表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/222

第百八十五話:そのイコールは何処に繋がっているのか

 黒崎(くろさき)先輩から色々と話を聞いてからしばらく経過した。

 当初の議題であった伊賀崎(いがさき)さんに関しては、これといって奇怪な点はない。

 だけど一方で、疑惑を消し去るような材料も出てきていない。

 それよりも今問題なのは……


「〈カーバンクル・ヴァンプ〉で攻撃!」

「グアァァァァァァ!?」


 モブ生徒(感染):ライフ2→0

 ツルギ:WIN


 学園内にチラホラと増え始めている、ウイルス感染した生徒の相手だ。

 今も昼休みだというのに一人撃破したばかりである。


「とりあえず牙丸(きばまる)先輩呼んで保健室に――」


 俺は倒れて気絶した相手に近づいて、散乱した数枚のカードに目を落とす。

 やはりウイルスカードはあったが、すぐに表面が消えて普通のカードに変化してしまう。


(また、か)


 増えている。

 政帝達がいないのに、間違いなく感染者が増えている。

 何かを仕込まれているのは間違いないけど、何処に何を仕込んだのかが問題だ。


(現象としてはやっぱり隠神島(いぬがみじま)の時と同じ。となればギョウブのようにウイルスと同化してしまった化神がいるのか?)


 だがそうなると、その化神はどこに潜んでいるのか。

 仮に知り合いの化神がソレだったら、カーバンクルがとっくに気がついている筈。


(ギョウブと同じ……巨大なウイルスの塊が本体……)


 アニメの内容を思い出して、政帝(せいてい)が一年生編の終盤に使った切り札が頭に浮かび上がる。

 一連の事件で使われているウイルスの大元、最大級の巨大ウイルスとも形容できる〈【終焉の感染】ザ・マスターカオス〉のカード。

 あのカードが今学園内にあるなら、きっとそれが原因だと断言して話も早く済んだんだろう。


(だけど今、あのカードは学園内には無い。多分政帝が持って行っている)


 二学期が始まってすぐに、牙丸先輩や黒崎先輩と一緒に学園内を調べた。

 名目は学園内にウイルスカードが保管されていないかの調査……だけど俺は大元について探したんだ。

 アニメ内で仕舞い込んでいる描写のあった場所などを隈なく調べた結果、何一つ出てはこなかった。

 流石にウイルスの本体とも呼べるカードを放置して出国する程、相手も馬鹿じゃないか。


(だからこそ、今が奇妙極まる)


 ウイルス感染者とファイトしたのは今日だけの話じゃない。

 その上、俺だけではなく藍や九頭竜さんもファイトをしている。

 二学期が始まって二週間以上が経過、全てその間での出来事だ。


(何かはある。どこかにある)


 だからカーバンクルや化神達に調べて欲しいけれど、やっぱり学園や周辺では不調が続いている。

 黒崎先輩とこのシーカーは比較的動ける存在だけど、気配を消さないと動けない上に、気配を消している最中はウイルスのような存在の感知ができなくなるらしい。

 そう考えると、夏休みの終わりに気配を隠さず行動していた理由もわかってしまうな。


(あっちが帰国してくる前に、細々したのは終わらせたいな)


 その方がきっと楽だし、いい方向にはなる筈なんだ。





 午後はファイト実技の授業……なのだけれど、俺はある事が気になって仕方がなかった。


「小太郎くんがんばれ〜。ショップの1000円オリパガチャ10回分の成果見せちゃえ〜」

「ヒトハァァァ! キミはその結果知っているだろォ!」


 なんというか、その……財前(ざいぜん)と伊賀崎さんめっちゃ距離縮んでない?

 近いというか近づいているというか、キミら何かありました?

 あと財前、カードショップの1000円オリパガチャを10回もするなよ。ああいうのは運試しに留めないと行き着く先は無だぞ。


「なぁなぁソラ。あの二人なにかあったと思う?」

「あったんじゃないですか? そうとしか思えないですよ」

「だよな。ランチャーの紐くらい勢いよく縮んでるもん」

「ツルギくんの例えは分かりませんが、距離は縮んでますね」


 ソラも俺と同じ見解を示している。

 聞くところによると、あの二人は最寄り駅も同じなのだとか。

 というか伊賀崎さんって思っていた以上にご近所さんだったのね。一駅しか離れてない。


「勝負だァ、天川(てんかわ)ツルギ!」

「それは良いんだけどさ……お値段が四桁以上のオリパに沼るのはやめとけよ」

「問題ない! 身をもって学んだからな」


 あっ……御愁傷様です。

 こっちの世界はマジで当たり出ないもんね。


「だァが! 今日こそ僕が勝たせてもらおう!」

「そっか。でも今日は俺らの出番あとの方だぞ」


 俺がファイトステージを指さして言うと、財前は何とも言えぬ表情で固まっていた。

 気持ちはわかるぞ、気まずいよな。

 しかもさっき応援してくれた伊賀崎さんの方が先だもんな。


愛梨(あいり)ちゃんとファイト……気合い入れなきゃ」

「もう少し気楽にして良いのよ。もっとも……私は全力で相手してあげるけどね」


 伊賀崎さんの相手はアイか。

 デッキの相性……は考えるまでもない。

 もしも伊賀崎さんがデッキを変えていないのであれば、そもそもアイが負ける要素がない。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 そしてファイトステージのあちこちで試合が始まる。

