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【二話】『憑乃宮少女と転校生』

「かに座のあなた、今日はハッピーデイ!!朝から良いことだらけの1日かも!」


毎朝見ている占いのコーナーから発表された、私の今日の運勢をふと思いだした。


「よし!今日はいいことあるかも。いや、絶対あるよ!新年早々うれしいなぁ~」


肌に突き刺さるような寒さも、今日は気にならず、白い息もいつもより多めに出しながら、私は学校へと向かって走り出した。


校舎に着き、ついつい鼻歌を歌いながら私は自分の教室2-8へと向かった。


「お~いみんな~、正月少女が登校してきたぜ~」


クラスの扉を開け、中に入るやいなや、いきなり私に向かって、男子から聞き覚えがある単語が放たれた。


その瞬間、クラスのみんながドッと笑いだしはじめ。特に霞ちゃんは、自分の机をバンバン叩きながら大爆笑していた。


まったく訳が分からなかったが、馬鹿にされていることだけはハッキリと理解できた。


そそくさと自分の席に向かって歩き、席に着き、私は自分の机に突っ伏した。


「学校に到着早々寝ちゃうの? まだ正月気分かなー正月少女さん?」


霞ちゃんは、指でツンツンと私の体を突っついてきた。


「うぅ・・人身売買、売国奴。あなたが黒幕なんでしょ・・・」


私はなるべく恨みのこもった声で言った。


「さ~てね。ただ前田のやつに、面白い話はないか~? って聞かれたから、あんたが来たらある事言えば面白いよ、って教えただけだよん」


なーにが、よん、だ。しかも、よりによってクラス一ひょうきん者の前田君に教えちゃうなんて・・・

あぁ~これから当分いじられる~・・・


前田君はクラスのムードメーカーで、よくみんなを盛り上げたり、面白い事を言ってくれるのだが、どうも私はあの人のテンションにはついていけず、一緒にいると疲れてしまう。悪い子じゃないとは思う・・・少なくとも隣の霞ちゃんよりは!


「はぁー朝からついてなぁ・・・占いって所詮は占いなの? ってあれ? 隣の席が空っぽになってる」


隣の席を見ると、いつもは机の横にかけらている、体操着袋や、鞄も何もかかっておらず、椅子もぴっちりとしまったままだった。


「あ~、なんか朝黒板に張り紙が貼ってあってさ、あんたの隣の席の前田、席移動しちゃったんだわ」


私の席の位置はクラスの一番後ろで、右側の隅っこにある。右隣は霞ちゃん、そして左隣は前田君。


この事から分かるように、私はいつも両隣からつねにいじられている。


「へ、へ~」


なるべく平然を装い、私は言ったが。私の中では今天使さんが降臨していた。やっぱり占いは当たるのね!


左隣の前田君がいなくなった!まだ霞ちゃんが残っているが、ついに霞・前田連合軍からの戦いに勝利したのだ!これでようやく私にも、平穏な日常が帰って来たのだー!頑張った私!(私の力じゃなかったけど)


