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第二百五話:ソラの目標

 無事に最初のファイトを終えたので、俺は車両(カート)から降りて待機エリアへと戻る。

 ゴーカートで9人撃破したので、とりあえず27ポイントは獲得できた。

 連戦と行きたいところだけど、流石にそれをやったら対戦相手が居なくなるのが目に見えている。


「ただいまー」


 とりあえずソラの元へと戻ってきたが、どうにも周囲が静かで不気味だ。


「なぁソラ。なんか静かじゃね?」

「言葉を失ってるだけですよ……」

「あぁ、やっぱりそうなった?」


 困ったような表情を浮かべて言ってくるソラに、俺も想定していた反応があった事を察した。

 俺が今使える最強の【カーバンクル】デッキ。その切り札を披露したわけだから、流石に俺でも周囲の反応は予想できた。


「ツルギくん、あれがツルギくんの本気なんですか?」

「100%かって聞かれたら、90%くらいの本気度。理想的な動きをしたらもっと一方的になる」


 今のこの世界では想像もできないようなパワーと攻撃性能。

 普通の人間だったら心が折れて、戦意を喪失しても不思議じゃないかもしれない。

 だけど、あの(まつり)誠司(せいじ)に勝つには……これ以上のパワーを出さないと勝てない。

 それを知っているからこそ、解禁に踏み切ったというのもある。


「あれで100%じゃないんですか」

「一応。運が良ければできるくらいの挙動だけどさ」


 ただのオーバーキル。

 それにしかならないから、JMSなんかでも使うのは控えていた。

 よく周りから俺のファイトは「地獄絵図」だとか言われるけど……コレに関しては俺でさえ「地獄絵図」を認めざるを得ないんだ。


「……やっぱり、強いなぁ」


 ボソッと呟くソラ。

 周囲にいる他の奴らの反応は見なくても分かる。

 恐れとかの類で間違いないだろう。


「よしっ! ツルギくん」


 何やら気合いを入れたソラが、俺を呼んでくる。

 俺には彼女の目が少し不思議に思えた。

 恐れはない。拒絶もない。何か悪意の類もない。

 ただ純粋に先を目指そうとしているような、何かを楽しもうとしているような目だった。


「私、次行きます!」

「えっ、いってらっしゃい」

「私も頑張りますから……ちゃんと見ていてくださいね」


 振り返りざまにそう言ってきたソラは、本当に綺麗な笑顔を浮かべていた。

 その理由はわからないけど、ソラが恐れを向けてこなかった事に俺はどこか強い安心を覚えていた。

 数分後。第二のファイトが始まり、10台の車両が発進した。


『私のターン! スタートフェイズ』


 俺は待機エリアのモニターでファイトの様子を見届ける。

 元々ソラのデッキは、前の世界でも強いデッキだった【聖天使】。

 プレイングスキルさえ上げれば、いくらでも強くなれる余地はあるんだ。

 だから……俺は別に特別な事なんて、もう何もしていない。


「あら、彼女も中々の実力を持っているようね」

「ん。なんだ連戦はしなかったのか」


 後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには先程まで俺と戦っていた鳳凰院(ほうおういん)姉妹の姉、茉莉花(まりか)がいた。

 よく見ると隣には一人だけメイド服で浮いている鈴音(すずね)もいる。


「あのファイトの後ですわよ。流石にクールタイムは欲しいわ」

「すずもメンタルを回復したいデス」

「そっか。やり過ぎたか」

「心配無用よ天川(てんかわ)ツルギ。この程度で折れる程、ワタシも鈴音も弱くはないわ」


 惨敗した後だというのに、堂々としている茉莉花。

 そうだよな、お前はそういう性格だもんな。

 心の中までは読めなくても、壊れずに済んだなら良かった。


『天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる! 来てください〈【天翼神(てんよくしん)】エオストーレ〉!』


 気づけばソラがエースモンスターを召喚していた。

 今ではすっかり見慣れたロップイヤーの生えた、純白の大天使。

 アイツも化神なんだよな。早く目覚めてソラを守ってやって欲しいもんだよ。


『続けて、召喚コストで手札を1枚捨てます。白銀(しろがね)の翼。星座の海を駆け抜けて、新たな神話を紡ぎ出す! 一緒に戦ってください〈【星海天馬(せいかいてんま)】コズミック・ペガサス〉!』


 続けて召喚されたのは、白銀の輝きを身に宿した美しい天馬(ペガサス)

