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第二百十二話:政誠司の罪臣

 真波(まなみ)(なぎ)のファイトが開始したと同時に、小太郎と誠司(せいじ)のファイトも始まっていた。

 まずは先攻の小太郎から動きだす。


「メインフェイズ! ライフを2点支払って〈ザ・トリオメタル〉を召喚!」


 小太郎:ライフ10→8


 滲み出る怒りは隠しきれない。

 小太郎の場に召喚されたのは、小さなタンクを組み込んだ機械。

 その機会から水銀のようなものが放出されて、1体のスライム型モンスターとなった。


〈ザ・トリオメタル〉P1000 ヒット1


「召喚時効果発動。自分のデッキから〈ザ・トリオメタル〉を2体まで、召喚コストを無視して召喚する。僕はデッキに眠る2体を全て召喚!」


 そして同型のスライムモンスターが2体追加される。

 銀色の可愛らしいスライムが小太郎の場に3体並んだが、いずれもパワーは低い。

 怒りはあってもファイトは冷静に。小太郎は迷わず目当ての効果を発動した。


「〈ザ・トリオメタル〉の効果発動! 場の同名モンスターを好きな枚数破壊する事で、その数に応じた効果を発揮する。僕は2体の〈ザ・トリオメタル〉を破壊!」


 発動コストとして2体のスライムが爆散してしまう。

 だがその破片は空中で円を作るように集まり、デッキの中へと繋がるゲートと化した。


「2体破壊した時の効果。デッキから系統:《ライト》か《レフト》を持つモンスターを1枚選んで手札に加える。僕は〈レフト・シャインスパロウ〉を手札に」


 破片が作ったゲートから、目当てのカードが小太郎の手札へと入っていく。

 小太郎のデッキは【合体】を主軸にしたもの。

 その都合、場に合体不可のモンスターを残しておく意味は薄い。

 だが〈ザ・トリオメタル〉は1体だけであっても、自爆時効果を使える。


「残った〈ザ・トリオメタル〉の効果を発動。最後の1体を破壊する事で、僕はライフを3点回復する」


 小太郎:ライフ8→11


 これで最初のライフコストは帳消しどころかプラスになった。

 後はいつも通りに合体可能なモンスターを場に揃えるだけ。

 だが小太郎は妙な感覚を覚えていた。

 目の前に立つ政帝(せいてい)(まつり)誠司が口元に不気味な笑みを浮かべていたのだ。


「ライフを、回復したね?」

「カウンターの類か!?」

「反逆者には罰が必要、君の犯した罪は僕が裁く。相手がカード効果でライフを回復した事により、手札から〈【財務罪臣(ざいむざいじん)】リラドール〉の【断罪】を発動!」


