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第百三十八話:轟け! カーバンクル・ミョルニール

 まさか島の住民がウイルス感染しているとは、流石に想定外だったよ。

 とはいえ幸いにして、今の俺が持っているのは【幻想獣】の強化版とも言える【カーバンクル】デッキだ。


「オレのターン……スタートフェイズ、メインフェイズ」


 先攻はタヌキのお面を被った島の住民。

 お祭りらしい法被を着ているけど、雰囲気は楽しさの真逆に位置している。


「〈厄災の祠〉と〈天宝(てんぽう)の祠〉を召喚」


 仮想モニターに投げ込まれたのは2枚のカード。

 島の住民の場に現れたのは禍々しい見た目の祠と、金箔で彩られた豪華な祠であった。


〈厄災の祠〉P1000 ヒット3

〈天宝の祠〉P1000 ヒット3


 予想通りというか何というか。

 昨日ソラとファイトした男性と同じく、あれは【陰陽】のデッキで間違いない。

 召喚された祠はパワーが低いがヒットが高い。とはいえあの祠はアタックもブロックもできないというデメリットを抱えている。

 それをわざわざ初手で出したということは、何か策があるのだろう。


(考えられるのは魔法カードによって自壊させる手段。あるいは〈ギョウブ〉の効果で破壊するカウンターコンボもあるけど……そもそも〈ギョウブ〉がSRだからな)


 それはあり得ない。となれば次に打ってくる手もある程度想像できる。

 恐らくこのターンはもうモンスターの召喚はないだろう。

 だが俺の予想は、意外すぎる形で破られた。


「オレは〈怨獣(えんじゅう)クラギカイリ〉を召喚ッ!」


 1枚のカードが仮想モニターに投げ込まれて、島の住民の場に召喚される。

 そのモンスターは全身が黒く染まっており、赤い模様と悪魔のような角が生えたタヌキであった。


〈怨獣クラギカイリ〉P2000 ヒット1


 何が起きたのか分からなかった。

 これまでもウイルスカードによる変化で未知のカードが出てきたことはあったけど、ウイルス無しで出てきたのは初めてだった。


「〈怨獣クラギカイリ〉!? なんだよそのカード」


 俺は慌てて召喚器を操作して、テキストを確認する。

 その衝撃の内容に言葉を失っていると、相手は躊躇なく効果を発動した。


「〈怨獣クラギカイリ〉の効果発動……召喚時にオレのデッキから【壊放】を持つカード、または系統:《変化》を持つ魔法カードを1枚選んで、手札に加え……その後自分の手札を1枚除外する」


 前者は系統:《陰陽》の専用能力参照している。

 だが問題は後者の方だ。系統:《変化》を持つ魔法カード……その中にはあのウイルスカードも含まれている!


「オレは、デッキから〈【暗黒感染】カオスプラグイン〉を手札に加え、手札を1枚除外する……」


 手札に加えられてしまった。

 となれば次の手は決まったも同然。


「オレは手札に加わった〈【暗黒感染】カオスプラグイン〉を発動ッ! このカードは、自分の場のモンスターを1体除外して、ゲーム外部から対応する系統:《感染》を持つモンスターを召喚する! 〈怨獣クラギカイリ〉を除外ッ!」


 ドス黒い魔法陣が展開され、クラギカイリを飲み込んでいく。

 元々闇に塗れたような外見だったが、感染が進みさらに禍々しく変質していった。


「闇に染まりて今こそ目覚めよ。()が使命は世界の終焉なり」


 闇が集まり巨大な球体を形成する。

 魔法陣と共にその球体を破って、中から悍ましい怪物が姿を現した。


「カオスライズ! 現れろ〈【陰陽の感染】ゴクジュウ・ガエンカイリ〉!」


〈【陰陽の感染】ゴクジュウ・ガエンカイリ〉P13000 ヒット3


 現れたのはタヌキの面影など完全に消え去った化け物。

 巨大な身体に長い手脚、鮫の如き巨大な口と大きな角の生えた頭部、そして背中からは甲虫のような羽根が生えていた。

 パワーとヒット数も他の感染モンスターの例に漏れず高い。


「ターン……エンド」


島の住民:ライフ10 手札1枚

場:〈【陰陽の感染】ゴクジュウ・ガエンカイリ〉〈厄災の祠〉〈天宝の祠〉


 相手の場には祠が2体に未知の感染モンスターが1体。

 案の定今回も感染モンスターのテキストは読めない状態でスタート。

 これが何より面倒だけど、回ってきた自分のターンを活躍して勝つしかない。


「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 ツルギ:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。さぁてコイツらの初陣だ! 来い眷属〈サファイアの槍兵(そうへい)〉と〈ガーネットの銃士(じゅうし)〉を召喚!」


