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俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜  作者: 鴨山 兄助
第九章:高校生編⑥

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第二百二十七話:無限奥義-背に友を、眼に未来を-

「簡単には終わらせない。君には深淵の底で悔い続けてもらおう……アタックフェイズ!」


 仕掛けてくる、と言ってもあの様子じゃあ自分の立ち位置は理解できてなさそうだな。


「まずは1体目の〈バレッドギイン〉で攻撃」

「〈ジェット・デリーター〉でブロック」


 真っ白な人型モンスターの攻撃を、一つ目の眷属が真正面から受け止める。

 パワーの差は歴然なので、あっさりと破壊されてしまう。

 だけどこれで良い。この一撃は受ける必要がない。

 大事なのは――


「続けて2体目の〈バレッドギイン〉で攻撃」

「……ライフで受ける!」


 ――この攻撃を受ける事である。

 白い人型モンスターは指先から鋭い刃を生やして、俺に襲いかかってきた。

 たった2点のダメージといえど、流石に実体化するとちょっと痛いな。


 ツルギ:ライフ5→3


「次の攻撃はどうする? 〈セブンシンズ・デーモン〉で攻撃!」


 (まつり)誠司(せいじ)がファイトを終わらせに来たか。

 ヒット7による一撃。当然だけど、まともに食らえば命はない。


「ツルギ!」

「分かってるって。〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉でブロック!」


 何も防御を考えてない訳ないだろ。

 俺のブロック宣言によって、〈カーバンクル〉が〈セブンシンズ・デーモン〉の前に出る。

 無貌の悪魔は右手と一体化した剣を振るってくるが、カーバンクルは軽々とした身のこなしでそれらを回避。

 気づけば〈セブンシンズ・デーモン〉の頭上に乗っていた。


「……あなや、なんとまぁ(いたづ)らな事よ。際無(きはな)しに生命を喰ろうておいて、その中身は空虚な(けだもの)……否、それ以下かや」


 何かを悟ったのか、カーバンクルは無貌の悪魔の頭上で冷たく言い放っている。


「ボクは誰かをとやかく言えるような存在じゃない。だけど今のお前達が、意味のない死の上に立っている事は分かるっプイ」


 そう言い残すとカーバンクルは、無貌の悪魔の頭上から飛び降りる。

 戦闘破壊は確定しているが、カーバンクルは落下中も不敵な笑みを浮かべていた。


「生命を知らねば生命になれぬ……お前には教えてくれる友達がいなかった。それが敗因っプイ」


 そして〈セブンシンズ・デーモン〉が振るった剣に斬り裂かれて、カーバンクルは破壊されてしまった。

 とはいえ、いつも通りの効果を発動するだけなのだが。


「〈【紅玉獣】カーバンクル〉は場で破壊されても手札に戻る」

「ならこちらは〈シン・ルーラーセイバー〉の武装時効果だ。〈セブンシンズ・デーモン〉は2回攻撃の効果で回復する」


 武装したモンスターに【2回攻撃】を付与するアームドカード。

 だけど〈シン・ルーラーセイバー〉の一番強力な効果はそっちじゃない。

 あのカードは【シン・断罪】を持つモンスターに武装していると、相手から受ける全てのダメージを1点に固定化させてしまう。


(つまり効果ダメージで一撃必殺はできないし、高打点で一気にライフを削る事も難しい)


 とはいえ攻略法はいくつか存在するんだけどな。

 気づけなければ絶望感が強いのも確かだけど、それは結局相手が普通のファイターだったらという前提のifでしかない。

 さて、彼方は〈セブンシンズ・デーモン〉を回復させてきた訳だけど……


「このまま攻撃しても構わないが、君の策は全て破壊してからの方が良さそうだ」

「あぁ、なるほど……つまり」

「僕はこれでターンエンドだ」


 最後のチャンスを手放すんだな、政誠司よ?