 能力の発動を宣言すると、誠司の手札から突如として1体のモンスターが召喚された。

 現れたのは煌びやかな黄金や宝石で身体が構成された、人型のゴーレム。

 しかしその眼や口は生物のソレであり、必要な箇所以外を黄金に置き換えたようなモンスターであった。


〈【財務罪臣】リラドール〉P9000 ヒット2


「ライフ回復をトリガーに召喚されるモンスターか」

「【断罪】は系統:《罪臣(ざいじん)》にだけ許された能力。相手が罪を犯した瞬間に、手札から召喚コストを無視して召喚できる……無論、それだけで終わらないがね」


 場に現れた〈リラドール〉は小太郎に、生物的な目を向ける。

 そして指をピストルに見立てると、罪人に銃口を向けるように、小太郎に指先を向けてきた。


「〈リラドール〉が【断罪】で召喚された時、召喚時に相手が回復した数値だけ、相手にダメージを与える」

「回復を帳消しにする効果か!」


 向けられた黄金の指先から、〈リラドール〉はパァンと弾ける音と共に宝石の弾丸を撃ち出した。

 弾丸は小太郎を貫き、身分不相応な回復を咎めてくる。


 小太郎:ライフ11→8


「グッッッ! ガッ」


 貫かれた箇所から凄まじい痛みが発生する。

 想像以上の痛みで頭がバチバチと白く弾けるような感覚があったが、小太郎は意地で耐え抜いて誠司から目を逸らさない。


「これが噂に聞く、政帝が使う7つの切り札か」

「君程度のちっぽけな男に使うのは少々勿体無い……だけどわざわざ出迎えに来てくれた礼だ。君は僕が直接葬ってあげよう」

「ハハっ、大言壮語を使って返り討ちにされては格好もつかない。なぁ政帝よ」

「……愚民は、叶わぬ夢を見るのが常か」


 小太郎の挑発に冷め切った様子で返す誠司。

 あくまで相手は格下。あくまで相手は無謀な戦いに挑む一年生。

 誠司の目には、小太郎の行動は単なる蛮勇にしか見えていない。

 ちょっとしたトラブル。勝利という結果は決して変わらない。

 その絶対的な自信が、政誠司という男を落ち着かせている。


「いくぞ……僕は〈【中核機神(ちゅうかくきしん)】コア・アーサー〉と〈レフト・シャインスパロウ〉を召喚!」


 小太郎:ライフ8→7


 〈シャインスパロウ〉の召喚コストを支払うと、小太郎の後ろに異空間へと繋がるゲートが展開する。

 そのゲートの向こうからカタパルトの勢いを使って、1体のスーパーロボットが小太郎の場に現れた。

 さらに今回は白と黄色を基調とした鳥型ロボットも同時に現れた。


〈【中核機神】コア・アーサー〉P3000 ヒット2

〈レフト・シャインスパロウ〉P4000 ヒット2


「イィィィヤッホォォォ! 喧嘩のビートを鳴らす時間だぜェェェェェェ!」

「アーサー、相手が相手だ。気を引き締めていくぞ」

「オーケー小太郎。流石に今回の相手はヤバそうだ……隠しきれてねーんだよ。ドス黒いのがよ」


 アーサーは機械の目で誠司を睨みつける。

 否、アーサーの睨む先はその内側。誠司のデッキから溢れ出ている高濃度ウイルスの気配。


イカしてねえ(ノットロック)。なんだあ気持ち悪いもん垂れ流しやがってよぉ。墓場でゾンビにバックバンドをお願いしたのかぁ?」

「そういえば君達にはウイルスの気配がバレてしまうんだったね。これは僕達が創る新世界への方舟さ」

「ワーオ、オレ様を認識できてるのか。そりゃあそうだろうなあ……どれだけの化神を殺して作ったんだ?」

「その数字に意味はない」


 ウイルスの材料である化神について問われるも、誠司はあっさりと無感情に答える。

 化神を生命とは認識していない。あくまで自分達の為に役立つ資源に過ぎない。

 短い返答でも、アーサーや小太郎にはそれがはっきりと察する事ができた。


「小太郎ォ、オメーんとこの王様は随分と偉そうなんだな」

「恥ずかしながらな。コレが王を名乗っているのは不快だと思わないか?」

「ソイツはロックじゃねーなあ。オレ様達が責任を持ってブッ飛ばせば、少しはマシになるだろうよ!」


 話に聞くのと実際に目の当たりにするのは違う。

 アーサーには政誠司という男が、クイーンに匹敵する邪悪に見えていた。

 それは小太郎も同様。故に小太郎はカードを使う事を躊躇わない。


「魔法カード〈オイルチャージ〉を発動。カードを2枚ドローする」


 小太郎:手札2枚→4枚


 先攻1ターン目は攻撃ができない。

 ならばまず、手札を補充して次のターンに備える。

 アーサーを合体させるのはそれからだ……しかし小太郎は甘く見ていた。

 政誠司の【断罪】は、何もライフ回復だけが引き金ではないと。


「相手がカード効果で手札を増やした事により、手札から〈【計算罪臣(けいさんざいじん)】オールブレイン〉の【断罪】を発動」

「まだ手札に抱えていたのかッ」


 誠司の場に、2体目の罪臣が召喚される。

 まず目につくのは、培養液に満たされたカプセルの中に浮かぶ大きな脳。

 そのカプセルを中核に据えるように、蜘蛛のような脚を展開した巨大なメカが現れた。


〈【計算罪臣】オールブレイン〉P8000 ヒット1


「〈オールブレイン〉の【断罪】によって僕は1枚ドロー。そして君はドローした枚数分の手札を捨てなければならない」

「またアドバンテージを帳消しにする能力か」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、小太郎は自分の手札を2枚選んで墓地へと送る。