 俺の場に巨大なサファイアとガーネットが現れ、砕け散る。

 すると中から蒼い体毛に覆われた竜人の槍兵と、紅い体毛に覆われた獅子の獣人が召喚された。


〈サファイアの槍兵〉P5000 ヒット1

〈ガーネットの銃士〉P1000 ヒット1


 今までとは少し違う幻想獣のモンスター。

 コイツらこそ【カーバンクル】デッキに欠かせない新たな幻想獣、系統:《眷属》を併せ持つモンスター達だ。


「まだまだいくぜ! 俺は系統:《眷属》を持つモンスターを2体疲労させて、〈ダイヤモンドの幻竜(げんりゅう)〉を召喚!」


 2体の眷属の力を借りて、俺の場に巨大なダイヤモンドが出現する。

 そのダイヤを砕き、中から美しくも巨大な竜の眷属が召喚された。


〈ダイヤモンドの幻竜〉P11000 ヒット2


「〈ダイヤモンドの幻竜〉の召喚時効果発動。3つの効果の中から、疲労状態の自分のモンスターの数まで選んで使用する事ができる」


 3つの効果の選択肢はこうだ。ちなみに同じものを選んでもいい。

 ① このターンの間、自分の場のモンスターのパワーを+3000する。

 ②このターンの間、自分の場のモンスター1体に系統:《夢幻(むげん)》を与える。

 ③相手の場のモンスター1体を選んで疲労させる。その後自分の場のモンスター1体を選んで回復させる。

 今回の状況なら、最適の選択は……


「1番と2番の効果を使用。俺の場のモンスターをパワー+3000して、〈ダイヤモンドの幻竜〉に系統:《夢幻》を与える」


〈サファイアの槍兵〉P5000→P8000

〈ガーネットの銃士〉P1000→P4000

〈ダイヤモンドの幻竜〉P11000→P14000


「とりあえずはコレで、アタックフェイズ! 〈ダイヤモンドの幻竜〉で攻撃!」


 翼を動かして飛翔する幻竜。

 効果によって系統:《夢幻》を持っているコイツが動いた事で、他の眷属も本領を発揮する。


「系統:《夢幻》を持つモンスターが疲労した事で〈ガーネットの銃士〉の効果発動! 相手に1点のダメージを与える」


 手に持ったリボルバー銃を相手に向ける〈ガーネットの銃士〉。

 その弾丸に撃ち抜かれて、島の住民はライフ減らしてしまう。


「グッ!?」


 島の住民:ライフ10→9


 やはりウイルスの影響で、ライフダメージが実体へのダメージへと変化している。

 たった1点でもダメージ受けた島の住民は、確かに痛みを感じているようだった。

 とはいえライフダメージを与えないと事が終わらないので、こればかりは耐えてもらうしかない。


「続けて〈サファイアの槍兵〉の効果! このカードが場に存在する限り、系統:《夢幻》を持つ俺のモンスターの攻撃を、相手は可能な限りブロックしなくてはならない」


 ひとまずはコレが通る事を願うしかない。

 効果によって幻竜のパワーは〈ガエンカイリ〉を上回っている。

 戦闘では勝てるけど……あの感染モンスターの効果次第では。


「モンスターの攻撃によって……〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉の効果を発動……」

「だからなんで揃いも揃って発動条件が緩いんだよ」

「自分の場のモンスターを1体破壊することで……このターンの間、〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉は疲労状態でブロックできる」


