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第二百十話:禍風VS銀嶺王竜

 六帝(りくてい)評議会序列第6位、九頭竜(くずりゅう)真波(まなみ)

 高等部1年生としては異例の速度で評議会へ名を連ねた彼女にとって、上級生の帝王達は純粋に敬意を持っていた。

 だからこそ、かつての真波には今こうして戦う事になるとは想像もできなかっただろう。


「ボクのターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 高等部に進級してから、視野が広がってしまった。

 ただ漠然とした帝王の義務感ではなく、明確に守りたいと思える人達ができた。

 大きな意味などなく、ただ目の前の相手に勝つのではない。

 今の真波には、自分の親友を泣かせた者を討つという目的があった。


「〈シーカーナイト〉を召喚」


 まず真波の場に召喚されたのは、探索者のようなゴーグルを額に着けた騎士。

 真波は迷わずその効果を発動する。


〈シーカーナイト〉P3000 ヒット1


「〈シーカーナイト〉の召喚時効果。デッキから系統:《輝士(きし)》を持つモンスターを1体選んで手札に加える」


 真波はデッキから〈シルバーナイト〉というカードを公開して、自分の手札に加える。

 そしてすぐさま、手札に加えたカードを仮想モニターへと投げ込んだ。


「ライフを2点支払って〈シルバーナイト〉を召喚!」


 続いて召喚されたのは、竜の意匠が特徴的な白銀の鎧に身を包んだ騎士。

 どこかシルドラのような雰囲気もある、真波の新たなモンスター。


 真波:ライフ10→8

〈シルバーナイト〉P6000 ヒット2


「ターンエンド」


 真波:ライフ8 手札4枚

 場:〈シーカーナイト〉〈シルバーナイト〉


 まずは2体の騎士で場を固める真波。

 比較的場持ちの良いモンスターを出したとはいえ、相手は仮にも序列第2位。


(たとえ一瞬であっても、油断はできない)


 評議会に選ばれる者のファイト記録は、生徒であれば容易に閲覧ができる。

 そうで無くとも学園に籍を置いているなら、評議会メンバーの試合を見る機会は何度もある。

 かつて見た風祭(かざまつり)(なぎ)のファイト……その実力を断片でも知っているからこそ、真波の中で緊迫する気持ちは途絶えない。


「手早く済ませましょう。私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 凪:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。来なさい〈ゲイル・オ・ウィスプ〉」


 淡々とした様子の凪。

 彼女の場に召喚されたのは、緑色のエネルギーが集まってできた可愛らしいモンスターであった。

 風を想起させるエネルギーの流れが見える、不思議な人魂オバケ。


〈ゲイル・オ・ウィスプ〉P4000 ヒット1


「召喚時効果発動。私のデッキを上から5枚破棄します」

「っ! 嵐帝の黄金初動パターン」

「そうですね、ここから始まって……貴女が負けるんです。私はデッキから墓地に送られた〈ガスト・オ・ランタン〉の効果を発動。私の場に系統:《嵐牙(らんが)》を持つモンスターが存在するなら、墓地から召喚されます」


