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第二十三話:新しい世界の日常

2024年6月17日:一部改稿しました。

 あのトーナメントから一ヶ月が経過した。

 この世界に転移してからの時間もそれなりに経過したので、自分なりには慣れてきたつもりだ。


 街の風景をぼんやりと眺める。

 あちらこちらでサモンをやる人間の声が聞こえてきて、立体映像が嫌でも目に入ってくる。

 街頭のテレビを観れば、サモン関連企業のCMが流れていて、新パックの告知には人が群がっていた。


 そんな変化した日常にも、だいぶ動じなくなってきた自分がいる。

 本当に、慣れたもんだ。


 慣れたといえば、なんだかんだ言って二回目の中学校生活にも慣れてきた。

 とは言っても、学力チートなんて都合のいいものは無いので、ほとんど勉強し直しみたいなものだ。

 ただし、サモンに関しては話が変わるけどな。


 校内ランキング第二位になった事で、学校での環境はそこそこ変化した。

 具体的にはサモンの教えを乞う奴とか、ランキングの座をかけて俺に挑んでくる奴とか。

 あと妙にボディタッチしてくる女子とか。

 なんか色々な奴が出てきた。


 とりあえず、サモンの知識に関しては遠慮なく教えて、挑んできた奴は返り討ちにした。

 あと、妙な女子からは全力で逃げて……幸運にもソラが助けてくれた。


「でもソラの奴、あの女子達に何言ったんだろうな」


 不思議とソラが対応した女子は、その後俺に絡んでこなくなった。

 一度何をしたのか聞いてみたけど「秘密です」と返されて終わった。

 速水に聞いたら「世の中には知らない方がいい事もある」と返された。

 そんなにヤバい方法をとっただろうか?


 まぁアレだ……深くは考えないようにしよう。


 それはさておき、今日は日曜日。

 若者が青春謳歌する曜日である。

 具体的には、クラスメイト達と遊びに出かけるのだー!


「あぁ、俺今めっちゃ青春してる」


 前の中学時代には、こんなイベント無かったからな。

 ちょっとテンション上がっている俺である。

 ちなみに卯月からは「お兄、キモい」言われた。


「で、今日はみんなでカラオケ&ショッピング……やべぇ、リア充してるわ」


 ちなみに名目は、トーナメントの打ち上げ。

 なんで終わってすぐではないのかと言うと……主にソラの事情である。


「まさかあのチンピラ、即警察に捕まってたとはな」


 流石にこの世界で、サモンの結果を無視したり、デッキを捨てたりするのは一発アウトだったようだ。

 あのチンピラは捕まって、これから裁判にかけられるらしい。

 その当事者として、ソラはお母さんと一緒に警察や弁護士さんのとこへ通っているのだ。

 ちなみに俺も何回か行った。


「なんか一発で実刑確実らしいけど……サモン至上主義って怖いな」


 ちょっと前言撤回。やっぱ俺この世界に慣れてないわ。

 うん、ややこしい事は考えないようにしよう。

 今は目の前の青春を謳歌するのだ。


「えーっと。待ち合わせ場所は、駅前の噴水……」


 目的地の駅前の噴水まで近づくと、見慣れた白髪の女の子が立っていた。

 カーディガンとスカートの私服姿。

 あんまり見ない格好をいざ目の前にすると、こう……ドキッとする。


「あっ、ツルギくん! こっちです」


 向こうから呼ばれたので、俺は我に帰ってから近づいた。


「おはようソラ」

「はい。おはようございます」

「他の奴らはまだか?」

「えっと、それなんですけど……」


 ソラは申し訳なさそうに、スマホの画面を見せてくる。

 開いてるのはSNSのチャット画面。


「ん? 『私達は全員遅れるから、二人でしばらく遊んでて』ってなんじゃこりゃあ!?」

「どういう事なんでしょうね?」

「速水は? こういう時真っ先に来てそうな速水は!?」


 俺は藁にも縋る思いで、自分のスマホを開く。

 すると速水から一通のメッセージが届いていた。


『すまない。だが俺は馬に蹴られたくない』

「いやどういう事だ」


 まるで意味がわからんぞ!