 俺の注目は必然的にアイと伊賀崎さんのファイトに向かっていた。

 しばらく二人の試合を観ていて、現在は伊賀崎さんのターン。


「メインフェイズ。お願い〈一つ葉ライラ〉と〈二つ葉アイリス〉を召喚!」


 伊賀崎さんの場に、草花を擬人化させたような妖精少女が2体召喚される。

 同じ植物系のモンスターなのに、アイの樹精(じゅせい)とはえらい違いだ。


〈一つ葉ライラ〉P1000 ヒット0

〈二つ葉アイリス〉P2000 ヒット0


 系統:《四葉(よつば)》のモンスターらしく、ヒット0という共通の特徴に低めのパワー。

 一応能力を持っているとはいえ、決して抜きん出て強いとは言えない。


「〈一つ葉ライラ〉の召喚時効果【ブルームスキル】を発動! ワタシのデッキからもう1体の〈一つ葉ライラ〉を墓地に送って1枚ドロー」


 同名カードを墓地に送る事でのみ発動する、系統:《四葉》の専用能力【ブルームスキル】。

 一見すると墓地肥やしも兼ねて強力に見える。

 けれど、どれだけ潤滑油が優秀でも相応の切り札に繋げなければ決して勝利には結びつかない。

 あのデッキは特にそれが顕著に現れているとも言える。


「いくよ。ワタシは場の系統:《四葉》を持つモンスターを2体破壊!」


 2体の妖精少女がコストで破壊されて墓地へ送られる。

 切り札の召喚に必要だとはいえ、ダメージ軽減能力を持っている〈二つ葉アイリス〉を破壊したのは流石にプレイミスだろ。


「来て、幸せを完成させる光の化身! 〈十つ葉パーフェクト・ライフ〉を召喚!」


 そして伊賀崎さんの場に妖精の女王といった雰囲気のモンスターが召喚される。

 あれが【四葉】の切り札であり、唯一の勝利手段。


〈十つ葉パーフェクト・ライフ〉P10000 ヒット0


 パワーは高いがヒットは0。そして破壊などに対する耐性は何も持っていない。

 あまりにも場持ちが悪すぎる。

 少なくとも、安易に召喚したところでアイに通用するカードじゃない。


「ターンエンド」


 で、伊賀崎さんはターンを終えてしまいましたと。

 やっぱり腕前に関する疑惑は晴れない。むしろ深まってしまう。

 アイは間違いなく気づいているだろうけど、それを表に出さないあたり流石は元芸能人といったところか。


「私のターン。スタートフェイズ」

「愛梨ちゃんのスタートフェイズに〈十つ葉パーフェクト・ライフ〉の効果発動! ワタシの墓地から系統:《四葉》を持つモンスターを1体選んで除外する」


 そう言って伊賀崎さんは先程墓地へ送った〈一つ葉ライラ〉を1枚除外する。

 これが伊賀崎さんの〈十つ葉パーフェクト・ライフ〉による特殊勝利の条件。

 自分の系統:《四葉》を持つモンスターを4種類、合計12枚以上をゲームから除外されている状態にする事。

 墓地のカードを除外する効果は、お互いのスタートフェイズに発動するとはいえ、流石に悠長すぎる。


「あまり呑気もしていられないわね。けれど折角ファンが相手をしてくれているのだから、華やかに決めてあげるわ」


 そう言ってからのアイはどんな感じだったのかと言うと……凄かったです。

 滅茶苦茶上振れたような手札で墓地を肥やして、今〈セフィロタウラス〉がいる状態で【再花】を発動したところ。

 つまりアイの盤面は……


〈【獣神樹(じゅうしんじゅ)】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3

〈ラフレシアンプラント〉P9000 ヒット5

〈【禁断樹凰(きんだんじゅおう)】ウィズダム・フェニックス〉P12000 ヒット2


 問題です。

 召喚コストを踏み倒した上で、現在相手に叩き込める最大ダメージは12点です(ウィズは2回攻撃ができる)。

 この状況から入れる保険は存在するのか答えよ。


「〈ウィズダム・フェニックス〉の召喚時効果。ヒトハの〈十つ葉パーフェクト・ライフ〉をデッキの下に送るわ」


 なお追加でモンスター除去も打ち込んでくるものとする。

 うんうんそうだね、王手かけられてるね。


「ツルギくん。私あの状況になったら巻き返せる自信ないです」

