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第四十二話:ふざけた提案

 JMSカップ本戦トーナメントが開始した。


「〈ファブニール〉で攻撃!」

「ぐわぁぁぁ!」


「やれ! 〈スチーム・レックス〉!」

「きゃぁぁぁ!」


「お願いします! 〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉!」

「む、無念」


 俺達チーム:ゼラニウムは順調に勝ち進み、無事決勝戦への切符を手に入れた。

 さて、問題はFairysの皆様だけど……


「どうだ、速水(はやみ)

「流石と言うべきだな。ややこしい事情があるとはいえ、実力は確かなファイターだ」

「アイちゃん達も決勝戦に進みましたよ」


 控室のモニターで、Fairysの試合を見る俺達。

 向こうも無事勝ち進んだようだ。

 これで約束は果たせる。それだけは安心だ。


 問題は、アイ自身の心だな。

 なんとかファイトまでは漕ぎつけたけど、作戦を上手く成功させられるかはまだ分からない。

 だけど、それでも俺は、アイとファイトをしたい。

 アイに、サモンの本当の楽しさを思い出してほしいんだ。


「決勝戦開始まで、まだ時間があるな」

「ま、のんびり待とうぜ」


 俺がソファに沈み込みながら、そう言った時であった。

 控室の扉をノックする音が聞こえた。

 なんだよ、来客多過ぎだろ俺らの控室。


「ミオさんと夢子(ゆめこ)さんでしょうか?」

三神(みかみ)博士の可能性もあるぞ」

「俺が出てくる。ちなみに俺は新顔の可能性に賭けてみよう」


 とりあえず俺は控室の扉を開ける。

 扉の向こうに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ壮年の男性。

 うん。賭けは俺の勝ちだな。

 それはともかく……


「えっと、どちらさま?」

「初めまして。私はFairys(フェアリーズ)のプロデューサーをしている黒岩という者です」


 黒岩。その名前が聞こえた瞬間、俺の警戒心は頂点に達した。

 この男が、目の前にいるこの男が、アイを苦しめているのか。

 俺はとにかく平然を装って対応する。


「で、そのアイドルプロデューサーさんが何の用で?」

「いやなに。君たちと少しお話をしたくなってね」


 異変に気付いた速水とソラも奥から出てくる。


「ツルギくん。その人は」

「Fairysのプロデューサーだってさ」


 俺の端的な説明で、二人は全て察したらしい。

 背後から凄まじい警戒心を感じる。


「で? 俺らみたいな普通の中学生に、どんなお話を?」

「うーん、そうだね……単刀直入に言えば、次の決勝戦で君たちに負けて貰いたいんだよ」

「は?」


 何を言ってるんだコイツは?


