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第百六十話:【決着】ゼニスとカオス【しちゃった】

「そろそろ決めないとマズマズだよ。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 智代(ちよ):手札1枚→2枚


 少し焦り気味にドローをする智代ちゃん。

 まぁ向こうのライフが10あるとはいえ、状況的には安心材料にならないからな。

 さっき手札を1枚使ってしまったし、今のドローで何か良いカードを引ければ変わりそうだけど。


「キッッッタァァァァァァァァァ!」

「声でかぁ」


 良いカードを引いたのは分かるけど、マジで声デカいな智代ちゃん。

 あの和尚さんといい、これで近所迷惑にならないのは世界のバグだと思うんだ。


“鼓膜ないなる”

“鼓膜さん死亡(1回ぶり32回目)”

“誰かミュートしました?”


 いや、バグでもないのかもしれない。


「メインフェイズ! 魔法カード〈転生したら配信者だった件〉を発動!」


 おっ、系統:《明星(めいせい)》専用の蘇生魔法か。

 場のモンスターを犠牲にして、カード名が異なるモンスターを復活させる効果だけど……


「いいのか、不用意に魔法カードを使って?」

「先生のカードが魔法効果を無効にできるのって、武装時効果ですよね? だったらモンスターに武装されていない今は問題なしです!」

「大正解」


 よしよし、ちゃんとカードを見ていたんだな。

 先生嬉しくて笑顔になっちゃうよ。


「私は場の〈ユナ・スプラン〉を墓地に送って、カード名が異なるモンスターを墓地から復活させます! 来て〈戦乙女ワンダ!〉」


 そして智代ちゃんの場に再び現れる、長い青髪が特徴的な美少女型モンスター。


〈戦乙女ワンダ〉P6000 ヒット1


「さらに〈転生したら配信者だった件〉の追加効果。墓地に送ったモンスターよりもヒット数の高いモンスターを復活させたら、カードを1枚ドローです!」


 智代:手札1枚→2枚


 いいね、ヒット0のモンスターを犠牲にしたから確実にドローできる使い方だ。

 さらに言えば、このタイミングで〈ワンダ〉を蘇生したという事は……智代ちゃんの手札には、アレがあるな。


「それじゃあ、CHIYOの切り札いっちゃうよォォォ!」


 高過ぎるテンションと叫び声で、智代ちゃんは1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「戦乙女シスターズの姉。何度でも頂点に君臨するのは、このお姉様だァァァ! 〈戦乙女ゼニス〉召喚!」


 そして智代ちゃんの場に召喚された1体のモンスター。

 白い鎧のようなデザインの衣装を身に纏い、ワンダと同じく長く青い髪が特徴的な高身長の女性。

 これが智代ちゃんの切り札であり〈戦乙女ワンダ〉の姉、〈戦乙女ゼニス〉である。


〈戦乙女ゼニス〉P10000 ヒット3


“ゼニスお姉様キタァァァァァァ!”

“ステータスが高けりゃ、召喚コストもクソ重いゼニスお姉様だ!”

“↑場のモンスター2体破壊して手札2枚捨てるのは重すぎるんだよ。ゼニスお姉様はダイエットして”

“↑でも場にワンダちゃんがいれば召喚コスト無くなるから(震え声)“

”妹のために召喚コストをダイエットするゼニスお姉様好き“


 リスナーの皆様、解説ありがとう。

 あとダイエットって表現はやめてくれ、俺が吹き出しそうになるから。

 そして〈ワンダ〉がいる状態で召喚した場合、〈ゼニス〉は追加効果を発動できる。


「コストを踏み倒して召喚した〈戦乙女ゼニス〉の効果発動! デッキから『リブート』と名のつく魔法カードを1枚選んで手札に加える事ができる。私はデッキから〈(ダッシュ)リブート!〉を手札に!」


 これがあるから〈ゼニス〉は少し厄介なんだよな。

 名称『リブート』を持つ魔法カードをサーチしてくる効果だけど、そもそも『リブート』の魔法ってだいたいモンスターを回復させる効果だからな。

 軽々と追撃手段を確保するのは流石に強力と言う他ない。

 ……なんで配信者とは関係なさそうなのに『リブート』をサポートしてるんだろう?