 誠司:ライフ27 手札3枚

 場:〈バレッドギイン〉〈【(シン)最悪総理罪臣さいあくそうりざいじん】セブンシンズ・デーモン〉〈バレッドギイン〉


「さぁ、君のターンだ」

「……俺は、確かに言ったからな? このターンで勝てよって」

「楽には死なせない。ただそれだけの戯れさ」

「政誠司、今お前は自分の手で最後のチャンスを手放した」

「それは君にとっての延命でしかなかったのでは?」


 あぁなるほど、結局最後までソレは疑わなかった訳か。

 自分の最強を信じて疑わない傲慢さがあるから、絶対に足元や後ろを見なかったんだ。


「ハハ、ハハハ」

「なにがおかしい?」

「財前の言ってた事は真実だと思ったんだ。アンタは帝王の器なんかじゃない。玉座を無意味に汚す事しかできないハリボテだったって」

「ハリボテ、だと? 何を根拠に――」

「財前なら同じ状況で、切り札を出そうとはしなかったぞ」


 アイツはネジが数本抜けている奴ではある。

 だけど諦め悪さは世界一だし、自己研鑽を怠るようなバカでもない。

 負ければ学習して次に活かしてきた……敗北すらまともに経験せず、学びや成長を手放してきた男とは格が違う。


「お前は自分のちっぽけなプライドを守るために、後先考えずに切り札を出したに過ぎないんだ」

「その一手がチェックメイトだ。君は僕に塩を送ったに――」

「倒せないカードの召喚を、わざわざ手伝うと思うのか?」


 政誠司の顔が凍りついた。

 気づかなかったんだな……俺の異質さに、気づこうともしなかったんだな。


「お前のデッキは〈セブンシンズ・デーモン〉を超える切り札を入れていない。何故ならお前はそのカードは無敵だと信じているからだ」

「それは事実だね。〈セブンシンズ・デーモン〉は決して倒せない」


 そう言うと政誠司は仮想モニターを展開して、〈セブンシンズ・デーモン〉のテキストを見せてきた。

 まぁ、俺は知っているんだけどな。


「場を離れる時、ライフ2点を身代わりにして回復状態で残る」

「そうだ。君にこのカードは倒せない」


 なるほど……馬鹿みたいな慢心だな。

 それを俺が考慮してない訳ないだろ。


「じゃあさぁ、このターンで俺が勝てばよぉ、最高に盛り上がるよなぁ?」

「勝つだと、不可能だ」

「そう言うならひっくり返してやるよ。テメェの価値観の根っこからな!」


 これが正真正銘のラストターン。

 一連のウイルス事件、そしてギョウブに伊賀崎さん、全ての因果に決着をつける。


「俺のターン! スタートフェイズ!」


 これで発動後2ターン目のスタートフェイズ。

 よって〈フューチャードロー〉による2枚のドローが適用される。

 だけど本来であれば、スタートフェイズ開始時にデッキが0枚なので、政誠司は敗北してしまうのだが……


「スタートフェイズに〈セブンシンズ・デーモン〉の効果を発動! デッキアウトでゲームに敗北する代わりに、僕は墓地からカードを1枚選んで手札に加える。僕は〈解散命令波〉を手札に!」


 よくある防御カードを回収したのか。

 口では強がっていても、内心の怯えが丸見えじゃねーか。


「さらに僕は魔法カード〈独裁政令〉を発動! このターンの間、僕のモンスターは全て相手の効果では破壊されない!」

「……ドロー、フェイズッ!」


 政誠司が焦ったような声色で守りを固める中、俺は通常のドロー。

 先程のドローも合わせて、勝利に必要なパーツは全て揃った。


「メインフェイズ! まずは2体目の〈ルビーレプリカ〉を召喚!」


 先程ドローした2枚目を仮想モニターに投げ込む。

 俺の場には再び紅いイミテーションのウサギが召喚された。


〈ルビーレプリカ〉P1000 ヒット0


「続けて、〈【紅玉獣】カーバンクル〉を再召喚!」

「キュップイ! ボク達はそう簡単に負けるわけにはいかないっプイ!」


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


 カーバンクルを召喚すると、俺は少し呼吸を整えるようにしながら、自分の立つファイトステージに目をやる。

 本当に、少し前まではアニメの世界。この世界の出来事はフィクションでしかなかった。

 だけど今は違う。

 生きている。俺も、この世界に生きる人達や化神のみんなも。

 この世界の物語は、俺のせいで歪んでしまったのかもしれない……だけど……


(俺はもう、この物語の当事者……登場人物(キャラクター)なんだ)


