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第二百十八話:藍VS嵐帝

 ファイト施設の通路にて、(らん)とツルギはカードを手にしていた。

 彼らの前に立っていたのは、評議会補佐の二年生が二人。

 立っているではなく、立っていた。

 行く手を阻む刺客であったが、ファイトの結果は既に明白である。


「〈ビクトリー・ドラゴン〉で攻撃!」

「〈カーバンクル・ビースト〉の【無限砲】を発動!」

「「ぐわァァァァァァ!?」」


 赤き竜と紅蓮の獅子が最後の攻撃を仕掛ける。

 竜の吐き出す大火炎と獅子の砲撃によって、二人の評議会補佐は呆気なくライフを消し飛ばされてしまった。

 立体映像が消えるや、ツルギはカーバンクルを頭に乗せながら、気絶した補佐達に歩みよる。


「どうだカーバンクル?」

「うーん、ダメっプイ。シルドラが言ってたように、今までのウイルスとは何か違う……」

「やっぱり大元を叩かないと解決しないか」

「それも必要。様子から見るにこれは中継役っプイ」

「中継か……通りで影が薄かった筈だよ」


 予選の最中に評議会補佐とほとんど遭遇しなかった件について、ツルギは一人納得をする。

 結局、(まつり)誠司(せいじ)という元凶を討たなければ何も解決しないのだ。

 その時、突如何かに勘付いたシルドラが通路の向こう側に目をやった。


「ブイ?」

「……向こうから来たか」


 ブイドラも同じく何かに気づき、同じ方向を向く。

 静かな通路に足音が近づいてくる。

 藍に予測が、ツルギには足音の主に確信がついていた。


「そっちから出迎えに来てくれるとは、親切な先輩ですね。今のうちに徳を積んで免罪符でも買う予定なんですか?」

「評議会の財布は紐が硬い。その決済は私が認めません」

嵐帝(らんてい)……」


 現れたのは【嵐帝】風祭(かざまつり)(なぎ)

