第八十五話:真波、落ちる(即)
ツルギ達がポイントを稼いでいる頃。
藍と真波も、ポイント獲得のためにファイトに勤しんでいた。
の、だが……
「とどめ〈【王子竜】シルドラ〉で攻撃」
「王が引導を渡してやろう!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
モブ生徒:ライフ1→0
ファイトが終了して、立体映像が消える。
同時に、真波の召喚器に相手のポイントが移った。
「ん。これで『16000p』」
「順調に溜まっているな、マナミ」
ポイントを確認する真波の隣から、シルドラも召喚器の仮想モニターを覗き込む。
真波は次々と生徒をファイトで撃破して、早くも残り3000pまで来ていた。
これなら損失も余裕で補える。そう考えて真波は安堵していた。
一方、藍はというと……
「真波ちゃんすごーい」
「呑気してる場合じゃないブイ! 全部アイツらに狩られちゃってるブイ!」
「ハッ! たしかに!」
真波と共に行動していた藍なのだが、ポイントは全く稼げていなかった。
何故なら近寄る生徒が皆極端なのだ。
名を上げる為に六帝評議会である真波に挑むか、彼女が視界に入った瞬間逃げるかだ。
ちなみに逃げようとした生徒は例外なく真波に狩られた。
おかげさまで現在、藍の保持ポイントは『2000p』。
初期状態のままである。
「真波ちゃーん! ちょっとは私に残してよー!」
「……早いもの勝ちだと思うんだけど」
「うぐぅ! ごもっとも」
藍は反論できなかった。
だがブイドラはそうでもないようで。
「おい王様野郎! お前もちょっとは気を使うブイ!」
「知らん。雑種は雑種らしく勝手にやっていろ」
「なんだとブイィィィ!」
ギャーギャーと叫びながらシルドラと喧嘩をしていた。
どうにもこの2匹は仲が悪いらしい。
「ブイドラ、もっと仲良くしなきゃダメだよ」
「藍がのんびり過ぎるだけなんだブイ!」
「シルドラ、静かにして」
「む、すまないなマナミ」
それぞれの主人に咎められて、ひとまず落ち着くチビ竜達。
それはそうと、藍は真波に話しかける。
「やっぱり真波ちゃんもモンスターと話せるんだね」
「……化神となら、できる」
「えへへ〜お揃いだ〜」
天真爛漫な笑みを浮かべる藍。
だが真波はプイっと顔を背けてしまう。
藍は分かりやすくショックを受けていた。
なお当の真波はというと……
(お揃い!? 同い年の子と、お揃い!? これってもしかして……ボクにもお友達ができるチャンス!?)
藍の距離の近さに、動揺していた。
コミュ力の低さとファイトの強さが負の相乗効果を発揮している真波にとって、藍のようなタイプは初めてだったのだ。
故に……真波は友達という概念を、キチンと理解できていなかった。
「……ボクを狩ろうとは、しないんだ」
「なんでそうなるの。せっかくチームになったんだから、一緒に頑張ろうよ」
「い、いっしょ……!?」
真波の心に、極大ダメージ。
お揃いとは、お友達の関係性を表す尊いシンボル(真波の偏見)。
既に彼女の中では「初めてのお友達」という実績解除に王手をかけていた。
「そ……それだと、ボク達がその……」
「友達だよね! 友達になろうよ、真波ちゃん!」
屈託なき笑顔でそう言う藍。
それを前にして真波は「はうぅ!」と、よくない声を漏らしていた。
完全に心を(勝手に)掌握された瞬間である。
「マナミ?」
「ごめんねシルドラ……ボクはもうダメだ」
訝しげなシルドラに一言告げて、真波は藍に近づく。
「あ、あの」
「ん?」
妙に真剣な表情の真波に、藍は疑問符を浮かべる。
「月のお友達料金はいくら、かな?」
藍は盛大にずっこけた。
ブイドラとシルドラはこの上なく冷めた目になっていた。
「月額3万円なら問題なく――」
「なんでそうなるの!?」
藍が大声で突っ込んできたので、真波は少したじろぐ。
「だって、お友達って有料のサブスクじゃないの?」
「どこの修羅世界の話をしてるの!? 使い放題無料サービスだよ!」
「そ、そんな……そんなお得なサービスがあって許されるの?」