 目の前に立つ男と自分が、本当に死闘をする事になるとは想像もできなかった。

 それでも今は、俺にできる事がある。

 俺がバトンを受け取った、俺が選んだ戦いがここにある。


「……カーバンクル」

「キュプ?」

「最後まで、一緒に戦ってくれ」

「もちろん。それがボクの望んだ約束っプイ」


 効果破壊耐性なんだ。パワー77777がなんだ。

 学園最強が、六帝(りくてい)評議会序列第1位が、ウイルスの支配者がなんなんだ。

 その程度で俺という人間の、これまで踏み躙られてきた皆の怒りと激情を、受け止められると思うなよ。


「頼むぞ……俺は〈【天地開闢竜てんちかいびゃくりゅう】オブシディアン・ソード・ドラゴン〉の効果を発動!」


 もう〈プライド・デーモン〉による無効化も解けている。

 黒曜石の眷属が咆哮を一つ上げると、俺の墓地へと繋がるゲートが、淡い光と共に開いた。


「1ターンに1度、俺の場に『カーバンクル』と名のつくモンスターが存在する場合、このターン次に召喚する系統:《夢幻》を持つ進化モンスターの進化素材のうち1体を、墓地から選ぶ事ができる」


 墓地から進化素材を選ぶ効果……だけどコイツは少しだけテキストの毛色が違う。

 墓地からしか選べなくなる効果ではない、進化素材を1体だけ墓地から選べる効果だ。

 つまり今の俺のように、場にモンスターが3体埋まっている状況であっても、〈オブシディアン・ソード・ドラゴン〉以外のカードを使って3体融合ができるようになる。


「いくぞ、相棒!」

「プイ!」

「進化条件は自分のライフが4以下である事! そして進化素材は『カーバンクル』と名のつくモンスターを1体以上含む、系統:《魔獣》か《幻想獣》を持つモンスター3体!」


