第五十二話:息抜きと運試し
召喚器に映し出された謎の告知。
それは全世界、同時刻に映し出されていたようだ。
当然ながら、サモン至上主義であるこの世界は大混乱。
様々な予想や憶測が飛び交い、TVのニュースでは自称専門家による考察等が連日報道されている。
一つ俺の予想通りな事があるとすれば、あの告知メッセージが新たなカードタイプを示すものではと予想している人間がそこそこ居る事だ。
0303 Armed
俺にはその意味が分かる。
0303は正式な発表の日付。
そしてArmedは新たなカードタイプ。
アームドカード。
モンスター、魔法に続く第3のカードタイプだ。
モンスターゾーンに顕現させて、モンスターに武装するカード。
当然ながら、武装したモンスターは大きく強化される。
前の世界では、このアームドが登場した直後に色々インフレが起きたから……嫌でも記憶に刻まれているな。良くも悪くも。
予告編が出てから今日で2週間。
俺とソラ、そして速水は受験勉強の息抜きにカードショップへと向かっていた。
ちなみにアイは家でホームパーティーで忙しいらしい。流石金持ち。
街の中をのんびり歩く俺達。
街頭テレビやビジョンには、相変わらず例の告知に関する話題が流れている。
「みんな飽きないな〜。ずーっと同じ話題繰り返してらぁ」
「当然ですよ。UFコーポレーションがああいった告知をするのは初めてなんですよ」
「間違いなく新しいカードに関する発表につながるのだろうが……その正体が不明だからな」
「その方がワクワクがあって楽しいと思うけどなぁ」
「そう都合良くはいかない。新カードの正体が欠片も分からないせいで、経済が混乱しているらしいからな」
速水曰く、どの既存カードが活きてくるのか分からない、そもそもパワーバランスがどうなるかも分からない。
そういった事情からか、カードの関連会社の株価が意味不明な挙動になっているのだとか。それも全世界で。
うん……冷静に考えて大丈夫なのか、この世界。
カードで経済が死にかけてるぞ。
これUFコーポレーションに文句行かないのかな?
多分行ってると思うけど。
「そういえば、カードショップもシングルカードの値段がだいぶ混乱しているらしいですね」
「色々分からない状況だからな。しばらくは続くだろう」
そうか、シングル価格が安定してないのか。
特価品コーナー漁ろうかな。
そんな話をしている内に、カードショップに到着した俺達。
相変わらず人が多い。
聞こえてくる声は、例の告知の話題と、カードの値段の話。
みんな素晴らしくカードゲーマーやってるな。
「フリーファイトコーナー、空いてるかな?」
「どうでしょう。今日は特に人が多いですし」
「まぁ、空いてなければ適当に時間を潰せば良い」
速水の言う通りだ。
カードゲーマーはカードショップで無限に時間を潰せる生き物なのだ。
で、フリーファイトコーナーに行ったわけだが。
ソラの予想通り、人がいっぱい。
しかも俺らと同じ中学生くらいのファイターばかりだ。
これはアレだな。みんな受験に向けてサモンの特訓をしているんだな。
……いざ文字化すると、本当にカオスだな。
ちなみにサモンの専門学校は聖徳寺学園だけではないので、この光景は普通らしい。
「……時間、潰すか」
「私、とりあえず予約表に名前書いてきますね」
「天川はどうする? 俺はシングルカードでも眺めに行くが」
「とりあえずソラを待ってから、適当にブラつくよ」
「では時間が来たら、ここに集合しよう」
そう言い残して速水はシングルカードコーナーへと向かって行く。
俺はソラが来るのを待ってから、二人で適当にショップ内を巡る事にした。
俺とソラはシングルカードはそんなに用がないので、他のものを見に行く。
「おっ、このスリーブ肌触りが良いな」
「本当ですね〜。カード同士のつきもいい感じです」
やっぱりスリーブは良いもの使いたいよね。
とりあえず俺とソラはスリーブを買い物かごに入れる。
それにしても流石はサモン至上主義世界。
カードショップのサプライコーナーも品揃えが素晴らしすぎる。
「召喚器のカスタマイズパーツねぇ……俺にはよく分からん」
「モンスターの召喚エフェクト可愛くなったりするんですよ」
「……可愛くしたいか?」
特にアイが使うようなモンスター。
キラキラエフェクトでグロい見た目のモンスターが出ても反応に困るぞ。
