第百七十一話:幻紫公と合身王器
「俺のターン。スタートフェイズ、ドローフェイズ!」
ツルギ:手札10枚→11枚
さて、俺のデッキは残り17枚。
万が一にでもターンを返してしまえば、次の戸羽のターンで確実にデッキアウトになってしまう。
となればこのターン中に勝たないといけないのだが……
(戸羽の場にいる〈クロノス・デストロイヤー〉。アイツがいる限りアタックフェイズには入れない)
かといって効果ダメージで決めようにも、残念ながら〈カーバンクル〉が墓地に行ってしまっている。
となれば他の手を導き出さないといけない。
(手札にあるカードは……よし)
11枚も手札があれば、いくらでも対抗策は打てる。
確かに【クロックトルネード】は凶悪極まるデッキだ。
だけど裏を返せば黎明期の遺物の塊でもある。後の時代のカードを使えば、突破口は開けるはず。
……どうでもいいけど、近くでファイトしている黒崎先輩のモンスターが気になって仕方ない。
「先輩! 何故か俺もソイツら見てたら無関係な気がしないんです!」
何故か先輩が使う《アルカナ》のモンスターは無関係な気がしないんだよな。
まぁ今はそれに関しては置いておいて、自分のファイトだ。
(前のターンにデッキ破壊を完遂されなかったのが幸いだった。そして戸羽のプレイミスもだ)
強制ドローによるデッキ破壊に着目されがちだけど、〈竜巻のピエロ〉の効果は自分にも使える。
戸羽の手札は現在2枚。モンスター回収が無いのであれば、自分を対象にして〈竜巻のピエロ〉の効果を使った方が最善だったはずだ。
恐らくデッキ破壊によるダメージを優先し過ぎて、自分のリソースを失念していたな。
(そういう事なら、安心して攻めきれる!)
となればまずは、相手の自信を支えている根拠を潰すところからだ。
「メインフェイズ。俺はコストとして墓地から系統:《眷属》を持つモンスターカードを3枚除外!」
「眷属……幻想獣じゃないのか?」
「コイツらも幻想獣の一種だよ」
そういえば学校ではまだ使ってなかったから、戸羽が知らないのも無理ないか。
小さく困惑している戸羽をよそに、俺は1枚のアームドカードを仮想モニターに投げ込んだ。
「翠の風、轟く雷、紫公の牙! 三つの力を今ひとつに合わせる! アームドカード〈【合身王器】トラペゾへドロン〉を顕現!」
雷雲に浮かび上がる魔法陣から、俺の場に一つの金属が顕現する。
黄金に輝くその金属は不可思議なキューブの形をしていた。
「新しいアームドカード……なんでお前だけッ」
「持ってたから使った。それだけの話」
「だけどアームドだけじゃあ何もできない! お前の〈カーバンクル〉はもう墓地へ送ったから、何も怖くない!」
「……墓地に行っただけ、だよな?」
本当に、心の底から慢心しているんだな。
確かに墓地に行ってしまえば、〈カーバンクル〉の効果は使えない。
だけど使えないのはあくまで〈【紅玉獣】カーバンクル〉の効果だけだ。
「まさかとは思うけどさ。自分の相棒が墓地に送られた時のことを、俺が何も考えていないとでも思ったのか?」
「は……なにを言って」
「戸羽、お前の敗因は……先攻1ターン目で欲張り過ぎたことだ」
「欲だって? お前を追い詰めたボクの戦略を欲だって言うのかッ!?」
「自分の勝利を目指すのは良い。だけど全体を見る事ができなかったら……自分と相手のリソース差すら見落としてしまう」
俺に言われてようやく戸羽も気づいたらしい。
自分の手札と俺の手札の枚数差に。
だがすぐに戸羽は口元に笑みを取り戻す。あくまで自分の作り上げた盤面は完璧だと思っているらしい。
「手札の差がなんだ。ボクの作り上げた防壁を壊せるわけがない」
「完璧な戦略なんて存在しない。俺が使うやつだって攻略法は存在するんだ……自分を完璧だって思い込んだ瞬間、ファイターとしての成長は止まるんだよ」
「強さが成長だろうッ! これがボクの進化だぞッ、お前に否定できるものじゃあ無いだろうッ!」
