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【五話】『憑乃宮少女と閂少女』

切るに切れず、非常に長い文章と思いますので、ゆっくりとお読みください。


このお話で、『座敷童子』編は完結しました。


少なくとも私には、今も肌に感じる冷たい冷気に意識を向ける暇などなかった。


家を出てからかれこれ数時間、私は商店街の入り口付近にポツンと存在する、(さび)れた公園にやって来ていた。


いつ来ても人影は乏しく、現に今も鳩に餌をあげている老人を視界で確認できる程度で、小さな公園も無駄に広く感じてしまう。


「はぁ・・・・どうしよう・・」


大きな公園に、私の小さなため息が落ちる。私は先ほどからずっとため息ばかり吐いており、もしため息が目に見えるなら物なら、私の真下にはため息の残骸が山のように積もっているだろう。


家を飛び出した理由は簡単だ。満杯で収集がつかなくなった頭を、慎重に整理したいからだ。家の中は今、幸せの絶好調にいる家族が騒いでいるので、うるさくて自室でゆっくり考え事も出来ない。だから私は、この寒い寒い時間帯の外になお外に出て、こうしてベンチに座って頭の整理しているのだ。


皮肉にも家族が騒いでいる理由は、今必死に悩んでいる理由と関係しているとゆうのに。



座敷童子。



家を出る前、自室にあるノートパソコンを使い、大手検索サイトで調べてみたが、悩みを解消する事は叶わなかった。


ピューーー。


強い風に乗り、一層冷たくなった冷風が私の体を横殴りする。


家を出てからすでに数時間経っている。首に巻きつけた赤いマフラーがヒラヒラと風に漂い、黒いダッフルコートの防寒性が段々となくなってきた。


「カイロでも持ってくればよかったなぁ」


一向に解決しない悩みに、時間が経つほど厳しさを増す寒さ。もはや正常な思考で物事を考える事など出来ないと判断した私は、ベンチから立ち上がり寂れた公園の出口を目指した。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


「はい、お釣りの二百円」


寒さなどへっちゃらと言わんばかりに、豪快に笑いながら、おじさんは私に肉まんのお釣りを渡した。


ここは商店街の顔馴染みのおじさんが経営しているお店で、私は暖かい肉まんを一つ買い食いしながら帰ることにした。


悩みの解決方法は結局一向に進展を見せなかったが、こうして温かい肉まんを頬張りながら歩いていると、その間だけ悩みから解放される気分になる。


赤いマフラーを揺らしながら、肉まんを頬張り、よく噛み、飲み込む、そして顔の筋肉が緩む。それを繰り返しながらゆっくりと歩き、商店街の中腹辺りに差し掛かったその時。ふと何気なしに、私は脇道にポッカリと空いた裏路地の入口を見た。


店と店の間に出来た、僅かなデットスペース。日の沈みかけた空も手伝ってか、裏路地の奥は一層深まった暗闇で、あまり奥まで見れなかった。


だが、何が気になるのか、私はそのまま通り過ぎずにその裏路地の真っ暗な入口に近づいた。


自分でも何でそんなにこの裏路地が気になるのか分からない、だけど体が自然に、至極当たり前のように、因果に吸い寄せられるように、私は裏路地に足を踏み入れた。


「ん・・・誰かいる?」


まだ一歩しか足を踏み入れてないのに、先程から見えていた漆黒の闇はなくなっており、奥が見やすくなっていた。(しかし、裏路地の本来の暗さは健在している)


そして、見通しが良くなった奥の細い通路に、一つの人影を確認できた。


性別は確認できない、顔立ちなども暗くてよく見えないが、体つきは身長が高くて線が細い、まるで今日出会った私の悩みの種の張本人のようだ。


服装は暗くてよく確認出来ないが、唯一目視出来たのは、首に掛けている白いマフラーだけで、まるで黒い闇からボウッと吹き出ているようだった。


手には何かの袋、おそらくビニール袋を手に持ち、佇んでいる。


何となく近づかないで、そのまま様子を見ていたら、不意に袋に入っていた何かを取り出し手に持った。左手の手のひらにその何かを置き、右手の人差し指をピンとつきだしながら、その何かに人差し指をツンツンと当てては下げ当てては下げ、と奇妙な行動をしていた。


