第百五十五話:【企画会議】CHIYOちゃんねる【3人で?】
「おはこんCHIYO……突然ですが夏休みなのにネタ切れしました」
“おはこんCHI……マジかよ”
“開幕早々ぶっちゃけるな〜この子は“
”よく見たら配信タイトルに【企画会議】とか書いてる“
”この前やった『ミニカーのドア全部内開きに改造してみた』そんなにダメやったん?“
”↑何回見ても字面が意味不明だし、実際の内容もカオス過ぎたんだよな〜“
”↑あれは人類には早すぎたんよ“
過剰なまでに神妙な様子で、夢咲智代……こと配信者CHIYOは現状を語り始める。
リスナーはコメント欄で思うがままに発言をしているが、基本的には「最近のCHIYOは人類には早すぎる企画し過ぎ」で一致していた。
「なので今日は真面目に次の企画を考えていきたいと思います」
”やべぇ、CHIYOがマジトーンだ”
“ハジケが不足し過ぎているな。パチパチキャンディ食え”
“あれ? 今気づいたけど、なんか背景がいつもと違わない?”
“マジだ。いつものCHIYOルームじゃない……どこ?”
いつもと配信場所が違うと気づいたリスナーのコメントを見た瞬間、智代はニンマリと大袈裟に笑みを浮かべる。
それが画面に映った瞬間、リスナーは口々に「狙ったな」とコメントしていた。
「フッフッフッ〜。さーてリスナーさん? 私は今どこにいるでしょうか」
「CHIYO、なんでそこで引き伸ばそうとするの」
「ちょっと蛇姫ちゃん! 急に出てきちゃダメだよ!」
「はいどーも。今日はアタシの部屋から配信です」
“蛇姫ちゃんキタァァァ!”
“日刊LO助かる”
“今日もデッキが破壊される”
“えっ!? ここ蛇姫ちゃんルームなの!?”
“やべぇぞ……ドキドキが止まらねぇ”
“↑これは下心なのか不安感なのか、判別しかねる”
“↑両方じゃね?”
雑に現れるや、すぐさま配信場所のネタバレをする部屋の主……もとい卯月。
元々今日は夏休みの宿題をみんなで片付ける予定だったのだが、ノルマ達成した途端に智代が必死の形相で配信に誘ってきたのだ。
曰く「バズるかどうかじゃないの。リスナーを繋ぎ止める策が必要なの」との事だが、卯月は智代の将来にやや不安を感じるのだった。
“CHIYOちゃん! 蛇姫ちゃんのお部屋紹介企画なんてどうでしょうか! なんなら今すぐお願いします!”
“↑ここに自殺志願者がおる”
“↑オイオイオイだわ”
“↑ヒント:デッキ破壊。蛇姫の兄。その他諸々“
”↑死んだわアイツ“
「その企画は却下するね。女の子の秘密を探り過ぎるのはNG」
「なんでアタシの周りって変な男しかいないんだろう……」
「ねぇ二人ともー、きかく会議しないのー?」
リスナーとの雑談を開始する二人をせっつきながら、3人目の出演者であり卯月の友人である甘利舞が画面に現れた。
何故かシュークリームを食べながらの登場であったが、舞の登場によってコメント欄は更に盛り上がる。
”舞ちゃん出たァァァァァァ!“
”舞ちゃんもっとお菓子食べて!“
”舞ちゃんスイーツ作って!“
”俺も舞ちゃんに【デコレーション】されたいです“
”↑舞ちゃんをいやらしい目で見るな“
”↑蛇姫ちゃんはともかく、舞ちゃんはアウト過ぎるだろ“
”↑いっぺん死んでみるか?“
「舞ちゃんは私が絶対に守護る。私に【バズドライブ!】されたいリスナーさんは首を差し出して」
「CHIYOちゃん顔怖いよ」
「ねぇ二人とも、もっと突っ込んで欲しいところがあるんだけど。蛇姫はともかくって何よ!?」
処刑人の顔になる智代と、それをのほほんと見ながらシュークリームを頬張る舞。
そしてリスナーの発した「蛇姫はともかく」発言が引っかかりすぎる卯月という、混沌を極めたような絵面が完成していた。
ちなみに当初は舞もハンドルネームを用意されていたが、当の本人が自身のハンドルネームをド忘れするという事態が多発。
最終的に紆余曲折もあり、舞だけ本名で配信するというストロングスタイルが完成してしまった。
「ねぇねぇ、それで次のきかく何するのー?」
「それよね……CHIYOは何したいの?」
「絵面が面白い企画が良いなぁって。地獄絵図ならなお良し」
”ご覧ください。これはキャラ付けとか厨二病的なやつではなく、JCによるマジのナチュラル発言です“
”どうして女子中学生が地獄絵図を作る企画を欲してるんですか?“
”↑ヒント:CHIYOの先生“
”↑ヒント:舞ちゃんのせんせぇ”
“↑ヒント:蛇姫の兄”
“真実は一つしかなかったか“
「また先生が元凶にされてる……」
「CHIYO、これに関してはお兄が全部悪いから。妹であるアタシが認める」
「せんせぇそんなに怖くないよ?」
配信で名前が上がるたびにリスナーの中で恐怖度が上昇していくツルギ。
今となっては卯月もニヤつきながら内心楽しみまくっていた。
なおその真意に気づいていない舞は、手作りのブラウニーを頬張りながらキョトンとするばかりであった。
「うーん、要するに絵面が派手な企画を出せば良いんでしょ?」
「簡単に言えばそう」
「女子三人で爬虫類とふれあえる動物園に行ってみたとか」
「「絶ッッッ対に嫌ッッッ!」」
二人の友人に拒否されてしまい、流石にショボンとしてしまう爬虫類大好き女子中学生の卯月。
どうにも理解者が現れない事が彼女の悩みであった。
”シュンとする蛇姫ちゃん可愛すぎんか?“
”蛇姫ちゃんマジで爬虫類好きなんだね。流石は蛇姫”
“爬虫類とふれあえる動物園とかあるの?”