 進化素材として選ぶのは、墓地から〈ルビーの魔術師〉。

 場からは〈ルビーレプリカ〉。

 そして〈【紅玉獣】カーバンクル〉。


「キュップイ! これがボクの融合進化!」


 巨大な魔法陣が出現して、カーバンクルと2体のモンスターがその中に飲み込まれていく。

 重い条件をクリアしないと出せない、俺の切り札。

 魔法陣の中で、カーバンクルは第7の進化形態へと変化していく。


「夢幻の力、今ここに集いて、果てなき物語を紡ぐ刃となる! 天を駆けろ俺の相棒ォォォ!」


 魔法陣が弾け飛び、カーバンクルはその姿を現す。

 黒を基調とした軍服のような衣装に、赤い裏地のマントを靡かせている。

 そしてシルエットは人間に近い、ウサギを彷彿とさせる仮面を着けた、紳士の如き獣人の騎士であった。

 これが俺の切り札にして、カーバンクルの到達点。


「〈【幻婪魔獣(げんらんまじゅう)】カーバンクル・ジョーカー〉召喚!」


〈【幻婪魔獣】カーバンクル・ジョーカー〉P7000 ヒット3


「パワー、7000だと?」


 予想外に低めのパワーだったからか、政誠司は訝しげな表情浮かべている。

 まぁ確かに一見すれば、3体のモンスターを要求する割にはパワーも低く、ヒット数も特別高い訳ではない。

 表面情報だけなら地味な印象はあるだろう……表面だけならな。


「系統:《夢幻》を持つモンスターが召喚された事で、墓地から〈アゲートの神官〉の【眷属召喚】を発動。デッキから〈サファイアの槍兵〉を疲労状態で召喚する」


 当然ながら〈カーバンクル・ジョーカー〉の召喚でも【眷属召喚】は発動できる。

 俺のデッキから、蒼い体毛に覆われた竜人の槍兵の眷属が現れた。

 次は……俺も初めての試みだな。

 俺は自分の場に立つ〈オブシディアン・ソード・ドラゴン〉に目を向ける。


「ツルギ、いこうっプイ!」

「あぁ! 自分のライフが5以下で、自分の場に進化モンスターが存在するなら〈オブシディアン・ソード・ドラゴン〉は真の姿に変化できる!」


 黒曜石の竜が咆哮を上げると、その身体に装着されていた黄金の拘束具が眩い光を放ち始めた。


「〈オブシディアン・ソード・ドラゴン〉【拘束解除】!」


 拘束具が解除されると、〈オブシディアン・ソード・ドラゴン〉は竜の姿から解放される。

 強烈な光に包まれたと思えば、次の瞬間には竜の面影も無い、全く異なる姿へと化していた。

 それは一振りの美しい剣。まるで鏡のように輝く刀身と、竜の勇ましさを併せ持つ王の剣。


「アームドカード〈【天照王剣(てんしょうおうけん)】テスカトル・セイバー〉顕現!」

「バカな、モンスターがアームドカードに変化したというのかッ!?」

「ビックリするだろ? 俺も初めてなんだ……両面カードってのはさ」


 そう、これが〈オブシディアン・ソード・ドラゴン〉だけが持つ特性。

 条件を満たせば裏返り、アームドカードへと変身する。

 モンスター・サモナー史上初の両面カードである。


「いくぞ! 〈【天照王剣】テスカトル・セイバー〉を〈【幻婪魔獣】カーバンクル・ジョーカー〉に武装(アームド)!」

「キュ! 来いッ〈テスカトル・セイバー〉!」


 王の剣はひとりでに跳ね上がり、〈カーバンクル・ジョーカー〉の手に吸い込まれるように掴まれに行った。


「だ、だが! まだステータスは追いついていない!」

「だろうな、だけどそれも織り込み済みに決まってるだろ」


 そして俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 何故、前の世界で【カーバンクル】が環境上位に名を連ねたのか。

 何故、【カーバンクル】というデッキから4枚もの禁止・制限が排出されてしまったのか。

 何故、〈カーバンクル・ジョーカー〉は制限で……このカードは禁止になってしまったのか。

 今その理由を見せてやる。


「魔法カード〈セブンソウル・リバース〉を発動!」

「それは、墓地のカードを回収する魔法カード」

「そうだ。コイツは俺の墓地から系統:《夢幻》を持つモンスターカードを好きなだけ手札に戻す事ができる。ただしこの効果でカードを手札に加えた場合、加えた枚数以上のカードを手札から()()()必要がある」

「今更なにを回収するつもりなのかな?」


 まあ見てなって。

 これが正真正銘の壊れコンボだからよ。


「俺が手札に加えるのは……この6枚!」

「なっ、全てだと!?」


 驚かれるのも無理はない。俺が墓地から回収したカードは――


 〈【幻蒼竜(げんそうりゅう)】カーバンクル・ドラゴン〉

 〈【幻紅獣(げんこうじゅう)】カーバンクル・ビースト〉

 〈【幻橙狐(げんとうこ)】カーバンクル・テンコ〉

 〈【幻黄雷(げんこうらい)】カーバンクル・ミョルニール〉

 〈【幻翠鳥(げんすいちょう)】カーバンクル・サムルク〉

 〈【幻紫公(げんしこう)】カーバンクル・ヴァンプ〉


 ――カーバンクルの進化形態全部だからな!


「そして〈セブンソウル・リバース〉の効果で、俺は今手札に加えたカードを全て手札から捨てる」

「……なんだ、無意味ではないな? なにを仕込んだッ!?」

「こういう事だよ」


 明らかに焦りを隠せなくなっている政誠司に、俺は場の〈カーバンクル・ジョーカー〉を指差す。

 系統:《幻想獣》を持つカードの()()で、手札から《夢幻》のモンスターが捨てられる事。

 それがコイツの発動条件だ。


「〈カーバンクル・ジョーカー〉の専用能力【無限奥義インフィニティ・ブラスト】を発動!」

「全ての力を、今一つにするっプイ!」

「〈カーバンクル・ジョーカー〉は手札から系統:《夢幻》を持つモンスターが捨てられる度に、そのモンスターが持つ『無限』と名のつく効果を全て受け継ぐ!」

「『無限』と名のつく効果だと……まさかッ!?」


 そうだ、お前の想像している通りだよ。

 俺が今まで使ってきたカーバンクルの進化形態が持つ専用能力の数々。

 【無限槍(むげんそう)】【無限砲(むげんほう)】【無限経(むげんきょう)】【無限鎚(むげんつい)】【無限翔(むげんしょう)】【無限影(むげんえい)

