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第百四十四話:飛翔せよ幻翠鳥!

「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 現在俺のライフは8で、場には〈ルビーの魔術師〉が1体のみ。当然ながら召喚時効果で〈カーバンクル〉は手札に来ている。

 バトルロワイヤルルールによって、倒すべき感染者の数は18人。いずれも場には〈ガエンカイリ〉と2体の祠が並んでいる。


(理想はこのターンで全員倒し切ること。ウイルスでダメージが身体にも来るとはいえ、死ななければ問題なしだ!)


 そうとでも思わないと、正直やってられないという理由もある。

 とにかく今は最適解を見つけ出す他ない。

 そのためにまず使うべきカードは……


「メインフェイズ。魔法カード〈夢幻夢想大図書館むげんむそうだいとしょかん〉発動! デッキを上から7枚オープンして、系統:《夢幻》を持つモンスター好きなだけ手札に加える」


 まずはこれで必要なカード手札に引き寄せる。


 オープンしたカード:〈【幻紫公(げんしこう)】カーバンクル・ヴァンプ〉〈サーヴァント・ウォール〉〈同姓同名分身どうせいどうめいぶんしん〉〈【幻翠鳥(げんすいちょう)】カーバンクル・サムルク〉〈コボルト・エイダー〉〈コボルト・ライブラリアン〉〈ダイヤモンドの幻竜(げんりゅう)


「〈カーバンクル・サムルク〉と〈ヴァンプ〉を手札に加えて、残りは除外する」


 該当するカードは2枚だったけど、必要なものは来てくれた。

 同時に勝ち筋も見えたので、そこに向かって一気に進めていく。


「奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

「久々の多人数戦…………過労死だけは拒否するっプイッッッ!」

「大丈夫だ。今日は過労死じゃなくて……勝つまで連続攻撃するだけだ」


 そして俺はコストとして手札を1枚捨て、先程手札に持ってきた1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「進化条件は……自分の手札を1枚捨てて、系統:《幻想獣》を持つモンスター1体の上に重ねること! 俺は場の〈【紅玉獣】カーバンクル〉を進化!」