”戦乙女で……ゼニスで……リブート?“

”あれ、もしかしてCHIYOちゃんのモンスターって全部”

”おいバカやめろ消されるぞ!“

”はいお薬打ちましょうね〜“


 ……考えない方が良いのかもしれない。


「アタックフェイズ! まずは〈戦乙女ワンダ〉の【バズドライブ!】発動!」


 俺のデッキトップはヒット2のモンスターカード〈ストライク・マイスター〉。

 効果によって〈ワンダ〉はヒット+1を2回行う。


〈戦乙女ワンダ〉ヒット1→3


「〈ワンダ〉で先生に攻撃!」

「ブロッカーはいないか……ライフで受ける」


 ツルギ:ライフ7→4


 ここまでは想定内。俺は自分の手札に視線を落とす。

 こいつの発動タイミングは……


「続いて〈戦乙女ゼニス〉で攻撃!」

「そこっ! 魔法カード〈バラバラウォール〉を発動!」

「えっ、防御カード?」

「発動コストで〈見習いナイト〉を破壊。このターン俺が受ける全てのダメージを2点減らす」


 爆散して防御バリアのエネルギーに変換される〈見習いナイト〉。

 モンスターを横に並べやすい【バニラコントロール】だと非常に使いやすい防御魔法だ。

 とは言ってもダメージを減らすだけで、全て防げる訳ではない。


「その攻撃もライフで受ける」


 無言で歩みよってくる〈戦乙女ゼニス〉……こうやって立体映像で見ると身長高いな。

 まるで養豚場のブタを見るような冷たい視線を投げつけながら、〈ゼニス〉は俺に蹴りを一発入れてくる。


ツルギ:ライフ4→3


“ありがとうございます!”

“蔑みキックたすかる”


 リスナーさん、もう少し性癖を隠してコメントしてくれ。

 さて、これで智代ちゃんの場に残った攻撃可能モンスターは、ヒット2の〈左龍院(さりゅういん)アオ〉だけとなった。

 ダメージを2点軽減しているから、攻撃しても意味はない。


(だけど智代ちゃんの手札には、さっきサーチしてきたアレがある)


 魔法カード〈Dリブート!〉。相手のデッキトップにあるカードの種類によって効果が変化する魔法カードだ。

 デッキトップが魔法カードなら、墓地からモンスター1体を蘇生。

 逆にモンスターカードなら、そのヒット数だけ自軍のモンスターを回復させる。


(そして智代ちゃんの場にいる〈戦乙女ワンダ〉。アイツは『リブート』と名のつく魔法の効果で回復すると、自身のヒット数だけ相手にダメージを与える効果を持っている)


 これは流石にもう一手防御札が欲しいな。

 となればやはり、これを使うべきか。


「いっくよォォォ! 魔法カード〈Dリブート!〉を発動! 先生のデッキトップはヒット2のモンスターだから、私のモンスターを2体回復――」

「魔法カード〈バニラドロー!〉を発動!」

「え”っ!? 3枚目ェェェ!?」


 そりゃあドローソースは何枚あっても困りませんから。

 と言っても今俺の場にはバニラモンスター1体しかいないんだけどな。


“うわぁ3枚目だよ”

“もう乾いた笑いしか出ない”

“これデッキトップ変わっちゃうから、CHIYOちゃんのプランぐちゃぐちゃにできるじゃん”

“↑ぐちゃぐちゃCHIYOちゃんって字面エロくね?”

