砦を守るためのものならば、見逃すこともできた。」
低く冷えた声が、静寂を切り裂く。
「だが——あいつに手を出そうとした時点で、お前は一線を越えた。」
——俺は、彼女の頬に手を置いた。
指先で輪郭をなぞり、顎へと下り——
そして、喉元へと手を這わせる。
指が、彼女の首を包むように絡む。
——力は込めない。
だが、それだけで十分だった。
この行為そのものが、無言の脅しとなることを、彼女は理解している。
——彼女の目に涙が滲んだ。
瞬きとともに視線を落とし、長い睫毛が震える。
鼓動が、俺の掌の下で激しく跳ねるのがわかる。
「お前が俺の妹であることは、何の免罪符にもならない。」
「——マンチュン……」
涙に滲んだ声が、震えながら俺を呼ぶ。
「……わかってる。やるべきじゃなかった。許して……」
——彼女の泣き声に、俺の心は一切揺るがない。
それでも、俺は喉元を掴んでいた手を放し、ゆっくりと身を引いた。
立ち上がろうとした瞬間——
「待って!」
裾を掴む細い指。
彼女の濡れた瞳が俺を捉える。
「——どうして?」
涙が頬を伝いながら、掠れた声で問いかける。
「あなたも知っているでしょう?あの女が何かを隠していることを。何か目的があってここに来たことを。それなのに、なぜ守るの?」
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
感情を押し殺し、冷静を保つために。
「——なぜ、だと?」
再び問いを繰り返し——
「言ったはずだ。」
静かに、だが確実に言い放つ。
「彼女は俺の妻だ。彼女に関することは俺だけが決める。誰にも、たとえお前であっても、その意図を問う権利はない。」
彼女は首を振る。
「……それじゃ、答えになってないわ。」
俺はしばし黙し、彼女を見つめたまま沈黙を落とす。
そして、ついに言葉を切り出した。
「……さて、お前はどうする?」
声に感情はない。
「この独房で学ぶべきことは学んだか?それとも、まだここに閉じ込められたいか?」
——彼女は、項垂れた。
「……私が間違ってた。」
喉を詰まらせながら、絞り出すように認める。
——それで十分だった。
俺は裾を掴んでいた指を無造作に振りほどき、彼女に背を向けた。
扉へ向かう足を止めず、扉の向こうで待つスジンへ言い放つ。
「扉は開けておけ。——残るか、従うか、それは彼女自身に選ばせろ。」