 疲労ブロッカーにするだけ、それだけなら大した事ない効果だ。

 だけどそれは、相手が【陰陽】デッキで無ければの話だけどな。

 相手の場には効果破壊によって能力を発揮する祠が2体いる。


「オレは〈天宝の祠〉を破壊……その破壊時効果でデッキから1枚ドロー」


 巨大な怪物が金色の祠を踏み潰して力を吸い取る。

 だが無惨に破壊された〈天宝の祠〉によって、相手は手札の増強に成功した……だけじゃない。


「〈天宝の祠〉が破壊された時、自分の墓地にある〈天宝の祠〉が1枚以下なら……もう1枚ドロー」


 そう、あのカードは手軽な条件で2枚のドローができる【陰陽】の便利カード。

 このタイミングで一気に手札増やされてしまった。


島の住民:手札1枚→3枚


 それでもこの攻撃が通れば――


「相手のアタックフェイズに〈厄災の祠〉の効果を発動……パワー4000以下の相手モンスターを1体破壊する。〈ガーネットの銃士〉を破壊」


 禍々しい祠から黒い影が飛び出て、〈ガーネットの銃士〉の身体を掴んで握る。

 そのまま影は凄まじい力で、銃士を握り潰してしまった。

 だけどここまでは想定内。本命はこっちだ。


「行けェ! 〈ダイヤモンドの幻竜〉!」


 強制ブロック効果を持つ〈サファイアの槍兵〉は残っている。

 祠モンスターは自身の効果によってブロックができない。となれば相手はブロック可能な〈ガエンカイリ〉でブロックするしかない。

 幻竜と感染モンスターのぶつかり合いが始まる。パワーは僅かながらこっちが上だ。


「ブロック時に魔法カード、〈霊力壊放術れいりょくかいほうじゅつ〉を発動……〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉のパワーを+3000」

「おっと、そういうの握ってたか」

「さらに〈霊力壊放術〉の【壊放(かいほう)】効果で1枚ドロー」


〈【陰陽の感染】ゴクジュウ・ガエンカイリ〉P13000→16000


 ここでパワー上回られたか……だけど眷属が墓地に行くなら、まだ被害は少ない。

 ここは反撃を許す場面だ。

 パワーを上回られた〈ダイヤモンドの幻竜〉はそのまま〈ガエンカイリ〉に捕まえられてしまい、力任せに首を引きちぎられて破壊されてしまった。


「ターンエンド」


 流石に今はターン終えた方が良さそうだ。


ツルギ:ライフ10 手札3枚

場:〈サファイアの槍兵〉



「オレの、ターン……スタートフェイズ……ドローフェイズ」


 島の住民:手札3枚→4枚


 相手のターンが始まる。

 このターンからは向こうも攻撃を仕掛けてくるだろうから、考えてカードを使わないと。


「メインフェイズ……〈双子の祠〉を召喚」


〈双子の祠〉P1000 ヒット1


 新たに召喚されたのは、両側に2体の狛犬がついている祠。

 戦闘補助に長けた祠で、【陰陽】デッキの強力な1枚だ。

 ここで出してきたという事は、攻めの姿勢に入る気なんだろう。


「アタックフェイズ……〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉で攻撃」


 凶悪な形相の感染モンスターが攻撃をしてくる。

 しかしモンスターの攻撃が発動条件であった効果を使ってくる様子はない。

 恐らくアレは任意効果なのだろう。

 発動しないなら、それに合わせて動くまでだ。


「ライフで受ける! ッッッッ!」


 感染モンスターの一撃が俺の身体に痛みとして襲いかかる。

 やっぱりウイルスとのファイトはダメージが実体化する分、どうにもやりにくい。


ツルギ:ライフ10→7


「〈双子の祠〉の効果を発動……場の〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉を回復」


 やっぱり使ってきたか。

 通常でもターン中1回、味方を回復する効果を持つ上に、効果破壊されると相手モンスターを2体疲労させてくる。

 祠の中でも強力なカードなんだよな。

 そして〈ガエンカイリ〉の攻撃がくる。


「もう一度〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉で攻撃……モンスターが攻撃したことで効果発動……〈厄災の祠〉を破壊」

「このタイミングで使うのか」

「効果で破壊された〈厄災の祠〉によって、〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉のヒットを3上げる」


〈【陰陽の感染】ゴクジュウ・ガエンカイリ〉ヒット3→6


 ヒット6、受けても即死はしないけど……後を考えてここは防御する!


