第二百一話:ランキング戦inUFJ
気づけば10月も第二週に突入。
予選の一部が免除された俺達も、今日からようやくランキング戦に参加となる。
で、現在朝の8時ちょうど……俺達はどこにいるのかと言うと。
「一年振りくらいですね」
「そうね。あの大会からもうそんなに経つのね」
気持ちいいくらい過ごしやすそうな秋晴れ。
ソラとアイは久々に訪れた大型テーマパークに視線を向けながら感慨に耽っていた。
そう、今日のランキング戦は学園で行うのではない。
かつて俺達がJMSで激戦を繰り広げた場所、ユニバーサル・ファンタジー・ジャパン(通称UFJ)を貸し切って行うのだ。
(そういえば、アニメでUFJが初登場したのってこの場面だったな)
今更ながら思い出した。
アニメだとここで藍が数人の感染者とファイトしてたんだよな。
時期的には評議会補佐の1年や2年が政帝の手駒として登場し始める頃。
あと九頭竜さんが敵側になる時期なんだけど……フラグがバキバキに折れてるので問題なし。
(となれば今日は評議会補佐の奴らを少し警戒するだけで良さそうだな)
アニメに出てきた奴なら顔くらいは覚えている。
それ以外は流石に把握はしきれていないので、疑わしい奴がいたら警戒すれば良いだろう。
「キュップイ。今日は流石にピリピリムードっプイ」
「そりゃそうだ。ランキング次第で今後の色々が決まってしまうから、みんなピリピリもする」
「でもツルギは途中リタイア予定っプイ」
頭上から痛いとこ突いてくるなぁ。
だけどカーバンクルの言う通りだし、俺はとりあえずで成績を確保するのに注力する予定だ。
そんな俺達の会話が聞こえたのか、木の根で構成された翼を動かして、ウィズが近づいてきた。
「あら、アナタ達も途中離脱するのね? ウィズ達と同じなのね」
「つーことはアイもか」
「えぇ。個人的に晴らしたいものがあるのよ」
表面的にはいつも通り。だけど言葉の奥底から確かな怒りも感じられる。
やっぱりアイはそう思うよな。性格的なものだけじゃない、伊賀崎さんがあんなにファンだって公言してたし。
真実を知る者は、俺に限らず皆思うところがある。
するとアイは「だけど」と続けてきた。
「万が一にでも、守りの戦力が必要になるのなら。私はそっちに行くわ」
「そうならないのが一番なんだけどな」
「希望論は確定した未来から一番遠いでしょう?」
それは、そうなんだけどさ。
だけど確定した未来を掴むためにも、俺達はカードを手にとるしかないんだ。
アイも他の皆もそれは理解できている。だから今は、今の戦いに集中するしかない。
「そういえば、今日はウイルスの気配っあるんですか?」
「今のところ何もないっプイ」
ソラが俺の頭上にいるカーバンクルに話しかけてくる。
やっぱりこの前から急激に化神の認識ができるようになっているどころか、もう完璧にコミュニケーションも取れている。
間違いなくエオストーレにエネルギーが溜まってきているんだろうけど……万が一の事を考えたら早めに目覚めてほしいな。
「ん? カーバンクル、今のところウイルスの気配はないのか?」
「キュップイ」
そうなのか。一応アニメだと数人の感染者が出てきたけど、まだ集合場所に到着してないからか?
それとも俺が知らない場面で藍か九頭竜さんが倒した後だったりするのか?
まぁいいか。今は目の前のイベントに集中しよう。
「集合場所って大広場だっけ?」
「はい。速水くんはもう着いているそうです」
早いなアイツ。ひとまず俺達は集合場所であるパークの大広場へと向かった。
大広場にはすでに数十人以上の生徒が集まっている。
「よっ速水。早いな」
「予定より早く到着しただけだ。と言っても俺だけではなかったがな」
メガネの位置を直しながらそう言う速水。
なるほど、確かに開始時刻まであと20分以上あるもんな。
ランキング戦を勝ち残れば、評議会戦への挑戦権にも繋がる。
そりゃあ全員気合いも入るってもんだよ。
「それにしても第二予選はテーマパークを貸し切ってやるとは、事前に聞いていたとはいえ豪快な事をする学校だな」
「だよな〜、こういう豪快過ぎるイベントがあるせいでウチが国公立って事忘れそうになるもん」
速水と一緒に今回のランキング戦について、ぼんやりと語り合う。
今回のランキング戦は二回の予選を終えた後に、本戦が始まる。
俺達が免除されたのは第一予選のみ。今日これからUFJでやるのが第二予選だ。
「……これでも半数以下まで絞られたんだよな?」
続々と集まる第二予選の参加者を見ながら、俺は思わずそう口にしてしまう。
一応聞いた限りでは第二予選の参加者は、俺達予選免除組も合わせて150人。
ここからさらに本戦出場の生徒を絞り込んでいくんだから、そりゃあ時間もかかるよな。
「なぁ速水、今日の第二予選って17時30分までだっけ?」
「そうだな、開始は9時からだ。四日かけていた第一予選よりはマシだろ」
「そうなんだよな。一日で終わるからまだマシなんだよな」
だって見ろよ第一予選から這い上がってきた奴らを。
土日の休みで体力が回復しきってなさそうなのが、明らかに何人かいるぞ。
いくら二学期開始時点で生徒数が減っているとはいえ、評議会を除いたランキング戦の参加生徒は442人もいる。
……この学校って各学年6クラスで40人からスタートしてたよな?
