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第百七十五話:普遍的な授業風景

 午後の授業が始まり、俺達1年A組はファイト用のドームに集まっていた。

 入学試験の時も思ったけど、学校の敷地にドームがあるってスゴいな。

 これからファイト実技の授業が始まるわけだけど……


(らん)、なんで体操服なんだ?」

「ヒトハちゃんが着替え始めたから、ノリで着替えた!」

「さいですか」


 別にファイト実技の時は着替えなきゃいけない、なんてルールは無い。

 設備のない公立の小中学だと体操服に着替えて、外のグランドなんかでやる場合もあるけど……ウチは屋内のドームですぜ、絶対に要らないだろ。

 あと藍、お前いつの間に体操服を持ってきてたんだ。


「よーし、今日もファイトしていこー!」


 そう言って両腕を上げて元気よく気合を入れる藍。

 半袖と半ズボンの体操服なのだが、上が運動向けの動きやすいやつなので、その……


「ツルギくん、なにか変な事考えてませんか?」

「ナニモカンガエテナイデスヨ」


 突然背後に現れたソラが、凄まじい圧を放ってくる。

 仕方ないんだよ、藍が無邪気にピョンピョン跳ねるとさ……大きいアレがめっちゃ揺れてるんだよ。

 男子どころか一部の女子も見てるぞ。

 だから許してください、これは本能でロマンなんです。

 俺達のロマンシング本能(サガ)なんです。


「そもそも伊賀崎(いがさき)は何故着替えたんだ」

「えっ? ファイトの授業って体操服に着替えるものじゃないの?」

「専門学校の屋内だぞ。あとキミは何故9月に上下ジャージなんだ」


 たまたま伊賀崎さんの近くにいた財前(ざいぜん)が、俺達の言いたかった事を全て代弁してくれた。

 そうなんだよな、夏休みが終わった9月とはいえ普通に暑いからな。

 そんな季節に上下ジャージという伊賀崎さんのチョイスよ。


「なるほど〜、通りでワタシ達以外誰も着替えにこないな〜って思ったよ」

「もっと早く気づきたまえ」

「いやぁ〜慣れてなくて」


 エヘヘと言いながら、少し顔を赤らめている伊賀崎さん。

 なんというか、本当に慣れていなさそうというか……妙にズレているというか。

 天然、なんて普遍的な言葉で片付けて良いのかは少し疑問が残るけど。


「それでは、今日のファイト実技を始めるでござる!」

「やったー!」

「ワクワクしてきたー」


 伊達(だて)先生がやってきて授業の開始を告げるや、藍と伊賀崎さんが目をキラキラ輝かせている。

 息ぴったりだね君たち。仲良くなれそうで良かったね。


天川(てんかわ)ツルギィィィ! 僕との約束を忘れているわけではないだろうな!?」

「お前もたまには俺以外に挑めよ」


 いつも俺に挑んでるじゃねーか。いや相手はするけど。


「今日こそ僕がキミに勝利する!」

「お前リベンジする度にちょっとずつ成長してくるから、俺も最近楽しくなってきたぞ」


 本当にじわじわと強くなってるんだよな。

 何度も相手してると相手の成長を実感できるから、ちょっと楽しいんだよ。

 でもたまには他の奴ともファイトをしたい――


「よし、それでは全員相手が決まったでござるな」


 なんて思ってもみんなスグに決まっちゃうんだよな!

 てか今このクラス27人だから1人余るはずだろ!


「天川、あとで相手をしてくれないか」


 余ったの速水かよ。

 財前をちゃっちゃと倒すから、少し待っていてくれ。

 対戦相手が決まったら、全員召喚器から初期手札を5枚引く。

 これでいつも通りの実技授業が始まるのだけど……


(伊賀崎さん、そんなキラキラした目で『今日は隕石落とすのかな?』みたいな視線を向けないでくれ)


 アレ使い所難しいんだぞ。毎回使うようなカードじゃないからな。

 だから藍の方に集中してあげてくれ。藍が簡単作画のキョトン顔になってるから。


 で、各々ファイトが始まったわけだけど……俺達は現在こうなっている。


 財前:ライフ7 手札3枚

 場:〈【合体機神(がったいきしん)】デルタ・アーサー〉※合体構成:〈【中核機神】コア・アーサー〉+〈ライト・マグネクワガ〉+〈レフト・キャリータートル〉(〈マキシマムバズーカ〉武装済み)


