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俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜  作者: 鴨山 兄助
第九章:高校生編⑥

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第二百二十二話:〇〇のエオストーレ

 (なぎ)とのファイトが終わると、召喚器が投影していた立体映像が消えていく。

 同時に黄金の竜も光の粒子となって消えていき、その跡にはブイドラとシルドラが残っていた。


「む、戻る時はこうもアッサリなのだな」

「も、戻れてよかった~。危うく王様野郎とずっと一緒なのかと思ったブイ」

「気色悪いことを言うな! 無礼者」


 ホっとため息を吐くブイドラの背を、シルドラは短い手で思いっきり引っ叩く。

 だがお互い嫌い合っているわけではない。

 共に戦いを乗り越えた者同士、確かな友情はそこにあった。


(らん)、怪我は大丈夫ブイ?」

「うん。ウイルス戦だったから、もうそんなに痛くない」


 心配したブイドラが藍の元へと飛んでくる。

 まだ完治はしていないものの、藍の傷はほとんど塞がっていた。

 ファイト中こそ凄まじい効力を発揮していたオリジナルのウイルスであったが、終わってしまえば今までのウイルス戦と大差ない。


「ファイト中はすごかったけど、倒したらなんて事ないんだね」

「それでいいブイ。終わっても続く方が怖いブイ」

「あとはマナミの中に入ったウイルスも消えていれば良いのだがな」


 そう言いながら、シルドラは周囲をキョロキョロと見回す。

 今この場には自分達しかいない。

 凪はウイルスの影響で黒い痣を浮かべながら気絶している。

 だがそれ以上にシルドラはある事が気になっていた。


「……妙だな」

「どうしたのシルドラ?」

「あれだけ強大なウイルスを放っていた割には、ウイルスの残滓すらほとんど感じない」

「ブイ……たしかに言われてみれば」


 ブイドラも鼻をクンクンとひくつかせて、周辺からウイルスの気配を探る。


「ツルギが行った方向からはイヤーなのを感じるけど……それ以外はあんまり感じないブイ」

「うむ。嵐帝(らんてい)とのファイトが始まる前より……不思議なくらい薄まっている」

「そういえば、シルドラと真波(まなみ)ちゃんがファイトした時って、なんか黒いのが出てきたんだっけ?」


 藍の言葉にシルドラが頷く。

 実際、空港でシルドラと真波がファイトをした後には、ウイルスによって生み出された闇の塊が襲いかかってきた。

 凪のウイルスはただ倒しただけで、そこまで弱体化するともシルドラは思わない。

 今この場に流れる静寂は、奇怪でしかなかった。


「まぁ何もないなら、それで良いブイ」

「それはそうだが……ん?」


 ふとシルドラは何かに気がつく。

 それは倒れている凪の近くで蠢く、小さな黒い物体。

 見るからに普通の生物からはかけ離れた、ブヨブヨとしたスライム。

 人間の藍には分からなくとも、化神であるブイドラとシルドラには、それがウイルスの塊であると分かった。


「……ブイっ」


 とりあえず駆け寄ってみたブイドラ。

 二秒ほど黒く小さな物体を見つめるや、即座に踏みつけた。