「なんか……妙な気づかい的なものを感じるんだが」

「えっと、どうしましょう?」

「他の奴が来ないんじゃ仕方ないだろ。俺たちだけで、派手に遊んでやれ」

「ほひゅ!?」


 ソラが突然面白い声を出して、顔を赤らめた。


「えっ、私とツルギくんで、ですか!?」

「他に誰がいるんだよ」

「ふふふ、二人っきりですか!?」

「まぁ、そうなるな」


 というかソラさんや、あまりそういう事を言わないでくれ。

 変に意識してしまう。

 あっ、俺もなんか顔熱くなってきた。


「まぁそういう事だから、行こうぜ。行き先は任せる」

「ふぇ!? 私が決めるんですか」

「女の子の行きたい場所なんて、俺には分からん」

「えっと、ツルギくんが行きたい場所でもいいんですよ」

「女の子の行きたい場所なんて、俺には分からん」

「えっと、ツルギくんが行きたい場所でもいいんですよ」

「それ実質カードショップ一択だぞ」

「ですよね〜」


 サモンファイターたるもの、常にカードショップはお友達なのだ。

 まぁ最近は色々と取引相手的な面もあるけど。


「でも、それがいいかもしれません」

「ん?」

「カードショップなら、ツルギ君とファイトができます。私はそっちの方が楽しいと思います」

 花が咲くような笑顔でソラはそう言ってくれる。なんだよ、ドキッとするじゃんか。

「だから私は、ツルギくんの行きたい場所に行ってみたいです」

「……しょうがないなぁ。じゃあそうするか」

「はい!」


 まさか女の子連れてカードショップに行く日が来るとはなぁ。

 前の世界ならありえない現象だぞ。

 でもまぁ……ソラが楽しんでくれるなら、それでいいか。


「あっでもツルギくん。一つだけ約束してください」

「なんだ?」

「今日のファイトでは、手加減禁止ですよ」


 ドキッ⁉


「ナ、ナンノコトデショーカ」

「ツルギくん、私に手加減したこと……ありませんか?」

「な、なんでそう思うんだ?」

「女の子の勘と秘密です」


 怖いよぉ……とりあえず後で速水に問いただしておこう。

 いや、アイツは口が硬いか。マジで女の勘か?


「ツルギくん、顔真っ青ですよ」

「だ、誰から聞いたんだ」

「そう答えるってことは、やっぱりツルギくん手加減してたんですね!」


 しまった、罠だったか!


「もう! 手加減するなんて失礼ですよ!」

「マジで申し訳ない。でも色々思うことがあったんだ」

「むぅ〜」


 頬を膨らませて怒るソラ。でも仕方がなかったんだよぉ。


「ツルギくん?」

「はい」

「もう手加減なんてしないでくださいね」

「……わかってるさ」


 もう、やる理由も無いからな。


「ツルギくんが手加減した理由、やっぱりこのデッキのことですか?」

「あぁ。それ以上にソラを泣かせたくなかったってもある」

「私を、ですか?」

「俺からすれば貴重なサモン仲間で、ライバルだからな。そう簡単に消えて欲しくなかったんだよ」


 全部俺の本心。

ソラというファイターを守りたかったという気持ちが一番大きかったんだ。


「そう……だったんですか」

「でもまぁ、こうしてデッキを受け取ってくれたわけだし。今日は思いっきり本気でいかせて貰うぞ!」


 それがソラに対するせめてもの罪滅ぼしになるのなら。

 俺は今できる限りのファイトしよう。


「私、簡単には負けませんよ」

「俺だって。トーナメントのリベンジマッチも兼ねてるからな」


 結局俺たちは、根っからサモンファイターらしい。

 お互いに顔を見合わせて、くすりと笑い声が出てしまう。


「じゃあ、カードショップに行きましょうか」

「どのショップにする? この辺は色々ありすぎるけど」

「それじゃあ私、水族館に行きたいです!」

「カードショップって言ったよな⁉」

「なに言ってるんですか。水族館にもカードショップはありますよ」


 俺の中で常識という概念が助走をつけて走り去ったぞ。

 でもまぁ、悪くない日常の光景……なのか?

 そんな事を考えていると、ソラの小さな手が、俺の左手掴んできた。


「早く行きましょう。ボーッとしてると他の人達が来ちゃいます」

「お、おう。そうだな」


 なんかソラさん、グイグイ来てませんか?

 急に手を繋ぐと、変に意識しちゃうんですが!


「さぁ行きましょう。隣の駅から行ける水族館なら、ライディングイルカファイトも見れますよ!」

「ちょっと俺の知らない概念で殴るのやめてくれないかな?」


 時折自分の正気を信じられなくなるけど、決して嫌な気分ではない。

 街の光景は変わらない。誰かがサモンやって、誰かそれを観る。

 そしてテレビにはサモン関係のCMが流れている。

 ここは異世界。カードゲーム至上主義の世界。

 そして、俺に与えられた、新しい日常のある世界。


「ツルギくん、今日もサモン楽しみましょうね!」

「あぁ、派手に暴れてやる」


 ここなら俺は、何にでもなれかもしれない。

 ここはきっと、俺にとって都合のいい世界なのだ。

 さぁ今日も、カード引こう。何かを勝ち得るために。








【第二章へ続く】

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