 これら全てを、〈カーバンクル・ジョーカー〉は得たんだ。


「これでボクも全部盛りっプイ」

「なるほど。少し驚いたが、まだ僕の敵では――」

「アタックフェイズ。パワー差がなんだって?」


〈【幻婪魔獣】カーバンクル・ジョーカー〉P7000→P49000


「なんだとッ!? なんだそのパワーは」

「〈カーバンクル・ジョーカー〉はアタックフェイズ開始時に、墓地の『カーバンクル』と名のつく進化モンスター1種類につき、パワーを+7000する」

「だがまだッ! 〈セブンシンズ・デーモン〉には及ばない!」


 だよな……そう言うと思ったよ。

 だから俺は望んだのかもしれない。この状況を打開できる、新しい力を。

 ここで政誠司を討ち取り、未来を掴み取る力を。


「〈【天照王剣】テスカトル・セイバー〉の武装時効果発動! ライフを1点支払う事で、このターンの間、武装しているモンスターのパワーを2倍にする!」


 なんだか意図せず財前みたいな能力になったけど、まぁ良いか。


〈【幻婪魔獣】カーバンクル・ジョーカー〉P49000→P98000


「さらに継承した【無限鎚】の効果によって、お互いの場にいるモンスターのヒット数を〈カーバンクル・ジョーカー〉に加算する!」


〈【幻婪魔獣】カーバンクル・ジョーカー〉ヒット3→15


 これで完成形態だ。

 恐らくこの世界ではまず見れないような天文学的なステータスになった事で、流石に政誠司も動揺している。


「パワー98000、ヒット15だと……!?」

「覚悟しろよ、政誠司ィィィ!」


 俺の叫びに応じて、〈カーバンクル・ジョーカー〉は手にした剣を構えて攻撃に入る。

 そして攻撃に入れば、継承した能力も発動する。


「攻撃時に、継承した【無限翔】の効果を発動! 〈バレッドギイン〉を手札に戻して〈カーバンクル・ジョーカー〉を回復させる!」

「ッッッ! ブロックしろッ〈セブンシンズ・デーモン〉!」


 下半身の獅子が咆哮を上げて、上半身の無貌の悪魔が右手の剣を構える。

 蜘蛛のように生えている機械の脚も駆使して〈カーバンクル・ジョーカー〉を返り討ちにしようするが……スピードが足りていない。


「鈍間の怪物が、ボクに勝てる訳ないっプイ!」


 そう言うと〈カーバンクル・ジョーカー〉は武装した剣を駆使して、迎撃を全て斬り払っていく。

 たったの一撃も入らない。

 焦りの感情が、あの無貌の悪魔にあるのかは分からないが……確実に力量の差を認識させる事には成功していた。


「死の塊。今ここで断ち斬るっプイ!」


 そして一閃。

 光を伴うような斬撃で、〈カーバンクル・ジョーカー〉は〈セブンシンズ・デーモン〉を戦闘破壊した。

 圧倒的なパワーを持つ切り札戦闘破壊されたせいか、政誠司は僅かに口を開けて唖然としている。

 だがそれも一瞬。すぐに元の様子へと戻っていった。


「……ライフを2点支払い〈セブンシンズ・デーモン〉の効果を発動。このカードは回復状態で場に残る」


 誠司:ライフ27→25


 効果が発動すると、時間が巻き戻るように無貌の悪魔は元に戻ってしまった。

 だがそれは想定内。なにも問題ではないんだ。


「モンスターを戦闘破壊した事で、継承した【無限槍】の効果を発動。相手に3点のダメージを与える」

「だが僕が受けるあらゆるダメージは〈シン・ルーラーセイバー〉の武装時効果によって1になる」


 誠司:ライフ25→24


 ライフコストも、ダメージも全て、政誠司は〈セブンシンズ・デーモン〉に押し付けていく。

 どうやらまだまだダメージの肩代わりはできるらしいな……その方が良い。


「これで分かっただろう? 〈セブンシンズ・デーモン〉は無敵。何度でもブロックでき、何度でも死を免れる究極のモンスターだ」


 自分の切り札が場に残った事で、政誠司は分かりやすく傲慢な態度に戻っている。

 そう……お前は必ずそういう反応をすると思っていたよ。


「無敵、ねぇ?」

「疑問点など存在しない。これが真実だ」

「そりゃあ場持ちは良いと思うけどさ――それってお前のライフが残っていればの話だろ?」


 俺の言葉がすぐに理解できなかったのか、政誠司は「なにを言いたい」と返してくる。

 さぁ、タネ明かしをしてやろうか。

 俺が仕込んできた、このゴール地点を。


「確かにアンタは〈シン・ルーラーセイバー〉によって、あらゆるダメージが1になってしまう。しかも〈独裁政令〉によって効果破壊に耐性までついた。これじゃあ俺達の【無限砲】で破壊する事もできない」

