第百九十六話:届かぬ手は掴めない
状況はお世辞にも良いとは言えない。
財前の戦い方から推測するなら、アイツのデッキには破壊以外の除去手段はほとんど無い。
しかもクイーンの効果はあくまでアームドの効果だから、今流通しているカードでは防げない。
「中々にピンチってやつか? オレ様としては、そっちの方が面白いけどな」
「……スタートフェイズ」
アーサーの言葉をスルーして、ターンを開始する財前。
だけどスタートフェイズに入るという事は……
『この瞬間、アタシの効果で墓地の〈四つ葉エリカ〉を除外!』
乗っ取り先の〈パーフェクト・ライフ〉の効果を使って、クイーンは墓地に残っていた最後のモンスターを除外する。
残るは場にいる2体のみ。これらが除外された瞬間、クイーンの特殊勝利が達成される。
『さぁ好きにしなさい。アタシを倒そうとしても無駄なんだけどね』
「……ドロー、フェイズ」
そしてカードをドローする財前。
これで何か決定打になるカードを引き当てないと、敗北は回避できない。
見守るしかない俺自身、財前のデッキに入りそうなカードの中から、逆転に繋がりそうな1枚を頭の中で探しだす。
だけど最適解が出てこない。汎用カードを使うにしても限界がある。
「どうした小太郎? ジっとカード見つめて、諦めるのか?」
アーサーに問いかけられても財前は無言。
ただひたすら手にしたカードに視線を落としている。
それが逆転の切り札なのかは分からない。だけど今確実に言えることは、財前は諦めていないということだ。
財前は一分と少し考え込むと、ドローしたカードを左手に持つ手札に加える。
「アーサー、ヒトハの身体に巣食うウイルスを除去できるか?」
「あの気味悪ぃエネルギーか? それだけなら簡単にできる……けど、あの子の命までは無理だ」
「そうか」
アーサーの口からも、クイーンを切り離せばどうなるのか改めて明言されてしまう。
すると財前は無言のまま、伊賀崎さんへ右手を伸ばした。
特別な言葉は出てこない。
ただ掴んでもらえる事を願うかのように、その手を伸ばす。
伊賀崎さんにも真意が伝わったのか、彼女も腕を震わせながら右手を伸ばし――少し間を置いてから、その手を握りしめてしまった。
「ごめんね小太郎くん。ワタシが生きてたら、もっと色んな人が不幸になっちゃう」
「ワガママでも良い。だからヒトハ……頼む」
懇願するように言う財前に、伊賀崎さんは困ったよう微笑っていた。
きっとそれが答えなんだ。
利用されていただけとはいえ、伊賀崎さんはもう自分の死を本当に受け入れてしまったのだろう。
死ねない理由で縛りつけられているのなら、それを断ち切る刃を欲しているのだろう。
「やりたいこと沢山やれたから。学校にも行けたから。それにもう……十分に生きられたから」
「まだ、残っているだろ。どれだけ最低だと罵られても、ワガママでも良いから」
静かだけど悲痛。そんな訴えが伊賀崎さんに届いてしまう。
だけどもう、残された道は一つしかない。
「小太郎くん……最後に、本当に最低なワガママ、言ってもいい?」
「……ヒトハ」
「もう、死なせて」
せめて最期は笑顔でといった様子で、無理して笑みを浮かべながら、伊賀崎さんの瞳から涙が流れている。
財前は右手を伸ばしたまま顔を伏せて……そして伸ばしていた右手を力一杯に握りしめた。
『あ〜ら、やっと理解できたの? アナタは負ける。仮に勝ててもヒトハは死んじゃうって』
「……っ! メインフェイズッ!」
腕で目元を拭うと、財前は力強く叫んでターンを進める。
覚悟を決めたのだろう。
その上でアイツは、最善の選択を取る事を選んだんだ。
「場の〈スカイサーファー〉と〈アーサー〉を合体!」
「どうんだ小太郎? これっぽっちじゃあ大したダメージになんねーぞ」
「分かっている! 魔法カード〈ユニットリターン〉を発動! 合体している〈スカイサーファー〉をデッキに戻して1枚ドロー!」
2枚目の〈ユニットリターン〉を使って、財前は手札を補充する。
ここでわざわざドローをするという事は、何かを狙っているのか?