(冷静に考えたら滅茶苦茶減ってるじゃねーか)
生存率の低い学校だと知っていたとはいえ、やっぱり減り方が凄まじ過ぎるだろ。
そんな事を考えていると、人も集まりきったような雰囲気になってきた。
「あっ、ツルギくんだ! 速水くんも!」
「見当たらないと思ったら、やっと来たのか藍」
「アハハ〜、危うく寝坊しかけちゃった〜」
そう笑い飛ばす藍だが、彼女の側を飛んでいるブイドラはため息を吐きながら「オイラが起こさなかったら絶対に寝坊してたブイ」と呟いていた。
気まずそうに目を逸らしている藍が、全ての答えなんだろう。
「ところで真波ちゃんは?」
「今日はいないだろ。評議会メンバーは通常のランキング戦には出場不可なんだから」
俺がそう言うと、キョロキョロと周囲を見渡していた藍は「えっ」と感嘆を零すと同時に目を点にしていた。
どうやら本当に忘れていたらしい。
簡単に説明をすると、六帝評議会のメンバーは殿堂入りのような枠組みに入れられてしまうんだ。
だから彼らの出番はランキング戦が終わった後、次の代を決める為の戦いの方である。
「そうだった、普通に合宿一緒だったから忘れてた」
「気持ちはわかるけど忘れないでくれ」
とりあえず藍は納得してくれたようだし、これから始まるランキング戦へ気合いを入れている。
「よーし頑張るぞー! 明日まで!」
「……そっか」
明日まで。そう言うという事は、藍は俺と同じで途中離脱をする予定なんだろう。
まぁ、彼女がそういう行動方針を持つのは何も変じゃない。
俺と同じで、伊賀崎さんの最期を見届けてしまった。
なにより藍は良くも悪くも主人公なんだ。そういう選択をしてもおかしくは無いんだよな。
(だからこそ、今後を考えたら消耗は最低限でいて欲しい)
俺は制服ポケットの中に入れている1枚のカードに意識を向ける。
アニメだと入手経路が不明で、ブランクカードが変化したという説すら浮上したカード。
現在の藍は3枚あるブランクカードの内1枚変化させている。残りは2枚。その内1枚は恐らくあのカードになるだろうし、万が一も考えれば余裕は持っていて欲しいよな。
「藍。こんなタイミングになるけどさ」
「ん、なにそれ?」
俺はポケットから取り出した1枚のカードを藍に差し出す。
使う場面は少し限られるけど、万が一アニメ通りに藍が政誠司と戦う事になった場合、これが決め手になる筈だから。
「今の藍に……いや、このカードは政帝との戦いに必要になるだろうから。今のうちに渡しておきたい」
ランキング戦が始まる前にやるような事じゃないなんて百も承知。
少しでも早く渡しておかないと、後に影響が出たら取り返しがつかなくなる。
今カードを渡そうとしている事に何かを察してくれたのか、近くにいる速水も何も言ってこない。
「魔法カード、〈セイバー・オーラ〉?」
俺からカードを受け取った藍が、カード名を読み上げる。
そしてテキストを読んで少し違和感を抱いたのだろう、小さく首を傾げていた。
「今すぐデッキに入れろなんて言わない。ただ今の内に持っておいて欲しいんだ。この後のためにも」
「……うん。ありがとうツルギくん」
そう言うと藍は早速受け取ったカードを召喚器の中に加えた。
自分で渡しておいてなんだけど、即決で入れちゃうんだ。
でもまぁ、こっちの意思が伝わっただけでも十分だよな。
「二人とも、始まるぞ」
速水に言われて、俺と藍は大広場に設置されたステージに立つ先生達の話を聞く。
といっても俺としては本題の試合ルール以外はあまり興味がないんだけど。
(ん……?)
ふと視線を逸らしてみると、少し離れた場所に財前の姿があった。
良かった、ランキング戦に参加できる程度には回復できたんだな。
ちなみに財前も予選免除組だったらしい。
「それでは、第二予選のルールを説明します。全校生徒は大広場にある白い線の内側から絶対に出ないでください」
突然のアナウンス内容に困惑する生徒達。
とりあえず自分が白線の内側にいるのか確認するが……その瞬間、俺はアニメでの予選内容を思い出してしまった。
(そうだ、この学校のランキング戦もといUFJって――)
突然音を立て始める大広場……否、テーマパークの地面全体。
白線向こう側では地面が展開し始め、地下で眠っていた追加設備が上昇してくる。
それは巨大な鉄柱の集合体……が合体して完成していくジェットコースターのレーン達。
(――変形機構のあるテーマパークだったぁぁぁ!)