ウイルスを受け入れて、改造ツールを使って、それを自分の強さや進化と主張するか。
もう呆れる以外に何もない。
戸羽がそう言い張るのであれば、俺はその歪んだ意識から否定してやる。
「進化条件は、自分の場の系統:《幻想獣》を持つモンスター1体」
「はぁ? お前の場にはモンスターがいないだろ」
「ただし〈【紅玉獣】カーバンクル〉から進化させる場合、その進化素材を墓地から選ぶ事ができる!」
現在ではまだ珍しい進化条件を聞いて、戸羽は「なっ」と短く口にして驚いている。
コイツが手札にいてくれたのは、本当に幸運だったよ。
「いくぜ相棒!」
「墓地からドロドロ〜、復活からの進化っプイ!」
仮想モニターにカードを投げ込み、墓地のカーバンクルが進化素材となって場に出てくる。
そのまま魔法陣に飲み込まれると、巨大な紫色の宝玉が場に現れた。
「影に潜みて闇を駆け、悪を切り裂き夜を生きる! 頼むぞ相棒!」
闇の力が集まり、宝玉の中でカーバンクルを進化させていく。
そして紫電が弾け、紫色の宝玉が砕け散る。
中から姿を現したのは、紫色の体毛とコウモリのような羽根を持つモンスター。
頭身が上がり、貴族が着るような黒い服を身に纏った、カーバンクルの新たな姿であった。
「〈【幻紫公】カーバンクル・ヴァンプ〉召喚!」
「今日のボクは吸血鬼っプイ!」
〈【幻紫公】カーバンクル・ヴァンプ〉P12000 ヒット2
さぁて、ここからの処理順番が大事だな。
「まずは系統:《夢幻》を持つモンスターが召喚された事で、墓地から【眷属召喚】を発動! 墓地から復活しろ〈アメジストの従者〉!」
墓地から呼び出されたのは〈カーバンクル・ヴァンプ〉の眷属。
薄紫色の体毛を持つ猫の獣人であり、執事のような服装をしていた。
〈アメジストの従者〉P3000 ヒット1
「続けて〈カーバンクル・ヴァンプ〉の召喚時効果発動! 相手モンスターを1体選んで、そのヒット数だけ自分のライフを回復する」
「選ぶのは当然ヒット4の〈クロノス・デストロイヤー〉っプイ! 吸い取ってやるっプイ!」
カーバンクルの効果でエネルギーを吸い取られてる〈クロノス・デストロイヤー〉。
その演出ついでにウイルスも吸い取ってくれないかな。
ツルギ:ライフ13→17
「なんだ、ライフを回復するだけなら何も怖く――」
「回復だけで終わるわけないだろ。〈カーバンクル・ヴァンプ〉の更なる効果! 自分がライフを回復した時、その数値分だけ相手の場に存在する全てのモンスターのヒットを下げる!」
「ヒット数の減少効果か、普通のデッキだったら厄介だったな」
効果に驚きつつも、自分には関係ないと思ったていそうな戸羽。
とりあえずアイツの場に存在する3体のモンスターは全て、ヒット0となってしまった。
だけど〈カーバンクル・ヴァンプ〉はこれで終わるようなモンスターじゃない。
「〈カーバンクル・ヴァンプ〉の効果には続きがある。自分の場に系統:《眷属》を持つモンスターが存在するなら、場のモンスター1体のヒット数を+1できる。俺は〈アメジストの従者〉を選択」
〈アメジストの従者〉ヒット1→2
まだ連鎖するぞ。
「自分のライフを回復した事で〈アメジストの従者〉の効果を発動。このカードのパワーを2倍にする。さらに系統:《夢幻》を持つモンスターがいればヒットも2倍になる」
〈アメジストの従者〉P3000→6000 ヒット2→4
「パワーとヒットの倍化!? だけどアタックフェイズを封じてしまえば、ダメージを与える事もできない!」
「そうだな〈クロノス・デストロイヤー〉がいる限り、そうなるよな」
「そうだ。しかも〈クロノス・デストロイヤー〉は魔法効果を受けず、モンスター効果じゃあ破壊も除外もされないッ!」
「だけどモンスター効果は受ける。だったら解決は可能だ」
なによりヒット0になってくれたおかげで、コイツの武装時効果が適用可能になる。