「そうだ。だから君たちにはもう勝ち目が――」

「お前が減らせるのは、あくまでダメージだけだろって話だ。今さっさ、お前は何で2点のライフを削った?」


 ここまで言われて、ようやく政誠司は気づいたのだろう。

 分かりやすく顔を青くしている。

 そうだ。確かにダメージはどうやっても減ってしまうし、それは俺でも解決し難い。

 だけどダメージ以外の方法ならどうだ?

 具体的にはライフコストだ。〈セブンシンズ・デーモン〉が場に残るには、必ず2点のライフコストが必要になる。


「なら、ブロックをしなければ」

「ライフコストを回避できる。だけど忘れたのか? 俺の場にはカーバンクルの攻撃を必ずブロックさせる〈サファイアの槍兵〉がいる事を」

「な……あ……」


 口を大きく開けて言葉を失う政誠司。

 仮に今の手札で〈サファイアの槍兵〉か〈カーバンクル・ジョーカー〉を除去しようとしても無駄だ。

 眷属を破壊したところで〈カーバンクル・ジョーカー〉が継承した【無限翔】の効果により、コイツは攻撃後すぐに回復する。

 そして〈カーバンクル・ジョーカー〉を直接除去できたとしても、今度は継承した【無限影】で復活し、さらに除去をしても【無限経】の効果で進化元を場に残して手札に戻る。


「これから〈カーバンクル・ジョーカー〉はお前のライフが尽きるまで攻撃をし続ける。だけどそれを回避するために〈セブンシンズ・デーモン〉の破壊を受け入れたら……どうなるか分かってるよな?」


