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第百六十三話:堕ちた者は闇の底に棲む

黒崎(くろさき)先輩、この辺り在住なんですか?」

「いや、オレは別件の調べ物があっただけだ……それにしても」


 カードショップで遭遇した黒崎先輩は、俺を見るやどこか呆れたような様子になっていた。


「オレの話を聞いた後にあの目立ちよう……お前はバカなのか?」

「正直返す言葉もございません。でも不可抗力です」

「目立ち方のスケールがバグり過ぎている。流石にオレも頭痛を覚えたぞ」


 いや本当に申し訳ないです。

 そういえば黒崎先輩がクラスメイトに気をつけろとか言っていたけど、それとも関係あるのかな。

 それでも俺は例の配信に関しては不可抗力を主張するぞ。


「ツルギくんツルギくん。この人誰ですか?」

「ツルギの知り合いかしら?」


 ソラとアイの疑問を聞いて、俺は改めて先輩の存在感の薄さを認識してしまう。

 いやだって、学園でも黒崎先輩って名前くらいしか聞かない存在ですし。

 集会とかで出てきた回数ゼロ回だし、なんなら入学式でも一人だけ欠席してたし。

 そりゃあ急に顔出しで現れても認知されないよな。


「えーっとな、こちら六帝(りくてい)評議会で二年生の黒崎先輩」

「黒崎だ。裏帝(りてい)の名で玉座についている」


 流石にここまで名乗られたら理解もできたらしい。

 ソラとアイは分かりやすく驚いている。

 まあ仕方ないよな、黒崎先輩ってマジで表に出てこないし。


「ちょっとツルギ、いつに間に知り合ったのよ」

「ついこの前、牙丸先輩に呼び出された時に色々と」

「ついスルーしそうになりますけど、六帝評議会の人に呼び出されるってどういう状況なんですか」


 本当に色々あったんだよ。

 ちょうど黒崎先輩もいるし、例の同盟に関して話を――


「うわっ!? なんか錆びてそうな化神なのね」

「失敬な、こう見えて肌の手入れは欠かしてオりません」

「錆ケアを美肌ケアと同一視している存在なんて初めて見たっプイ」

「ワタシこう見えて紳士なので」


 化神の皆様が騒がしいなぁ。というかなんだよその会話は。

 というか化神であるシーカーがいるという事はつまり。


「……ねぇツルギ、化神が増えているように見えるのだけど」

「私も薄っすら何か見えてます。時計の化神ですか?」


 見えてるんだよなぁ、二人とも。


「黒崎先輩のパートナー化神だよ。なんかずっと気配を消していたんだってさ」

「そこの二人も化神が見えているのか。宮田愛梨(あいり)はこの前天川(てんかわ)から聞いた。もう一人は、目覚める前という奴か」

「はい。少しずつ認識ができるようになってるらしいです」


 ちなみに黒崎先輩はソラの事自体は知っていたらしい。

 そもそも成績優秀な一年生はある程度把握しているのだとか。

 やっぱり合宿での成績が大きいんだろうな。俺ら身内で上位独占しちゃったし。


「しかし運が良かったな天川」

「なにがですか?」

「今日出会ったクラスメイトが彼女達でだ」


 そういえばこの前会った時にも先輩は言ってたな。

 クラスメイトに気をつけろって。


「一応聞いておくが、今日は他にクラスメイトと出会ったか?」

「いや俺は会ってないです」

「私達もです。今日は他の人とは会ってません」