「俺は〈【合身王器】トラペゾへドロン〉を〈カーバンクル・ヴァンプ〉に武装!」
不可思議なキューブであった〈トラペゾヘドロン〉が変形し、一振りのレイピアへと姿を変える。
〈カーバンクル・ヴァンプ〉はそれを手に持って武装を完了した。
「〈トラペゾヘドロン〉は3つの姿を持つアームドカード。今回は武装時効果によって、俺がライフを回復したターン中、相手の場に存在するヒット0のモンスターは効果を無効化される!」
「ヒット0のモンスターって……ボクのモンスター全てじゃないか!?」
「〈カーバンクル・ヴァンプ〉に適合した能力だ。効果を無効化されてしまえば、アタックフェイズを封じる効果も使えない」
そして〈クロノス・デストロイヤー〉が効果を失えば、戸羽のモンスターを魔法カードで除去する事も可能だ。
「魔法カード〈サーヴァント・サンダー〉を発動。手札の系統:《眷属》を1枚捨てて、相手モンスターを1体破壊する。〈変幻なる大道芸師〉を破壊!」
魔法効果によって発生した雷に撃たれて、戸羽の場にいた大道芸師が消し炭と化して消滅してしまう。
効果を無効化されてしまえば、モンスター回収効果も使えない。
「〈サーヴァント・サンダー〉で相手モンスターを破壊した時、自分の場に系統:《夢幻》を持つモンスターが存在するなら、破壊したモンスターの元々のヒット数だけ俺のライフを回復する」
「ライフを、回復?」
ツルギ:ライフ17→18
ライフ回復が発生した瞬間、戸羽の顔が不安に染まる。
そう、ライフを回復すれば〈カーバンクル・ヴァンプ〉と〈アメジストの従者〉は再び効果を発動する。
もちろんコイツらの効果にターン1制限なんてものはない。
「ライフ回復をトリガーにして〈カーバンクル・ヴァンプ〉の効果発動。〈アメジストの従者〉のヒットを+1」
〈アメジストの従者〉ヒット4→5
「そして〈アメジストの従者〉の効果発動。パワーとヒットを2倍にする」
〈アメジストの従者〉P6000→12000 ヒット5→10
「ヒット、10だって……なんで」
「疲労状態の〈クロノス・デストロイヤー〉じゃあ防御もできないよな。アタックフェイズ!」
もう俺を制限する効果はない。
このまま攻撃でライフを削り切る。
「〈アメジストの従者〉は自身の効果によって【貫通】を得ている。まずはコイツで攻撃だ!」
「ひぃッ! そんな攻撃を受けたら無事で済むはずないじゃないか!」
「リミッター解除装置だっけ? 自分達が蒔いた種なら、自分達も経験しておけ」
「天川ァァァ! 魔法カード〈バラバラ・ウォール〉を発動! 〈竜巻のピエロ〉を破壊してボクが受ける全てのダメージを2点減らす!」
発動コストで爆散してしまう〈竜巻のピエロ〉。
戸羽のやつ、焦って回復状態のブロッカーをコストにしやがったな。
疲労状態でブロッカーになれない〈クロノス・デストロイヤー〉を残しても意味ないだろうに。
「いってこい〈アメジストの従者〉!」
猫の執事は右手の肉球に溜め込んだエネルギーを集中させる。
そのまま巨大な肉球型と化したエネルギーの塊を、容赦なく戸羽にぶつけた。
「うわァァァァァァ!?」
戸羽:ライフ10→2
リミッター解除装置の影響か、凄まじい衝撃波と電気ショックが戸羽に襲いかかる。
流石に8点のダメージを一気に受けてしまったからか、戸羽は勢いよく後方の壁に叩きつけられてしまった。
「ゲホッ、ゲホっ……痛い、痛いよぉ」
「お前らが食いものにした人達も、同じ事を言ってたんじゃないか?」
「ボクは関係ないだろォ! ボクはここのルール通りにやっていただけで」
「自分のルールが外の無法だったら、正当性なんてどこにも無いだろ」
そう言うと戸羽は、血走った目でこちらを睨んでくる。
あくまで自分は間違っていない。あくまで自分は被害者なのだと言わんばかりに、戸羽は俺に憎悪を向けていた。
「なんでボクが責められてるんだよ……なんでボクが損してるんだよッ! そこはボクがいた場所の筈なのに、なんでお前がッ!」