 せめてもの抵抗として、小太郎は墓地からも効果発動が可能な《四葉(よつば)》の魔法カードを含めておく。


「ならコレはどうだ! 〈ライト・シャドウウルフ〉を召喚」


 残り少ない手札から、小太郎は更なる合体要員を呼び出す。

 召喚されたのは、紫色のボディが特徴的なオオカミ型のロボットであった。

 これで合体可能な3体が揃った。


「僕は〈コア・アーサー〉〈シャインスパロウ〉〈シャドウウルフ〉の3体で【合体】ッ!」

「スタートダッシュは派手に決めるぜェェェ!」


 アーサーが中核となり、鳥型ロボットが背中と胸部、両腕として合体する。

 そしてオオカミ型ロボットは両足へと分割、変形して合体した。


「オレ様完成ッ! 〈【合体機神(がったいきしん)】デルタ・アーサー〉見参だァァァ!」


〈【合体機神】デルタ・アーサー〉P15000 ヒット4


 ファイトステージを鳴らしながら、〈デルタ・アーサー〉は意気揚々と着地する。

 とはいえ先攻なのでまだ攻撃はできない。


「ターンエンドだ」


 財前:ライフ7 手札1枚

 場:〈【合体機神】デルタ・アーサー〉(構成内容〈レフト・シャインスパロウ〉+〈【中核機神】コア・アーサー〉+〈ライト・シャドウウルフ〉)