「魔法カード〈サーヴァント・ウォール〉を発動! コストで場の〈サファイアの槍兵〉を墓地に送り、このターン俺が受ける全てのダメージを3点減らす!」


 ライフ調整をしたかったけど、流石に軽減しないと持たない。

 このままライフで受ける。


「グッッッ!」


ツルギ:ライフ7→4


 軽減したとはいえ、やっぱり痛いもんは痛い。

 本当ならこれで安心したいところなんだけど……あの〈ガエンカイリ〉まだ【壊放】を使ってないんだよな。

 それが猛烈に嫌な予感を告げてくる。


「〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉の【壊放】を発動……祠が破壊されたターンであれば、ターン中1度だけ回復して……【貫通】を得る」

「追撃効果持ちだったのかよ……」


 しかもあの言い方だとブロック時にも使える効果じゃねーか。

 感染モンスターはもうちょっとカードパワー加減しろよ。

 だけど今はそれより、間違いなくくる攻撃に関してだ。

 効果で【貫通】を得てきた以上、迂闊な防御はできない。しかも今の〈ガエンカイリ〉は祠の効果でヒット6まで上がっている。


(いくら〈サーヴァント・ウォール〉を使っているとはいえ……まともに受けたくはない攻撃だな)


 俺は自分の手札を確認する。

 なるべく温存はしたかったけど、相手の攻撃を防ぎ切るには使うしかない。


「〈ゴクジュウ・ガエンカイリ〉で3回目の攻撃ッ!」

「手札から〈コボルト・エイダー〉の効果を発動! このカードを墓地に送ってライフを3点回復、カードを1枚ドローする!」


ツルギ:ライフ4→7 手札1枚→2枚

 

 看護師な獣人の効果によってライフ回復する。

 また痛みはするけど、これでモンスターからの攻撃には耐えられる。


「ライフで受ける!」


 やはり軽減されても痛みは走る。

 それでも致命傷にならなかっただけ、まだマシなんだろう。


ツルギ:ライフ7→4


 あとは相手の手札にモンスターを回復させるカードが無ければ良いんだけど。


「エンドフェイズ……魔法カード〈祠再建〉発動。墓地から〈厄災の祠〉を復活させる……ターンエンド。


島の住民:ライフ9 手札2枚

場:〈【陰陽の感染】ゴクジュウ・ガエンカイリ〉〈厄災の祠〉〈双子の祠〉


 幸いモンスター回復はなかったらしい。

 だけど魔法カードによって再び祠が2体並んでしまっている。

 あの〈ガエンカイリ〉の効果を鑑みれば、面倒な布陣を作られてしまったとしか言えない。


(ライフ調整は……いい感じなんだけど、問題は相手とのライフ差なんだよな)


 今手札にあるカードだけでは削りきれる自信がない。

 特に〈カーバンクル〉が手札に来ていないのが致命的だ。

 となれば次のターンに引いてやりたいんだけど……


(こればっかりは、相棒が来てくれるのを信じるしかないな)


 なんだったら、サポートカードで呼び出すなんて手もある。

 とにかく今はターンを始めよう。


「俺のターン。スタートフェイズ……ドローフェイズ!」


ツルギ:手札2枚→3枚


 ドローしたカードを確認する。

 相棒ではなかったけれど、最高の眷属が来てくれた。


「よし! メインフェイズ。来い〈ルビーの魔術師〉!」


 俺の場に巨大なルビーが出現して砕け散る。

 中から現れたのは赤いマントを身につけた、白いウサギの魔術師だ。


〈ルビーの魔術師〉P1000 ヒット0


「〈ルビーの魔術師〉の召喚時効果発動! ライフを2点支払うことで、デッキから進化ではない〈カーバンクル〉を手札に加える!」


ツルギ:ライフ4→2


 これでライフ調整も完璧にできた。

 そしてデッキから手札に持ってくるのは当然〈【紅玉獣(こうぎょくじゅう)】カーバンクル〉だ。

 俺は手札にきた相棒をすぐさま仮想モニターに投げ込む。


「奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

「今日はデッキから強制出勤っプイ!」


 仕方ないだろ、そういう経路になったんだから。

 あと今日は過労死じゃないから安心してくれ。


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


「さぁて……【カーバンクル】デッキの制限カードをお見せしますか」


 運が良ければ藍や九頭竜さんよりドローをしてしまうが故に、納得の制限入りを果たした魔法カード。


「魔法カード〈夢幻夢想(むげんむそう)大図書館(だいとしょかん)〉を発動! 自分のデッキを7枚オープンして、その中に系統:《夢幻》を持つモンスターカードがあれば全て手札に加える!」