 ツルギは敵意を隠せず、藍も同様に厳しい目つきを向ける。

 だが凪は全く意に介さない。


「わざわざ出向いてきたって事は、俺らを始末しに来たって解釈で良いんですよね?」

「50点です……天川(てんかわ)ツルギ、貴方は奥に進みなさい」

「は?」


 予想外の言葉が飛んできたので、訝しげな声を出すツルギ。

 藍もその後ろで奇妙なものを感じていた。


「誠司様からの指示です。天川ツルギを通すようにと」

「あぁそう……悪ぃ藍、なんか御指名されたっぽいわ」

「うん。こっちは任せて……アタシ達も、この人と戦わなくちゃいけない理由がある」


 そう言うと藍は自身の召喚器を手に取る。

 シルドラとブイドラも既に臨戦体勢だ。

 一人と二体の持つ因縁はただ一つ。九頭竜(くずりゅう)真波(まなみ)という友を傷つけた者との決着。

 受け取ったバトンをゴールに届かせ、一連の事件に決着をつける。

 ただ一つ、その意志を胸に宿して、藍は凪に立ち向かう。


「……勝つぞ。お互い」

「うん。勝って全部終わらせる」

「カーバンクル、そっちは任せるぞ!」

「コイツはオイラ達がやるブイ!」

「キュプ、ボク達も必ず勝つっプイ!」


 言葉を交わし、ツルギは通路を駆け出す。

 宣言通り、凪は過ぎ去るツルギを見逃した。

 凪の獲物は、あくまで藍のみ。


「目が悪いようですね。貴女達の未来は敗北だけです」

「勝手に決めつけないで。未来なんて分からないから楽しいんだよ、だからサモンだって面白いんだよ。最後の1枚で未来が変わるから、みんな強くなりたいって思ってるの」

「人間は暴風に逆らえない。大きな力には巻かれた方が賢明ですよ」


 そして凪は自身の召喚器を手に取った。


「ターゲットロック」


 凪の手で、藍の召喚器と無線接続をされる。

 相手は仮にも序列第2位、嵐帝と呼ばれる強者。

 だが藍の心は落ち着いていた。

 恐れなど無い。今彼女の心にあるものは挑戦への覚悟。

 そして背負った友の想いと、亡き友への弔い。


「大きな力が自分だって分かってるなら、なんで勝手に巻き込むの」

「摂理です。逃れられない」

「真波ちゃんは、そんな決めつけをしなかった」


 召喚器から5枚の初期手札を取り出しながら、藍は言葉を続ける。


「自分のために、巻き込むために力を使わなかった。誰かの意思を踏み躙って、自分だけの願いを叶えようなんてしなかった」

「私達の計画は我欲ではありません。大義です」

「その大義ってのは、ヒトハちゃんが死んで良い理由になるの?」

「一つの犠牲でより多くの幸せが保証されるのです。ならば彼女の死も尊いものですよ」


 淡々とした口調は決して崩れない。

 風祭凪にとって、それは単純明快な当たり前でしかなかった。

 故に疑いはない。犠牲者の存在に疑問すら発生しない。

 伊賀崎(いがさき)ヒトハでさえ、彼女にはあくまで自分達のために犠牲になった存在の一つに過ぎないのだ。


「問答は時間の無駄だ」

「シルドラ」

「根っこが違う。我らと奴らでは根本的な在り方が違いすぎるのだ……ここまで違いが大きければ、まともな問答など成立せん」


 ある種の諦めを含めながら、シルドラは藍にそう告げる。

 価値観、倫理観、根源的な部分に大差があれば対話は成立しない。

 藍達にとって風祭凪という人間はソレに該当した。


「藍、早く始めるブイ」

「ブイドラ……」

「ヒトハだけじゃない……アイツらが、あんなウイルスを使うようになったからッ! ギョウブだってあんな事になったんだッ!」


 ブイドラが思い返す瞬間は、隠神島での戦い。

 ギョウブの涙は今も記憶に刻み込まれている。

 例え目の前にいる凪が、化神は不完全な生命体だと蔑んでも、ブイドラの心は確かに今ここで震えていた。


「ブイドラ、シルドラ……いくよ!」


 藍の一言で、二体の化神がデッキの中へと入っていく。

 凪も初期手札を手にして、準備を終えている。


竜帝(りゅうてい)の忠臣を名乗るのは結構。しかし賊を討つのも私の役目です……ご容赦を」

「忠臣じゃない。アタシ達はただの友達!」

「切り捨てられない甘さ。だから貴女は終わるのです」

「友達を捨てるくらいなら、ここで終わってもいい」


 これより先は言葉の前に決戦あるのみ。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 先攻と後攻は自動で決定する。