“↑調べたらあるらしいね。爬虫類オンリーの動物園”
“爬虫類好きな女の子ってたまにいるよね”
“良いじゃないか爬虫類。ボクもイグアナや亀は好きだぞ”
珍しい反応を見せた卯月にリスナーがリアクションをする中、智代はウンウンと頭を悩ませ続ける。
「次の企画……どうしよう」
「他の人の動画でも見て参考にしてみる?」
「せっかくだから斬新さが欲しいなーって」
「いいCHIYO? 基礎を疎かにして斬新さとかオリジナリティを求め始めたら、クリエイターとしては始まる前に終わってるからね」
“あっ……(致命傷)”
“やめて、やめて……”
“心あたりなんか無いですよ。無いですよ”
“↑声も足も震えてるぞ”
“なんで効いてる奴がこんなにいるんですかね?”
“蛇姫ちゃん。それ一部の層にクリティカルだから”
「ねぇねぇ、もう三人でお菓子作り企画第二弾にしよーよー」
阿鼻叫喚になるコメント欄を他所に、舞は過去に行った企画の第二弾開催を提案する。
しかし智代と卯月の反応は芳しくなかった。
「舞、前にその企画をやったとき……どうなったか覚えてる?」
「みんなでパフェを作って美味しくいただきました!」
「舞ちゃん。パフェを作るために某グループがやるような素材探しから始めるのは流石にハード過ぎるの」
「というかアタシらもよくあれ完遂したわね」
“あぁ、あの企画か……すごかったね”
“舞ちゃんが牛乳じゃなくてココナッツを探し始めると言い出した時は頓挫するかと思ったぞ”
“なんで女子中学生三人組が某グループ並みの挑戦を成し遂げたのに大して話題にならなかったんだよ”
”ヒント:JSMカップ真っ只中“
”↑今年もすごかったよね”
「カードゲーム以外にも注目しろォォォッッッ!」
「どうしたの蛇姫ちゃん!?」
自分達の苦難がカードゲームの大型大会に負けたと知り、思わず卯月は叫んでしまう。
しかし悲しいかな、ここはカードゲーム至上主義な世界。
カードゲーム以外のコンテンツは、カードゲームに勝ち辛いのだ。
「サモン関係強すぎでしょ。どうやって勝つのよコレ」
「が、頑張るしかないかな〜って……いやサモンで何か企画しても良いんだけど」
「でもCHIYOちゃん、サモンで何かバズれそうなきかくってあるのー?」
舞に言われるが、何も浮かばず黙ってしまう智代。
そんな中、卯月は頭の中に一つの企画が浮かび上がっていたが……これは最終手段にしようと脳内にしまい込んでしまった。
「やっぱりサモン、サモンで全てを解決するしかないかな〜」
「CHIYOもう少し頑張って頭を捻って。他にもっとあるでしょ」
「……ねぇ蛇姫ちゃん、一つ提案があ――」
「地獄の後始末をする自信、あるの?」
智代の提案を即座に察した卯月は、迷う事なく釘を刺す。
とは言えソレを実行するのは一番手っ取り早いだろう。
それを理解できていたからこそ、卯月は頭を悩ませていた……その矢先であった。
三人で配信中である卯月の部屋の扉が突然開いたのだ。
「我が妹よ。俺の漫画版モンスター牧場(全2巻)を知らないか?」
卯月の兄。
何も知らぬ天川ツルギが、思いっきり配信カメラに映ってしまったのだ。
当然リスナー達はコメント欄で盛り上がる。
”兄フラだぁぁぁぁぁぁ!“
”げぇッ、殺戮兵器!?“
”わァ……あ……“
”命だけは助けてください“
“やべぇぞ、蛇姫ちゃんが今まで見たことないレベルで冷たい目してる”
“アニメ版ならともかく、漫画版モンスター牧場(全2巻)とかチョイスがマニアック過ぎるだろ”
「ん? なんかしてる最中だったか?」
「お兄……今までで一番タイミングが最悪だから」
「えっ、なに? なにか不味かった?」
あまりにも冷たい視線を刺してくる卯月に、思わずたじろいでしまうツルギ。
だが同時に卯月は「配信に映ったのなら巻き込んじゃえ」と考えていた。
「CHIYO……許可する」
「許可いただきましたァァァ! というわけで先生、こちらへどうぞ!」
「えっ、なに? 智代ちゃんテンション高くない?」
初めて配信モードの智代を目の当たりにしたツルギは、普段からは想像もつかないテンションの高さに混乱してしまう。
だがそんな状態のまま、訳もわからず配信カメラの前に座らされてしまうのだった。
ツルギが気づいた時にはもう遅い。智代はリスナー達に向けて、次の企画が決定した事を告げるのだった。
「リスナーさん。CHIYOちゃんねる次の企画は……『先生の出張サモン教室』ですッ!」
「…………なんて?」
「お兄、悪いけど付き合って」
ダメ元でツルギは「拒否権は?」と聞くも、卯月からは容赦なく「ないし与えない」と返されてしまう。
突然巻き込まれる形で智代達の配信に出ることになってしまったツルギは、何故こうなったのかと首を傾げるのだった。