“↑死刑”


「今CHIYOちゃんの場にはモンスターが3体。となれば理想はデッキトップが魔法カードになる事だな。次点でヒット1以下のモンスターカード」

「つまりこれは先生にとってギャンブルってわけですね」

「そういう事。こういうギャンブルって配信映えするじゃん?」

「すッッッッッッごくします!」


 それでは気合を入れて、運命のドローをさせていただきましょう。

 俺はワクワクする気持ちを抑える事なく、デッキから1枚ドローした。


 ツルギ:手札1枚→2枚


「さぁてデッキトップは何に……あっ」


 俺は自身のデッキトップに来たカードを見た瞬間、思わず間抜けな声を漏らしてしまった。

 これ、デッキに3枚しか入れてないんだけど……まさかここで来てしまうとは。


 ツルギのデッキトップ:〈第十三代スーパー無色無敵セイバー〉


「アームドカード……あれ? これは、どうなるんですか?」


“アームドがデッキトップに来たら……どうなるん?”

“↑知らん。教えてエロい人”


 智代ちゃんもリスナーさん達も困惑しているな。

 まぁこの世界アームド実装されて間もないし、この辺の裁定やルールは分からないよな。


「えーっとCHIYOちゃん。明星のカードって相手のデッキトップがモンスターか魔法の時に効果を発動するだろ?」

「はい。相手のデッキトップによって効果が変化し……あッ!?」

「デッキトップがモンスターでも魔法でもない場合、何も発動しなくなるんだ」


 つまり俺のデッキトップはまさかの大当たりだったわけだ。

 アームドカードはモンスターでも魔法でもないからな。

 結果的に智代ちゃんの発動した〈Dリブート!〉は効果を失って不発に終わってしまう。


”ちょwwwマジかwww“

”あっ、そういう裁定なんですね“

”でも言われてみれば確かに、明星のカードってモンスターと魔法しか参照してないな“

”【速報】アームドカード予想外の方向から有能さを見せてくる“

”これ知っておかないと後で苦労するルールじゃね?“


 リスナーさんにも勉強になったらしい。

 でもこのルールが本当に活かされる場面って少ないだろうぁら、そこまで気にしなくて大丈夫だぞ。


「う〜ん、攻撃しても無駄だし。ターンエンドです!」


 智代:ライフ10 手札1枚

 場:〈左龍院アオ〉〈戦乙女ワンダ〉〈戦乙女ゼニス〉


 予想外な生き残り方をしてしまったけど、ターンが回ってきた以上ここからは勝ちに行かせてもらいますか。


「俺のターン。スタートフェイズ、ドローフェイズ」


 ツルギ:手札2枚→3枚


 ドローといっても、デッキトップが確定しているので〈無色無敵セイバー〉が手札に来ただけ。

 そして新しいデッキトップはと言うと……魔法カード〈バラバラウォール〉の2枚目か。

 モンスターカードよりはずっといいし、最後の詰めを実行しやすくなった。


「メインフェイズ。手札を1枚捨てる事で、墓地から魔法カード〈ザ・ビーストゲート〉を発動!」

「えっ、墓地から発動できる魔法カードですか!?」

「コイツは自分のライフが4以下の場合、手札を捨てて自身を墓地から除外しても発動できるカードなんだ。そして〈ザ・ビーストゲート〉の効果で、俺はデッキから系統:《魔獣》を持つモンスターを1体選んで手札に加える」


 これを見越してさっきのターンにダメージを受けておいて正解だった。

 そして俺はデッキに入れてある唯一の系統:《魔獣》を持つモンスターを探し出す。


「俺は〈カオスロード・キマイラ〉を手札に加えて……早速召喚させてもらう! 召喚コストは自分の場に存在するカードを全て墓地に送ること!」


 そのコストによって〈オブシディアンの封印竜〉と〈第十三代スーパー無色無敵セイバー〉が墓地に送られる。

 コイツは直接的なバニラサポートではないけど、その性質から【バニラコントロール】のフィニッシャーとして採用される効果モンスター。


「来い〈カオスロード・キマイラ〉!」


 黒い魔法陣を食い破って召喚されたのは、紫色の鱗や体毛が特徴的な合成獣。


〈カオスロード・キマイラ〉P? ヒット?