 このファイト、先攻は凪であった。


「私のターン。〈ゲイル・オ・ウィスプ〉を召喚」


 凪の場に、風を想起させる緑色のエネルギー体が現れる。

 ファイトログにも映り込んでいた、凪の初動モンスターだ。


〈ゲイル・オ・ウィスプ〉P4000 ヒット1


「召喚時効果を発動。私のデッキを上から5枚破棄します」

「まずは墓地肥やし……」

「それで終わる気はありません。私はコストで〈ゲイル・オ・ウィスプ〉を破壊」


 召喚された矢先に、緑色のエネルギー体はコストとして爆散させられてしまう。

 粉々にされたエネルギーは一つの魔法陣を呼び起こし、新たなモンスターへの召喚へと繋いだ。


「来なさい〈アウステル・デュラハン〉!」


 魔法陣を剣で斬り裂き、新たなモンスターが戦場に現れる。

 それは中身のない鎧騎士。

 空洞から風が漏れ出ている、奇怪な首なしの騎士であった。


〈アウステル・デュラハン〉P9000 ヒット2


「破壊された〈ゲイル・オ・ウィスプ〉の効果を発動。もう一度私のデッキを5枚破棄します」

「破壊時にも発動する効果だったの!?」

「……デッキから墓地へ送られた魔法カード〈宝玉簒奪(ほうぎょくさんだつ)颶風(ぐふう)〉の効果を発動」


 凪の周囲に風が吹き荒れる。

 風は墓地のカードを巻き上げて、凪のデッキにも干渉してきた。


「このカードがデッキから墓地へ送られた時【禍風(まがつかぜ):5】を行う事で、私はデッキからカードを2枚ドローします」


 系統:《嵐牙(らんが)》の専用能力【禍風】によって、凪の墓地からカードが5枚デッキに戻ってシャッフルされる。

 ファイトログを見たおかげで、藍は【禍風】の特性に関しては把握できていた。

 落ち着いて凪の動きを観察する藍だが、唯一未知な要素は〈アウステル・デュラハン〉である。


「自分が【禍風】を行った事で〈アウステル・デュラハン〉の効果を発動」


 効果を発動すると、首なしの鎧騎士は剣を抜き、その切先を天に突き上げる。

 すると凪のデッキからカードが3枚巻き上げられて、彼女の前に滞空し始めていた。


「〈アウステル・デュラハン〉の効果で、私はデッキを上から3枚確認します。その中から1枚を選んで手札に加えて、残り2枚は墓地へ、さらに私はライフを1点回復します」


 凪:ライフ10→11 手札5枚→6枚


 コストによる消費さえも最大限に活用して、確実にアドバンテージを稼いでくる。

 そんな凪の動きを藍は注意深く観察していた。

 序列第2位という肩書きは伊達ではない。油断をすれば確実に負ける。

 藍はそれを言葉より先に本能で感じていた。


「まずはコレで良いでしょう。ターンエンドです」


 凪:ライフ11 手札6枚

 場:〈アウステル・デュラハン〉


 ターンが回ってくるが、藍の心臓は大きく音を立てている。

 それは緊張でもあり、闘志でもあり、貪欲に勝利を掴もうとする心でもある。


「アタシのターン!」


 だからこそ、藍はファイターとして本能で理解してしまったのだ。

 ここから先は一つのミスが命取りになる。

 目指すべきは最小の消費で最大のダメージ量。

 失敗すれば、もう次はない。


「メインフェイズ。来て〈ブイ・カチカチラビット〉!」


 手札とデッキの中に眠るカードを脳内で照らし合わせて、カードを使っていく。

 藍が最初に召喚したモンスターは、小さな舟を背負ったウサギであった。


〈ブイ・カチカチラビット〉P2000 ヒット1


「続けて、コストで2点のダメージを受けて〈ブイベンケイ〉を召喚!」


 召喚コストとして受けるダメージは、二つの小さな火球となって藍に襲いかかる。

 通常のファイトとは異なりダメージが肉体に影響を及ぼすウイルス戦。

 しかも凪のウイルスは既に影響を及ぼしており、二つの火球は藍の身体に大きな痛みを与えてきた。


 藍:ライフ10→8


「っ!」

「私の持つウイルスはオリジナル……ダメージは回避した方が身のためですよ」

「痛みは、怖くない……怖がってたら、アナタに勝てないッ!」


 火球によって焼け、制服に穴が空いている。

 そこから火傷が痛々しく見えているが、藍はそれを堪えてカードの処理を続けた。

 大きな薙刀を手に持ち、藍の場に一体の大柄な僧兵が現れる。


〈ブイベンケイ〉P7000 ヒット2


「そして、自分が戦闘以外の方法でダメージを受けた時、手札から〈ブイウシワカ〉の効果を発動できる!」


 藍が手札からそのカードを捨てた瞬間、場には羽織に身を包んだ鳥人が姿を現していた。

 鳥人は腰に携えていた刀を抜くと、軽々とした身のこなしで障害となる存在を避けていく。


「〈ブイウシワカ〉の効果で、アタシが受けたダメージと同じ数値分、相手にダメージを与える! さらにこのターン、アタシは戦闘ではないダメージを受けているから〈ブイ・カチカチラビット〉の効果で、相手に与える効果ダメージが+1になる!」


 よって合計3点のダメージ。

 手にした刀にその力が宿ると、〈ブイウシワカ〉は躊躇わず凪を斬りつけた。


 凪:ライフ11→8


「っ!」


 たった3点のダメージといえど、切り傷となり血は流れる。

 痛みで微かに顔を歪ませる凪だが、まだ彼女には余裕がある。

 一方の藍も、凪はここで動じるような相手ではないと理解していた。


「〈ブイウシワカ〉の効果でダメージを与えた後、アタシの場に〈ブイベンケイ〉がいるなら、このカードは墓地から復活できる」


 姿を消したかと思われた鳥人は、すぐさま美しい翼を背に広げて降臨する。

 弁慶の隣に立つは、名刀を手にした飛将軍。


〈ブイウシワカ〉P4000 ヒット2


 これで藍の場には3体のモンスターが並んだが、まだP9000の〈アウステル・デュラハン〉を倒せるようなモンスターはいない。

 藍は自分の手札に視線を落とす。

 このファイトでライフダメージを受ける事は大きなリスクになる。

 だが【Vギア】という本領を発揮するには、そのリスクを背負って戦わなくてはならない。


(最速でライフを5以下にするには……これしかない!)


