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【一話】『憑乃宮少女とサンタクロース』

これは、私がここ数年に体験し実感した、奇跡のような奇跡じゃないような、運がいいような運が悪いような、神様の悪戯のような神様の悪戯じゃないような、ちょっと可笑しいお話です。


まずは最初のお話。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~







鉛色に染まった空、ピーンと張り詰めた冷たい空気。


吸っては吐き吸っては吐き、その都度出る白い息に私は笑ってしまった。


「な~に一人でニヤニヤしてんの? 寂しすぎておかしくなっちゃったの~?」


「え? 違うよ~、ただ白い息って面白いなぁ~って考えてただけ」


軽く笑いながら私は答えた。


「はぁ・・やっぱしあんたの事だから、また変な事言いだすかと思えば面白い~? 毎年この時季になると嫌でも見れるじゃない」


深いため息と一緒に、白い息と正論が帰って来た。


「ん~そうだけど、さ。裏を返せばこの時季でこそ見れるものじゃない? それにさ、白い息をブァ~って出すと怪獣みたいでしょ? あはは、思わず笑っちゃうよ~」


そう、私は小さく笑って言った。


「ば~か、裏を返す必要なんてないっつーの。大体さ~今時にね、しかも高校二年生にもなって『怪獣みたいだ』『白い息面白い』な~んて(あゆむ)、あんたどこまでおめでたいの~? すでに新年明けちゃいました?」


「え~、いくらなんでも酷~い」


口を尖らせながら私は言った。


「ま、今日の日に限ってそんな事考えて笑えるあんたを、私は素直に尊敬するよ。あ~あ、ここに美少女と正月少女が二人寂しく歩いてるのに、どうして世の男子諸君は喰いつかないのかねぇ。都市伝説だわ、こりゃ」


「正月少女で悪かったですね~だ」


ぷいっと顔をそらし、ある事を思い出した。


あ、そうだ。今日は世に言うクリスマスであった。


街にカップルが溢れ、愛を育む。家庭を持つ者は早く自宅に帰宅するため、無意識に歩く速度がいつもにも増して速くなる。そして子供たちは、サンタさんからのプレゼントを心待ちにしている。


「ねぇ(かすみ)ちゃん、いきなりなんだけどさ、霞ちゃんはサンタさんって信じてる?」


「今度は何を言い出すかと思えば、サンタさん信じてるぅ? 信じてないわよ~、だって」


霞ちゃんの言葉が途切れる。


「だって?」


すかさず私が聞き返すと。


「だって、いくら願ってもサンタの野郎、あたしに彼氏の一人すら持ってこないんだもん」


と、真顔で返された。


「ははは・・・」


「歩はどうなのよ? 信じてそうだけど、一様訊いたげる」


数秒あけて、私は鼻歌を歌うような感じで言った。


「うん」


そして私は、軽い笑みを浮かべながら、はっきりと答えた。


「信じてるよ。サンタさん」


言うまでもなく、霞ちゃんの顔は呆れかえっていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


霞ちゃんと別れ、いつも通りの見なれた街路樹を歩き、いつも通り自宅に着いた。


「ただいま~」


「あ!おかえりなさーい!」


玄関を開け、すぐ目に飛び込んだのは、今年5歳になった妹の真衣だった。


真衣は、いつもより元気に私に向かって『おかえり』を言うと、トコトコと私に歩み寄って来た。


「ねーねー!歩お姉ちゃん!今日サンタさんが来るよ!」


興奮気味に、真衣は私にサンタさんの登場予告をした。


「うん、そうだね。真衣ちゃんはどんな物をお願いするのかな?」


靴を脱ぎ、二階の自室へ上がるため、階段に向かいながら私は真衣に訊いた。


「えっとねえっとね!22色入りのクレヨン!!」


えへへ~、と笑いながら真衣はそう返してきた。


「へ、へ~。でも真衣ちゃん本当にクレヨンでいいの? それにクレヨンなら真衣ちゃん持ってるじゃない」


立ち止まって私は再度訊いた。


「あたしが持ってるクレヨン、みんな使っちゃってちっちゃいの~!それに、由香ちゃんも愛ちゃんも16色入りの新しいクレヨン持ってるんだも~ん!私もみんなよりも沢山入った新しいクレヨンがほしいの!」


「そっか、なら寝る前に一生懸命お願いするんだよ? 真衣ちゃんは今年もいい子だったから、きっとサンタさんも来てくれるからね」


「うん!!来年は色鉛筆がほしいから、一緒にお願いするね!」


「ら、来年ね。き、きっとサンタさんなら叶えてくれるよ」


真衣の驚きの発言に少し驚きながら、私は真衣の頭を優しく撫でて、二階の自室へ向かった。


最後に触ったのは朝の7時30分。自室のドアノブはすっかり冷え切っており、まるで氷のような感触だった。


ドアを押し自室へ入ると、思わず体が震えあがる。部屋の中も随分と冷たく、部屋の明かりをつける前に、私はすぐにエアコンのリモコンを手に取りスイッチを入れた、勿論暖房の。