私はここで謎の行動をしている謎の人物に興味が湧いてきたのか、もう一歩もう少しと近づいていく。


そして、三歩目でついにその謎の人物の顔を、私ははっきりと見る事が出来た。


その刹那、私は横に小さく空いていたデットスペース(うらろじ)のデットスペースに体を押し込め、奇跡的に身を隠した。


風など当たらないはずなのに、赤いマフラーだけが隙間からヒラヒラと漂っていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


何故だから分からない、どうして私はあそこであんなに綺麗に笑えたのだろうか。


どうして自分の正体を、自分からばらしたのか。何もかもが分からない。


だけど一つだけ分かる事があった。


それは、私にはもうあの学校ではやっていけない。


自分の正体、いや、自分の欠落した力のせいで、今まで通りの日常が襲ってくる。


蔑み、避けられ、嫌われ、そして・・・・・怖がられる。何よりもそれが一番辛かった。自分の正体不明な力に怯えた目で見られるのが、本当に痛くて辛くて苦しかった。


きっとあの少女は私の話を信じただろう、今日の学校の出来事、おそらくあの少女の家族にまで影響した私の欠落した力。


きっと不幸の方ではない、私のあの時の感情は、感激や感動、そんな感情で溢れていた。私の感情に比例して、訪れる幸福も不幸も力を増す。ならあの時の感情はかなり高かったはずだ、もう何十年も他人に向けた事のない、純粋な喜びの感情、即ち訪れた幸福もそれ相応のはずだ。


だったらあの少女は、逆に私に感謝するだろうか?


どうだろう、今回の件で私の力を利用しようを企めば、きっと明日も普通の対応をしてくれるだろう。だがしかし、あの少女はそんな悪知恵の働く、悪い人間ではないと思う。


少なくとも今日一日触れ合った感想としては、良い子、だ。


心は純粋そうで、友達想いで、よく喋って、よく笑い、オドオドしているとこを見ていると、小動物を彷彿(ほうふつ)とさせ、見ていて可愛いくらいだ。それに、私の現実離れした話に最後まで耳を傾けてくれた。


そんな子が、他人を利用して益を得ようとするとは到底思えない。


だったらやはり、明日から私を避けるだろうか? あの少女はきっと無用にこの話を他言しないだろう、仮に誰かに私の秘密を話した所で信じる人などいないだろう。だが、それも時間の問題だ。私の力は些細な感情でさえ、その影響を及ぼす。きっと明日もクラスのみんなは私に構ってくるだろう、そうなったら今日の二の舞え、一カ月も経たない内に私は孤立するだろう。


