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第百五十七話:舞の【星菓】智代の【明星】

 近くの公園に移動してファイトの準備をする。

 道中で智代ちゃんに教えてもらい、召喚器の仮想モニターからリスナーのコメントを見れるようにしてもらった。

 改めて思うけど、召喚器って便利だな。


「おぉ、本当にコメント欄専用の画面が出てきた。科学の力ってすごい」


“やっほー見てるー?”

“今から殺戮兵器が意味不明な事をしまーす”

“いやゴメン、本ッッッ当にさっきのデッキ名は意味が分からない”

“バニラコントロールは流石に宇宙猫不可避“


 配信のコメント欄を見るのって楽しいな。

 主に困惑の反応とか色々と。


「せんせぇー! 準備できたよー!」

「二人とも大丈夫そうだな。じゃあ今回はバトルロワイヤルモードを使ってやるぞ」


 一応多人数戦専用のルールもあるんだけど、バトルロイヤルモードを応用した方が自由度の高いファイトができる。

 タッグファイトと違って盤面の共有とかも無いからな。

 それで今回のファイトはこんな感じ。


 ・ターンの順番は舞ちゃん→智代ちゃん→俺

 ・全員最初の1ターン目はドローフェイズとアタックフェイズを行えない。

 ・俺が敗北した時点で舞ちゃんと智代ちゃんの勝利が確定する。逆に俺は二人を倒す事が勝利条件となる。


 このルール説明の文章、智代ちゃんがサクッと作って配信画面に表示しているけど……本当に便利だなぁ。


「それじゃあターゲット――」

「あっ先生! ちょっと待っててくださいね」


 そう言うと智代ちゃんは首からかけていたヘッドホンをしっかり装着する。

 なんでだろう……今カチリと何かスイッチが入る音がしたような気がしたんだが。


「うぅぅ〜、ドキドキしてキタァァァァァァ! リスナーのみんな応援よろしくねェェェェェェ!」


 やべぇぞ智代ちゃんが壊れた。

 君そんな絶叫するタイプの子じゃなかっただろ、どういう事だよ。

 そんな困惑を感じながら、俺はベンチに座って見学いている卯月の方を向いてみる。


「お兄……残念だけどあの子、配信中はそれがデフォだから」


 そっかぁ。世界は広かったんだな。

 ギャップって案外身近なところに落ちていたよ。


「それじゃあ気を取り直して」


 俺と舞ちゃん智代ちゃんは、各々の召喚器を手に取り前に出す。


「「「ターゲットロック!」」」


 あらかじめモード設定をしておいたので、無線接続と同時に召喚器がバトルロイヤルモードで開始してくれる。

 さぁて、あれから二人がどんな成長したのか。

 期待感を高めつつ、ファイトを始めるとしよう。


「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」


 ターン順はあらかじめ決めていたので、まずは舞ちゃんからだ。


「あたしのターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 最初の手札を一瞬だけ見るや、舞ちゃんは迷わず1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。


「まずはお馴染みのメニュー! ライフを2点払って〈プリン・プーリン〉を召喚!」


 舞ちゃんの場に出てきたのは、お菓子のプリンをイメージしたローブを着た魔女のお姉さん。

 手には大きなプリンがデザインされた長い杖を握っている。


 舞:ライフ10→8

〈プリン・プーリン〉P2000 ヒット1


 これが舞ちゃんの使う系統:《星菓(せいか)》を主軸にしたスイーツデッキ。

 ちなみにカードのモチーフはお菓子+円卓の騎士だ。


「さっそくいきまーす! 〈プリン・プーリン〉の召喚時効果であたしのデッキを上から3枚オープン!」


 オープンしたカード:〈マーマレッド〉〈おぐらヴェイン〉〈ディフェンスシフト〉


「その中から系統:《星菓》を持つカード〈マーマレッド〉を手札に加えて、残りは墓地へ!」


 まずは防御札になるモンスターを回収したか。

 良い判断をしてくれるようになって、俺も嬉しいよ。


「あたしはコレでターンエンド!」


 舞:ライフ8 手札5枚

 場:〈プリン・プーリン〉


 下手にモンスターを並べず我慢できたか。

 最初の頃だったらとりあえずでモンスターを3体召喚してたからな〜、本当に成長してくれて嬉しいよ。

 さて、次は智代ちゃんのターンか。


「さぁて、CHIYOのターンはっじめっるよォォォォォォ!」


 滅茶苦茶叫ぶなこの子。近所迷惑にならなければ良いんだけど。


「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ!」


“頑張れCHIYOちゃん!”

