第二百三話:激走! サモンカート
仮想モニターのターンランプが点灯している。
てことは俺のターンからなのか。じゃあ遠慮なく。
「俺のターン! スタートフェイズ」
バトルロイヤルルールなので全員最初のターンはドローフェイズとアタックフェイズを行えない。
参加しているプレイヤーは俺含めて10人。
だったらまずは下準備と様子見だな。
「メインフェイズ。〈ジャスパーの竜闘士〉と〈チューライトの修道女〉を召喚!」
先陣を切って俺の場に召喚されたのは、一振りの剣を手にした竜人の戦士。
そして黒が基調の修道服に身を包んだ、ピンクの体毛をした女性型獣人だ。口と耳の形状的に多分犬。
〈ジャスパーの竜闘士〉P5000 ヒット2
〈チューライトの修道女〉P4000 ヒット1
あと〈ジャスパーの竜闘士〉の召喚コストでライフを1点支払う。
ツルギ:ライフ10→9
「〈ジャスパーの竜闘士〉の召喚時効果発動! 自分のデッキを上から4枚破棄する」
とりあえず墓地肥やしはできたし、最初の様子見はこんなもんかな。
アタックフェイズが無いなら、無駄に動く必要も薄いし。
『ヒャッハァァァァァァァァァァ!(遠のいていく叫び声)』
それにしてもパークが変形したせいか、ゴーカートとは思えないコースの広さになってるな。
『これがオレ様のロックンロォォォォォォォォルッ!(近づいては遠のいていく声)』
なんか途中地下に潜ったり、地上に出たりを繰り返しているし。マジでパークの全体がコースになったような感じなんだよな。
……そのせいなんだろうけど。
『オレ様達の魂に酔いしれろォォォォ!(やっぱり近づいては)』
「いちいちうるさいぞアーサァァァァァ!(遠のいていく声)」
上を走っているジェットコースターからよく知る声が聞こえてくるんだよな。
つか財前ジェットコースターを選んだのかよ。
真上でアーサーが叫びまくってるから、化神を認識できる俺だけが気になってしまうんだが。
「真上で叫ばれるってこんなに集中力を削がれるんだ――あっ」
ぼやきながらもターンを終えようとしたその時だった。
俺はAR空間に表示されていたギミックパネルの上を、うっかり通過してしまった。
「げぇ!? ギミック発動」
乗っている車両がパネルを通過した途端、小さな仮想モニターにルーレットが表示された。
何種類かあるカードが凄まじい勢いで抽選され初めている。
これがアトラクションファイト、ゴーカートの特殊ギミック。
乗っている車両がギミックパネルを踏んでしまうと、その瞬間にランダムな魔法カードとして発動するのだ。
「せめて、せめて被害が少ないやつでお願いしまーす!」
このギミックカード、説明にはどんなカード効果があるのか書かれていなかった。
その上、メリット効果もあればデメリット効果もあるという。
俺は少しハラハラしながらルーレットの結果を待つ。
『ギミックカード〈クラッシュボム!〉を発動します』
ガイダンス音声と共に、仮想モニターにテキストが表示される。
なになに?
「ライフを3点支払って、自分とランダムな相手1人のデッキを上から8枚破棄する……えっ、これコスト払うの俺だけ!?」
ツルギ:ライフ9→6
どうやらライフコストがあるギミックを踏み抜くと、強制的に払わされるらしい。
でもまぁ墓地肥やしだったら後々使えるからまだ良いか。
……なんかテキストの最後に『その後自分は減速する』とか書かれているけど。
「あっ、マジで速度落ちた」
急に車両の速度が落ちて、アクセルが弱くなったけど。
減速するって物理的にかよ! そういうのってカード効果に含めても良いのか!?
「ギャア!? すずのデッキが爆発したデス!」
あっ、俺のとばっちりで鳳凰院妹のデッキが破壊された。
なんかごめん。
「と、とりあえず俺はこれでターンエンド」
ツルギ:ライフ6 手札3枚
場:〈ジャスパーの竜闘士〉〈チューライトの修道女〉
ターンを終えると、このファイトがどういうものか少し見えてくる。
なるほど、ギミックパネルのランダム性も加味して立ち回らないと、突然の大逆転をされかねないって訳か。
(さっきみたいに、たとえ効果はメリットでも、コストの支払いが強制だったら戦術のプランが崩れる可能性もある)
逆に純粋なメリット効果を引き当てれば、かなり有利に立ち回れる可能性もデカい。
ギミックパネルを避けて安定を目指すか、敢えてパネルに突っ込んでいくか。
現在の自分の状況を適切に判断して使い分ける必要がある。
(最初に様子見の防御カードを出しておいて正解だったみたいだな)
他の奴らがどう動くかにもよるけど、ギミックパネルが何種類あるのか分からない以上、できれば踏み抜いて情報を開示してもらいたいところだ。
「よくもやってくれたデスね、天川ツルギ! すずのターン!」
あっ、次のターン鳳凰院妹だったんだ。
というかお前のデッキなら墓地は増えた方が嬉しいだろ。なんで俺にヘイト向けてんだ!