「パワーとヒットが決まって……ってあれ? 先生、たしか先生のアームドカードってバニラじゃないモンスターを召喚できなくなるデメリットがあったはずですけど」

「そうだな。ではここで『召喚制限が適用されるタイミングと召喚コスト』についての授業です」


”授業たすかる“

”なんで今バニラでないモンスターを召喚できたのか分からなかったからマジで助かる“

”これが無料の配信ってマジで言ってる?“


「まず前提として、モンスターの召喚に制限がかかっていても、召喚コストの支払いだけならできるんだよ」

「えっ、でもそれってコストを払う意味がないんじゃ」

「その通り。召喚コストを払ってもその後に召喚制限の効果に引っかかるから、結局モンスターは場に出てこない……じゃあコストで召喚制限をかけているカードを墓地に送った場合はどうなる?」


”あっ、もしかして“

”コストで墓地に送ったら召喚制限が解除されるってこと?“


「はいリスナーさん正解。今回の場合〈カオスロード・キマイラ〉のコストで召喚制限をかけている〈無色無敵セイバー〉を墓地に送ったから、召喚成功を判定するタイミングで〈無色無敵セイバー〉の効果が適用されないんだ」

「なるほど、そういう事なんですね」

「一部の相手モンスターをコストで除去できるカードにも関わる事だから、覚えておいて損はないルールだぞ」


”マジでためになる“

”これとりあえずスパチャしておけば良いのかな【50000円】”

“俺もしとこ【50000円】”


 リスナーさん、お金はもっと大事に扱おうね。

 いや俺は言えるような人間じゃないか。


「さて〈カオスロード・キマイラ〉のパワーとヒットは墓地に存在するモンスターの系統によって決定する」

「そういえば先生、コストとか色々で墓地にカードが溜まっていたような」

「まずは墓地に存在する系統1種類につきパワー+2000」


〈カオスロード・キマイラ〉P?→18000


「さらに墓地に存在する異なる系統を持つモンスターカード1種類につきヒット+1」


〈カオスロード・キマイラ〉ヒット?→7


「先生、私もう笑う事しかできません」

「ちなみに墓地に存在する系統が8種類以上あるので【2回攻撃】と【貫通】のオマケつきだぞ」

「笑顔まで奪われました」


“わァ……あぁ……”

“↑誰だって泣く。俺だって泣く”

“なんか妙に系統バラけさせてるなと思ったらよぉ”

“パワー18000ヒット7の【貫通】【2回攻撃】は犯罪なんよ”

“↑これが合法であって良いはずがない。たすけて“


 うーん、コメント欄が阿鼻叫喚だな。

 確かにステータスはデカいけどコイツ耐性ないし、今の俺は智代ちゃんの魔法を無効化する手段を持ってないんだけどな。

 なのでコイツの攻撃で終わらせようと思います。


「アタックフェイズ。さぁてCHIYOちゃん、防御魔法の準備はいいか?」

「せ、先生? ちょっと待って」

「待ったはなし! 〈カオスロード・キマイラ〉で攻撃!」

「キャァァァ!? 〈左龍院アオ〉でブロックです!」


 哀れ左龍院、巨大合成獣による渾身の猫パンチによって呆気なく爆散してしまった。

 ……その強面で猫パンチするんだな。

 そしてモンスターを戦闘破壊した事で貫通ダメージが入る。


 智代:ライフ10→3


「これで終わらせる。〈カオスロード・キマイラ〉で2回攻撃!」

「ひぎぃ!? 魔法カード〈Dリブート!〉……でモンスターを蘇生しても防げませーん!」


 あっ、最後の1枚それだったんだ。

 でも残念ながら防げないならゲームエンドです。

 強面な〈カオスロード・キマイラ〉は自身の前足を振り下ろして、智代ちゃんのライフを全て吹き飛ばしてしまった。


 智代:ライフ3→0

 ツルギ:WIN


”うわバニラこわい“

”2対1で勝つとか……“

”もうバニラの事舐めません“

”バニラさんの靴舐めます“

”やべぇ、俺も【バニラコントロール】っての組んでみようかな“

”バニラサポート高騰不可避www“


 コメント欄を軽く見てみる。

 なんか色々言いたい事はあるけど……まぁ概ね好評と捉えていいのかな?

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