 流石にワンキルはされないように耐えてきた財前。

 合体を上手く使って、こちらのモンスターを返り討ちにしつつ、ライフを削り切る算段だと見た。


「ターンエンドだ!」


 ターンを終える財前の場には、クワガタ型と亀型のメカと合体した巨大ロボットが1体。

 パワーは15000でヒットは5。並大抵のカードを出したところで、〈マグネクワガ〉と〈マキシマムバズーカ〉のコンボで大ダメージを受けるのがオチだ。

 とはいえ、別に超えられない壁ではない。


「俺のターン」


 というわけで本日の勝ち筋を爆速で進めましょう。

 今回は特に〈キャリータートル〉という、破壊時にデッキから()()()()()()を持ってくる厄介なやつがいるから迂闊にターンを回したくない。


「スタートフェイズ開始時に〈フューチャードロー〉の効果で2枚ドローする」


 初手で発動しておいて良かった、便利カード。

 俺は効果によるドローと、通常のドローを合わせて手札が6枚になる。

 そしてメインフェイズ。俺の場には何もないから、まずは墓地肥やしからだ。


「俺はライフを1点支払って〈ジャスパーの竜闘士〉を召喚。召喚時効果で、自分のデッキを上から4枚墓地へ送る」


 俺の場に現れたのは一振りの剣を手にした竜人の戦士。

 墓地を肥やしてくれる優秀な眷属モンスターだ。


〈ジャスパーの竜闘士〉P5000 ヒット2


 さらに今のライフコストのおかげで、俺のライフは5になっている。

 これで召喚条件はクリアだ。


「俺は系統:《幻想獣》を持つモンスター〈ジャスパーの竜闘士〉を進化! 駆け抜けろ雷鳴! 〈【幻黄雷(げんこうらい)】カーバンクル・ミョルニール〉召喚!」


 雷と共に魔法陣が弾け飛び、中から巨大な黄色の宝玉が現れる。

 それを内側から巨大なハンマーで砕くと、中から鎧を見に纏い二足歩行となった黄色いカーバンクルが出てきた……が、今回はカーバンクルを素材にしていないせいか、無反応での登場である。


〈【幻黄雷】カーバンクル・ミョルニール〉P16000 ヒット1

 

 ……いつもはカーバンクルを素材にして出すから、無言だと違和感がすごいな。

 それはそうとして、ここからフィニッシュ用のカードを抱えたいのだけど、今の手札にはない。

 必要なパーツは墓地に眠っているので、回収する必要がある。


(まさか本来の使い方で、コイツをお披露目する機会が来るとはな)


 俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んで発動する。

 前の世界では特定の組み合わせのせいで禁止指定を食らってしまった、【カーバンクル】の最強墓地回収魔法。


「魔法カード〈セブンソウル・リバース〉を発動! このカードは俺の場に系統:《夢幻》を持つ進化モンスターが存在する場合にのみ発動できる」

「カーバンクルの新たなサポートカードか」

「そういう事。〈セブンソウル・リバース〉の効果で、俺は墓地から系統:《夢幻》を持つモンスター、もしくはアームドカードを好きなだけ手札に加える事ができる」

「回収枚数が多すぎるだろ!?」


 そう思うだろ? 俺も初めてテキストを読んだ時はそう思った。

 でもご安心ください、ちゃんとデメリットもあります。


「〈セブンソウル・リバース〉で墓地のカードを手札に加えた場合、加えた枚数以上の手札を捨てなければならない」


 つまりどうやっても手札枚数自体は増えないというわけだ。

 ……手札枚数はね。


「俺は墓地から〈カーバンクル・テンコ〉を手札に加えて、手札を1枚捨てる」


 さらに効果は連鎖する。


「手札から捨てた〈ラリマーの海獣(かいじゅう)〉の効果発動。デッキからカードを1枚ドローする」


 手札から捨てても効果発動ができる便利な眷属だ。

 これで手札の消費も抑えられる。

 さぁて次はアームドだ。


「コストで墓地から系統:《眷属》を持つモンスターを3枚除外。(みどり)の風、轟く雷、紫公(しこう)の牙! 三つの力を今ひとつに合わせる! アームドカード〈【合身王器(がっしんおうき)】トラペゾへドロン〉顕現!」


 夏休みの終わり際にも使った、黄金のキューブ型アームドだ。

 今回は〈ミョルニール〉と組み合わせる。


「〈【合身王器】トラペゾへドロン〉を〈【幻黄雷】カーバンクル・ミョルニール〉に武装!」


 キューブが変形し、今回は〈ミョルニール〉に合わせて巨大なハンマーへと姿を変える。

 あっ、元々のハンマーは消滅する仕様なんだね。


「さらに墓地から〈ルビーの魔術師〉の効果を発動。このカードを除外することで、ゲーム中1度だけ、墓地から進化ではない〈カーバンクル〉を復活させられる。来い相棒ッ! 〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉召喚!」


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


 いつもお馴染み俺の相棒が、墓地から召喚される。

 だが何か喋るでもなく、カーバンクルは俺の場で丸まりながら眠ったままであった。

 学校にいる時に召喚するとよくある現象ではあるけれど……ファイト中でも眠れるものなんだな。


「いくぜアタックフェイズ! 〈カーバンクル・ミョルニール〉で〈【合体機神】デルタ・アーサー〉を指定アタック!」


 幸いシステム的には問題がないので、俺はそのままファイトを続行する。

 

「パワー勝ちはしても、アタックフェイズを終了させればどうという事はない! 魔法カード〈シェルターウォール〉を発動! キミのアタックフェイズを強制終了させる!」


 やっぱり財前はアタックフェイズを終了させにきたな。

 だけどそれは想定済みだ!