そんな、勝利の余韻に浸っていた時。教室の前の扉が開き、誰かが入ってきた。


「おはようみんな~、ハッピーニューイヤー」


右手を高らかに上げ教室に入ってきたのは、このクラスの担任の峯城(みねしろ)先生だった。


「新年早々みんなにだなー、一つ重大な発表があるんだー」


いきなりの発言に、クラスがどよめき返り、みんな頭に(はてな)マークを浮かべ、先生の次の言葉を待った。


「えっとだなー、実は今日このクラスに一人、新しい仲間が増える事になりました」


何と重大な発表とは、転校生の事だった。まさかこの時季に転校してくるとは驚きである。


「うっそ、転校生?」


隣の霞ちゃんが驚きの声をあげ、私も動揺を隠せなかった。


「転校生だなんて、わ、私、はじ、はじめてだよ」


「何であんたが一番動揺してんのよっ」


ぼすっと鈍い音を立てて、霞ちゃんのチョップが私の頭に炸裂し、先ほどからいた天使さんが、私の手をつかんで飛び立とうとしている。


「まーそんな訳で、すでに廊下に来ているから、みんな静かにしてるんだぞ。それじゃ入ってこーい」


先生の声ではっと我に返り、天使さん達の手を振りほどき、扉を見た。


ゆっくりと落ちつた速度で、教室の前の扉が少しづつ開き、一人の女性が静々と入ってきた。


教壇までゆっくりと歩き、先生の横に立ち、笑顔をこちらに向けながら一礼した。


「ん? どうしたお前ら。随分と静かじゃないか、なんだなんだ、がらにもなくお前ら緊張してるのか~?」


そ、そりゃ緊張するよ、だってさ・・・・。


「それじゃ、静かなうちに紹介するぞ」


先生はチョークを手に取り、後ろを向き黒板に彼女の名前を書きだした。


その間にも、彼女はこちらをにこやかに見続けている。


クスラのみんなは、私と同様金縛りにあっており、いまだに誰一人口も体も動かさない。いや、動かせない。


それは何故か、これは至極簡単な答えだ。


だって彼女が。


あまりにもの美人さんだからだ。


170以上ありそうな細身の長身で、腰まで伸びている、綺麗で艶やかな黒髪にまず見とれてしまう。顔立ちも大和撫子を彷彿させ、真っ白く透き通った肌が眩しいくらいだ。


人生の中で、ここまで綺麗な人に会ったのは生まれて初めてだ。おそらくみんなもそうそうないだろう。


え、こ、これが本当に高校生なの・・・?それに比べて私っていったい何なの・・・?


そんな自己嫌悪までし始めた時、先生が黒板に名前を書き終えた。


閂美音子。


「大阪から引っ越してきました、閂美音子(かんぬき みねこ)って言います。これからよろしくお願いします」


ここで初めて彼女の声が教室に響き渡り、みんなの金縛りが一斉に解けた。


「それじゃ閂、お前の席はあそこの空いてるとこだ」


「はい」


空いてる席?・・・・・って私の隣じゃん!!あぁぁあ!どうしよどうしよ!来てる!閂さんがこっち来てる!


私が勝手に大混乱しているうちに、すでに隣に閂さんが椅子に座ろうとしていた。


と、とりあえず挨拶しなきゃ!!


「はは初めましててて!」


今までにないきょどりっぷりに、私自身もビックリした。


そんなギリギリ言葉の挨拶を聞いた閂さんも、優しい笑みを浮かべながらこちらを向き。


「こちらこそよろしくね、えっとぉ」


「あ、う、つ、つ憑乃宮(つきのみや)、あ、あゆ歩っていい言いましゅ!」


うわー!やばいー!ろれつが回らない!


そんな私の哀れな姿を見かねた先生が、助け船を出してくれた。


「憑乃宮ーお前が噛んでも可愛くないぞー。とにかく、みんな仲良くしろよ!それじゃ朝のHL(ホームルーム)終わり」


そう言って、先生は教室から出て行ってしまった。


そしてしばらく無音が続き・・・・・


ドアアアアワワワ!!