 夏休みの終わり際にソラが入手した、新しいSRカードだ。

 さっきのファイトで茉莉花がやっていたとはいえ、流石に1ターンで2枚のSRモンスターを出したとなったら、周囲も騒がしさを取り戻している。


赤翼(あかばね)ソラ。合宿の最終試練を4番目に突破したと聞いていたけれど。どうやら想像以上のようね」

「いきなりSRモンスターを2体。お姉様以外でやる人初めて見たデス」

「ソラは強いぞ。努力家だからな」


 ソラの実力を間近で見た鳳凰院姉妹に、思わず後方腕組み面で言ってしまう。

 こういう事を言えるのも、チームメイトの特権です。


「貴方がそう言うという事は、実力は確かなのでしょうね……ひょっとして、仕掛け人も貴方なのかしら?」

「仕掛け人?」

「言葉の通り。先程の彼女の目、まるで師を追い越そうとする弟子のようだったわ。師とまでは言わなくとも、何かを仕込んだ事はあるんじゃないのかしら?」

「まぁ、中学の頃に少しだけ」


 俺としては本当に少しの事しかしてない。

 だから大それた事を言われるのも違和感がある。


「でもさ、俺は切っ掛けに関わっただけで、そこから先は全部ソラ自身の努力なんだ。俺は何もしてない」

「謙遜する人ですわね。小さな恩がここまで尾を引く事なんてないでしょう」

「たまたまだよ。縁があって友達になれただけだ」

「なるほど。九頭竜(くずりゅう)真波(まなみ)の件もそう、貴方は元から他人を放っておけない性格のようね」


 勝手に納得をして頷く茉莉花。

 こうして言葉にされると、むず痒さとモヤモヤを感じてしまう。


「俺は欲張りなだけで善人じゃない」

「欲が無ければ人の上には立てませんわ。特に玉座はそう」


 その玉座についた汚れを落とすために、今頑張ってるんだよな。

 これだって結局は俺の個人的な欲に尽きる。

 欲を張って手を伸ばして、もう取りこぼしまで出てしまった。


「お姉様、もっと言うべき事があるデス」


 突然、鈴音が割り込むようにそう言ってきた。


「あの子の目は師を見るソレ以外にも明らかに混ざっていたデス。この男はきっと既に何人も女を泣かせているデス」

「それもそうね。九頭竜真波の一件だけで終わる器ではなさそうですし、きっと今までにも色々と人間の心を掌握するような行動を――」

「急に風評被害をぶつけるのやめてくれないか?」


 なんで急に俺が女たらしだとか、人たらしみたいな話になってんだよ。

 心当たりなんて……少ししかないぞ。


『これで終わりです! 〈エオストーレ〉で攻撃!』


 なんてやり取りをしている内に、ソラのファイトが終了した。

 敗北した車両から戻ってきて、最後にソラが乗っていた車両が戻ってくる。

 というかモニターをよく見たら、ソラ1人で7人も倒してるじゃんか。


「ツルギくん、見てくれましたか?」

「当然。派手に勝てたじゃんか」

「えへへ」


 パタパタと駆け寄ってきたソラを褒めると、彼女ははにかむような笑みを浮かべる。

 本当にソラも強くなったよな。


「フフっ。本戦が楽しみになってきたわ」

「次は本戦でやってやるデス! 首を洗っているデスよ!」

「さぁ鈴音。ワタシ達もウカウカしていられないわ! 次のアトラクションへと向かうわよ!」

「はいデス!」


 そう言い残して鳳凰院姉妹はゴーカートエリアを去っていく。

 同時に俺は、2人が言った本戦でのリベンジに応えられない可能性があるという事実に、罪悪感を抱いていた。

 運良く1日目に当たれば別だけど……不確定だからな。


「ツルギくんはどうしますか?」

「俺はもう一回ゴーカートで――」


 そう言った瞬間、次のファイトに参加しようとしていた奴らが、全員車両から飛んで降りていた。

 もう待機エリアでは押し付け合いすら始まっている。


「……他のアトラクションに行くか」

「そ、そうですね」


 まとめて狩るよりも、地道にやっていこう。

 せっかくなんだから、他のアトラクションのギミックも楽しみたいし。

 ソラも他のアトラクションに行くつもりだったらしく、俺は一緒にゴーカートエリアを後にするのだった。


「始まってから1時間くらいか。ぼちぼち他のアトラクションへ移動する奴も増えてきてるだろうな」

「いかにもな大人の人も増えてきましたね」


 そう言って軽く周辺に視線を向けてみるソラ。

 確かに分かりやすくスーツ姿の大人があちこちにいる。

 スカウトの皆様も色んなアトラクションを見て回っているらしい。


「ツルギくんが本気を出した時、すごかったんですよ。スカウトの人達がタブレットとモニターを交互に見ていて」

「珍しい事したからな。ちょっとビックリはさせたかもしれない」

「ちょっとどころじゃないですよ。ツルギくんの強さに対する認識が更新されるくらいですよ! スカウトの人達はもっとビックリしてたはずですよ!」


 ソラが力説するって事は、その通りなんだろう。

 でも今回に関しては副産物でしかないし、あくまでメインはこの後の戦いだからな。

 とりあえず今は本戦出場のためにポイントを稼がないと。


「本当に……強いんですよ。ツルギくんは、本当に」


 足を止めて、何かを呟いているソラ。

 俺も足を止めて振り向くと、ソラは何か意を決するように深呼吸をしていた。


「ツルギくん。私、自分で言うのもアレなんですけど、特別な目標なんて持っていなかったんです」


 しっかりと俺に視線を向けながら、ソラは言葉を続ける。


「ツルギくんと出会って、デッキを受け取って、一緒にJMSに出て。そして聖徳寺(しょうとくじ)学園に入って。選んだのは私ですけど、どこか流れに身を任せている自分もいました」