「相手が魔法カードを使った事で、手札から〈【幻橙狐(げんとうこ)】カーバンクル・テンコ〉の効果を発動。ライフを2点支払って、場の〈カーバンクル〉から進化させる!」


 橙色の巨大な魔法陣が出現して、熟睡しているカーバンクルを飲み込む。

 神秘的な力が集まり、カーバンクルの身体を急速に作り変えていった。


「(なんか眠っているけど)来い! 〈【幻橙狐】カーバンクル・テンコ〉!」


 魔法陣が弾け飛び、中から巨大な橙色の宝玉が出現する。

 その宝玉が砕けると、中から神秘と畏れを体現したような、九尾の狐が登場……したのだが、やっぱり丸まって眠っている。


〈【幻橙狐】カーバンクル・テンコ〉P10000 ヒット2


「えっと、〈カーバンクル・テンコ〉の効果で〈シェルターウォール〉を無効化する」


 一応眠っていても魔法を無効化する狐火はちゃんと出してくれる〈カーバンクル〉。

 なんか器用だな。


「くっ! だけど僕の〈アーサー〉は簡単には破壊されない」

「そうだな。だったら破壊より先に勝てばいいんだよ! 魔法カード〈エヴォジャベリン〉を発動! 〈カーバンクル・ミョルニール〉のヒットを+1して【貫通】を与える」

「それでもヒットは2。僕のライフは削りきれない!」


 それはどうかな?


「アタックフェイズ開始時に〈カーバンクル・ミョルニール〉の【無限鎚(むげんつい)】が発動していた。今〈ミョルニール〉のヒット数は魔法効果も合わせて9になっている」

「馬鹿な……ヒット9の貫通持ちだと」


 財前、驚いてるところ悪いけど……お前にだけは驚かれたくない。

 お前が俺のチュートリアル戦で使ったカードを思い出せ。

 アイツは特別なコンボも無しにヒット8になってたぞ。


「魔法カード〈タクティカル・ガード〉を発動! その攻撃を無効にして、僕はカードを1枚ドローする!」


 魔法効果で〈ミョルニール〉の攻撃が防がれてしまう。

 なるほど、アイツ終盤に向けて単発防御を温存していたな。

 だけど俺も一筋縄で倒されるつもりはない。


「〈【合身王器】トラペゾヘドロン〉の武装時効果発動。武装しているモンスターがヒット6以上であれば、各ターン1度だけ回復できる」


 再び攻撃が可能になる〈ミョルニール〉を見て、財前が悔しそうに歯を食いしばっている。

 どうやらさっきのドローで防御カードを引けなかったらしい。


「っ! 次は必ずッ」

「……待ってるぞ。〈ミョルニール〉で攻撃!」


 ヒット9である〈ミョルニール〉が振り下ろした巨大ハンマーによって、財前の〈アーサー〉が粉砕されてしまう。

 その余波によって、財前のライフも全て消し飛んでしまった。


 財前:ライフ7→0

 ツルギ:WIN


 ファイト終了のブザーが鳴り、立体映像が消える。

 想定より時間はかかってしまったが、いつも通り勝つ事はできた。


(そういえば、あっちはどんな感じなんだ?)


 俺はふと思い立って、藍と伊賀崎さんの方に目を向けてみる。

 見たところ藍が優勢だけど、俺は伊賀崎さんの場に並んでいるモンスターの方が気になった。


(あれって【四葉(よつば)】のカードだよな? めちゃくちゃ癖のある系統だけど、大丈夫か?)


 そんな事を考えていたら案の定、伊賀崎さんは藍に敗北してしまった。


「あー、楽しかった〜」

「アタシもー。ねぇヒトハちゃん、もう一戦する?」

「するする!」


 意気投合したのか、藍と伊賀崎さんは楽しそうにしている。

 その時ちょうど速水が俺の方へと近づいてきたので、軽く聞いてみる事にした。


「なぁ速水、伊賀崎さんのファイトって見てたか?」

「あぁ、転校生だし興味はあったからな……しかし」

「まだ一戦。まだ様子見の余地はあり……と俺は主張してみたいんだけど」

「俺も、そう言いたいものだな」


 どうやら速水も俺と同じ思いは抱いていたらしい。

 まだ最初の一戦目、だから安易に評価を下す場面でもない。

 しかし伊賀崎さんの使っている系統のカードを知っている身としては、少し疑惑を抱かざるを得なかった。


(系統:《四葉》……所属するモンスターは全て、ヒット0)

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