「あっ、今日発売日か」
歩いている内に辿り着いたのは、雑誌コーナー。
勿論売っているのはサモンの専門雑誌だ。
その種類も豊富。完全にスポーツ雑誌のレベルである。
とりあえず俺は最近購読している雑誌を一冊手に取り、かごに入れた。
ちなみに内容はプロ大会の情報誌である。
「あっ、ツルギくん。あれ見てください」
ふと、ソラが店に設置されているTVを指差す。
映し出されているのはプロサモンファイターの活躍。
今インタビューを受けているのは、オールバックにした黒髪の男性。年齢は20歳。
若き強者として紹介されている男性の名は……
「速水リュウト、か」
「速水君のお兄さんですよ」
そう、彼は速水の兄。プロのサモンファイターなんだ。
俺はふと、とある去年の出来事を思い出す。
「(速水が超えたい相手……か)」
俺は買い物かごに入れた雑誌の表紙を見る。
今月の表紙は、速水リュウトであった。
一応前の世界でも顔を見たことがあるけど、よく覚えていない。なにより俺はまだ、この人のファイトをよく知らない。
この雑誌で何か知れたら良いんだけどな。
番組の特集が終わると同時に、速水がこちらに来た。
「天川、赤翼」
「おう速水。なんか良いカードあったか?」
「残念ながら、だ」
「そっか」
まぁシングルカードの価格が今ぐちゃぐちゃになってるらしいしな。
仕方ないか。
「せっかくショップに来たのだから、何かカードを手に入れたい気持ちはあるのだがな」
「あっ、それすごくわかります!」
「俺も同じく。何か出会いが欲しいよな」
だがシングルカードはイマイチと……。
俺は少し考え込む。
すると、俺の頭に一つの閃きが出た。
「そうだ! いい事思いついた」
俺はソラと速水をある場所へ連れて行く。
目的地は、パックコーナーだ。
「パック、ですか?」
「そうだ。せっかく3人いるんだし、1パックずつ買って運試ししようぜ」
「なるほど。より高いレアリティを当てた者が勝者という事か」
「速水大正解」
ソラも速水も乗り気みたいだ。
俺は適当にパックを1つ選ぶ。
ソラに至っては、天に祈るようにしてパックを選んでいた。
「速水はどれにするんだ?」
「そうだな……これにしよう」
速水は残り1パックになっている箱からパックを手に取った。
「残りもの?」
「残りものには福があると言うだろう」
ふむ、それもそうだな。
パックを決めた俺達は、レジでさっさと会計を済ませた。
俺達は休憩所にもなっているベンチの前に移動する。
ここならゴミ箱もあるからね。
「さぁ二人とも、開けようぜ」
一斉にパックを開けて、俺達はその中身を確認した。
さてさて俺はというと?
「うーん、1パックじゃレアは出なかったか」
でも便利なコモンカードは手に入ったから、儲けものかな。
「ソラはどうだ?」
「ふっふー。見てください!」
「おっ、聖天使のレアカードじゃん」
「大当たりです」
これはソラのデッキに強化が入るな。
で、速水はというと?
「速水はどうなんだ?」
「……」
「速水くん?」
カードを見つめながら黙ってしまう速水。
そんなに大ハズレだったのか?
俺がそう思った矢先、速水は小さく笑みを浮かべた。
「天川、赤翼……この運試し、俺の勝ちだ」
「えっ?」
「速水、まさか……」
これは、まさか!?
速水は俺達二人に、引き当てたカードを見せてくる。
そのカードは輝いていて、そして、元素デッキの切り札。
「速水くん、それって!」
「あぁ。SRカード、それも系統:〈元素〉のカードだ」
「これは完敗だな……でもやったな速水!」
速水が引き当てたカードは俺も知っている元素の切り札。
入試前に、速水のデッキは大幅な強化を得たのだ。
「どうする速水、デッキ調整するか?」
「当然だ。後で試運転に付き合ってくれ、天川」
試運転かぁ……俺は一向に構わないんだけど。
今俺の脳裏には、もう一つの閃きが生まれていた。
「なぁ速水、その試運転なんだけどさぁ」
「む?」
「もっと歯応えのある相手にやってもらわないか?」
「天川以上なのか?」
「手札次第ではな」
ちょうどこの前練習相手を欲しがっていたし。
「ツルギくん、誰と速水くんをファイトさせるんですか?」
「あぁ、俺の母さん」
「「えぇ!?」」
驚くソラと速水。
だが甘く見るなよ。
俺が母さんに渡したデッキは、かつての環境デッキだからな!