 最初の1ターン目としては悪くない盤面。

 ある程度の除去耐性もある大型モンスターは、味方ならば心強く、敵ならば厄介な事この上ない。

 そんな誰でも知っている定石でさえ、政誠司という男には通用している様子はなかった。


「僕のターンだね」


 まるで脅威など欠片も存在しないと言わんばかりに、誠司は落ち着いて自分のターンを始める。

 現状、誠司のモンスターでは合体したアーサーを突破できるパワーがない。

 小太郎は序列第1位の底知れなさに胃を冷たくしていた。


「メインフェイズ。魔法カード〈冤罪給付金(えんざいきゅうふきん)〉を発動。僕はカード1枚ドローし、相手は任意でカードを2枚ドローできる」

「相手にドローをさせる魔法だと?」

「さぁ、ドローしたいなら好きにしなさい」


 間違いなくなにかを企んでいる。

 とはいえ現状手札が1枚しかない小太郎は、2枚のドローを選んだ。

 手札が3枚になるが、案の定誠司の魔法カードには、まだ効果の続きがあった。


「ドローした後、相手の手札を全て確認する。僕はその中からカードを1枚選んで……そのカードのコストを無視して強制的に使わせる」

「なんだその効果は。除去札を使わせたとしても、対象を選ぶのは僕じゃないか」

「さぁ、手札を見せたまえ」


 小太郎は誠司に自分の手札を公開する。

 仮想モニターでテキストを確認するが、〈冤罪給付金〉によるカード時のコストは、進化条件を除いて全て消えてしまう。

 どう見ても相手に与えるメリットの方が大きすぎるカード。

 だが誠司はあくまで勝つ為にカードを使っている。


「ふむ……〈斬撃歯車!〉を選ぼう」

「そうか。だったらお望み通り発動してやろう! 〈斬撃歯車!〉の効果で相手モンスターを1体破壊する! 〈【財務罪臣】リラドール〉を破壊!」


 小太郎は魔法効果で現れた巨大歯車を〈リラドール〉に向けて投擲する。

 黄金と宝玉で構成されたゴーレムは呆気なく胴体を両断されて破壊されてしまう……しかしその破壊すら誠司の手の平の上に過ぎない。


「相手によって自分のモンスターが破壊された事で、手札から〈【鎧武罪臣(がいむざいじん)】オニマル〉の【断罪】を発動」

「なるほど、冤罪とはそういう事か」

「罪には罰を。為政者の基本だ」


 召喚されたのは3体目の罪臣。

 魔法陣を刀で斬り捨てて、フィールドへと出現する。

 燻んだ赤色の鎧に身を包んだ、仮面で表情すら見えない鎧武者が、手にした刀の切先を小太郎に向けていた。


〈【鎧武罪臣】オニマル〉P9000 ヒット3


「〈オニマル〉の【断罪】によって、発動時に破壊された〈リラドール〉は僕の手札に戻る。そして手札に戻したモンスターにヒット分のダメージを相手に与える」


 鎧武者が刀を構え、勢いよく振り下ろす。

 〈リラドール〉のヒットは2。

 よって〈オニマル〉が飛ばした斬撃が小太郎のライフを2点奪い去る。


「ぐあァッ!」

「小太郎ッ!?」


 財前:ライフ7→5


 たった2点のダメージであっても、受ければ身体に痛みが走る。

 小太郎は腕や足から少し血を流すも、ファイトステージに立ち続ける。


「そして手札に加えた〈リラドール〉を再召喚。今度は正規のライフコストを払うよ」


 誠司:ライフ10→8


 再び誠司の場に黄金と宝玉が混ざったゴーレムが召喚される。

 これによって誠司の場には3体のSRモンスターが並んだ。

 しかしまだ〈デルタ・アーサー〉を突破できる程のパワーはない。

 まだ大丈夫……小太郎にそんな考えが過った瞬間。


「君には特別に見せてあげよう。僕達が創る新世界への方舟を」


 そう言って誠司は自分の手札から〈【暗黒感染】カオスプラグイン〉を見せてきた。

 数々の事件を起こしてきたウイルスカード。

 そして先程隣から聞こえてきたオリジナルという言葉。

 小太郎は誠司があのカードを使って、場のモンスターを強化してくると考えていた。


「アーサー、くる――」

「違ぇ」

「なに?」

「あのカードじゃねえ。気持ち悪い気配を出してるのはアレじゃねえッ!」


 小太郎はアーサーの言葉に驚いた。

 誠司が手に持っている〈カオスプラグイン〉は間違いなく件のウイルスカード。

 だがアーサーが感じていたソレとは違うという。

 そんな二人を前にして、誠司は不気味な笑みを浮かべていた。


「僕が使うのは方舟。オリジナルを超えた完成品」

「なにをする気だ」

「こういう事さ。僕は手札から系統:《感染》を持つ魔法カード〈【暗黒感染】カオスプラグイン〉をコストで除外!」


 空間に裂け目が現れる。

 誠司が手札のウイルスカードをその裂け目に投げ捨てた瞬間、何かがフィールドに充満し始めた。

 それはウイルスカードを使った際に発生する黒い霧のようにも見える。

 だが決定的に何かが違う。黒いソレは誠司の背後へと猛スピードで集まり、一つの巨大な紋様を描き出した。


「このカードは発動コストを支払う事で、ゲーム外部から直接発動される。そして発動後、永続的にその効果を発動し続ける」