あまりにもトンチキ極まるせいで、自分が当事者になる可能性が抜け落ちていた。
ジェットコースターのレーンは、まるで複数の路線が入り乱れる線路のようになり、予選の邪魔になる施設は地下に収納されていく。
ちなみに俺らの視界に映っているジェットコースターが一番目立っているけど、予選で使う他のアトラクションも変形とかしていた筈だ。
「それでは第二予選、アトラクションファイトのルールを説明します!」
変形が全て終わるや説明に入る先生。
でもすみません、少し間を置いてから説明を始めてください。
流石にテーマパークがトランスフォームを始めたら、この世界の人でもビックリするんですよ。
「皆さんにはこれから、各アトラクションを活用したルールでファイトを行なってもらいます」
先生、説明を続けないでください。
それはそうとして、第二予選のルールはこんな感じ。
・各アトラクションでファイトを行い、勝利ポイントを稼いでいく。今回は敗北しても基本的には勝利ポイントの減少はない。
・各アトラクションにはそれぞれ特殊なルールが設けられている。また、アトラクション毎に勝利時に得られるポイントが異なる。
・最終的に勝利ポイントを多く獲得した、上位32名が本戦へと進出する。
うん、要するにいっぱい倒せばOKって事だな!
特殊ルールはその時に考えればいい! シンプルに考えよう!
「アトラクションは9時から稼働を開始します。各アトラクションの特殊ルールは各自の召喚器で確認できるようになっています。それでは全員、最初に挑むアトラクションを選んでおいてください」
で、説明が終わると全員自分召喚器を片手にアトラクションのルールを確認し始める。
とりあえず俺も目を通してみたけど、結構色々なルールを用意しているんだな。
「獲得できるポイントも結構変わるんだね〜」
「見た感じ一度に得られるポイントが多い程、リスクもあるデザインなんだろうな」
藍と一緒に召喚器の仮想モニターでアトラクションのルールを見ていると、ソラとアイがこっちにやってきた。
「貴方達はどのアトラクションから攻めるのかしら?」
「アタシはヒーローショー! これ絶対に面白そうだもん!」
藍は目を輝かせながらそう言うが……そういえばアニメでもヒーローショーでファイトしてたな。
こうも原作通りな動きだと、安心感すら覚えるぞ。
「速水はどこから行く?」
「俺は巨大迷宮に行こうと思う。ルール的にもやりやすそうだ」
なるほど、アトラクションのルールとの相性で決めるのもアリだな。
「私はメリーゴーランドに行くわ。どうせリスクがあるならリターンの大きい方がいいもの」
「あぁ、一番ハイリスクハイリターンなアトラクションだったな」
上手くいけば勝ち点が一番多く貰えるけど、失敗すれば勝っても僅かなポイントしか入らない。
でもこういうギャンブル性の高いところへ挑める度胸は、アイの強みだよな。見習いたいよ。
「じゃあ俺は何にしようかな」
「ゴーカートだろ」
「ツルギはゴーカートでしょ」
「えっ、ツルギくんゴーカート選ばないの?」
「なんで満場一致で俺はゴーカート送りなんだよ!?」
いや言いたい理由は分かるよ。
だってゴーカートって特殊ルールはあるけど、基本ルールの方がバトルロイヤルだもん!
そうだね! 俺なら相手を一掃して勝ち点ガッポガッポだね!
「ツルギくん」
「ソラ……」
「私も一緒にゴーカート行きますから、頑張りましょう」
だから安心しくださいと言わんばかりに俺の手を握ってくるソラだけど……結局俺がゴーカート送りなの変わってねーじゃねーか。
もういいよ、俺ゴーカートで無双してくるよ。
他のアトラクションは午後から楽しむもん!
「しゃーない。ゴーカートでひとっ走り付き合わせるか」
もちろん俺の大暴れに対してだ。
流石に政帝との戦いが目前に迫ってるからな、最後の切り札の試運転くらいはしておきたい。
「んじゃあ全員、思いっきり暴れてきますか」
俺がそう言うと、皆それぞれアトラクションへと向かって行った。
俺もソラと一緒にゴーカートのある場所まで移動を始める。
(財前は……もうどこかのアトラクションに向かったのか?)
いつもの調子なら俺の行くアトラクションを狙ってくるだろうに、もう姿が見えない。
先回りとも思えないし、今日はそういう気分でも無いんだろうか?
そんな事を漠然と考えながら、俺は最初の戦いへと赴くのだった。