言葉にできないような、みんなの歓声や驚嘆の声が響き渡り。みんな一斉に、閂さんの席へ物凄い勢いで群がってきた。


それはまるでバーゲンセールのようなあり様で、唯一私と霞ちゃんだけがポツンと自分の席に着いたままだった。


「ねーねー!!閂さんて本当に高校生なのー!」


「キャーー!肌超きれー!」


「おい!!めっちゃいい匂いがするぞ!」


「体つきすげー!!」


そんな驚嘆の声が幾分もクラスに響き渡る。


何人か変態がいるが。


「す、すごい光景だね霞ちゃん」


私は霞ちゃんに同意を求めようとしたが、なぜか返事がない。


「ねぇ霞ちゃん、ってあれ? いなくなってる」


先ほどまで隣に座っていたのに、いつの間にか消えていた。


ふと閂さんの方を見みてみると、霞ちゃんはそこにいた。そして飛びまわっていた。


「すっげー胸!!あやかりてー!隣の歩を見ろよ!ははは!」


どうやら先ほどから聞こえてた、変態の声の主は霞ちゃんだった。


「霞ちゃんんん・・・・」


結局私だけ取り残されちゃったな・・・・・てゆうか霞ちゃん酷過ぎるぅ・・・・


「はぁ・・これ以上ここにいたら、あと何言われるかわかんないし・・・仕方ないトイレいってこよ・・・」


席を立とうとした時、みんなの体の隙間から閂さんの目が見えた。目が完全に戸惑っていて、私に救いの手を求めていた。


助けてあげたいけど、私の言葉なんかじゃこの勢いを止めるのは不可能だなぁ・・・


私は手のひらを合わせ。


「ごめんなさいっ!」


そう言って、走ってトイレへと向かった。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


用を足し、洗面台で手を洗い、ポケットからハンカチを取り出したその時。


「あっ!」


間違って、ハンカチを水を出しっぱにしたままの洗面台へ落してしまった。


「あ~あ、ビショビショだ・・ついてないな・・・やっぱり占いハズレてるのかなぁ・・・」


結局手を拭く事は叶わず、ハンカチを絞り、手に持ったまま教室へと戻った。


いい加減ほとぼりも冷めたろうと思ったが、教室へと戻ると、みんなはまだ閂さんを取り囲んだままでいた。


だがここで授業のチャイムが鳴り、国語の先生が教室に入ってきた。


みんなは惜しみながらも、各々の席へと戻っていった。


私も急いで自分の席へと戻り、机の脇に着いているフックに濡れたハンカチをかけた。


「きりーつ、きょうつけ、礼ー」


日直が号令で授業の始まりを告げた。


あ、そうだ。


さっき悪い事しちゃった閂さんに、何かお詫びしなきゃ。


「ね、ねぇ閂さん」


まだ少し口調が落ち着かないが、ゆっくりと慎重に話、先ほどよりはマシになった。


「は、はい?」


みんなからのバーゲン攻撃を受けたせいで、閂さんの言葉からひしひしと疲れを感じた。


「えっと、何か困ってないかな? あ、閂さん教科書まだ持ってないでしょ? だったら私と一緒に見ない?」


我ながらうまい事言った!


「あ、そうでした。では、お言葉に甘えさせていただきますね」


そう言って、閂さんは笑みを浮かべてくれた。


ふ~、どうやら少しはさっきの汚名を挽回できたかな?


「あ、それと私一つ謝らなければ。先ほどはどうもすみませんでした」


「え?」


今の会話を見ると、一見して私が謝っているように見えるが、なぜか閂さんが私に謝った。


え、何で閂さんが私に謝ったの?


そう言おうとした瞬間。


「先生すみません、教科書忘れましたー」


隣から霞ちゃんの声が聞こえ、出かかった言葉が引っ込んだ。


「あ、私もですー」


「うげ、俺もだ」


「え、私も!? 昨日ちゃんと確認したのにー!」


なんと、次々に何人もの人がドミノ倒しのように『教科書を忘れてしまった』と先生に言い。終いには、閂さんをぬいて私以外全員が忘れていた。


え?嘘何これ? 私以外みんな忘れちゃったの?


言うまでもなく先生は激昂し、忘れた人みんなを連れて、職員室にまで行ってしまった。


またもや残された私と、隣の閂さん。


「ははは・・・こーゆー事ってあるもんなんだね」


「ふふ、そうね。あなたが優しくしてくれてよかったわ」


「え?」


「気にしないで、こっちの話です」


そう言って笑顔ではぐらかせられてしまった。私としても、あまり言及したくないので、これ以上訊かない事にした。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


結局丸々一時間使ったお説教は、みんなの体力をかなり奪ったらしく、教室に戻るやいなや、朝の私みたいに、みんな机に突っ伏してしまった。おかげで休み時間になっても、誰一人閂さんの周りに来なかった。