いた筈の場所か。
確かに俺という存在は、この世界ではイレギュラーの極みだと言える。
俺が勝つ事で、結果的にどこかの誰かに皺寄せが来ていても不思議ではない。
カードプールと知識。この世界では強大極まる力を持ち込んでいる以上、うっかりで皺寄せを発生させているかもしれない。
その皺寄せが偶然にも戸羽に来ていた……なんて突飛な話も、決して否定はしきれないんだ。
「奪われたら奪い返す。俺も中学で経験があったけどさ……手段くらいは選ばないと、余計な火種しか生まないぞ」
「選んだら失った。お前が奪った! だからこうしてボクが戦うハメになっているんだ!」
「戦う相手が違うって……もっと早く気づけたら良かったのにな」
戸羽からすれば、あくまで俺が討つべき相手。
あくまで俺を討てば全てが解決すると考えているんだろう。
だけど今それを否定しても、もう戸羽の耳には入らないんだろうな。
「終わらせる。〈カーバンクル・ヴァンプ〉で攻撃!」
「馬鹿が、ボクは〈バラバラ・ウォール〉の効果で、ダメージを2点減らしている。ヒット2の攻撃じゃあボクのライフは――」
「〈トラペゾヘドロン〉第二の武装時効果。攻撃した時にブロックをされなかったら、武装しているモンスターのヒットを2つ上げる」
〈【幻紫公】カーバンクル・ヴァンプ〉ヒット2→4
レイピアから変形し、今度はマスケット銃のような形状になる〈トラペゾヘドロン〉。
本来は〈カーバンクル・サムルク〉を想定している効果だけど、割といつでも使える便利な効果だ。
変化した〈トラペゾヘドロン〉の銃口を、〈カーバンクル・ヴァンプ〉は戸羽に向ける。
「これなら2点減っても、2点はダメージとして入る」
「通すわけないだろォォォ! 魔法カード〈サクリファイス・ボム〉を発動!」
戸羽が発動した魔法カードによって、〈クロノス・デストロイヤー〉の身体に爆弾が装着される。
「コイツは自分のモンスターを1体破壊して、そのモンスターよりもパワーの低い相手モンスター1体を破壊する。ボクのために死んでくれ〈クロノス・デストロイヤー〉!」
戸羽の絶叫に応じて、爆弾が炸裂する。
パワー20000の〈クロノス・デストロイヤー〉は粉々に砕け散ってしまい、そのまま〈カーバンクル・ヴァンプ〉を道連れにしようとした。
なるほど、その為にわざわざ残していたのか……だけど詰めが甘すぎる。
「ハ、ハハ……これでもうボクのライフは」
「無駄だ。効果破壊くらいじゃあ〈カーバンクル〉は止められない」
爆風によって発生した煙が晴れていく。
その中から現れたのは、無傷で場に残っている〈カーバンクル・ヴァンプ〉であった。
「な、なんで」
「〈カーバンクル・ヴァンプ〉の専用効果【無限影】が発動した。俺がライフを回復したターン中であれば、〈カーバンクル・ヴァンプ〉は除去を受けても場に残る」
さらにターン中1回までなら回復状態にもなれる。
そして場に残る効果であれば、アームドの強制解除も発生しない。
「場を離れていなければヒットも4のままだ」
「なんで、なんでだよぉ……ここまで頑張ったのに、ここまで苦労したのに。なんで勝てないんだよぉ」
「道を間違えたんだよ。もっと早く気づくべきだったんだ」
「ボクは、勝って、玉座について、みんなに愛されるはずだったのに」
目に涙を浮かべて、ガタガタと震え始める戸羽。
だけどもう遅いんだ。後戻りするタイミングはもう過ぎてしまったんだ。
折れて堕ちた原因が俺だと理解していても、この後味の悪さを押し殺してトドメを刺すしかない。
だからこそ……
「いけ、〈カーバンクル――」
「この、バケモノがァァァ!」
戸羽の放ったその一言が、鋭利な刃物のように深く突き刺さってきた。
無意識に身体の動きが止まってしまい、頭の中でバケモノという言葉が反芻してしまう。
「俺は……」
わかってはいたけど、目を逸らし続けていた事実。