「強い風を感じる、ということは大空のパワーっプイ!」


 翠色の魔法陣が展開され、カーバンクルはその中に飲み込まれていく。

 すると俺の場には、巨大な深緑の宝玉が姿を現した。


「天よ地よ、烈風に乗りて駆け抜ける大いなる翼に震えろ! 飛翔しろ相棒!」


 深緑の宝玉に暴風が集まり始める。

 風の力が内部で循環し、巨大な翼を持つ新たなモンスターを作りだしていった。


「〈【幻翠鳥】カーバンクル・サムルク〉召喚!」


 強風と共に宝玉が砕け散ると、中から翠色の羽に身を包んだ巨大な鳥獣型モンスターが出現した。

 額の紅玉くらいしか特徴が残っていないが、この巨大な鳥もカーバンクルの進化形態の一つである。


「キュアァァァァァァァァァァァァ!(これでボクも自由に飛べるっプイ!)」


〈【幻翠鳥】カーバンクル・サムルク〉P9000 ヒット2


 決してパワーが高いとは言えない進化形態だが、こいつも系統:《夢幻》を持つモンスター。

 それが召喚されれば、先程手札コストで捨てた眷属が能力を発揮してくれる。


「墓地から〈エメラルドの翼獣(よくじゅう)〉の【眷属召喚】を発動! 墓地から自身を復活させる!」


 【眷属召喚】はデッキから仲間を呼ぶ以外にも、自身を蘇生するという選択をする事ができる。

 そして自身を召喚した場合、疲労状態では出てこない。


「来い〈エメラルドの翼獣〉!」


 墓地からエメラルドの輝きを翼に乗せた、1体の鳥型モンスターが召喚された。

 本来は単純なサポート目的で採用していたカードだけど、今回は意図せず【陰陽】に対してかなり有利なカードになっているな。


〈エメラルドの翼獣〉P3000 ヒット0


 さぁて、ここから派手に一掃決めますか。


「アタックフェイズ。〈カーバンクル・サムルク〉で1人目のファイターを攻撃!」

「ウァ……〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉でブロック」

「残念だけど、それはできない」


 禍々しい化け物である〈ガエンカイリ〉が立ち塞がろうとするが、〈カーバンクル・サムルク〉には通じない。

 何故なら〈カーバンクル・サムルク〉は、〈カーバンクル〉を進化素材にして召喚していた場合、相手モンスターからブロックされなくなる。

 たとえ疲労状態でブロックが可能な〈ガエンカイリ〉であったとしても、これは防御しきれない。


「グゥ、なら〈ガエンカイリ〉の効果で、祠を破壊し――」

「それもできない。〈エメラルドの翼獣〉の効果によって、系統:《夢幻》を持つモンスターがいる間、俺のターン中に相手は自身のモンスターを場から離せない」


 本来は〈カーバンクル・サムルク〉の専用効果をサポートするデザインなのだけど、今回ばかりは上手く相手に刺さってくれたようだ。

 であれば次に見せるのは、〈サムルク〉の専用効果。


「攻撃したことにより〈カーバンクル・サムルク〉の専用効果【無限翔(むげんしょう)】を発動!」

「キュアァァァァァァ!(相手モンスターを1体、手札に戻すっプイ!)」


 翼を激しく羽ばたかせ、〈サムルク〉は〈ガエンカイリ〉を場から吹き飛ばしてしまう。

 だが仮にもコイツは〈カーバンクル〉の進化形態、この程度で終わるはずがない。


「モンスター手札に戻した後、相手の場に他のモンスターが残っているなら〈カーバンクル・サムルク〉は回復する」


 タヌキのお面の下で相当焦っているらしいけど、まだまだ連鎖は続かせる。


「〈エメラルドの翼獣〉の効果。【無限翔】の効果によって相手モンスターが手札に戻った時、そのモンスターのヒット数を【無限翔】を持つモンスターに加算する」


 当然【無限翔】を持つのは〈カーバンクル・サムルク〉のみ。

 除去された〈ガエンカイリ〉のヒット数である3が〈サムルク〉に加算される。


〈【幻翠鳥】カーバンクル・サムルク〉ヒット2→5


 流石に強力な効果だからターン1制限ついてるけどね。

 しかし今実行中である〈サムルク〉の攻撃を相手はブロックできない。

 防御しきれなかった感染者のライフは〈サムルク〉の翼をぶつけられて大きく減少した。


 感染者1:ライフ10→5


「回復済みの〈サムルク〉でもう一度攻撃! そして【無限翔】の効果によって今度は〈双子の祠〉を手札に戻す!」


 追撃に加えて祠の除去もやってくれる〈サムルク〉。

 ブロックされない以上、そのまま最後のライフを削りにかかった。


「ウゥ……ウワァァァァァァァァァ!?」


 感染者1:ライフ5→0


 まず1人。〈サムルク〉は回復状態なので、そもまま次の感染者へ攻撃を仕掛けられる。

 このまま全員倒し切る!


「そのまま2人目の感染者に攻撃しろ〈カーバンクル・サムルク〉!」

「〈守護者の祠〉の効果を、発動……相手モンスターの攻撃を1度だけ、無効にする」


 なるほど、連続攻撃を強制終了させたいって魂胆か。

 だけどな……俺が〈守護者の祠〉に気づかず攻撃を仕掛けたと思うなよ。


「無効にしたいなら好きにどうぞ。ルール的に全部無駄になるんだけどな」

「ウア?」

「たとえ攻撃を無効化されても、【無限翔】による回復は攻撃が着弾する前なんだよ……だから今攻撃を無効にされたところで、〈カーバンクル・サムルク〉が追撃可能な回復状態であるという事実までは変えられない」


 つまり今行っている攻撃は無効化されてしまうが、そもそも〈サムルク〉は回復状態で場に残っている。

 アタックフェイズを強制終了させられたわけでないのなら、回復状態の〈サムルク〉は問題なく再攻撃ができるというわけだ。

 再攻撃すれば当然【無限翔】も発動する。


「というわけで、もう一発行ってこい!」

「キュアァァァァァァァァァァァァ!(君が負けるまで、攻撃をやめないっプイ!)」

「ウァ、ウアァァァァァァァァァァァァ!?」


 感染者2:ライフ10→5→0


 最初のヒット上昇値が高かったおかげで、2回の攻撃でライフを削り切れる。

 相手がヒット数の高い祠を並べる【陰陽】デッキだったのは、不幸中の幸いだった。

 なら後は連打し続けるのみ!