「永遠に効果を発揮する魔法カードだとッ!?」

「オイオイオイ、そんなカードありかよ」


 誠司の背後で紋様が完成し、同時に誠司の目が赤く染まる。

 これが政誠司の言う方舟。オリジナルを超える完成したウイルスカード。


「これが完成した究極のウイルス〈【終焉の感染】ザ・マスターカオス〉だ」


 禍々しさは視覚ではなく本能で感じる。

 その邪悪さを前にして、小太郎の本能が激しく警鐘を鳴らしていた。

 あのカードは不味い、アレは危険過ぎると。

 アーサーも同様に、目の前に現れた究極のウイルスを前に危機感を覚えていた。


「さぁ終わりを始めよう。〈【終焉の感染】ザ・マスターカオス〉の効果発動。僕の場のモンスターを全て感染させる!」

「バカなッ、全てだと!?」

「〈【財務罪臣】リラドール〉〈【計算罪臣】オールブレイン〉〈【鎧武罪臣】オニマル〉。僕は3体のモンスターを墓地へ送る」


 誠司の背後に浮かぶ紋様が、3体の罪臣に邪悪なエネルギーを送り込む。

 3体の罪臣はドス黒い闇に包み込まれて、その存在を書き換えら始めた。


「オール、カオスライズ」


 そして闇が砕け散った瞬間、3体の罪臣は更に禍々しい姿へと変化して現れた。

 黄金も宝石も、獣の骨も毛皮も、金も生命も全て貪ったような()()な身体を持つゴーレム。

 機械は更に巨大なものと化し、培養カプセルの中に浮かぶ脳は限界まで肥大化してもなお、あらゆる知識を喰らいつくそうとする()()の権化。

 そして地獄の業火をその身に点火されようとも、鬼と化して戦い、無辜の生命すら()()せん悍ましき鎧武者。

 何も凄まじい変化を遂げ、そのステータスも尋常ではなかった。


〈【財務感染罪臣】グリード・リラドール〉P13000 ヒット3

〈【計算感染罪臣】エンヴィ・ブレイン〉12000 ヒット2

〈【鎧武感染罪臣】グラトニ・オニマル〉P13000 ヒット3


「なんだ、これは」

「ウソだろオイ、こんな簡単に並んでイイようなデカブツ共じゃねーだろ」

「まずは軽く遊んでおこう。アタックフェイズ。〈グラトニ・オニマル〉で〈デルタ・アーサー〉を指定アタック」


 巨体から炎が噴き出ている鬼武者は、両手に握った刀を振り上げて〈デルタ・アーサー〉に攻撃を仕掛ける。


「大丈夫だ、まだオレ様の方がパワーは高ぇ!」

「〈グラトニ・オニマル〉の効果を発動。相手モンスターとの戦闘中、パワーを+4000する」


〈【鎧武感染罪臣】グラトニ・オニマル〉P13000→P17000


 急激にパワーが上昇し、〈デルタ・アーサー〉のパワーを上回った〈グラトニ・オニマル〉。

 どうにか二振りの刃を鋼鉄の腕で受け止めるが、容易に断ち切られそうになってしまう。


「〈レフト・シャインスパロウ〉を身代わりにして、〈アーサー〉の破壊を無効にする!」

「クソったれ!」


 舌打ちをしながら合体を解除するアーサー。

 上半身に合体していた鳥型ロボットが身代わりとなって爆散し墓地へと送られる。

 だがここまでは小太郎の想定内。


「墓地へ送られた〈シャインスパロウ〉の効果発動! 直前まで合体状態だったなら、カードを2枚ドローする」


 手札を補充しなければ危ない。

 小太郎はドローしたカードを確認して、ひとまずの安心を覚える。


「続けて〈グリード・リラドール〉で攻撃」


 混沌とした外見のゴーレムが、獣のような咆哮を上げて襲いかかってくる。

 小太郎の残りライフは半分を切っている以上、不用意なダメージは絶対に受けられない。


「魔法カード〈シェルターウォール〉を発動! アタックフェイズを強制終了させる!」


 魔法効果で防御壁を展開し、誠司の攻撃を強制終了させる小太郎。

 だが誠司は決して動揺しない。悔しそうな様子もない。

 ただ余裕を保ったまま、相手の抵抗を楽しんですらいる。


「攻撃できないなら仕方がない。ターンエンドだよ」


 誠司:ライフ8 手札2枚

 場:〈【財務感染罪臣】グリード・リラドール〉〈【計算感染罪臣】エンヴィ・ブレイン〉〈【鎧武感染罪臣】グラトニ・オニマル〉

 発動中:〈【終焉の感染】ザ・マスターカオス〉


 どうにか乗り切った小太郎だが、その心臓は激しく音を立てている。

 学園最強のサモンファイター。六帝(りくてい)評議会の序列第1位。

 その実力の一端に触れただけで、頭の中で余裕が削り取られていた。


(これが、序列第1位……【政帝】政誠司のファイト)


 恐ろしさはある。

 勝ち目の薄い格上だという事も理解している。

 それでも小太郎には、このファイトをする理由があった。


(逃げる……なんてできる訳がないッ! 例え負けても、必ずッ!)


 仕込みは完了してある。ならば後はこのファイトを続けるのみ。

 小太郎は身体を走る痛みと、流れる血の気持ち悪さを堪えながらターンを開始した。

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