後の展開を知り、過剰な戦力と知識を持つ自分が、この世界ではどういう存在なのか。
バケモノ。その言葉を否定する事はできなかった。
何も間違ってはいない。イレギュラーである俺が、ただのバケモノだという事実は間違ってはいないんだ。
「ツルギ……」
カーバンクルがこちらを振り返ってくるが、その顔を見る事はできない。
心臓が大きく音を立てて、俺は顔を下に向けてしまう。
自分の中にあった正しさが全て音を立てて崩れていくような気がした。
本当に間違っていたのは自分という存在だったのではないか。
そんなネガティブな思考に飲み込まれそうになっていると、一人の叫び声が俺の耳に入ってきた。
「目を背けるな、天川ツルギィィィ!」
思わず声がした方へと振り向いてしまう。
そこに立っていたのは、自分のファイトを終えた財前であった。
「バケモノと呼ばれて何が悪い。いいか、キミをバケモノだと言った男はな、そのバケモノにすらなれなかった凡人でしかないんだぞ」
そして――と財前は戸羽の方に視線を向けて続ける。
「戸羽。そのバケモノにすらなる勇気すら持てず、外道に堕ちる選択をしたキミに……もはやファイターを名乗る資格はない」
威風堂々とした様子と圧で、財前は己の持論を戸羽にぶつける。
流石に戸羽も何か反論をしようとしているが、上手く言葉が出てきていない様子であった。
「今キミは玉座を欲していたね? だけど心の一つや二つが折れた程度で逃げた男が、玉座に座れるわけがないだろう?」
「うるさいッッッ! 財前だって、何度も天川に負けて損してきたんだろッ! なんでそっちについてるんだよッ!?」
「僕を舐めるなよ、クズが」
冷え切った声に怒りを乗せて、財前は戸羽に吐き捨てる。
「今さっきの勝利も、天川ツルギへの敗北も。僕はその一切合切を糧として楽しんでやると決めている。でなければ今まで僕に敗北してきた者や、僕を慕ってくれる臣下達に顔向けができないだろ? その程度の考えにも至れない奴が、王を名乗ろうとするんじゃあない」
「財前……お前」
「天川、バケモノで何が悪い? 戦う勇気と勝利する強さをバケモノだと言うなら、ボク達は全員とっくにバケモノだ」
そう言うと財前は再びこちらへと向いてくる。
何も迷いはない。ただ自分の正しさを信じて突き進もうとする人間が、そこにはいた。
「キミを倒して、僕は玉座につく予定なんだ。この程度の雑魚を相手に迷っていられると困るんだよ」
「……そうだな。その通りだ」
一度乗り始めた船と言うべきか。
これは既に始まった物語なんだ。
だったらたとえバケモノと呼ばれようとも、いつかハッピーエンドに至るための道のりだったら。
俺はバケモノでもいい。
「やらなきゃいけない事は山積みなんだ。バケモノにでもならなきゃ、やってられないよな」
これが玉座への過程なら、乗り越えるしかない。
「いくぞ、相棒」
「キュップイ!」
顔を上げた俺を見て、カーバンクは笑みを浮かべてくれる。
もう大丈夫だ。ならあとは勝つだけ。
「ひぃッ!? や、やめて、やめてください!」
「こう言っているが、天川はどうする?」
「決まってるだろ……クソ食らえだ」
きっと今の俺は財前と同じような表情をしているだろう。
たとえ相手が元クラスメイトであろうとも、この大馬鹿者は痛い目に遭わないと罪を理解できないんだ。
改めて〈カーバンクル・ヴァンプ〉はマスケット銃を戸羽に向ける。
「じゃあな、戸羽」
最後の挨拶を済ませると、カーバンクルはマスケット銃の引き金を引いた。
ダメージ軽減していても、もうライフは耐えられない。
言葉にならない叫び声を上げながら、銃弾は戸羽の身体を貫いてライフを削りきった。
戸羽:ライフ2→0
ツルギ:WIN
「これが王の道を邪魔する者の末路だ。勉強になっただろう?」
「お前が〆るのかよ」
勝手に〆の台詞を言ってきた財前に思わずツッコんでしまう。
周りを見る限り、どうやらこれで全てのファイトが終わったようだった。