【六話】『憑乃宮少女と鎧騎士』
ご無沙汰ぶりです。投稿がほとんど滞っていましたが、なるべく早めに投稿を続けます。
もし、この作品を待っていた方がいたならば大いなる感謝と謝罪を込めて完結を目指したいと思います。
一月某日。
今日は普段よりも一段と寒い、カラカラの空気が漂う日だった。
見慣れた朝のニュース番組で『今日は全国的にカラッとした、曇り空の一日になります』と言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「は、肌が割れて・・・・・新大陸が!」
家を出る前にニベアを塗ってきたが、これじゃ半日ももたないであろう。少なくても目的達成までは耐えてほしい。
冷たい向かい風に負けずに、私は足早に目的地へと足を運ぶ。とりあえず頭の中でこれからの事をシュミレートしながら、確実に歩みを進めていく。
だが、不意にその歩みが止まってしまった。
いや、止まらざるを得なかった。
今私が歩いている場所は、住宅と住宅に挟まれた細い一本道。両脇にコンクリートの塀があり、どぶ板がズラリと向こうまで続いている。車が一台通れるくらいの狭い道だ。
そんな道中で私は立ち止った。
私から前方数メートル先。薄汚れた電柱に寄りかかる様に座っている人がいたからだ。
いや、正確に言えばなんだろうか。アレを私の知る生き物の言葉にするなら『人』だ。
しかし、この場合にそぐ合うボキャブラリーが私にあるか分からないが、一言。
「騎士?」
ポツリと私は呟いた。
*
何とも珍妙奇天烈でいて、摩訶不思議なこの場にいるのは、幸か不幸か私だけだった。
立ち止まってから約10分間。肌の耐久度は徐々に下がり、掌は冷たくなり体温も奪われていた。ドライアイになったみたいに瞬きをパチパチと繰り返し、ただ目の前の不審者に視線を送る。
私は手に持ったコンビニ袋から、買ったばかりの150mlペットボトルを取り出す。そして、恐る恐る不審者の元へ近づく。何故ペットボトルを取り出したかと訊かれれば、上手くは言えないが、きっと己の自己防衛が勝手に働いた結果だろう。
不審者は地面に伏すように座り込み、頭の兜が項垂れている。少なくとも本物の鉄で出来ているのは見て分かるため、私の左手に持つペットボトルの物理能力では歯が立たないだろう。
頭に被った兜は日本の戦国武将が被ってるようなものではなく、西洋の騎士が被っているよう鈍色のフルフェイスの兜だった。体の甲冑もとても大きく、手から足先まで完全に鎧が着込まれており、生身が出ている所は皆無だ。
あまりの重さに耐えきれずに、ここで力尽きて座り込んでしまったのだろうか? いやいやそんな馬鹿な。
それ以前に甲冑を身に纏っている時点でおかしいではないか。もしやこれはTVの撮画なんだろうか? しかし、近くにはカメラもスタッフらしき人もいない。
完全なリアルが目の前にあるのだ。背中に嫌な冷や汗がダラダラ流れる。自然と過呼吸になり、固唾をのみ込む音が聞こえてくる。
ここはあえて救急車を呼ぶか、正攻法に警察を呼ぶか、逆に消防を呼ぶか。
一介の女子高生の私には判断の付けようがなかった。この様な場面での対処法も、今までも習った事覚えはない。
「う・・・・ん」
突然、目の前数十センチの所で不審者はうめき声をあげた。声から判断するに、中の人は男性のようだ。
畏怖の念を抱きながらも、私は勇気を出して一言言った。
「だ、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・・・」
反応はなく頭は垂れたままで、こちらの存在に気付いてないのかもしれない。
私は残った勇気を完全に消費させ、更に不審者の元へ近づきペットボトルを逆手に持ち、兜の先端を弱くトントンと叩いた。
「・・・・ん・・・が?」
もそり、と兜が揺れた。私は慌てて彼の元から遠ざかる。
次に、垂れていた頭がついに持ち上がり辺りをきょろきょろと見渡し始めた。当然私の姿が目視出来たはずなので、兜の目先は私の顔で止まった。一体どこの穴から私を見ているからは分からないが、強い視線を感じる事は出来た。
「もし、そこのお嬢さん」
渋くそれでいて若い声が聞えた。それが目の前の彼の声だという事に数秒気付かなかった。そして私は、話しかけられてしまった。
「な、なな何でしょうか?」
引きつった顔を向けながら、私は独特の身構え方で言葉をかえした。
「この近くに灼色と言う人物が住んでるはずなんですが、何か心当たりはあります?」
予想のほか丁寧な言葉で彼は要件を言いだした。私は混乱しながらも頭の検索エンジンに『灼色』と言う言葉をかけてみる。
「す、すみません知らないです!」
恐る恐る私は正直に言った。起こしたのは私だが、一刻も早くこの場から解放されたい一心だった。
「そうですか・・・・ありがとうございます」
彼は丁寧にお礼を言うと、ついに手を地につけ起き上った。立ちあがると身長は2mはあるだろうか、私は首をだいぶ上にあげた。
そのまま彼はこちらに一礼し、ガチャガチャと五月蠅い音をたてながら私が今来た道を歩いて行ってしまった。
「パ、パンゲア」
新大陸を発見したような驚きの出会いに、私は一人呟いた。