 覚悟を決めて、藍は1枚のカードを仮想モニターへと投げ込んだ。


「魔法カード〈三臣奥義(さんしんおうぎ)桃獣(とうじゅう)の陣-〉を発動! そのコストで〈ブイベンケイ〉と〈ブイ・カチカチラビット〉を破壊!」


 自分のモンスターを2体失うという大きなリスク。

 だが最速で凪を追い詰めるにはこうする他ない。


「このカードは発動時に破壊したモンスターの種類によって効果が適用される。まずは1種類目の効果で、自分か相手に3点のダメージを与える」

「効果ダメージで追い詰めようという魂胆ですか」

「違う。このダメージは……アタシ自身に!」


 魔法効果によるダメージが藍に襲いかかる。

 ここに来て自傷ダメージを選んだ藍に凪は少し驚くが、すぐさま意図は理解できた。

 合宿の際に使用していた藍のカード。凪はその特徴を思い出す。


 藍:ライフ8→5


「ぐッ……さらに、2種類のモンスターを破壊したから、カードを2枚ドロー!」


 ドローしたカードを確認して、藍は少しだけ安心する。

 とはいえ相手の手札もまだまだある以上、油断はできない。


「墓地から〈ブイベンケイ〉の【Vギア】を発動。このターンに破壊されていて、アタシの場に〈ブイウシワカ〉が存在しているなら、カードを1枚ドローできる」


 モンスター・サモナーに於いて手札は多いに越したことはない。

 手札があれば攻めも守りもでき、相手にプレッシャーも与えられる。

 ツルギからの教えだが、今の藍にとっては逆に相手から受けるプレッシャーにも繋がっていた。


「とにかく攻めるしかない。アタックフェイズ! 〈ブイウシワカ〉で攻撃!」

「貴女のモンスターは1体。それも私の〈アウステル・デュラハン〉にパワー負けしていますが」

「パワー勝負をしなければいい! 攻撃した瞬間に〈ブイウシワカ〉の【Vギア】を発動!」


 瞬間、目にも止まらぬ速さで抜刀した〈ブイウシワカ〉。

 そのまま〈アウステル・デュラハン〉の鎧を粉々に斬り裂いてしまった。

 鎧を破壊され、中に宿っていた風のエネルギーが消失していく。

 同時に〈ブイウシワカ〉は刀の切先を凪の方へと向けた。


「このターンにアタシの場のモンスターが場を離れているなら、〈ブイウシワカ〉は攻撃時に相手モンスターを1体破壊できる」

「なるほど、そういう事ですか……だけど残念です。〈アウステル・デュラハン〉の破壊時効果によって、私は自分のデッキを上から3枚破棄。さらにこのターン中に受けるダメージを1点軽減します」


 破壊された鎧から風が凪の元へと集まっていく。

 風は防壁となり、凪への攻撃を阻むようになっていた。


「防御も想定してた……けど1点のダメージは通る!」

「手札を1枚捨てて、魔法カード〈崩壊の風〉を発動」


 淡々と魔法カードを使う凪。

 真波とのファイトでも使っていた、強力な墓地肥やしと除去を兼ね備えたカードだ。

 見覚えがあるだけに、藍は奥歯を強く噛み締めてしまう。


「私のデッキを上から10枚破棄。さらに【禍風:4】を行い、ヒット2以下の〈ブイウシワカ〉を破壊します」


 凪の墓地から1枚、藍の墓地から3枚のカードが風に巻き上げられていく。

 相手の墓地もデッキに戻せる【禍風】の本領発揮。

 藍は墓地のカードを消されただけでなく、〈ブイウシワカ〉までも破壊されてしまった。


「攻撃モンスターがいなければ、どうという事はありません」

「やっぱり、破壊してきた」

「なんですって?」


 突如口元に笑みを浮かべた藍に、凪は訝しげな表情を浮かべる。

 