「今は、違うのか?」

「はい。目標ができたんです」


 いつもの大人しい雰囲気はない。

 そこに立っていたのは、確かな夢を抱いた一人の女の子だった。


「ずっと背中を追ってきた人がいます。ずっと私を背にして戦っていた人がいます。私は本当の意味でその人に勝ちたい」


 本当の意味で……その言葉でソラの目標が何か理解できた。


「ツルギくんに勝つ。それが今の私の目標です!」


 真っ直ぐな目で俺を見ながら、ソラは胸を張ってそう宣言してきた。

 先程のファイトで俺の本気を見てしまった直後にも関わらず、恐れも萎縮も無く、むしろ壁の高さにワクワクすらしているようだった。

 俺達の間に風が吹く。俺はソラの言葉を聞いて、今までにない嬉しさと期待感が湧き上がっていた。


「そこまで言われたら、派手に勝たないとダメだよな」

「今すぐはダメだって分かってますよ。でもいつか、必ず勝ちにいきます」

「じゃあ来てくれよ。必ずな」


 近しい実力者が増えるのは、本当に嬉しい事。

 特にソラが俺に勝ちたいと思ってくれる事が、本当に嬉しかった。

 だったら俺は、目標として恥じないように勝っていくしかない。





 で、それから約2時間後。

 結局あの後、俺はソラと一緒にいくつかのアトラクションでファイトをしていった。


「あ、アトラクションのハシゴって結構体力使うんだな」

「そうですねぇ、ファイトもしなきゃいけないですし」

「身体と脳の両方を消耗する。次は大人しそうなアトラクションにしようぜ」

「はい。そうしたいです」


 現在俺達はパークにあるベンチに座って休憩中。

 ゴーカートもそうだけど、ジェットコースターとかヒーローショーとか、体力を削ってくるアトラクションって結構多いんだな。


「まさかヒーローショーは観客じゃなくて演者になってファイトさせられるとは思わなかったぞ」

「更衣室に案内された時はビックリしました」

「着ぐるみのバリエーション、結構色々あったのが逆に腹立つ」


 ちなみに王道な変身ヒーローの着ぐるみもあれば、女子向けに魔法少女とか変身ヒロインの衣装もあったぞ。

 ソラは……たまたま居たクラスメイトの女子によって、有名な変身ヒロイン作品の衣装を着せられていた。

 多分宇宙人が変身する青緑色の変身ヒロイン。星座要素的にもソラにはよく合う気はした。


「ところでツルギくんは、なんでアレを選んだんですか?」

「だって、男の子のロマンだったから」


 更衣室にある着ぐるみはどれを選んでも良いっていうし。

 男子たるもの見つけたら着たくなるだろ、某夢のヒーロー。

 ちゃんとパソコンにコードを入力してもらえるサービスもあったぞ。


「でも、やっぱり体力は持っていかれますねぇ」

「だよな……俺なにか飲み物買ってくるよ」

「私の分もお願いしま〜す」


 ヘロヘロな声のソラに「りょーかい」と言って、俺は最寄りの自販機へと向かうのだった。

 とはいえパークが変形しているせいで、色々と配置が変わっている。

 本当に変形後の地図を配布されていて良かったと思いながら、俺は最寄りの自販機を探すのだった。


「あったあった。お茶を2本召喚っと」


 少し離れた場所にあった自販機で目当ての物を購入する。

 この辺りは今誰もいないのか、ジェットコースターの音くらいしか聞こえない。

 テーマパークで人の気配がない場所って、下手なお化け屋敷よりも不気味だな。

 だからさっさと戻ろう。俺がそう思った次の瞬間だった。


「やぁやぁ再びこのパークで会うとは、どこか運命や因果を感じるね」


 誰かが声をかけてきた。

 いや、記憶に残っている声が俺に話かけてきた。

 声の方へと振り返ると、そこには高級なスーツに身を包んだ身長2メートル近い男性が立っていた。


「昨年のJMS以来だね、ミスターツルギ」

「ゼウス……CEO」


 UFコーポレーションCEO。

 前の世界ではアニメで何度もその姿を見た、敵とも味方とも言い切れない存在。

 ゼウス・T・ボルトが、そこにいた。

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