なおこの時、真波の頭の中には「基本料金じゃなくて、その他オプションで儲けるタイプ……」と浮かんでいた。
そんな思考を見抜かれたのか、シルドラにはさらに冷めた目で見られていた。
「えいっ!」
「ぴゃ!」
思わず藍は、真波の額に手刀を入れた。
小動物のような目で、真波は頬を膨らませている藍を見る。
「もう、真波ちゃんはもっと友達って概念を知るべきだよ!」
「で、でもボクは今までお友達が」
「それならアタシが友達第一号になるから。しっかりお勉強しなきゃだよ!」
「ッ!? お、お友達……第一号」
「うん! 友達になろうよ、真波ちゃん!」
その時浮かべた藍の笑顔を、後に真波はこう表現した。
世界は……この太陽に照らされて、生かされているんだ。
「い、いいの? ボクで」
「真波ちゃんだからいいの」
そう言って藍は、真波の両手を掴んだ。
お友達の手の温もり。
それは容易に、真波の心に強烈な幸福感を与えた。
もはや今の真波にとって、藍は信仰すべき女神に見えた。
「お、おかあさーん」
「真波ちゃん急にどうしたの!?」
真波は藍に両手を握られたまま、意味不明な言葉を吐いて、膝から崩れ落ちた。
藍は普通に混乱し、シルドラとブイドラは筆舌に尽くしがたい呆れ顔になっていた。
「は、はじめて、おともだち、できた」
「真波ちゃん、なんか幼くなってない? 気のせい?」
「きのせい」
真波はそう主張しているが、どう見ても精神が退行している。
それほどまでに藍と友達になれた事が嬉しかったのだ。
その時であった。
どこからか「ぐぅ」と腹が鳴る音が聞こえてきた。
「シルドラ?」
「違うぞマナミ」
「あはは……ごめん、アタシ」
顔を赤らめながら笑って誤魔化そうとする藍。
よくよく確認考えれば、もう昼過ぎである。
夕飯の事ばかり考えていて、昼食の事を二人とも考えていなかった。
「あっ、そうだ」
真波はコンビニで買った食料がある事を思い出す。
カバンから取り出す真波。そして目を輝かせる藍とブイドラ。
「コンビニで買ったご飯だけど……い、いっしょに、食べよ?」
「いいの!? やったー!」
はしゃぐ藍。
真波は上手くコミュニケーションを取れたので、小さくガッツポーズをした。
コンビニのビニール袋に詰まっているのは、おにぎりやサンドイッチ。
真波は今までにない程ウキウキな気分で取り出そうとする。
しかし……そんな二人に近づいてくる生徒がいた。
「見つけたわ九頭竜さん!」
「Sクラス最強の踏み台にする為! ここでファイトを挑ませていただくのデス!」
現れたのはSクラスの女子生徒二名。
金髪お嬢様な女子と、小柄なメイド服の女子。
二人とも真波を探していたらしい。
「あちゃ、Sクラスからのファイトか〜。時間かかるかもだから、ご飯は後回しに――」
「……………………」
「真波ちゃん?」
藍の隣で、真波は女子がしてはいけない、とんでもない形相になっていた。
挑んできたSクラスの女子二名も「ひぃ!?」と悲鳴を上げる。
「許さない……お友達との、ご飯を……邪魔した……ユルサナイ」
「落ち着いて真波ちゃん! 人の形が保てなくなってる!」
「ファイト……ボク、ファイト、スル」
「わかった。早く済ませよう! タッグファイトでいいかな!?」
藍がそう聞くと、Sクラスの女子は無言でコクコクと頷いた。
ファイトが始まると感じ取ったシルドラとブイドラはカードに戻る。
「ほら真波ちゃん、召喚器持って」
「フグタン……フグタン……」
もはや言語の通じない狂戦士一歩手前だが、真波はちゃんと召喚器を手に持つ。
藍も手早く召喚器を手に持って、タッグファイトモードへと切り替えた。
「それじゃあいくよ! なるべく手早く!」
「イアァァァ……」
完全に怒りに飲まれている真波。
Sクラスの女子二名も、恐れを抱きながらも召喚器をタッグファイトモードへと切り替えた。
四人の召喚器が無線接続される。
初期手札を5枚引いて、ファイトが開始した。
「「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」」