 ソラの言葉にアイも頷く。

 なんなら恐らく俺達は、夏休みに入ってから仲間内くらいでしか会っていない筈だ。

 他のクラスメイトとの連絡も特別密にとっている訳ではないし。


「そうか。尚のことお前達は運が良い」


 どこか安心したような様子でそう口にする黒崎先輩。

 意味がわからない……だけど心が何か嫌な予感を叫び出していた。


「天川、彼女達には例の件を話したのか?」

「同盟の件ならちょうど今から話そうと思ってたとこですよ」

「同盟、ですか?」


 頭上に疑問符を浮かべて首を傾げるソラ。

 俺達はフリーファイトスペースの隅に移動して、同盟の件について話した。

 ひと通りの話を聞いて、アイは腕を組み何かを考え込む。

 一方でソラはすぐに同盟への協力を申し出てくれた。


「私も協力します。速水くんの事もありますし、この前の事もありますから」

「そうね……私もあの施設の惨状を見てしまった身としては、見て見ぬ振りなんてできないわ」


 そう言うものの、何か引っ掛かりを感じているのか、アイはすぐに頷く様子はない。

 軽く周りに視線を向けて警戒をして、アイは小さな俺達だけに聞こえる程度の声量でソレを告げてきた。


「隠神島にあった施設……あれを建てたのはUFコーポレーションだそうよ」

「えっ!? むぎゅ」

「アイ、それマジか?」


 叫びそうになったソラの口に、思わずカーバンクルを押し当ててしまう。

 だけど俺も叫びそうなくらい驚いたのは事実だ。

 確かにUFコーポレーションのトップであるゼウスCEOは、アニメでも敵か味方か不明瞭なキャラだった。

 必然的にUFコーポレーションに幾つかの疑惑は向くけど、流石にウイルスの作製に関与していたのは予想外だったぞ。


「UFコーポレーションだと……まさか、政帝(せいてい)が」


 表情はほとんど変化していないが、黒崎先輩も驚いている様子だ。

 そしてウイルスに関与している以上、政帝とUFコーポレーションの繋がりという恐ろしい繋がりが浮かび上がってしまう。

 元々地下の世界でコネを作っていた男だったけど、まさかUFコーポレーションと手を組んでいたとは。


「表向きは立体映像技術の研究所。だけど実態はアレよ」

「化神を材料にしてウイルスカードを作っていた……けどあの施設が潰れたのは四年前だろ? となれば政帝が指示を出したとも――」

「指示を出すだけが手段じゃないわ。出来上がった後にウイルスを受け取るルートを獲得するなんて、話を聞く限り簡単に想像がつくわ」


 なるほどそっちのパターンか。

 確かに既に出来上がったものを受け取って、政帝が配るという事も可能だ。

 ただそうなれば出てくる疑問は一つ。


「あの施設にUFコーポレーションがどれだけ関わっていたか。そして政帝にウイルスカードを渡した誰かの存在か」

「そうなるわね。背後の強大さは気になるけれど、あんなモノをばら撒くような男を野放しにする訳にはいかないのも確か」


 そう言うとアイは黒崎先輩に視線を向けて、一つの問いかけをした。


「勝算は?」

「まだない。だが今は意思の確認をしている……少なくともオレを含めて四人の帝王が参加する同盟だ。この期に及んで『信じてくれ』なんて安い言葉しか出せない愚帝だ。笑い飛ばしてくれて構わない。だが叶うのであれば力を貸してくれないか?」