そう、どう転んでも私には明るい日常など望めない、叶えられない、どんなに願った所で私の欠落した力によって全て破壊される。


「私の力は、私自身をも不幸にする・・・・」


そう独りごちて、現在の居場所に意識が戻る。


ここは商店街の裏路地。この町に引っ越してきて四日目に、私はこの裏路地を見つけた。ここを通ると自分が住むアパートとの距離が、格段にも縮む近道ルートなのだ。


左手には『白光火蜥蜴(はっこうひとかげ)』とプリントされているビニール袋を持っており、中には今さっき買った新しい子(サボテン)が入っている。


学校から自宅のアパートに帰り、暗く沈んだ気持ちを少しでも和らげようと、五日目に見つけた人気のない公園に行こうと思い、近道のこの裏路地を通った。


しかし、何度もここは通っていたのに、どうして今まで気づかなかったのか裏路地の中に謎の花屋が建っていた。


そこでこの子(サボテン)を買い、お店から裏路地に出た瞬間、何故かこんな所で考え事に耽っていた。


「あ、そういえばこの子(サボテン)の事、よく見てなかったっけ」


お店の中の不思議な雰囲気のせいで、ろくに見もせずにこの子(サボテン)を買ってしまったのだった。


ガサガサッと袋から音を鳴らしながら、慎重に新しい子(サボテン)を取り出し、右手の手のひらに乗せる。


「君、意外と軽いんだね。多分女の子かな?」


左手の人差し指を伸ばし、ツンツンと指を棘に当てる。


私のほんの数メートル先に、あの少女がいる事など知らずに。


風など吹いていないのに、首に掛けた白いマフラーの先端が空中にヒラヒラと漂う。


その時。


「つッ!」


漂うマフラーに目がいってしまい、誤って指に棘が数ミリ刺さってしまった。痛覚の反射で指を無意識に右手をこの子(サボテン)から遠ざける。


人差し指の先端から、赤い滴が少しず溢れてくる。右手を自分の顔の前までもってきて、傷の具合を見る。



そしてそこで気付く。



そこで気付いた。



無意識のうちに感情を抱いてしまった、痛い、と。つまりそれは、負の感情の一つだ。


欠落した力が発動する。


標的は・・・・・・。


指から溢れ返った赤い滴が、ポツリと指から落ちる。


左手に大事に持っていたはずのこの子(サボテン)も落ちる。


気がついた頃には、地面に落ちていたこの子(サボテン)が無様に転がっていた。


その刹那、私はすぐに理解した。何が起きたのか、何をしたのか、何をしてしまったのかを。


その場にしゃがみこみ、右半分が凹んでしまい歪な形になった新しい子(サボテン)を見る。その途端目頭がカーッと熱くなり、無色透明な大粒の涙が溢れてきた。


ポタポタと涙は頬をつたい、新しい子(サボテン)の表面に慈雨(じう)のように落ちていく。


「ごめ・・・んね・・・・ごめん・・・ね・・」


数秒間そのまま(うずくま)り、悲しい感情のせいで両方の手が震える。原因は、悪いのは今悲しんでいるその感情なのに。奥歯を思いっきり強く噛みしめ、震える手を何とか使い大事にビニール袋に入れ、もと来た道を走る。




閂美音子は、暗い暗い路地裏をひたすらに駆け抜ける。




赤いマフラーを首に掛けた、憑乃宮少女はその光景をひたすらに見つめていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


早朝。時刻は七時四十分を回った所だ。


今日は朝から雪が降っており、いつも朝練で学校に早く来るクラスの子は、グランドが使えず今日は朝練が中止で、部活の子は誰も登校していない。つまり必然的に、今この教室にいるのは私だけだ。


別に私は部活動には入っていない、だったら何故こんなにも早く学校へ来たのか。いつもならこの時間帯は朝食の真っ最中だ、どんなに気分が良くてもこんなに早く学校へ来るなど、まずあり得ない事である。