「相手の消耗は大きい方が自分の勝ちに繋がる。それが場のカードやライフなら尚更……って前にツルギくんから教えて貰った事なんだけど」

「消耗がコストなら、それは相手が追い詰められるだけですよ」

「その通り。だからコストによる消耗は最大効率じゃないといけない。これもツルギくんからの受け売り」


 コストや消耗は、ただ自分の首を絞めるだけで終えてはならない。

 それを帳消しに、プラスにさえ昇華させる戦術こそ理想形である。

 リスクには払うだけのリターンが存在するか、常に考えてプレイする。それこそが勝利への最短ルートであると、ツルギは何気ない日常で藍に伝えていた。


「このファイトはウイルスのせいでダメージが実体化しちゃう……だからアナタは極力ダメージを回避すると思った。だからこの攻撃も除去で凌いで、次のターンにアタシに総攻撃でも仕掛けるつもりなんだと思った」

「この状況から何を」

「相手によって自分のモンスターが破壊された時、アタシの場にモンスターが存在しないなら、このカードは発動できる!」


 とにかく手札を増やしたのもこのため。

 必ず凪が引き金を引いてくるだろうと予測して、カードを使ってきた藍の作戦。


「魔法カード〈レイジング・スクランブル!〉を発動!」

「それは、自分の手札からモンスターを呼び出すカード」

「まずは〈レイジング・スクランブル!〉の効果でカードを1枚ドロー。その後アタシの手札から、モンスターを好きなだけ召喚する事ができる!」


 通常なら防御カードとしての運用が現実的であり、自分のターンに発動する機会は少ない。

 召喚コストも必要になるため、手札次第では1体の追撃要員を出せれば御の字とも言える。

 だが藍は賭けてきたのだ。凪が防御として自分のモンスターを破壊するという、その一点に賭けてきた。

 そして今、賭けに勝った。


「まずは1体目! 燃える炎で勝利をつかむ。熱く弾けてアタシのバディ! 〈【勝利竜(しょうりりゅう)】ブイドラ〉召喚!」


 赤い魔法陣から、藍の相棒である赤いく小さな竜が召喚される。

 口から炎をチロチロと出しながら、ブイドラはすぐさま藍の方へと振り向いた。


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2


「藍! アイツも呼ぶブイ!」

「言われなくても。2体目はこのカード! 王の名の下、白銀(しろがね)の風を起こせ。友の半身! 〈【王子竜(おうじりゅう)】シルドラ〉召喚!」


 続けて銀色の魔法陣から召喚されたのは、真波の相棒である小さな竜。

 銀色の鱗を輝かせながら、シルドラは凪の方を睨みつけた。


〈【王子竜】シルドラ〉P6000 ヒット2


「まさか同時に召喚されるなんて、思ってもみなかったブイ」

「そうだな。だが今は力を合わせるぞ、ブイドラ!」

「がってんブイ!」


 2体の竜は互いに背中を預ける。

 倒すべき相手は眼前に一人。

 特にシルドラは空港でのリベンジでもあったので、負けられないという強い意志が宿っていた。


「アタックフェイズ中の召喚なら攻撃はできる。軽減されていても、ダメージだって入る!」

「ッ……武井(ぶい)藍」


 忌々しそうに藍を睨みつける凪。

 先程の〈崩壊の風〉で手札を2枚消耗。防御カードはあるが、残りライフを鑑みれば使わずに温存した方が最善。

 なによりこの様な序盤に普遍的な防御カードを使う事は、凪のプライドが許さなかった。


「まずは〈シルドラ〉で攻撃!」

「マナミへの、そして犠牲になった者への所業! その身で償えッ! シルバーバースト!」


 シルドラの口から銀色のエネルギーが解き放たれる。

 軽減こそされているが、その一撃は確かに凪のライフに傷をつけた。


 凪:ライフ8→7


「続けて〈ブイドラ〉お願い!」

「任せるブイ! オイラもメチャクチャ怒ってんだァァァ!」


 次はブイドラが怒りに任せて炎を吐く。