「ボクが言うにもアレだけど、やり過ぎてる気がするっプイ」


 わかってるよ相棒、だから前の世界で制限に入れられたんだ。

 ちなみに系統:《夢幻》ってのは〈カーバンクル〉の進化形態全般の事だ。

 俺はひとまずデッキからカードを7枚オープンする。これで最適な奴が来てくれれば。


 オープンしたカード:〈【幻翠鳥(げんすいちょう)】カーバンクル・サムルク〉〈【幻蒼竜(げんそうりゅう)】カーバンクル・ドラゴン〉〈【幻黄雷(げんこうらい)】カーバンクル・ミョルニール〉〈セブンソウル・リバース〉〈【幻橙狐(げんとうこ)】カーバンクル・テンコ〉〈ルビー・バリア!〉〈フューチャードロー〉


「該当カードが4枚、全部手札だ!」


ツルギ:手札2枚→6枚


 うーん、我ながら良い感じ上振れたな。絶対に対戦相手にはして欲しくないけど。

 とはいえ、この状況から勝ちに行ける最適解のカードが来てくれた。

 なら早速召喚するまで。


「行くぞカーバンクル!」

「キュップイ!」

「進化条件は自分のライフが5以下であること! 俺は系統:《幻想獣》を持つモンスター〈【紅玉獣】カーバンクル〉を進化!」


 巨大な黄色の魔法陣が現れて、カーバンクルを飲み込んでいく。

 すると空から雷が降り注ぎ、魔法陣の中に力を与え始めた。


「駆け抜けろ雷鳴! 鉄鎚を下すのは俺の相棒だ! 轟け〈【幻黄雷】カーバンクル・ミョルニール〉!」

「キュゥゥゥゥゥゥゥゥップゥゥゥイ!」


 雷と共に魔法陣が弾け飛び、中から巨大な黄色の宝玉が現れる。

 それを内側から巨大なハンマーで砕くと、中から鎧を見に纏い二足歩行となった黄色いカーバンクルが出てきた。


〈【幻黄雷】カーバンクル・ミョルニール〉P16000 ヒット1


 さらに系統:《夢幻》を持つモンスターが召喚された事で、墓地に眠る眷属たちも能力発揮する。


「系統:《夢幻》を持つモンスターが召喚された事で、墓地から〈ガーネットの銃士〉の【眷属召喚】を発動!」


 眷属は仲間を呼ぶ。


「墓地の〈ガーネットの銃士〉を除外して、デッキからカード名が異なる系統:《眷属》を持つモンスターを1体、疲労状態で召喚する。来い〈トパーズの闘士〉!」


 効果によってデッキから場へと繋がるゲートが開く。

 俺の場に巨大なトパーズが出現し砕け散ると、中から防具を身に纏った獣人の拳闘士が現れた。


〈トパーズの闘士〉P3000 ヒット3


 さぁまだまだ行くぞ。俺はさらにカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「進化条件は自分のライフが3以下であること。俺は場の〈ルビーの魔術師〉を進化! 来い〈【幻蒼竜】カーバンクル・ドラゴン〉!」


 蒼い魔法陣に飲み込まれて、魔術師はドラゴンへと進化する。

 とは言っても、今回はカーバンクルを進化元にしていないから、魔法カードを制限する事はできない。

 だけどそれでいい……重要なのはヒット数が高いという事だからな。


〈【幻蒼竜】カーバンクル・ドラゴン〉P20000 ヒット3


 これで下準備は整った!