「大丈夫だ。アレでも防御札を握っていたらまだチャンスはある」


 ただしアイが防御札を無効化するカードを手札に持っていない事を前提とする。

 流石にあの盤面を毎回作られたら、俺でも少しキツいぞ。


「……モンスター効果を防げば、なんとかなるか?」


 そして財前よ、真面目に自分なりの攻略法を考えるのは好印象だぞ。

 あとお前のデッキなら手札次第でどうにか出来るから、慢心にだけ気をつけろ。


「さぁ、華麗に決めなさい!」


 で、モンスター3体で盤面ガラ空きの伊賀崎さんに攻撃を仕掛けるアイ。

 伊賀崎さんは手札に視線を落とすものの、防御札がなかったのか一瞬にして涙目になっていた。


「ぜ、全部ライフ〜!」


 ヒトハ:ライフ10→5→2→0

 愛梨:WIN


 超絶上振れたとはいえ、アイの圧勝だったな。

 ファイトを終えたアイと伊賀崎さんがこちらにやってくる。


「ふぅ、今日はかなり調子が良かったわ」

「だろうな。あんな状況毎回作られたらただの地獄だぞ」

「アナタにだけは地獄と言われたくないわ」


 ジト目でハッキリと言ってくるアイ。

 初期ライフ10点なのに、合計ダメージ12点(自己蘇生や除去耐性もあり)は普通に地獄なんだよ。

 そりゃあ俺もJMSの時は魔法封じて連続攻撃とかしたけどさ、アレは一応条件付きだったからな。


「ふぇ〜、負けちゃったよ〜」

「あのなぁ、切り札は安易に出せば良いというものじゃないんだぞ?」

「でも小太郎くんはいつも最初に出してるじゃーん」

「それが僕のデッキでは最適解だからだ。他のカードまで同じタイミングで使う理由にはならないんだぞ」


 財前の元へと駆け寄ってきた伊賀崎さんだったけど、見事にダメ出しを食らっているな。

 というか俺が言いたいこと半分くらい言ってるじゃんか。

 財前、お前マジで油断とか慢心さえ無ければもっと上目指せるんじゃないか?


「うぅ〜、小太郎くんの鬼教官〜」

「見ていられなかっただけだ……だけど、よく頑張った」


 そう言うと財前は伊賀崎さんの頭を軽く撫で始めた。

 伊賀崎さんも満更ではないというか、少し顔を赤らめて笑みを浮かべている。

 えっ、俺は今なにを見せられているんだ?


「さぁ天川ツルギ。次は僕達の出番だ」

「あっはい、そうですね、わたしもそう思います」

「どうした天川、言葉遣いが変だぞ」


 すまない、突然衝撃映像を見せられて混乱しているんだ。

 お前らこの短期間でどれだけ距離縮めたんだよ。

 恋愛ゲームでももっと作中時間は経過するだろ。


「偉そうにダメ出しをした手前だ。全力でキミを倒しにいく」

「あぁうん。迎え討ちます」

「キミはなんださっきから、奇怪な顔をして」

「転校生を爆速で攻略した男を前にしてリアクションに困ってるんだよ」


 俺がそう言うと財前は盛大にずっこけた。

 いや誰だって一連の状況を見たらそう思うだろ。

 なんだよお前、美少女転校生攻略RTAでも始めたのか。


「いきなり何を言い出すんだキミは!?」

「率直な感想だぞ。過程を吹き飛ばしたのか?」

「僕はグリッチ使いなんかじゃない! というかヒトハとはまだ何もそういう事はない!」


 えぇ〜本当でござるか〜?

 見ろよ伊賀崎さんの方を、既にアイとソラによる尋問が始まっているぞ。

 これが女子高生の恋バナ欲ってやつだ。早急に男は離脱するぞ。


「とりあえずファイトステージに行こうぜ。俺達は男の世界で戦おう」

「言いたい事は理解できるが、キミの使う表現は気に入らない」

「この場に放置してやろうか?」

「さぁ行こうか天川ツルギ! 僕達の戦いはこれからだ!」


 そして俺と財前は共にファイトステージへと向かうのだった。

 そして後ろからは「がんばれ小太郎くん! ワタシも臣下として応援してるから!」と伊賀崎さんの声が聞こえてきた。


「……お前、伊賀崎さんを臣下にしたの? そういうプレイ?」

「色々あったんだ。反論はしないが察してくれ」


 額を抑える財前を見てなんだか申し訳なくなり、俺はそれ以上なにも追求はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