「メインフェイズ。すずは魔法カード〈ザ・トイゲート〉を発動! デッキから系統:《従玩》を持つモンスターを1枚選んで手札に加えるデス。すずは〈【超メイド長】フルメタル・トイ・キーパー〉を手札に加えるデス!」
まずは堅実にキーカードを手札に持ってきたか。
そういう基礎的な動きを疎かにしない辺り、Sクラス上位者の肩書きは伊達じゃないって事だな。
しかもさっきのギミックカードでアイツの墓地にはカードが集まっている。
という事は……
「さらに〈ザ・トイゲート〉の【トイアシスト】3を発動! すずのデッキを上から3枚墓地に送るデス!」
そうなるよな。
墓地に指定された枚数以上の系統:《従玩》を持つモンスターがあれば発動できる能力【トイアシスト】。
鳳凰院姉妹の妹、鈴音のメインとなる専用能力だ。
……やっぱりさっき俺にヘイト向けられたの、おかしくないか?
「ぬっふっふ〜、さっきすずのデッキを破壊した事を後悔するがいいデス! 召喚コストで手札を1枚捨てて、ライフを2点支払うのデス!」
鈴音:ライフ10→8 手札4枚→3枚
わざわざ墓地を肥やした事を言及してきた。
そして手札とライフをコストにするという事は、さっき手札に加えたカードだな。
「最強無敵の合金製スーパーメイド長! 屋敷も敵も全てお掃除してやるデス! 〈【超メイド長】フルメタル・トイ・キーパー〉召喚!」
鳳凰院の妹こと、鈴音の乗る車両の隣に巨大な魔法陣が出現する。
その魔法陣を突き破るように、鋼鉄でできた巨大な球体関節人形のメイドが召喚された。
〈【超メイド長】フルメタル・トイ・キーパー〉P16000 ヒット4
「見るが良いデス! このパワー! このヒット数! このメタル関節! コストに見合わないハイスペックSRカードの秘密、特別に教えてあげるデ――」
「〈フルメタル・トイ・キーパー〉が持ってる【トイアシスト】Xの効果で、墓地の《従玩》モンスター1体につき、ライフコストが1軽減されたんだろ」
「全部言うなデス! というか知ってたデスか!?」
有名どころのテキストは全部覚えてる。
これカードゲーマーの嗜みなので。
ちなみに〈フルメタル・トイ・キーパー〉は本来9点のライフコストが必要だぞ。
「このパーフェクトなメイド長で、お前のクビを狩りとってやるデース!」
「へいへい――あっ、おい前見ろ前!」
「へ? あっ」
哀れ鳳凰院鈴音。
俺を煽る事に気を取られて、うっかりギミックパネルを踏んでしまう。
余所見運転はダメ、絶対。
「あァァァァァ! やっちまったデェェェス!?」
「運転中に余所見と煽りをするからだ!」
「マシなやつ、マシなやつ来るデス!」
そしてルーレットが止まり、ギミックカードが決定する。
すると次の瞬間、俺の方にもテキストを表示する小さな仮想モニターが出現した。
えーっとなになに?
「ギミックカード〈プチコメット〉。全てのプレイヤーに1点のダメージを与えて、ダメージを受けたプレイヤーは減速する」
うん……案の定他の奴らから短い悲鳴が聞こえてきた。
たかが1点、されど1点だからな。
というか全体ダメージとかもあるのかよ。
「デスぅ!?」
鈴音:ライフ8→7
小さな隕石を食らってライフが削られる鈴音。
しかも減速までしてしまう。
となれば当然他のプレイヤーにも。
「鈴音、このおバカ!」
「お姉様ごめんなさいデスゥゥゥ!」
茉莉花:ライフ10→9
あーあー、姉にも隕石落ちてるよ。
というか二人のやり取りが、あまりにもアニメでよく見た鳳凰院姉妹のそれなんだよな。
こう、生でやり取りを見れるとさ、やっぱり感慨深いものがあるんだよな。
おっと、俺の方にも隕石が落ちてきてるんだった。
「まぁ無駄なんだけど。〈チューライトの修道女〉の効果! 相手ターン中に俺が受ける効果ダメージを1点減らす!」
ギミックカードはルール上魔法カード扱いだ。
だったら効果ダメージとして軽減もできる。
……いやマジで効果ダメージ対策を出しといて良かった。集中放火を回避するつもりだったのに、予想外に活躍してくれたぞ。
「ダメージを受けなければ俺は減速しない。お先に失礼〜」
「むっきィィィィィィ! ターンエンドなのデス!」
鈴音:ライフ7 手札3枚
場:〈【超メイド長】フルメタル・トイ・キーパー〉
わかりやすく悔しそうな声を上げてターンを終える鈴音。
この叫び声もアニメで何度か聞いたんだよな……まぁその場合相手はほぼ九頭竜さんだったけど。
やっぱ俺も見たいな、九頭竜さんに絡んでは返り討ちにあう鳳凰院姉妹。
(それはそうと、開幕早々にデカいモンスターを出してくれたのは嬉しい誤算かな)
パワー16000ヒット4、流石にこの世界の環境では簡単には出てこないステータス。
それをいきなり出されたとなれば、他のプレイヤーから強い警戒を持たれても仕方がない。
少しでも他の奴にヘイトを押し付けるのも、多人数戦ルールのコツである。
まぁそれはそれとして……
(ああいうデカいモンスターを用意してくれるなら、俺も本気を出す甲斐があるってもんだ)
となれば後は、他の奴らがどう動いてくるかだ。
俺と鈴音でギミックパネルの存在は周知された。
次は鳳凰院の姉、茉莉花のターン。
ここからが、本番だな。