「ヒトハ……今ここで呼ぶ事を、許してくれ」
小さく呟くと財前は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。
「魔法カード〈ザ・コアマシンスクランブル〉を発動」
またも2枚目の魔法カード。だけどあのカードは最初に使った時と効果が変化する。
通常〈ザ・コアマシンスクランブル〉はデッキから系統:《センター》を持つモンスター、つまり〈アーサー〉を呼ぶための魔法だ。
だけど逆に、既に〈アーサー〉がいる状態で発動をした場合、デッキから系統:《ライト》か《レフト》を持つモンスターを1体手札に加える効果になる。
「僕が手札に加えるカードは……〈ライト・サムライラビット〉!」
「なっ〈サムライラビット〉!?」
アレってかなり癖のあるUCのカードだぞ。
「ツルギくん、あのカードってどんな効果なの?」
「〈ライト・サムライラビット〉は、合体中の身代わり効果こそあるけど……パワーは1000しかない上ヒットも0。その上効果はかなり使い難い」
「ツルギが使いにくいって、アレどんな効果ブイ?」
ブイドラが訝しげに聞いてくる。
俺自身あのカードを見るのが久しぶり過ぎるけど、その癖のある効果は前の世界でも度々話題に上がっていたから覚えていた。
「合体状態でかつ、お互いの場のモンスターが同じ数の間だけ、相手の場のモンスターは全て効果が無効になる」
「えっ? なんか普通に強そうに聞こえるんだけど」
「忘れたのか。財前の〈アーサー〉は基本的に3体で合体していた方が強い。その上合体中は1体のモンスターとして数えるんだぞ」
つまり〈アーサー〉と〈サムライラビット〉を合体させた場合、もう1体モンスターがいても2体として数える。
相手のモンスターが1体から2体である事、しかも数が変動した瞬間、能力は適用されなくなってしまう。
ここまで説明した事で、ようやく藍もあのカードの難しさを理解してくれたようだった。
「財前くん、なんで今そんなカードを?」
「クイーンの場にはモンスターが3体。合体させても効果の条件が満たされない――」
そこまで言って、俺はふと気がついた。
前のターンで財前が手札に加えたカードの存在を。
あのカードなら組み合わせ次第では、色々と応用を効かせる事ができる。
「まさか……」
財前が以前使用した1枚のカードを思い返す。
そして先程確認したクイーンの効果テキスト。
そうか……財前の狙いはそういう事か!
「僕は手札から〈レフト・サンダーカブト〉と〈ライト・サムライラビット〉を召喚!」
財前の場に召喚されたのは雷の意匠がある、カブトムシ型の巨大メカ。
そして侍のように腰に帯刀をしている、小さなウサギ型のメカであった。
〈レフト・サンダーカブト〉P4000 ヒット1
〈ライト・サムライラビット〉P1000 ヒット0
このまま合体する事もできる。だけどきっと財前はもう一枚のカードを使う気だ。
「進化条件は、系統:《ライト》と《レフト》を持つモンスターをそれぞれ1体ずつ! 僕は〈レフト・サンダーカブト〉と〈ライト・サムライラビット〉で融合進化!」
巨大な魔法陣が出現して、2体のメカが飛び込んでいく。
すると魔法陣はそのまま異空間へと繋がるゲートと化して、どこかのカタパルトへと繋がった。
「来い〈マックス・ストライカー〉!」
財前の叫びに応じて、カタパルトから出撃したのは巨大な戦闘機。
真っ赤なボディとSFチックなデザインの、新たなメカがアーサーの隣に現れた。
〈マックス・ストライカー〉P14000 ヒット2
「ヒューっ、こいつはロックなマシンじゃねーか……オイ小太郎ッ!」
そう言うとアーサーは、すぐさま財前の方へと振り向いた。
「良いんだな?」
「せめて、魂だけでも」
「そうかい。だったらオマエの魂、オレ様がしっかり乗せてってやらァ!」
叫ぶだけ叫ぶと、〈アーサー〉は〈マックス・ストライカー〉の上に乗って仁王立ちをする。