 そして墓地から凪の場に直接現れたのは、大きな穴あきカボチャから風が噴き出ているオバケ。

 まずは墓地を溜め込む、それが凪の基本戦術であった。


〈ガスト・オ・ランタン〉P1000 ヒット1


「自身の効果で〈ガスト・オ・ランタン〉が召喚されたので、私はカードを1枚ドローします」


 凪はドローしたカードを確認しても、表情一つ変化させない。

 まるで目の前にいる後輩など相手とすら認識していないかの様に、ただ淡々と作業のようにカードを使っていくのみ。


「手札を1枚捨てて魔法カード〈崩壊の風〉を発動。私は自分のデッキを上から10枚破棄します」

「自分で10枚も破棄するなんて……」

「ただしこのカードを発動するターン、私は系統:《嵐牙》を持たないカードを使えません。ですが貴女相手なら大した問題でもないでしょう」


 魔法効果で凪のデッキが破壊された次の瞬間、フィールドに風が吹き始めた。

 序列第2位、嵐帝の起こす風は禍いを引き起こす。


「〈崩壊の風〉の効果【禍風(まがつかぜ):4】を発動。墓地からカードを4枚選んでデッキに戻す事で、追加効果を発動」


 風は凪の墓地からカードを4枚巻き上げて、デッキへと戻しシャッフルさせる。

 系統:《嵐牙》が持つ専用能力【禍風】。

 墓地から指定された枚数のカードをデッキに戻す事で、その能力を発動する。


「ヒット2以下の相手モンスターを1体破壊します。〈シルバーナイト〉を選択」


 風は黒く染まり、禍いと化して〈シルバーナイト〉に襲いかかる。

 しかし真波も簡単にはモンスターを倒させない。


「〈シルバーナイト〉の【ライフガード】を発動! 破壊を無効にして場に残す」

「あら、珍しいですね。進化モンスターでもないのに【ライフガード】を持っているとは」

「格上相手に呑気なファイトをするほど、ボクも日和ってない」

「そうですか。では仮にも相手は序列第6位の竜帝……私もそれなりの対応をさせていただきましょう」


 そう言うと凪は1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。

 同時に、場に存在した〈ゲイル・オ・ウィスプ〉と〈ガスト・オ・ランタン〉が召喚コストでデッキへと戻ってしまう。

 さらに凄まじい風が吹き荒れて、凪の墓地からカードを10枚デッキへと戻していった。


「死よ、争いよ、(やまい)よ。黒き嵐に乗りて災禍(さいか)の神を降ろしたまえ」


 コストが支払われた事で、凪の場に漆黒の暴風が吹き荒れる。

 あらゆる禍い、生命を蝕む邪悪な神が、暴風を引き裂いてその姿を現した。


「〈【災禍(さいか)嵐神(らんしん)】ディザスター・ネルガル〉召喚」


 戦場に降臨したのは、青と金の差し色が特徴的な黒い装束の人型モンスター。

 髑髏のような口元が見えており、その手には巨大な鎌を持つ冥府の神であった。


〈【災禍の嵐神】ディザスター・ネルガル〉P15000 ヒット2


「アレが、嵐帝の切り札……」

「私達も暇ではないので、早々に片付けるためにも使わせていただきます。続けて2体目の〈ゲイル・オ・ウィスプ〉を召喚」


 再び召喚時効果で、凪は自分のデッキを5枚破棄する。

 ファイトそのものに感情など乗せない。

 風祭凪という人間にとって、これはちょっとした面倒事としか認識できていなかった。


「アタックフェイズ。〈ゲイル・オ・ウィスプ〉で攻撃します」


 緑色のエネルギー体が突進を仕掛ける。

 攻撃を受けてもダメージは1点のみ。

 とはいえ今は相手モンスターの数を減らすべきだと、真波は判断した。


「〈シルバーナイト〉でブロック!」


 白銀の騎士が剣を振り下ろすと、緑色のエネルギー体は呆気なく両断されてしまう。

 パンッと弾けて破壊されてしまうが、ここまで凪の想定内。


「破壊された〈ゲイル・オ・ウィスプ〉の効果。私のデッキを上から5枚破棄します」

「っ! 破壊時にも発動する効果だった」


 凪の墓地にカードが溜まってしまい、真波は苦々しい表情を浮かべてしまう。

 だがこれで凪の攻撃が終わるわけではない。