「このまま全員倒すぞ!」

「キュアキュアァァァァァァ!(早期決着でさっさと次にいくっプイ!)」


 残る感染者は16人。さっさと終わらせる。


「グギャァァァァァァ!」


 感染者3〜9:ライフ10→5→0


「ヒデブッッッ!?」「トトキンッッッ!?」「ホクトッッッ!?」「モッコリッッッ!?」


 感染者10〜17:ライフ10→5→0


「これで最後ッ、〈カーバンクル・サムルク〉で攻撃!」

「キュキュアァァァァァァァァァァァァ!(これで終わりっプイ!)」

「『天地震壊(てんちしんかい)キングロア・ストーム!』」


 荒れ狂う暴風を翼に宿し、相手に狙いを定める〈カーバンクル・サムルク〉。

 暴風に風の刃を織り交ぜながら、〈サムルク〉は最後の感染者に対して急降下をした。


「グワァァァァァァァァァ!?」


 感染者18:ライフ10→5→0


 二回の体当たりを受け、18人目の感染者は全てのライフを喪失した。

 そして例に漏れず、タヌキのお面が割れてその場に倒れ込んでしまう。

 カーバンクル曰く、体内にウイルスが残っていない事だけは救いなのかもしれない。


「一掃できれば楽とはいえ、連戦は少し手間だな」

「そもそも十数人を相手に一掃できるのは貴方くらいよ」

「この人達トラウマにならないと良いんですが……」


 感染者とのファイトを終えたアイとソラが、ジト目で俺にそう言ってくる。

 仕方ないだろ、一番手っ取り早いんだから。

 ウイルスで身体がどうこうなるよりはマシだろう……そういう事にしよう。


「つーか、マジで俺ら以外の人全員ウイルス感染したのか?」

「もうそうとしか思えない数とファイトしてるわよ」

「なんだかキリがないですよ〜」


 ソラはそう言うが、ギョウブを止めればそれも終わるはず。

 恐らくギョウブに近づくほど、感染者による防衛ラインは強固になっているはず。

 きっと今のこれを超える数のファイトをする事になるだろう。


(流石にギョウブは俺がやるしかない……とはいえ二人にどこまで頼ればいいのか)


 ややその加減に戸惑ってしまう。

 それでも今は前に進む他ない……そう考えた矢先であった。


(らん)、いたよ」

「ツルギくーん!」


 俺達を探していたのか、後方から召喚器を手に持った藍と九頭竜(くずりゅう)さんが駆け寄ってきた。

 息を切らし気味だけど、様子からして道中で感染者とファイトをしたのかもしれない。

 だけどあの落ち込みようから、どうして来たんだ?


「二人とも、残ってるんじゃ」

「それが、藍が――」

「ツルギくん! アタシがギョウブと……ララちゃんとファイトをする!」


 俺達の元に来るや九頭竜さんの言葉を遮って、藍は大きな声でそう告げてきた。

 恐らくララちゃんの事を思ってなのだろうけど……今ギョウブと戦うという事は……


「藍、今ギョウブと戦うって事がどういう意味かわかってるのか?」

「わかってる……カーバンクルや化神のみんなが、そう言ってるってことは……もう助けられないってことも」

「ララちゃんの意識がどのくらい残っているのか分からない。藍はララちゃんの目の前で、ギョウブを殺す事ができるのか?」


 もうオブラートには包まない。

 今ララちゃんを助けるためにギョウブと戦えば、最悪の場合彼女が見ている前でギョウブを殺す事になってしまう。

 誰かの見ている中で、その親友を殺す……その罪を背負う覚悟がなければ後で苦しむのは藍になってしまう。


「アタシは……ギョウブの事はなにも知らない。どんな苦しみがあって、なんでララちゃんまで怨んだのかも何も分からない」

「だったら――」

「でもッ! ララちゃんに希望を持たせちゃったのはアタシだからッ! 友達の手を離しちゃダメだとか、いつか一緒にファイトする未来だとか、無責任なことばかり言ってちゃったのはアタシだからッ! だから……アタシが全部責任を負う。そうじゃないと、ララちゃんに何も償えないから」


 目に涙を浮かべながら、藍は必死に訴えてくる。

 あくまで罪を背負うべきは自分だと。あくまで償うべきは自分なのだと、心から叫ぶをぶつけてくる。

 だけど、ララちゃんに無責任な事を言った罪は俺も同じだ。

 こんな結末になるなら、俺だって気軽にファイトしようなんて言わなかったさ。


「藍……今なら俺に押し付けてもいい。俺はもう覚悟なんて決まってるし、押し付けられたところで藍を責めようなんて考えない」


 だからこそ、押し付けて欲しいとも思っていた。

 例え相手が原作主人公であっても、友達に余計な傷なんて負って欲しくはない。

 だけど、きっと藍は……俺が知っている主人公は……


「それでも……アタシが行く。アタシがララちゃんと、ギョウブと戦う」


 そう言い張って、絶対に引き下がらないんだ。

 必要な覚悟を告げられた上で、藍がそう言うなら、俺が選ぶべき道はただ一つ。


「九頭竜さん、藍ために道を作るの手伝ってくれないか?」

天川(てんかわ)くん……本当に藍に任せるの?」

「藍がここで引き下がると思うか? それに、自分の手で決着をつけられるなら、それに越した事はない」


 どれだけ大義名分掲げようとも、今の俺がやろうとしている事は代理の枠を出ない。

 俺自身にも罪悪感があるとはいえ、藍の中にあるであろうそれとは天と地ほどの差があるだろう。

 だったらここは、藍自身の意思を尊重した方が最適なんだと思う。


「ツルギくん、アタシは――」

「藍、ブイドラ! 任せるぞ」

「……うん」

『任されたブイ』


 腹を括ったような様子で、小さく頷く藍。

 彼女召喚器からはブイドラの返事も聞こえてきた。


「ソラ、アイ……藍のために道を拓くの手伝ってもらっていいか?」

「はい。藍ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わりましたから」

「仕方ないわね。負けたら許さないわよ」

「みんな……ありがとう」


 涙を腕で拭い、藍は感謝の気持ち伝えてくる。

 そうとなれば行動開始だ。


「行くぞ。絶対に藍を送り届ける!」


 どれだけ強固な防衛ラインが作られていようとも、絶対に藍のために道を切り拓く。

 そう決心して、俺達は目的地へと駆け出した。

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