「アタックフェイズ! この瞬間〈カーバンクル・ミョルニール〉の専用能力【無限鎚(むげんつい)】を発動!」


 ミョルニール専用能力【無限鎚】。

 お互いアタックフェイズ開始時に発動し、ミョルニールは自分以外のモンスターが持つヒット数を全て加算する事ができる。

 勿論、相手モンスターのヒット数だって加算範囲だ。


「現在〈カーバンクル・ミョルニール〉以外のモンスターが持つヒット数の合計は15! よってその数字が〈カーバンクル・ミョルニール〉に加算される!」

「雷パワーでパワーアップっプイ!」


〈【幻黄雷】カーバンクル・ミョルニール〉ヒット1→16


 ミョルニールの持つ大鎚に雷のエネルギーが集まる。

 それに合わせてヒット数が上がり、中々見れない数字を叩き出した。

 当然そんな数字を前にすれば、感染している人間でも驚きはする。


「ヒット数……16だとッ!?」

「一撃で倒せる数字だ。これでやられてくれよ」


 ウイルスを除去するためなんだ、痛くても我慢してくれ。


「行け〈カーバンクル・ミョルニール〉! 〈ガエンカイリ〉に指定アタック!」


 ウイルス感染している怪物に、ミョルニールが鉄槌を構える。

 今のミョルニールは〈カーバンクル〉を素材にしている事で、【貫通】も得ている。

 この攻撃が通れば確実に終わる。だがそれは相手の方も承知できていた。


「魔法カード〈ハイパワーブレイク〉を発動ッ! 手札を1枚捨てて、相手モンスターを破壊する」


 魔法効果でミョルニールを破壊して凌ごうとする島の住民。

 確かにミョルニールは他の進化形態とは異なり耐性を何も持っていない。

 だけど……俺がそれを想定していない、なんて事はないんだ。


「〈トパーズの闘士〉の効果を発動。系統:《夢幻》を持つモンスターがカード効果対象になった時、その対象をこのカードに変更する事ができる」


 効果によって闘士はミョルニールの前に出てくる。

 そしてそのまま魔法効果を自身に誘導して、破壊されてしまった。

 これで相手の手札は0枚。攻撃宣言によって既に疲労状態のミョルニールなら〈双子の祠〉の効果受けても意味がない。

 たとえ〈ガエンカイリ〉を以てしても、もう攻撃を防ぐ手段は存在しない。


「これで終わらせる、行け〈カーバンクル・ミョルニール〉!」

「キュップイ! 轟雷戦鎚(ごうらいせんつい)ジャッジメント・インパクトォォォ!」


 雷が集まり、黄金に輝く鉄鎚を〈ガエンカイリ〉に振り下ろすミョルニール。

 光は闇を祓い、怪異の中に眠る悪鬼さえも打ち消してしまう。

 必死にミョルニールの鉄鎚を受け止めようと抵抗する〈ガエンカイリ〉だったが、凄まじい光浴びてしまい全身がボロボロに崩れていった。


「キュゥゥゥゥゥゥゥゥッッップゥゥゥゥイ!」


 ミョルニールの巨大な鉄鎚に押し潰されて、〈ガエンカイリ〉は完全に消し飛ばされてしまった。

 そしてミョルニールの一撃は余波となり、相手のライフにも【貫通】ダメージとして飛んでいく。


「ア……アぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


島の住民:ライフ9→0

ツルギ:WIN


 鉄鎚の余波とウイルスによるダメージの相乗。

 ファイトが終わり、黒い霧が消え去ったものの、当の感染者はその場で倒れ込んでしまった。

 立体映像も消え、カーバンクルもいつも姿に戻り、すぐさま倒れた島の住民に乗りかかる。


「とりあえず、これで大丈夫かな」

「キュップイ? ツルギー、なんか変っプイ」

「どうしたカーバンクル」

「この人、身体の中に全然ウイルスが残ってないっプイ」


 妙な事を言い出す相棒。

 あの状況で身体にウイルスが残ってない?


「それにこの人……ウイルスカードも持ってないような」

「イヤイヤ、それは無いだろ」


 俺はすぐさま島の住民が持っていた召喚器からデッキを抜き取って中を確認する。

 中には確かに〈カオスプラグイン〉と〈クラギカイリ〉のカードがあった……筈であった。

 俺とカーバンクルが目視で確認した次の瞬間、この2種カードは煙のように絵が消えさり、全く関係のない普通のカードに変わってしまったのだ。


「プイ……今、何が起きたっプイ?」

「俺が聞きてぇよ」


 跡形もなく消えてしまったウイルスカード達。

 まるで最初からそこに無かったかような状態になってしまったので、俺とカーバンクルは困惑する事しかできなかった。


(なんか……化かされたような気分だな)


 混乱する頭でデッキ召喚器に戻し、俺はひとまずスマホで救急車を呼ぶのだった。

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