「続けて〈ディザスター・ネルガル〉で攻撃。攻撃時に【禍風:5】を発動。〈ディザスター・ネルガル〉のヒットを+1します」


〈【災禍の嵐神】ディザスター・ネルガル〉ヒット2→3


 ヒット3の攻撃を迂闊に受ける訳にはいかない。

 かといって今の手札では除去もできないので、真波はモンスターを犠牲にする事にした。


「〈シーカーナイト〉でブロック」


 冥府の神が振り下ろした大鎌が、騎士の身体を斬り裂く。

 無惨にモンスターを破壊されてしまったが、まずはライフを守り切れた。

 しかし真波には、この後に凪がする行動が予測できている。


「〈ディザスター・ネルガル〉2回攻撃」


 再び大鎌を振り上げる冥府の神。

 真波の場にはブロック可能なモンスターが残っていない。


「ライフで受ける」


 手札を切る場面ではない。

 そう判断した真波は、振り下ろされる大鎌をその身で受け止める。

 まだウイルスカードは使われていない。であれば現実のダメージは発生しない……そう考えていた真波だったが。


「ッッッ!」


 真波:ライフ8→5


 今までのウイルス戦と同等の痛みが、真波の身体を走り抜けた。

 否、これは今まで以上の痛み。

 予想外の出来事に、真波は僅かに動揺する。


「私はこれでターンエンドです」


 凪:ライフ10 手札3枚

 場:〈【災禍の嵐神】ディザスター・ネルガル〉


「な、なんで……まだウイルスを使ってないはず」

「量産品と同じだと思ったのですか? 私達が使っているのはウイルスのオリジナルですよ」

「オリジナル……発動前からファイトに影響を与えるなんて」


 痛む身体を耐えながら、真波は凪に視線を突き刺す。

 相手を負傷させようとも一切気にする様子はない。

 あくまで凪は真波という愚か者を見下すように、冷めた目で見ていた。


「なんで、そこまで固執するんですか」

「理想への固執は、人間の基礎です」

「違う! ボクが聞きたいのは、何故そこまでして政帝(せいてい)に付き従うんですか!」


 誠司(せいじ)の事に触れられた瞬間、凪の落ち着きが僅かに崩れた。

 冷たい目はさらに氷点下を突き抜け、同時に怒りが宿る。


「あの人が何をしたか分かりますよね! 犠牲者がもう出ているんですよ! なのに何故――」

「汚れの一つも知らない生娘(きむすめ)が、綺麗事だけ口にしないでもらいましょうか」


 声は冷たい、だがその身から放たれる怒りの熱は凄まじい。

 今までの淡々とした様子から一転、凪は明確な敵意を真波に向けている。


「綺麗で恵まれた環境しか知らない貴女に、私達の味わった苦しみの何が分かるんですか」

「その苦しみを理由にして、貴女達は無関係な人をどれだけ苦しめてきたんですか」

「無関係? 次の世界に不要なモノを剪定しただけですよ。人を人とも思わないゴミを処分しているだけです」


 何も変わらない。

 風祭凪という人間の言葉は、先程の政誠司と何も変わらない。

 言い回しが異なるだけで、真波には彼女が根底から歪んでいるようにしか見えなかった。


「やっぱり貴女は、ここで倒さないといけない」

「何も知らない1年生が、生き急ぎたいのですか」

「守るべき人達を犠牲にして、自分達のために利用する王なんて……必要ない」


 だからここで討つ。

 ここで止めなければ、さらなる被害が出てしまう。


「ボクのターン!」


 痛みを忘れる程に心を震わせて、真波はカードをドローする。

 手札に来たカードは、真波が最も信頼を置く相棒。


『我を出せ、マナミ!』

「うん。王の名の下、白銀(しろがね)の風を起こせ。ボクの半身! 〈【王子竜(おうじりゅう)】シルドラ〉召喚!」


 真波の場に銀色の鱗を輝かせる、小さなドラゴンが召喚される。

 シルドラの目には、確実に敵を葬るという強い意志が宿っていた。


〈【王子竜】シルドラ〉P6000 ヒット2


「どうせ貴様は我らを認識できているのだろう? ならば此方も遠慮なく言葉を使ってやろう。下種共よ」

「不完全な分際でよく喋りますね。人間がいなければ存在すら危ういというのに」