「オイ〈マックス・ストライカー〉! これがオメーの初陣だ、ロックに決めるぞ!」
「僕は場の〈【中核機神】コア・アーサー〉と【ストライカー】を持つモンスター〈マックス・ストライカー〉を合体!」
「オッシャア! ド派手に行くぞォォォ!」
バンク空間に飛び移るや、〈アーサー〉はすぐさま変形を開始する。
そして〈マックス・ストライカー〉も変形を開始し、巨大な人型のボディへと変化した。
中央に空いたスペースへと、核ユニットに変形した〈アーサー〉が合体する。
胸のパーツが閉じて、新たな頭部パーツが出現すると、赤のメインカラーと金の差し色が特徴的な巨大ロボットが完成した。
「オレ様完成ッ! 〈【超勇機神】マックス・アーサー〉!」
〈【超勇機神】マックス・アーサー〉P20000 ヒット4
自身の効果と同じく、名前が変化する〈アーサー〉。
これが【ストライカー】を持つカード最大の特徴。
【ストライカー】を持つモンスターはルール上、系統:《レフト》と《ライト》両方を持つものとして扱う、2体合体専用のカード。
そして合体した時に、個別の名称へと変化するのだ。
「〈マックス・ストライカー〉は進化元となったモンスターの効果を受け継ぐ。受け継いだ〈レフト・サンダーカブト〉の効果によって、パワー+3000、【指定アタック】を得る!」
〈【超勇機神】マックス・アーサー〉P20000→P23000
「そしてライフを2点支払い、アームドカード〈マキシマムバズーカ〉を〈マックス・アーサー〉に直接武装!」
今の〈マックス・アーサー〉はルール上3体合体として扱われている。
よって〈マキシマムバズーカ〉も〈アーサー〉の左腕に直接武装された。
「イイ感じだ。最高のビートを奏でられるぜ」
「まだ終わりじゃない。手札を1枚捨てて魔法カード〈インスタント・オーバーロード〉を発動!」
あれは自分の系統:《機械》を持つモンスターのパワー、もしくはヒットを1ターンだけ2倍にする魔法カード。
だけどあのカードで強化をした場合、エンドフェイズにデメリット効果が発生するぞ。
「僕は効果で〈マックス・アーサー〉のヒットを2倍にする!」
「ハハハ! こりゃあ最高にロックってやつじゃねーか!」
〈【超勇機神】マックス・アーサー〉ヒット4→8
興奮気味にヒット上昇を喜ぶ〈アーサー〉。
だけどヒット数を倍化させた場合、〈インスタント・オーバーロード〉のデメリットによって、ターン終了時に元々のヒット分だけライフを失う。
財前は、このターンで決着をつける気だ。
「アタック、フェイズッ!」
『アッハハハ! まさか本気でアタシを攻撃する気なのかしら? どうやってもアナタが負けるって決まったいるのに!』
「そのまさかだぜェ、バッドガール!」
左腕に装備したバズーカをクイーンに向ける〈アーサー〉。
そうだ、その組み合わせなら攻撃するのが最善手だ。
「〈マックス・アーサー〉で、〈クイーン・トラジェディ〉を指定アタック!」
『まさか、本気!?』
「最初から本気しかねーよ! テメェも少しは痛みを知るんだなァ!」
そう叫ぶと〈アーサー〉は左腕に装備したバズーカで、クイーンを砲撃する。
黒い不定型のスライムは一時的に黒剣へと戻って、そのダメージを全て寄生先である〈パーフェクト・ライフ〉へと押し付けた。
傷つく寄生先に舌打ちをするや、クイーンは自身の能力を発動する。
『無駄よ! 場の〈三つ葉フェンネル〉を犠牲にして、アタシは回復状態で場に残るわ!』
破壊の身代わりとして、黒いスライムが一体の妖精少女を喰らい尽くす。
味方の生命を奪って、クイーンは再び〈パーフェクト・ライフ〉を乗っ取って場に残った。
「〈マキシマムバズーカ〉の武装時効果。相手モンスターを戦闘で破壊した事で〈マックス・アーサー〉のヒット分のダメージを与える」
『それも無駄ぁ。アタシの能力でダメージは1度に2点までしか与えられないわぁ』