ただし今日は違った。理由は至極簡単、どうしても早く会いたい人がいるから、どうしても早く言いたい事があるから。


あの子が何時学校に来るなど分からない、だけど私は直感した、必ず会えると。


確証も理論も証拠もない、ましてや直感だなんて、霞ちゃんが聞いてたら大爆笑だろう。だけど、今の私にはそれで十分すぎる理由だった。


赤いマフラーを首からはずし、学校指定のスクールバッグにしまう。


シーンと静まり返った教室、聞こえるのは自分の息遣いと、心臓の鼓動だけ。


ゆっくりと目を閉じ、自分の考えをもう一回まとめる。


そうして、静寂は破られた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


教室の扉が開く音がした。方向からして、前方からだ。


そしてゆっくりと、中に入ってきた人物を見る。


座敷童子。


そこに閂美音子がいた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


閂さんは目を猫のように大きく見開いて、困惑と驚愕の混じった表情で固まっていた。


「おはよう、閂さん」


静かに、優しく語りかけるように私は閂さんに挨拶した。


「え・・・あ・・おはようございます・・」


数秒後、何とか現状を飲み込み、声を絞り込むように挨拶を返してきた。


「何で・・・? どうして憑乃宮さん・・こんな早くに?」


「さぁ? 自分でもわからないけど、ただ何となく、ね」


私の返事を聞いて、さらに困惑していく閂さん。


「ちょっと、閂さんに話したい事あってさ」


その言葉を聞いた瞬間、閂さんの体が僅かに揺らいだ。困惑と驚愕に満ちた表情がみるみる青ざめていき、何かを恐れ入るような、そんな恐怖ともとれる表情になっていた。


「昨日の話なんだけど。私なりに色々考えたんだ」


私の一言、一文字一文字に、閂さんの体が反応する。顔を見ると、もうそれ以上言わないでくれ、と訴えているかのように見える。


「私はね、閂さん」




「あなたと、ずっと友達でいたいと思ってるよ」


嘘偽りのない、純粋で綺麗な笑顔で、私は言い放った。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


「・・・・・え?」


何秒かの沈黙の後、ふいに閂さんは声を漏らした。


まったく違う答えが来るのと予想してたのか、閂さんの顔は酷く強張っていた。


「昨日ずっと考えてたんだ。でもまったく良い答が思い浮かばなかった」


だけどね、と私は付け足す。


「昨日、路地裏にいた閂さんを見かけた。そこでね、全部見てたし聞いちゃったんだ、閂さんが苦しんで悲しんでいる姿を」


「あそこに・・・いたの?」


「うん・・・。私も驚いたよ、まさかあんな所であんなもの見るなんてさ」


だったら・・・と閂さんが小さく言葉を漏らす


「だったら、あれ見て分かったでしょ? 私の小さな感情でも他人を傷つけてしまうって事。なのに、あの光景を見といて、それでも私と友達になりたいって言うの?」


もはや開き直ったように、半分自嘲気味に閂さんは言い放った。


だけどあれは本当の気持ちではないだろう、自分の気持ちを必死に押し殺して、自分から私を遠ざけるように言ってるだけの演技だ。


「うん、私の答えは変わらない。後は閂さん次第」


私は力強く閂さんを一点に見据える。その私の目を見て、本気で言っている事に気付いたのか、閂さんは小さく消え入るような声で言った。


「・・・・・・てる・・・・」


「そんなの・・・・・・きま・・てるよ・・私も・・・・でも・・でも・・」


しゃくり声をあげながら、閂さんの顔は少しずつくしゃくしゃになり、昨日見た大粒の涙よりも大きな涙が溢れだしてきた。


「でも、私の側にいると傷つけちゃう。そう言いたいんだよね」


閂さんは弱弱しく頭を上下に振り、肯定する。


「それなら大丈夫、今仮定が確証になったから」


え? と閂さんは涙を流しながら私の顔まじまじに見つめる。


私も笑顔で閂さんを見つめ返す。


「昨日からちょっと引っかかてたんだ。どうして私の家族に幸運が訪れたのに」


何で、と私は言う。


「私には何も起きなかったんだろうって」


その瞬間、閂さんは言葉を失った。


「でもね、昨日の朝、つまり閂さんと会った頃は私にも閂さんの力が作用した。ハンカチ濡らしちゃったり、教科書を忘れず授業も潰れたしね」


「な・・・なら」


「うん。でも今は違う」


「よく分からないけど、段々と閂さんの力が私に作用しなくなってきてる」


まるで何発もの雷に打たれたように、大きく肩が揺れ閂さんは固まった。


「例えば昨日、お母さんは宝くじ三十万が当選した、けどその後私が確認したら千円しか当選してなかった」


「例えば昨日、お父さんは会社で大活躍した、けどその後会社から電話がかかって来て、お父さんの手柄の大半は会社が持ってって、お父さん個人の活躍はあまり評価されなかった」


「例えば昨日、妹の真衣は子供町内会で希望の絵具セットを貰った。けどその後肌身離さず持ち歩いてたせいで、外に散歩に行った際どこかに置き忘れて、結局見つからなかった」


閂さんの目がみるみる見開かれる、あまりの急展開に昨日の私のように今度は閂さんがついてこれず、思考がストップしてしまったようだ。


「そして今も」


「・・・・今も?」


オウム返しのように、私の言葉を繰り返す閂さん。


「今さっき、閂さんは泣いちゃった、苦しくて悲しくて。苦しみと悲しみってことは、つまり負の感情じゃない? そしてその原因は目の前にいる私。私のせいで泣いたといっても過言じゃないでしょ? だったらその感情の矛先も私に来るはず」


ここまで聞いて、閂さんも悟ってきたようだ。何が起きたのか、何をしたのか、何故何も起きないのか。


「なのに私は今、こうしてここにいる。何も起きないし、何もされてない。閂さんが昨日言ってた、私から不思議な何かを感じた、って発言。昨日まではあくまで推測にすぎなかったけど、これではっきりと繋がった」


閂さんの目から、また大粒の涙が溢れだし、涙がゆっくりと頬を優しく撫でる。


私は言う。閂さんを救うために、欠落した力から解放するために。昨日の裏路地の光景を見て、自分に明滅した時、決めた言葉。






「幸せになるのは、次はあなたの番だよ。閂美音子さん」


話の途中で出てきた『白光火蜥蜴』の話はちゃんと内容があったんですが、これ以上長いと読む方も大変だろうと思い、切りました。(本当は本文から脱線しちゃいそうだから)


次は後日談とゆうか、何とゆうか、閂さんと白光火蜥蜴の店内でのやりとりとか。


閂さんのあだ名とか決めれたらいいなって思ってます。


つたないお話でしたが、少しでも感想や注意、何でもよいので一言下さると、メチャクチャ喜びます。

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