 政誠司は身体を震わせながら、自分の召喚器に目を向ける。

 そう、アイツは〈セブンシンズ・デーモン〉を召喚するためにデッキを全て墓地へ送ったのだ。

 デッキアウトの回避は〈セブンシンズ・デーモン〉の効果によるもの。

 それを失ってしまえば、その瞬間敗北が決定してしまう。


「悪魔に魂を売るなんて言うけど、その悪魔に自分の明日まで委ねたら意味ないな」

「な、なぜ……こんな……」

「何故じゃねーよ。全部お前が招いた結果だろ」


 ウイルスの材料にされた罪なき化神達。

 ウイルスのせいで苦しめられたララちゃんにギョウブ。

 心の弱みに漬け込まれて利用されてきた感染者達。

 そして何より……コイツらのせいで二度も死んだ伊賀崎さん。


「【政帝】政誠司。地獄で懺悔する準備はできたんだろうなァ!」

「バカな、僕が」

「いけェ! カーバンクル!」


 回復している〈カーバンクル・ジョーカー〉は再び〈セブンシンズ・デーモン〉へと斬りかかる。

 そして【無限翔】の効果で最後の〈バレッドギイン〉を手札に戻して、回復。

 強制ブロックによって〈セブンシンズ・デーモン〉は、絶対に負ける一騎打ちから逃れられない。


「一度でも悲劇。無数で惨劇。だったらその上に座るコイツは、生命でもなんでもないっプイ!」


 斬り裂かれ、破壊される〈セブンシンズ・デーモン〉。

 だが政誠司は焦って効果発動するので復活してしまう。


 誠司:ライフ24→22→21


「まだ終わらせねェぞ」

「これは今までお前達が殺してきた……その全ての怒りの代言っプイ!」


 剣の切先を政誠司に向けるや、再び攻撃に移る〈カーバンクル・ジョーカー〉。

 そしてこのタイミングで、彼方も我に返ったのだろう。


「魔法カード〈解散命令波〉を発動! アタックフェイズを強制――」

「無駄っプイ」


 魔法効果でアタックフェイズを強制終了させようとする政誠司。

 だが強烈な衝撃波が無貌の悪魔から、カーバンクルを吹き飛ばそうとした瞬間であった。

 カーバンクルの周囲に、六つの幻影が現れた。

 全てカーバンクルの進化形態達である。


「なッ……魔法が」

「〈カーバンクル・ジョーカー〉の効果。自分の墓地から系統:《夢幻》を持つモンスターを6種類除外する事で、ゲーム中に一度だけ相手の魔法カードを無効化できる!」

「解散するのは、お前の方っプイ!」


 六つの幻影に打ち消されて、魔法カードは効力を失う。

 そしてカーバンクルと〈セブンシンズ・デーモン〉の戦闘は続行されてしまう。


「ありえない、この僕が」

「もう、お前の手札には防御札がないだろ?」

「この……僕がァァァァァァ!」


 現実を受け入れられずに絶叫する政誠司。

 だけどそれで止まる程、俺達も優しくはない。


 誠司:ライフ21→19→18


「やめろッ! 僕に傷を負わせるなァァァ!」


 誠司:ライフ18→16→15


「僕は、政帝……政誠司」


 誠司:ライフ15→13→12


「序列第1位の、最強の帝王」


 誠司:ライフ12→10→9


「民を新世界へと導く、真の帝王だァァァ!」


 誠司:ライフ9→7→6


 ガタガタとうるさい。

 偉そうな言葉ばかり選んでいる癖に、自分の負うべきダメージは全部ウイルス側に押し付けてるじゃないか。


「何が真の帝王っプイ。お前に王の器なんて無い。お前に相応しい呼び名は王じゃなくて悪魔っプイ」


 誠司:ライフ6→4→3


「クソッ! こんな、こんな下劣なダメージをッ!」

「だからお前はハリボテなんだ。その汚ねぇ尻を玉座から退けろ」

天川(てんかわ)ァァァァァァッ!」

「それともう一つ。聞いておきたい事があるんだけどさぁ」


 血走った目で睨み、叫び声をあげてくる政誠司。

 俺はそれをスルーして、現在進行形でコイツのダメージを肩代わりしている〈セブンシンズ・デーモン〉を指差した。


「コイツが破壊されてたらさぁ、蓄積されていたダメージは敗者に行くと思うんだよ……このターンだけで相当数溜まったダメージだ。誰の身体に行くんだろうなぁ?」

「へ……あっ……」


 気づいたか。気づくだろうなぁ。

 バカみたいにライフを回復しなければ、もう少しマシだっただろうに。


「や、やめろ」

「その言葉を聞き入れる必要、ないよな?」

「ボク達が聞くのは、懺悔のみっプイ!」


 崩れ落ちて無様に震える政誠司に、俺とカーバンクルは冷たい視線しか向けられない。

 失ったものは返ってこない……だけど少しくらい、弔いにはなる。


「何なんだ貴様は……いったい何なんだァァァ!?」

「俺か? マヌケな男に尻尾を踏まれちまった、最強(バケモノ)だよ」


 恐怖が頂点に達したのだろう。

 政誠司の心が折れて、全てが崩れ去る音が聞こえた気がした。

 だからこそ、ここで終わらせる!


「〈【幻婪魔獣】カーバンクル・ジョーカー〉で〈【真・最悪総理罪臣】セブンシンズ・デーモン〉を攻撃!」

「生命を吐き出すっプイ、化け物がァァァ!」

「「天竜共鳴ジョーカー・パニッシャァァァァァァ!」」


 輝く刀身を向けて、カーバンクルは無貌の悪魔に最後の一撃を叩き込む。

 己が身を保とうにも、もう政誠司のライフは底をついた。

 無辜を喰らい続けた悪魔と、その支配者の最後である。


「待てッ消えるな! お前が消えれば蓄積されていたダメージがッ」

「そいつは、アンタが今まで踏み躙ってきた人達の」

「そして化神の皆の」

「「怒りの声だと思えェェェェェェ!」」


 瞬間、ウイルスは逆流を始めた。

 ライフを失い敗北が確定した政誠司の身体へとリバウンドするように、その蓄積されたダメージという代償を支払わせにかかった。


 誠司:ライフ3→1→0

 ツルギ:WIN


 言葉にならない悲鳴上げて、政誠司はその場に倒れ込む。

 そして立体映像が消え始めたところを見て、俺はようやく全てが終わったのだと実感できた。

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