下卑た笑みを浮かべながら、ダメージを軽減してくるクイーン。
しかもそのダメージによる痛みも、全て伊賀崎さんへと押し付けている。
ヒトハ(クイーン):ライフ8→6
「同じく相手モンスターを戦闘で破壊した事で〈マックス・ストライカー〉の効果を発動。〈アーサー〉は回復する」
「さぁさぁ! まだまだ喧嘩を続けようぜ!」
回復した事で、再び攻撃が可能になるアーサー。
このまま攻撃をしても、戦闘破壊による除外を使われてしまえば、クイーンが特殊勝利してしまう。
それを想像してしまったのか、俺の隣で藍が慌て始めてしまった。
「どうしようツルギくん。このまま攻撃しても財前くんが負けちゃうよ」
「大丈夫だ」
「大丈夫って、だってクイーンの能力で絶対に除外されちゃうよ!」
「大丈夫。それも財前は想定内だ」
だから信じてやってくれ。
アイツは必ず勝つ。
「回復した〈マックス・アーサー〉で……〈クイーン・トラジェディ〉をもう一度指定アタック!」
『本ッッッ当にバカね! ならその攻撃で自分を撃ちなさい!』
自分の勝利は決して揺るがない。
相手の自滅による勝利を悦として、クイーンは声を上げて嘲笑してくる。
しかし財前は、それを気にする様子はない。
アーサーも一切の躊躇なく、左腕のバズーカをクイーンに向けた。
「そんなに撃たれてぇなら、お望み通りにしてやらァ!」
そして先程と同じように、アーサーはクイーンを砲撃する。
結果は何も変わらない。ただ嬉々としてクイーンは自分が受ける筈の痛みを全て、寄生先や伊賀崎さんに押し付けてしまう。
ヒトハ(クイーン):ライフ6→4
戦闘破壊されてしまうクイーン。
だが当然、自身の能力によって〈四つ葉エリカ〉を身代わりとして破壊する。
破壊後に〈四つ葉エリカ〉が除外される事で、ついにクイーンは特殊勝利の条件を達成してしまった。
『アッハハハハハハ! これでアタシの勝ち! アナタ達は何もできず、そこで無様に這いつくばってるとイイわ!』
寄生先である〈パーフェクト・ライフ〉の影が財前へと伸びていく。
影の中からクイーンの黒い触手が無数に出現して、その鋭い先端部を向けてくる。
強い殺意と喜びを剥き出しにして、クイーンは高笑いをしていた。
『さようなら、王様気取りのおバカさん』
鋭い触手は一斉に財前を突き刺しに――行かなかった。
ピタリと止まって、触手は一切動かない。
『なっ、なんで動かないのよ!』
「動かないだけじゃねェ。もう斬り捨ててんだよ」
アーサーがそう告げた瞬間、財前に襲い掛かろうとしていた触手は全て、ボトボトと地に落ちていった。
同時に身体から力が抜けたのか、クイーンは本体である黒剣を握ったまま、その場に膝をついてしまう。
『どういう事なのよ、なんでアタシの効果が無効化されているのよッ!?』
「あっ……そのカード」
伊賀崎さんが呟くと、クイーンが顔を上げる。
ようやく気がついたようだ、触手斬り捨てて、モンスター効果を無効にしてきた〈ライト・サムライラビット〉の幻影に。
『それは、さっき進化素材にしたモンスター』
「合体状態のモンスターは1体として数える。〈ライト・サムライラビット〉の効果は、お互いの場のモンスターが同数の間、相手の場のモンスターの効果を全て無効にする」
『同じ数、ですって……アナタ、まさか最初からそれを狙ってたのッ!?』
そうだ、これが財前の狙いだったんだ。
指定アタックの付与と〈マックス・ストライカー〉による連続攻撃。
その組み合わせを使って、敢えてクイーンが特殊勝利を達成させるように誘導する。
思惑通りに動いてしまった現在、クイーンの場には自分自身しかいない。〈サムライラビット〉の効果で寄生先の〈パーフェクト・ライフ〉の効果を無効化されてしまえば……クイーンはもう何もできない。
「これでもう、テメェは身代わりを使えねェなァ?」
『ひぃ!?』
身代わりされたとはいえ、破壊判定が下れば〈マックス・ストライカー〉の効果で回復する。