“CHIYOちゃんの実力、先生に見せたれ!”


 コメント欄が動いているけど、智代ちゃんリスナー達から愛されてるな〜。


「今日最初の出演はこの2人! 〈ドクター・スコーピオン〉と〈ユナ・スプラン〉を召喚!」


 勢いよく2枚のカードを使って、智代ちゃんの場には2体のモンスターが姿を現す。

 1体はサソリの尻尾と意匠を持つ、白衣を着たイケメン医師。

 もう1体は赤色を主体に黒と金の差し色が入った衣装に身を包んでいる、白い髪と赤いエクステが特徴的な美少女。


〈ドクター・スコーピオン〉P3000 ヒット0

〈ユナ・スプラン〉P7000 ヒット0


 智代ちゃんが使う系統:《明星(めいせい)》。

 架空の配信者をモチーフにしたカード群だけど……何故かこのカード達を見ていると配信者とは無関係なものを思い出しそうになるんだよな。

 ……不思議と思い出してはいけない気もするけど。


「さっそく見ちゃうよー! 〈ドクター〉と〈ユナ〉の【バズドライブ!】」


 おっとそうだった。智代ちゃんのデッキにはソレがあるんだったな。

 モンスターが持つ専用能力によって、俺と舞ちゃんはデッキの1番上のカードが表向きになってしまう。


 舞のデッキトップ:〈チョコペンドラゴン〉

 ツルギのデッキトップ:〈ポチウルフ〉


 あの2体ならすぐにメイン効果は発動しないけど……デッキトップが見えたせいでコメント欄が盛り上がっているな。


“ぽぽぽ〈ポチウルフ〉!?”

“マジでバニラモンスターじゃねーか!”

“そのカードなら俺も36枚は持ってるよ”

“本当に大丈夫? 本当にそのモンスター使ったデッキで大丈夫!?”


 まぁそうなるだろうな、ここまでは想定内の反応。

 実際俺のデッキトップにいる〈ポチウルフ〉はバニラにしては少しパワーが高いだけのカードだからな。

 まぁそれでも良いんだけどね……系統さえバラバラにできればそれで良い。


「先生、本当にバニラモンスターでデッキ組んだんだ……ターンエンド」


 智代:ライフ10 手札3枚

 場:〈ドクター・スコーピオン〉〈ユナ・スプラン〉


 少し呆気に取られた様子でターンを終える智代ちゃん。

 でもここからは別の意味でリアクションさせてやる。

 バニラモンスターの本気……前の世界では諸事情で短命のデッキだったけど、それでもこの世界なら本気を出せると信じて。


「俺のターン、スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 短命デッキなりに今この瞬間を輝かせる。


「さっそくいくぜ。魔法カード〈ザ・無色スクランブル!〉を発動!」


”いま無職って言った?“

”一瞬呼ばれたかと思ったぞ“

”働け無職ども。あと無職じゃなくて無色な”

“無職がスクランブルできるわけないだろッ!”


 なんだここのコメント欄は。

 それはさておき効果処理に入ります。


「このカードは自分のデッキを上から4枚オープンして、その中に異なる系統を持つバニラモンスターがあれば好きなだけ選んで……召喚コストを払わずに召喚する!」

「えー!? 召喚コストも踏み倒すのー!?」

「それ強すぎませ……あれ? バニラモンスターに召喚コストを要求するカードってありましたっけ?」

「一応何枚かあるぞ。それと一つ豆知識、召喚コストは効果テキストには含まれない。だから召喚コストが書かれていても効果が無ければバニラモンスターとして扱うぞ」


 前の世界でも度々話題になったサモン豆知識。

 まぁこの知識が必要になるデッキって、今俺が使っているコレくらいなんだけどな。


“へぇ〜”

“ためになるな〜”

“へぇ〜(連打)”