しかも、先ほどセクハラ発言していた霞ちゃんは特に運が悪く。何故か霞ちゃんだけ職員室で反省文を書かされているそうだ。


「霞ちゃんもついてないな~」


「あの方が一番酷かったですからねぇ」


しかめっ面で閂さんが言った。


「あー、朝の閂さんの件ね。確かにあれは酷かったな~、朝の報いかもね、こりゃ」


「ふふふ、なら悪い事しちゃいましたね」


「あはは」


まだ会って一時間程しかたっていないが、先ほどの授業が潰れた時間のうちに、閂さんと色々話が出来、いつの間にか結構仲が良くなっていた。


またみんなが大騒ぎするんじゃないかと心配したが、みんなが机に突っ伏しているおかげで、私と閂さんは誰からも妨害を受けずにすみ、メールアドレスまで交換してしまった。


そんな時、ガラガラっと教室の前の扉が開き、随分と疲れた様子の霞ちゃんが戻ってきた。


そのまま、よろよろと危ない足取りで、何とか席に着いた。


「お、お疲れ様。霞ちゃん・・・・・大丈夫・・?」


「くっそぉ・・・何で私がクラスのみんなを代弁して反省文書かなきゃいけないのさ・・・理不尽&不可解×怒り」


そう言い終えた瞬間、がくっと机にうなだれてしまった。


「だ、大丈夫ですか?霞さん」


今度は閂さんが、おずおずと訊いた。


「だーかーらー、大丈夫じゃな・い・・・・・・はっ!」


何かを思いだしたのか、ガタッといきなり席を立ち、閂さんを凝視し始めた。


「え? え?」


あまりにもの急な行動、そして閂さんを凝視するその目。今度は閂さんが金縛りにあってしまった。


「抱かせろーーー!!!」


突然霞ちゃんが雄たけびをあげ、私の後ろを走り抜け、そのまま閂さんに思いっきり抱きついた。


「え、ちょ、何やってんの霞ちゃん!?」


「えぇ匂いじゃのーえぇ匂いじゃのー!」


いきなりの一方的な抱擁で、閂さんは叫ぶ事も出来ず、頬ずりまでされていたが、されるがままだった。


その時、教室の前の扉が開き、2時間目担当の数学の先生が入ってきた。


「あ、やば」


数学の先生の登場に我に返った霞ちゃんだったが、時すでに遅し。


数学の先生は激昂し、霞ちゃんを連れてまたもや職員室へと行ってしまった。


連れて行かれる霞ちゃんの後ろ姿に、私は戦場へ行く、夫を見送る妻のように、濡れたハンカチを振りながら見送った。


「あ、え? どうしたの?」


何とか霞ちゃんの呪縛から解放された閂さんが、キョトンとした顔で私に訊いてきた。


「えっと、私たちの担当の数学の先生って、この学校一の厳しい先生でね。先生が教室に入って来た時に、ちょっと立っていただけで怒っちゃうの。教科書とか忘れたら・・・考えたくもないよ・・」


どうやら、一時間目のお説教のおかげで、みんな疲労困憊し立つに立てず、座っていたから難を逃れたようだが。霞ちゃんは運悪く、一人暴走したせいで、自分だけ立っている形になってしまったのだ。


霞ちゃん、今日は本当についてないなぁ。南無阿弥陀仏、と。


「まー霞ちゃんはついてないけどさ、私たちはついてるかもよ?」


「え?」


閂さんが不思議そうに訊き返す。


「これじゃあ、二時間目の授業が潰れたも同然。特に数学はあの先生だからさ」


すっかり霞ちゃんの事は忘れ、自然と笑みがこぼれてしまった。


「ふふふ、そうかもしれませんね」


閂さんも笑って返す。


「あ、なら」


閂さんは何かを思いついたように、ぽんっと手をたたき。


「ん?」


「またお話の続きをしませんか? どうやらみんなまだ元気がないようですし」


「あ、そうだね。それじゃあ・・・・・」


どうやら。




朝の占いは当たっていたようです。

このお話はあと一回か二回続くと思います。


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