「……ふぅ。四人の帝王に切られた挙句、私達にも謀反を起こされるなんて……あの男、帝王なんて器じゃないわね」


 情け容赦なくそう吐き捨てるアイ。

 まぁ実際俺もあの男は帝王の器なんかじゃないと思うけど……やっぱりこう、現地人からの言葉って重みが違うな。


「もごもご」

「あっ、ごめんソラ」


 そういえばカーバンクルを押し当てたままだった。

 俺が急いでカーバンクルを外してあげる。


「ぷはぁ、謎のモフモフに埋められました」

「ツルギ、いくらなんでもボクのお腹で口封じをするのは酷いっプイ」


 仕方ないだろ緊急対処だったんだからさ。

 そりゃあウサギ的にはお腹って急所かもしれないけど、お前厳密にはウサギじゃないだろ。セーフだセーフ。

 ともあれソラとアイが同盟に参加する事を決めてくれた。

 あとで速水にも声をかけておこう。あいつは政帝の直接的な被害者でもあるからな。


「一年生のトップ達が敵でなくて安心している。やはり九頭竜が名前を出した奴らなだけはあるな」

「まぁ政帝には色々と思うところがあるんで」

「……上に立つ者とは、誰かしらの恨みを買うのが常だ。天川、玉座を目指すならよく覚えておけ」


 なにか含んでいるように、そう告げてくる黒崎先輩。

 誰かしらの恨みか……カードの勝敗で色々と左右される世界な以上、無いなんて事はないよな。


「良い機会だからそこの二人にも言っておこう。新学期が始まるまで身の回りには気をつけろ。特に……クラスメイトにはな」

「先輩。この前から気になってたんですけど、なんでクラスメイト限定なんですか?」


 嫌な予感が警鐘となって全身を駆けている。

 この前も、そしてさっきからの会話の中でも、黒崎先輩は何度も「クラスメイト」と言っていた。

 それが不穏な感じを出してきて、とにかく気持ちが悪い。


「……天川、あの数字について何か話したか?」

「なにも。いきなり話すような内容でもないんで」


 黒崎先輩の言葉に不穏なものを感じていたのはソラとアイも同様だったらしい。

 ただ俺は、今あの数字に言及された事が堪らなく不安でしかなかった。


「どうせ二学期が始まれば全員知る事だ。いいか天川?」


 それが必要な前提条件なら。俺は黒崎先輩の言葉に対して、無言で頷く。

 そして黒崎先輩は26人という数字を二人に伝えた。

 もちろん、それが二学期からの一年A組の人数だという事も。


「そんなに、ですか」

「これでも例年より生き残った方って、ホラーよりホラーじゃないの」


 二人とも色々と思うところはあるんだろう。

 当然だ、休み明けには40人だったクラスから14人も消えてるなんて言われたんだからな。

 ただ俺が最も不安なのは、この後の話だ。


「聖徳寺学園は毎年こうして心が折れたり、ドロップアウトした生徒が自主退学で去っていく。なにも珍しい事ではないが……学園を去っていった者がどうなるか、考えた事はあるか?」


 突然の問いかけを投げかけてくる黒崎先輩。

 心が折れた生徒のその後……想像もした事がなかった。


「無難に考えれば他の学校に転校する……しか出てこないんですけど」

「そうだな。天川の答えは最も平和なパターンだ」

「よくないパターンもある、と」

「残念ながら、そっちのパターンが毎年少なくない数出てくるんだよ」


 どこか達観した目でそう答える黒崎先輩。

 なるほど、なんとなく点が繋がってきた。

 当然ながら、良くない方向でだ。


「聖徳寺学園には教育熱心な家で育った生徒なんていくらでもいる。あるいは社会的地位が高い親を持つ生徒もそうだ。彼らは勝利と栄光を手にする事を当然だと考えている。実際、中学の頃は十分な栄光を得られたんだろう」

「井の中の蛙が大海を知ってしまった、って事ですか」

「身も蓋もない言い方すればそうだ。上には上がいる、真の強者を前にして初めて自分の立ち位置を知ってしまう。それが心に大きな傷をつけてしまうんだ」


 ここまで話されてしまえばアイとソラも色々理解できた様子だった。

 要するに自分のイメージしていた立ち位置に居られなかった、それが原因で心が折れて学園を去ってしまう。

 これだけを聞けば確かに良くありそうな話だ……だけど。


「先輩。そこからさっきの警告にどう繋がるんですか?」

「現実を受け入れられないのは、必ずしも当事者だけとは限らないという事だ。折れて学園を去った者の保護者……そちらが現実を拒絶した時が一番酷い」

「あぁ、そういう事ですか。それは酷い展開ですね」


 この世界は前の世界と比較して養護施設の数が少し多い。

 そんな社会が嫌でも答えを気づかせてくる。

 要するに退学してきた子供を親が捨ててしまうという事なんだろう。

 だから「クラスメイトに気をつけろ」か。


「大抵の者は変な事はしない……だが捨てる者がいれば、拾う悪人もいる」

「拾われた誰かが今年もいるって事ですか?」

「それを調べるために、オレは今日来たんだ」


 黒崎先輩曰く、学園の名前を使って単独で詐欺の類をする者もいれば、カードギャングに拾われてしまう者もいる。

 特にギャングに拾われた者は、学園時代の交友関係を利用して悪事を働く事も珍しくないのだとか。


「違反な地下ファイトへの誘導、学園の名を使った特殊詐欺にカードショップ狙いの強盗。前例を出せばキリがない」


 そんなにも前例があるという事実が一番怖いです。

 だけど、そんな反社会組織に拾われてしまった誰かがいるのだとすれば……それも十分に後味が悪いな。


「改めて注告しておこう。クラスメイトには気をつけろ。特に天川」

「えっ、なんで俺だけ」

「あれだけ配信でバズるような目立ち方をしたんだぞ。堕ちた者からすればカモがネギを背負ったようなものだ」


 あっ、最初に俺に呆れていたのはそういう意味だったんですね。

 だったら最初から諸々言ってください分かりにくいです。

 あとソラとアイよ、後ろでウンウン頷くのやめてくれ。あれは不可抗力の方が大きいんだ。


「悪いことは言わない。今日は家に帰って、しばらくは大人しくしていろ」


 そう言い残すと、黒崎先輩は俺達の元を去っていった。

 流石にこんな話を聞いた後となっては、外に長居するのも気が乗らない。

 俺達は大人しく今日は家に帰ることにした。


(あれ? そういえばシーカーって、今日は気配を消さずに出たまんまだったな)


 黒崎先輩のパートナー化神に抱いた小さな違和感が頭に浮かんでしまう。

 何か特別な理由があるのだろうか……あったとしても、不穏とは無縁な理由であって欲しい。

 ただそう思わずにはいられなかった。

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