 さぁてデッキをオープンしますか。


 オープンしたカード:〈ポチウルフ〉〈ブイ・イッスン〉〈見習いナイト〉〈ザ・ビーストゲート〉


「良い感じ! 俺はバニラモンスターの〈ポチウルフ〉〈ブイ・イッスン〉〈見習いナイト〉を全て召喚!」


 残りのカードは墓地に送ります。

 そして俺の場に姿を現す3体のモンスター。

 緑色の体毛に包まれた子狼。一寸法師のような小人の戦士。そして簡素な装備に身を包んだ駆け出しの騎士だ。


〈ポチウルフ〉P6000 ヒット1

〈ブイ・イッスン〉P6000 ヒット1

〈見習いナイト〉P3000 ヒット3


「バニラでも、いきなりモンスター3体はちょっと大変かもですね」

「あたし頑張って倒すね!」

「じゃあ倒されちゃう前に次の魔法を使うとするか。魔法カード〈バニラドロー!〉を発動」


 初期のパックに収録されていたバニラサポートのカード。

 このデッキでは必須となるドローソースだ。


「このカードは自分の場に存在するバニラモンスターの数だけ、デッキからカードをドローする」


“ちょwwwおまッ! 3ドローとかふざけんなwww”

“俺バニラサポート舐めてたわ”

“ほとんどノーコス3ドローは犯罪と同義だぞ。俺が許してもCHIYOちゃんが許さない”

“↑そのCHIYOちゃんが真顔になっているんですが”


 リスナーさん達よ、強く見えるだろ? ノーコス3ドローってさ。

 でもこのカードを発動するターン、俺はバニラモンスター以外召喚できなくなるんだぜ。

 これくらいのデメリットが無いとお手軽3ドローなんて許されないんだよ。

 ……なんで藍や九頭竜さんはお手軽3ドローが許されるんだろう。


 ツルギ:手札3枚→6枚


 ドローしたカードを確認して……よし、運良く最初のターンで来てくれた。


「これが無ければ【バニラコントロール】なんてデッキは成立しないからな。今回のキーカードを見せてやる」

「せんせぇ! 嫌な予感しかしませーん!」

「先生、やっぱりお手柔らかにお願いします!」


 ダメです。本気で勝ちに来てください。


「コストで〈ポチウルフ〉を墓地へ送り……アームドカード〈第十三代スーパー無色無敵(むしょくむてき)セイバー〉を顕現!」

「先生ェェェ!? カード名がふざけ過ぎてると思いまァァァす!」


 仕方ないだろ智代ちゃん。そういうカード名なんだからさ。

 カードを使うと空間に裂け目が現れ、そこから一振りの剣が俺の場に突き刺さった。

 一見するとシンプルなデザインの平凡な剣。

 だけどその中身は【バニラコントロール】というデッキを成立させた、強力なサポートカードだ。


“無職で無敵とか最悪じゃねーか”

“第十三代って……初代から十二代目はどこだよ”

“珍しいアームドカードの登場よりも、他の要素が気になって仕方ないんだが”

“無職無敵って、俺専用のアームドカードか?”

“↑いい加減働け”


 だからリスナーさん達よ、無職じゃなくてバニラの無色だっての。

 あとなんか無職っぽいリスナーがいるんだけど、女子中学生の配信に来ている無職って普通にホラーだぞ。


「当然ながら武装条件はバニラモンスターである事。俺は〈第十三代スーパー無色無敵セイバー〉を〈見習いナイト〉に武装(アームド)!」


 地面に刺さっていた剣を引き抜いて装備する見習い騎士。

 なんか流れ的に酷いワードが出ちゃうそうだけど、俺が頑張って耐えるからな。

 それはそうとして、これで俺の場には空きが1つできたわけだ。


「空いた場にはコイツ。〈ホロロギウム・エンジェル〉を召喚」


 俺の場に大きな時計を手に持った天使が召喚される。

 時計座を司る聖天使だけど……バニラじゃあソラのデッキには入らないよな。


〈ホロロギウム・エンジェル〉P5000 ヒット2


「まずはこれで良いか。ターンエンド」


 おっとその前にデッキトップを確認しておこう。

 智代ちゃんの場にいるモンスターの効果で表にされているからな。

 ……〈テッポウダマ001〉か、ヒット2のバニラモンスターだな。


 ツルギ:ライフ10 手札4枚

 場:〈ホロロギウム・エンジェル〉〈ブイ・イッスン〉〈見習いナイト〉


 とりあえず最初のターンは終わったけど、俺のデッキトップはモンスターカードか。

 これは……智代ちゃんのモンスターが厄介になるかもな。

 俺は自分の手札に視線を落としながら、そう考えるのだった。

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