 凪:ライフ7→6


「〈ブイドラ〉の【Vギア】を発動!」

「2回攻撃だァァァ!」


 一撃では終わらせない。

 その目で見てきた嘆き悲しみ、そして己の怒りを乗せてブイドラは更に炎を吐く。


 凪:ライフ6→5


 どうにか凪を初期ライフの半分まで追い詰めた藍達。

 これでライフは互角。盤面で言えば藍の方が優勢。

 もちろんその状況は凪も理解している。

 だからだろうか、凪は俯いたままブツブツと何かを呟き始めている。


「まさかこんな……こんな事に」

「嵐帝。どうしてそこまでして世界を変えたいの? ウイルスを撒いて、無関係な人達まで傷つけて。なんでそこまで――」

「こんな、こんな奴相手にィィィ!」


 藍の声など届かない。

 凪はヒステリックに叫びながら、1枚のカードを仮想モニターへと投げ込んだ。


「何故ですって? 世界は醜く汚れている。そうした人間が平気な顔をして生きている。だからそれを浄化して、私達が一から創り直すのよ。本当に幸せな世界をッ」

「ウワっ!? なんだこれ!?」

「下がれブイドラ! 只事ではない!」


 カードによる影響か、凪の周辺――場にはドス黒い闇が広がり始めていた。

 コールタールのようにドロドロのそれは、凪の墓地へと繋がkつている。


「魔法カード〈蛮神招来(ばんしんしょうらい)禍風(まがつかぜ)〉を発動。その効果で【禍風:20】を行う」


 藍の墓地から全てのカードがデッキに戻され、残りは凪の墓地から賄われる。

 20枚という凄まじい数を指定するカードの発動に、流石に藍も動じていた。


「このカードは私のライフが5以下の場合に発動できる。その効果で墓地から系統:《嵐牙》を持つモンスターを1体、召喚コストを無視して復活させる。来なさい〈【災禍(さいか)嵐神(らんしん)】ディザスター・ネルガル〉!」

「既に墓地に落ちていたか。だが疲労状態ではないか」


 凪の場に大鎌を手にした冥府の神が召喚される。

 シルドラは因縁のモンスターを前に殺気立つが、カードの効果はまだ終わらない。


「疲労状態でも問題ない。〈蛮神招来の禍風〉で召喚されたモンスターを対象として、私は〈【暗黒感染】カオスプラグイン〉を墓地から発動する!」

「馬鹿な! あのカードを墓地から発動するだと!?」

「貴女達程度の存在に使う事になるとは……誠司様、申し訳ありません」


 墓地から発動した〈カオスプラグイン〉は暴風と共に凪のデッキへと戻っていく。

 そして場に広がっていたドス黒い闇が、冥府の神を飲み込み始めた。


「闇に染まりて今こそ目覚めよ! ()が使命は世界の終焉なり!」


 モンスターをウイルス感染させると同時に、凪の身体に黒い痣が出始める。

 痣は凪に痛みと苦しみを与え、その心をも蝕んでいく。

 自分の痛みは他の選択肢を奪われた末のもの。故に痛みと苦しみを癒すには、世界を浄化して創り変える他ない。


「カオスライズ! 来なさい〈【嵐神の感染】カオスヘイトレッド・ネルガル〉!」


 ドロドロの闇の中から姿を現したのは、悍ましい獅子の怪物。

 理性無き獣の咆哮が、戦場に威圧感をもたらしてきた。


〈【嵐神の感染】カオスヘイトレッド・ネルガル〉P30000 ヒット4


「出たか、バケモノめッ!」

「パワー30000って、カーバンクルでももう少し大人しいブイ!」

「どちらにせよ、これ以上の攻撃は無駄だろう」

「ブイ……」


 苦虫を噛み潰すように悔しがるシルドラとブイドラ。

 現状、無理にダメージを与えに行こうとしても倒しきれない。それは藍自身も理解していた。

 ブロッカーはいないが、今は下手に動かない方が良いだろう。


「ターンエンド」


 そう判断して、藍は自分のターンを終えた。


 藍:ライフ5 手札3枚

 場:〈【勝利竜】ブイドラ〉〈【王子竜】シルドラ〉

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