 小さなブヨブヨは「ピッ」と短い断末魔を上げて消滅してしまう。


「踏み潰せたな」

「踏み潰せたブイ」


 なんとも呆気ない結末に、二体の小さな竜は微妙な表情を浮かべていた。

 藍もポカンと口を開けている。だがそれ以上何かが出てくる様子もなかったので、事態がひと段落ついた事だけは理解できた。


「ねぇ、今のって」

「ウイルスの塊だな。かなり弱体化していたようだが」

「オイラ達に倒されたうえ、誰かにエネルギーを吸い取られてたりして。なーんてな、アッハハハ!」


 気楽に笑い飛ばすブイドラ。

 だが一方で藍とシルドラは何かに気づいたように、口を大きく開けていた。


「今、最もエネルギーを必要とする存在は……」

「もしかして……」


 一つの可能性が浮かび上がった。

 藍もシルドラも、同じ存在を思い浮かべる。

 その思考に応じたかのように、二体の小さな竜は施設の外から新たな気配を感じ取っていた。


 その気配は、出てきたのではない。

 その気配は、目覚めてきたのだ。





 ファイト施設のすぐ外。

 ウイルス感染した生徒の中でも実力者が固まっている領域。

 そんなAクラスやSクラスの面々を相手に、ソラと愛梨(あいり)は戦っていた。


「魔法カード〈聖なる魔剤〉を発動。効果で回復させた〈エオストーレ〉で攻撃です!」

「ぎゃァァァ!」


 モブ生徒1号:ライフ3→0

 ソラ:WIN


「終わらせるわよ、ウィズ!」

「今日のウィズはやる気マックスなのねー!」

「ぐえぇー!?」


 モブ生徒2号:ライフ2→0


「続けて2回攻撃なのね!」

「にっぽんいちィィィ!?」


 モブ生徒V3:ライフ3→0

 愛梨:WIN


 感染者との連戦であったが、ようやくそれも一区切りがついた。

 流石に疲労も出始めている中、ソラは愛梨の方へと駆け寄っていく。


「アイちゃん、そっちは大丈夫ですか?」

「えぇ。少し厄介だったけれど、なんとかなったわ」

「二対一でもお姉様が一番なのね! あんなヤツら二番目なのね!」


 ファイトが終わると、ウィズもいつも通りのデフォルメされた姿に戻る。

 とはいえウイルス感染者との連戦は、身体にダメージを蓄積させていく。

 いくらファイト終了後に傷が治っていくとはいえ、間隔を空けなければ回復する時間も生まれない。


「とはいえ、流石に少し休みたいわね」

「そうですね。痛みの引きが早いとはいえ、こうも連戦だと……」

「……ねぇソラ、さっきから気になっていたのだけど。貴女だけ傷の治りが早すぎないかしら?」

「ほえ?」


 キョトンとした表情を浮かべるソラ。

 愛梨の言う通り、ソラがファイト中に負った傷は既に一つも残っていない。

 まだ先程のファイトが終わってから三分足らず。どう見ても回復速度が早すぎるのだった。


「言われてみれば、なんだか前より早く治ってますね」

「言われてみればってレベルじゃないでしょ。貴女ファイト中に何回吐血してたと思ってるのよ」

「勝てば治るって分かってましたから。数えてなかったです」

「ソラ……あなたツルギの影響受け過ぎでしょ。もちろん悪い意味で」


 エヘヘと笑みを浮かべるソラに、愛梨はどこか呆れた表情を浮かべる。

 実際ファイト中に大ダメージを受けて吐血するソラを、愛梨は今日だけで何度か目撃してしまったのだ。