「私のFairysは今まさに最盛期を迎えていてね。このJMSカップで華々しく優勝すれば、その人気も更に上がるというものだ」

「で、俺達に負けろと? そっちの営業の都合で?」

「勿論ただでとは言わない。1勝2敗で負けて欲しいんだ」


 それとこれは……と言って、黒岩は1枚の紙を取り出した。

 これは……小切手だな。


「好きな金額を書いてくれたまえ。対価はきちんと支払うよ」

「さっきから聞いておけば貴様ッ! 俺達サモンファイターを何だと思っているんだッ!」


 流石に速水も怒り心頭してるな。

 言葉にしてないけどソラも同様。

 まぁ俺もなんだけどな。八百長なんて冗談じゃない。

 あと小切手とかしょぼいもん持ってくんな。こちとらカード資産なら世界一を自負してるわ。やや反則技だけど。


「速水、落ち着いてくれ」

「だが天川(てんかわ)!」

「黒岩さん、だっけ? その交渉なんだけどさぁ」


 俺は黒岩から小切手を受け取り、そして……


「論外だ」


 派手に破り捨てた。


「俺達は今、この大会を金のために戦ってるんじゃない。誇りと魂のために戦ってるんだ」

「……君達は、チャンスを捨てると?」

「チャンスにすらなってねーよ。ノイズだノイズ」


 何よりアイを苦しめた罰だ。鼻っ柱へし折ってやる。

 俺達は静かに黒岩を睨みつける。


「他に、用はあるのか?」

「……いや、無いね。これで失礼させてもらうよ」


 そう言って踵を返す黒岩。

 不気味なくらいあっさりと手を引くんだな。


「せいぜい後悔するんだな」


 去り際、黒岩は何かを呟いた気がしたけど、よく聞こえなかった。

 去り行く黒岩の背に中指をこっそり立てる。

 俺は控室の扉を閉めて、中に戻った。


「噂に違わぬ最低な男だったな」

「だな。八百長疑惑ってやつも疑惑じゃないんじゃないか?」

「最低な人でしたっ! むかむかします!」


 頬をぷくーっと膨らませて怒るソラ。

 なんだかフグみたいで可愛いな。


「天川、赤翼(あかばね)! あんな男には絶対に負けないぞ!」

「はい! がんばります!」

「いや、戦う相手はFairysの三人だからな」


 間違っても黒岩は選手じゃない。

 まぁ精神的な話なのかもしれないけど。

 うーん、そう考えたら少し苛立ちが残っているな。いけないいけない。


「悪ぃ、俺ちょっとトイレいってくるわ」


 流石に少し頭を冷やさないとな。

 カードゲーマーは冷静さが大切な武器だ。

 俺は控室を後にして近くにあるトイレに向かった。





「ふぅ~スッキリした~」


 トイレは良い。トイレは心を潤してくれる。

 人類が創り出した最高の文明だよ。


 トイレから出た俺がハンカチで手を拭いていると、声をかけてくる人物がいた。


「あっ、天川ツルギ選手ですか!?」

「はい、そうですけど……スタッフさん?」


 公式キャップとジャンパーを着ている男性。

 うん、間違いなく会場スタッフの人だ。


「選手登録の書類で確認したい事があります。お手数ですが、一緒に来てもらってもいいですか?」

「え? はい」


 何か不備でもあったのかな?

 俺はスタッフさんの後をついて行く。

 小走り気味に進む俺達。決勝戦ももうすぐだから、早く済ませたいな。


 最初は人通りのある場所を進んでいたけど、どんどん人気は無くなっていく。

 辿り着いた場所は、大きな機材倉庫のよな場所の前だった。

 扉も開いている。


「ここで確認するんですか?」

「はい。個人情報ですので」


 色々大変だな。

 まぁ、さっさと終わらて控室に戻るか。


 俺がそう考えた次の瞬間であった。


 ドンッ!


 誰かが俺の背を強く蹴り飛ばした。

 

「痛っ!? え!?」


 何が起きたんだ?

 蹴り飛ばされた時の衝撃で、俺は倉庫の中に入ってしまう。

 誰がこんな事をしたんだ?

 俺は犯人の顔を確認しようと、急いで振り返る。


「え!? お前は」


 勢いよく閉められる倉庫の扉。

 その隙間から一瞬見えたのは、下卑た笑みを浮かべている黒岩の姿であった。


 バタン! ガチャン!


 倉庫の扉が閉められて、鍵がかかる音が聞こえる。

 オイオイオイ、嘘だろ!?

 俺は遅いで扉を開けようとする。


「クソっ! 開けろ! 開けやがれェ!」


 扉を激しく揺らすが、開く気配は無い。

 体当たりもしてみるが、分厚い鉄の扉はびくともしない。


 これは……かなり不味いぞ。


「クソっ! 完全に閉じ込められた」


 スマホを確認するけど、まさかの圏外。

 召喚器の短距離通信機能も同様だ。

 これじゃあ助けも呼べない。


「どうする……決勝戦は、もうすぐ始まるんだぞ」


 俺、とんでもないピンチに陥ってしまった。

 

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