「貴様ら程度に堕ちるのであれば、我は不完全なままで一向に構わん」


 バッサリと言い切るシルドラ。

 自らも王を名乗るモンスターである事、そして数え切れない化神や人間を犠牲にしてきた相手を前にして、もはや情けなど欠片も存在はしなかった。


「マナミ、勝ちにいくぞ」

「言われなくてもそのつもり。ボクは〈ヒーリングナイト〉を召喚」


 シルドラに続いて召喚されたのは、看護師のような衣装に身を包んだ女騎士。


〈ヒーリングナイト〉P4000 ヒット1


「〈ヒーリングナイト〉の【ロードストライク】を発動。召喚時にボクの場に存在する系統:《輝士》を持つモンスターのヒットを合計した数値だけライフを回復する」


 現在真波の場にはヒット1の〈ヒーリングナイト〉と、ヒット2の〈シルバーナイト〉が存在する。

 よって合計3点の回復となった。


 真波:ライフ5→8


「続けて魔法カード〈キングダムドロー〉を発動。デッキを上から3枚オープンして、その中から系統:《王竜》または《輝士》を持つカードがあれば全て手札に加える」


 オープンしたカード:〈キングダムウォール!〉〈【輝士団長(きしだんちょう)】エグゼキューター〉〈キングオーラ!〉


「全て手札に!」

「マナミ、まずは奴を呼べ!」

「そのつもり。ボクは系統:《輝士》を持つモンスター、〈ヒーリングナイト〉を進化!」


 看護師のような騎士は、巨大な魔法陣へと飲み込まれていく。

 魔法陣はシルドラと同じく銀色に輝き、主に仕える勇猛な騎士の姿を織り出していった。


「王の命を受け今こそ参上せよ。汝は輝く騎士達の頂点なり! 来たれ〈【輝士団長】エグゼキューター〉!」


 何者も寄せ付けぬ輝き。

 王を守る使命をその身で体現するような雄々しき鎧騎士。

 全ての輝士の頂点に立つ団長が、真波の場に参上した。


〈【輝士団長】エグゼキューター〉P12000 ヒット2


「〈エグゼキューター〉の効果発動。1ターンに1度、自分のデッキを上から2枚破棄する。その後、墓地から系統:《王竜》または《輝士》を持つモンスターカードを1枚選んで手札に加える」


 真波は墓地に送られたカードを確認するや、迷わず1枚のカードを手札に加える。


「ボクが手札に加えるカードは……〈【銀嶺王竜(ぎんれいおうりゅう)】シルバリオン・ドラゴン〉」

「そちらが本命のようですね」

「さらに〈エグゼキューター〉の【ロードストライク】を発動! このターンの間、相手モンスターのパワーを−3000する」


 背負っていた大剣を引き抜くと、〈エグゼキューター〉は勢いよく振り下ろす。

 そして発生した衝撃波が、凪の〈ディザスター・ネルガル〉のパワーを削ぎ落とした。


〈【災禍の嵐神】ディザスター・ネルガル〉P15000→12000


 相手の切り札がパワーダウンした事で下準備が完了。

 真波は手にした切り札に視線を落とす。

 死んだ両親がシルドラと共に残したカードであり、真波の最後の切り札。


「シルドラ……いくよ」

「任せろマナミ。我も本気で討ち取りにいく!」

「進化条件は、系統:《王竜》を持つモンスターであること! ボクは〈【王子竜】シルドラ〉を進化!」


 白銀に輝く巨大な魔法陣が、シルドラを包み込んでいく。

 放たれる光の粒は氷雪のように煌めき、銀の輝きが吹雪の如く荒れ狂う。

 その中でシルドラは猛スピードで進化を始めていた。


「凍てつく白銀(しろがね)よ、今こそ竜の元に集いて戴冠せよ! 我らは真の王竜なり! 〈【銀嶺王竜】シルバリオン・ドラゴン〉召喚!」


 魔法陣から巨大な氷柱が出現する。

 それを内側から砕いて、そのドラゴンは姿を現した。


「喜べ雑種。我にこの姿を晒させた事を地獄で喧伝するといい!」


 それは雄々しくも気高き竜の王。

 それは白銀の翼を広げた、強く高貴な王。

 そしてそれは、小さき竜の時代を忘れてしまいそうな程に、美しき銀の竜であった。


〈【銀嶺王竜】シルバリオン・ドラゴン〉P14000 ヒット3

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