 あまりの光景にソラの名を叫ぶ場面もあったが……今思い返せば、ソラは自分の痛みを無視して勝ちを奪いに行ってばかりでもあったと、愛梨は思い返していた。


「鼻と口から血を流しながら『天罰、撃てます……じゃあ私の勝ちです』ってガンギマった目で宣言するの、相手が素面じゃなくて本当に良かったと思うわよ」

「私そんな感じだったんですか!?」

「アレを無自覚でやっていたという事実が一番怖いのね」


 愛梨とウィズ曰く、目はガンギマった状態で、薄ら笑いを浮かべながら口にしていたとの事。

 鼻血を制服の袖で拭いとるや、ソラは宣言通りに相手のライフを0にしていた。

 なおここまでの仕草は全て、ソラが無意識にやった事である。


「あと貴女、何回〈聖なる魔剤〉を使ったのね? エオストーレのお腹はきっとタプンタプンなのね」

「えっと、それは……〈聖なる魔剤〉ってすごく便利なカードなので」

「そうね。回復と追撃ができるカードなんて、ソラにとっては使えば使うだけ得でしょ」


 実際のところ、〈聖なる魔剤〉という魔法カードはツルギも認める【聖天使】デッキの便利カードである。

 ソラも有用性を理解しているので、隠神島での一件以降はずっとデッキに採用しているのだ。

 という口実が四割。残りはツルギのオススメカードだったからという意味合いが強い。


「それにしても、あれだけ感染者がいた割にはウイルスの残りがほとんど無いのね」

「あんなもの残らなくて良いのよ」

「うーん、それにしてもキレイさっぱり――」


 ウィズが全てを言い切るより先に、倒れていた感染者の一人が起き上がり始めた。

 まだ体内に残っていたウイルスが急激に増幅して、強引に宿主の身体を動かし始めたのだ。

 愛梨はうんざりした顔で、その感染者を睨みつける。


「アンコールなんて、お断りしたいのだけどね」

「お姉様、無茶しちゃダメなのね」

「アイちゃんは下がっていてください。私が戦います」


 まだ傷が治っていない愛梨を、ウィズが止める。

 ソラはその状況を理解した上で、自分がファイトをしようと前に出た。

 自分の身体に蓄積した疲労を鑑みて、愛梨は「お願い」と少し悔しそうに呟く。


 だが何かがおかしい。

 感染者は召喚器を手に持つでもなく、虚な目を浮かべて棒立ちするのみ。

 ウイルスは間違いなく体内で増幅しているはずである。にも関わらず、この感染者は棒立ちのままなのだ。


「気をつけてソラ!」

「なにか変なのね」


 後方から愛梨とウィズの声が聞こえた瞬間、感染者の身体から黒い何かが噴き出てきた。

 黒い霧のようなそれは、一つの塊となって感染者の身体から外に出てくる。

 それはウイルスの塊であった。


「アイツ、次の感染先を探しているのね!」


 ウィズが叫んだ瞬間。

 ウイルスの塊は感染者の身体を切り離し、ソラへと飛びかかってきた。

 あまりにも突然の出来事に、愛梨は言葉を口にする余裕すら生まれない。

 ましてやソラは、逃げる余裕すら持てなかった。


(あっ……これ、ダメ)


 眼前に迫ってくる黒いウイルスの塊を前に、ソラは自分の終わりを悟ってしまう。

 本能的に目を瞑り、ソラは口を閉じる。

 だが、数秒経っても自分の身体に異変は起きなかった。


(……あれ?)