一歩一歩踏みしめるように、アーサーは膝をついているクイーンに歩み寄る。
自分が追い詰められたという自覚が出たのか、クイーンは恐怖に顔を歪ませていた。
『ま、待って、待ちなさい!』
「それは聞けねェ相談だな」
『お願い痛いのは、痛いのはやめて!』
「ダッセェな……テメェ」
許しを乞うクイーンを一蹴して、アーサーは左腕のバズーカを至近距離で向ける。
もう身を守る手段はない。寄生先の〈パーフェクト・ライフ〉の身体を使って涙を流すクイーンだが、アーサーは容赦なく砲撃をした。
『ギャァァァァァァァァァァ!?』
クイーンは寄生していた〈パーフェクト・ライフ〉から離れて、ただの黒剣へと戻ってしまう。
特殊勝利の要であった〈パーフェクト・ライフ〉が破壊されてしまった以上、もうクイーンに勝ち目はない。
『まだよ、まだアタシは』
黒剣が半分溶けて、黒い不定型のスライムが伊賀崎さんへと猛スピードで集まっていく。
自分が不利になったから、クイーンは再び伊賀崎さんの身体へと戻って人質にでもする気なのだろう。
あまりにも卑劣、あまりにも下種。
黒いスライムのような状態で、クイーンは伊賀崎さんの口へと侵入していった。
『アハハ! これなら、これならアタシはもう――』
足掻きが成功したとでも思ったのだろう。
だがそんな行動で、財前達は止められない。
「今だ、小太郎ォ!」
アーサーが叫ぶと、すぐさま財前は伊賀崎さんの元へと駆け出す。
本来ならルール違反だが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
伊賀崎さんの口の中からは、まだクイーンの身体が少し見えている。
「ヒトハァァァ!」
彼女の名前を叫んで、財前はその腕を即座に掴み上げる。
そして――
「っ!?」
伊賀崎さんの口にいたクイーンを、財前は自分の口を使って噛み掴んだ。
必然的に伊賀崎さんにキスをするような形にはなったが、財前は躊躇する事なく彼女の口からクイーンを引き摺り出す。
『ちょっと、アンタなにすんのよ!』
「ヒトハの中から、出ていけ」
しっかりとクイーンに噛みつきながら、ある程度引き摺り出すと、財前はその身体を手で掴んで睨みつける。
切羽詰まった様子で抗議するクイーンを無視して、財前は力任せに伊賀崎さんの身体から引っ張った。
そのまま引き摺り出されたクイーンを、財前はアーサーが立つ戦場へと投げつける。
「アーサー!」
「あぁ、任せろ」
倒れる伊賀崎さん身体を抱き支えながら、財前が叫ぶ。
クイーンは自分の本体である黒剣に戻る他なく、その前にはアーサーが立っていた。
『ひっ!? や、やめて』
「おいテメェ、喧嘩の勝ち方を知ってるか?」
そう言うとアーサーは、黒剣状態のクイーンを地面から引き抜く。
武装先を失った以上、もうクイーンは能力を使う事ができない。
「喧嘩ってのはよ、イカしたヤツが勝つんだ」
『い、いや』
「テメェ、イカしてねェんだよ」
『いやァァァァァァァァァァ!』
身勝手に悲鳴を上げるクイーン。
それを全て無視して、アーサーは胸部装甲にエネルギーを充填していく。
もはや加減をする必要はない。悪夢をここで終わらせるためにも。
「マックス・バァァァストォォォォォォォォォ!」
胸部に溜め込んだ攻撃エネルギーを〈マックス・アーサー〉は一気に解放する。
元々魔法カードで過剰に上げていたヒット数もあり、その破壊力は並大抵ではないだろう。
その凄まじいエネルギーの噴流を至近距離で当てられしまい、クイーン……〈マリス・ディスペア〉は言葉を発する間もなく粉々に消し飛ばされてしまった。
そして、〈マキシマムバズーカ〉の効果によって最後ライフから削られる。
ヒトハ(クイーン):ライフ2→0
財前:WIN
ファイトは終わった……だけどまだ後始末は残っている。
ソレが見えた瞬間、俺は頭上のカーバンクルと共に足を動かし始めるのだった。