部屋の明かりをつけ、指定のスクールバッグをポンッと床に放り投げ、制服も適当に脱ぎ散らかして、パジャマに着替えた。いつもの家スタイルである。


今日は学校の終業式があったので、今日から冬休みである。制服も存分に脱ぎ散らかせられて、とても気持ちがいい。いつもなら親に色々言われちゃうが、今日は大丈夫だろう。


次に、ベッドへ身を投げ全体重をゆだねる。息を思いっきり吸い、冷たい空気が肺一杯に広がる。


少しリラックスしたとこで、下校途中の霞ちゃんとの会話を思い出す。


『うん、信じてるよ。サンタさん』


私は、サンタさんの存在を信じてると言ったが、決して嘘ではない。だって、小さい頃私は本物のサンタさんを見たからである。


単純明快であり、簡潔で覆せないような理由。だが、この話を信じてくれる人は、世の中では小さな子供くらいだろう。


深夜にふと目が覚め、ベッドの横に吊るしてある、プレゼントを入れる大きな靴下の方を、何となくチラリと見た私。


そこで目に映ったのは、今まで話でしか聞いた事のない、まったく想像通りのサンタさんの姿だった。


サンタさんは私が見ている事に気付き、こちらに向こうとしたその瞬間、私はいつの間にか眠っていた。


それが、最初で最後のサンタさんとの初コンタクト。それ以来一度も見なかったし、小学六年生の頃にはプレゼントすら貰えなかった。ついでに、この時親に『サンタさんはいない』と言われ、人生最大の大喧嘩した。ちなみにこの記録は今でも塗り変わっていない。


確立的、現実的に夢の可能性が大きい。もし本当に見たとしても、それはサンタの格好をした親かもしれない。少々こり過ぎだが、その可能性もある。


だけど私ははっきりと覚えているし、ずっと信じている。サンタさんの存在を。


そんな思い出を懐かしんでいると、さっき話した真衣との会話を思い出した。


『22色入りのクレヨンが欲しい!』


「クレヨン・・・か、そんで来年は色鉛筆ときたか。まさか来年のプレゼントも決定済みとは、我が妹ながら欲があるのか無いのか」


そう独りごちて、寝ぞうを変える。耳を澄ますと、下から元気な真衣の声が聞こえてくる。


「クレヨンも色鉛筆も、私が買ってあげたのにな」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


時刻は0時を過ぎ、私にも睡魔が襲ってきた。家族はすでにみんな眠っており、耳を澄ましても下からは、数時間前までよく聞こえていた元気な妹の声も聞こえてこない。


「いい加減寝よっと」


ベッドへ横になり、厚手の毛布と掛け布団を被る。


「あ、そうだ。サンタさんにお願いしなきゃ」


慌てて思い出し、毛布と掛け布団を押しのけ、上半身を起こした。今日出来たお願いを、サンタさんへお願いするために。


実に五年ぶり、12月24日の、懐かしい寝る前のお願いである。


「サンタさん、どうか妹が来年欲しがっている色鉛筆を下さい」


手を合わせ、合唱のポーズで十秒ほどお願いをした。


「よし、と」


毛布と掛け布団を再度被り、私は数分もしないうちに眠りについていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


ブブブブブブと、謎のバイブ音が聞こえる。


重い瞼を必死にこじ開け、音が聞こえる方へ顔を向ける。


「んー・・・」


謎の音の正体は、やはり私の携帯だった。


「あ・・・そだ・・今日から休みだった・・」


今日は平日、いつもなら学校へ行くために起きる時間だ。しかし、今日は冬休みである。


どうやら昨日、携帯のアラーム機能を切るのを忘れていたようだ。


温かい布団から手を出し、ブルブルと震えている冷たい携帯を手に取り、手探りでボタンを押すと、携帯の震えは止まった。


「うぅ~さぶさぶ」


思わず携帯を持ったまま、すぐに手を布団へ引っ込めた。


「携帯も寒かったのかな? なんちて」


しかし誰も笑わないし、ツッコまない。そりゃ誰もいないからね。


それが余計寒かった。


しかし、寒いギャグのせいか、すっかり目が冴えてしまった。携帯のアラームで起きたのだから、おそらく時刻は6時30分って所だろう。


そしてここで、ある感触に気付いた。


先ほどから頭の上、厳密に言うと頭頂部に何かあたっている感触がする。


「んーん・・・・・・・えい!!」


一気に勢いをつけて、体をバッと起こし振り返って枕元を見た。


「あ・・・」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


スースーと可愛い寝息を立てながら、真衣は幸せそうによく眠っていた。


ちらりと、ベッドの横に掛けてある大きな靴下に目をやると、22色入りクレヨン、と書いてある四角い缶ケースが靴下に入っていた。


私は手に持った、色とりどりの鉛筆が入った、クレヨンの缶ケースより一回り大きい、四角い缶ケースを、真衣の枕元にそっと置いた。


「ありがとうサンタさん」


「でも」


私は軽く笑みをこぼし、懐かしみながら言った。


「色鉛筆くらい私が買ったなのに、さ」


そう独りごちて、私は妹の部屋を後にした。




真衣の歓喜に満ちた声が家に鳴り響いたのは、数時間後の話である。

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