 閉じた目の隙間から、優しい光が入り込んでいる。

 ソラが恐る恐る目を開けると、そこにウイルスの姿はなかった。

 目の前にあるのは白く美しい天使の翼。

 ソラが最も頼りにしている、ソラが最も見慣れている大天使の翼がそこにあった。


「少し、時間がかかってしまいましたね」


 翼はソラをウイルスから守るように、後ろから抱きしめるように展開されていた。

 そして翼が勢いよく開くと同時に、その聖なる力によってウイルスは一片の欠片もなく消え去ってしまった。

 ソラはゆっくりと振り返って、自分を守ってくれた声の主をその目で確認する。


「……エオストーレ?」

「はい。ようやく話せましたね、ソラ」


 優しく微笑むエオストーレ。

 ソラは数秒それを見上げると目を潤ませて、ようやく意思疎通が可能になった自分のパートナーに抱きついた。


「あ、あら、ソラ? もしかしてワタクシなにか粗相を?」

「グスっ。そうじゃないです。エオストーレが、ずっと一緒にいてくれたからっ。嬉しくて」

「……はい。言葉は交わせなくともずっと見ていました」


 涙を流すソラを、エオストーレは優しく抱きしめる。

 その手には確かに、生命体としての温もりがある。

 その声には確かに、生命体としての心があった。


「なるほどなのね。外に出たウイルスを全部、エオストーレが吸収していたのね」

「だからウイルスが薄まっていたのね……良かった」


 ソラとエオストーレを見つめながら、ウィズと愛梨は納得と安心を覚える。

 だがその雰囲気に冷水を指すように、新たに活性化を始めたウイルスが宿主の身体を使って起き上がり始めた。

 当然、その様子はエオストーレにも把握できている。


「ソラ、下がっていてもらえますか?」

「えっ? あの、エオストーレは?」

「あの迷える人の子を救いに行きます……なので一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」


 一度ソラから離れたエオストーレは振り返って、そう言ってくる。


「ソラがよく使う魔法カード〈聖なる魔剤〉なのですが。あれを発動していただけませんか?」

「え? 発動?」

「はい。立体映像で出していただければ十分ですので……お願いします」


 ソラは涙の跡を浮かべたまま、首を傾げてしまう。

 だが言われた通りに召喚器から〈聖なる魔剤〉のカードを取り出す。

 そして召喚器のテストプレイモードを起動して、〈聖なる魔剤〉のカードを仮想モニターへと投げ込んだ。


「ありがとうございます」


 テストプレイモードはファイトはできなくとも、立体映像は表示される。

 エオストーレはソラに礼を言うと、出てきた〈聖なる魔剤〉ことエナジードリンクを躊躇わず手に掴んだ。

 元は立体映像だが、化神が手にしたせいか半実体となっている。


「悪しきウイルスに侵された、哀れな人の子よ」


 エオストーレは慈悲深い表情浮かべたまま、起き上がってきた感染者に近づくと……


――カシュ――


 魔剤(エナドリ)の蓋を開けて、勢いよく感染者の口に突っ込んだ。


「魔剤を飲みなさい。魔剤は全てを洗い流します」


 感染者はウイルスに自我を奪われたまま、エオストーレの手で〈聖なる魔剤〉を強引に飲まされていく。

 当のエオストーレはどこまでも慈悲の顔と態度であった。

 強引に飲ませているが、慈悲しかなかった。


「魔剤を信じなさい。悩みも苦しみも、魔剤が全て解決してくれます。人の子よ、魔剤を飲みなさい」


 哀れウイルス。

 エオストーレが飲ませた〈聖なる魔剤〉によって、容赦なく感染者の体内から洗い流されてしまった。

 それを確認したエオストーレは魔剤の缶を口から引き抜く。

 体内からウイルスは消えたが、それはそれとして感染者の生徒は、その場に倒れ込んでしまった。


「まだ、人の子に潜んでいるウイルスがいますね」


 細目と微笑みを最悪のタイミングでブレンドするエオストーレ。

 どこからか二本目の魔剤缶を取り出して、該当する感染者(気絶している)の元へと歩みよって行くのだった。

 そんなエオストーレの背を見ながら、ウィズは震えて、愛梨は言葉を失っている。


「ど、どうするのねアレ」

「あれ、本当にソラのところにいたエオストーレなの?」

「間違いないのね。魔剤飲み過ぎて魔剤中毒になっているのね! むしろ魔剤信者! 魔剤コンプレックス! マザコン!」

「魔剤コンプレックスをマザコンって表現できる瞬間なんてあるのね」


 二本目の缶を開けるや、エオストーレは気絶している感染者の顔面に浴びせている。

 愛梨は呆然と立っているソラに声をかけた。


「ねぇソラ、あれ止めなくて大丈夫なのかしら?」

「……」

「ソラ?」


 先程まで泣いていたとは思えない程に、ソラは虚無のような表情をしていた。

 そしてソラは召喚器の仮想モニターから〈聖なる魔剤〉のカードを取り出すと……躊躇なくそれを破ろうとした。


「ソラ! 気持ちは分かるけど落ち着きなさい!」

「そうなのね! 今すぐ破いて捨てたい気持ちは分かるけど、カードがもったいないのね!」

「うぅ……こんな、こんなカードがあるから、いけないんです」


 先程とはまるで意味が違う涙を流しながら、ソラは自分を責める。

 自分が魔剤を使いすぎなければ、エオストーレは魔剤コンプレックスにならなかったのだと。

 愛梨とウィズに止められて〈聖なる魔剤〉を破く事は断念したが、ソラはまだ涙を流していた。


 そんな中、エオストーレは静かにファイト施設の方を見上げていた。


「……元凶が、戦っているようですね」


 今まさに行われている戦いを、エオストーレは気配で察する。

 天川ツルギと政誠司の戦い。

 そして邪悪極まる切り札の気配は、学園内にいる全ての化神達に伝わっていた。

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