第百三十六話:九頭竜さんやララちゃんと
ひとまずララちゃんのパートナー化神(で合ってるのか?)の問題は把握できた。
エネルギー不足という問題から解決したいけど、その前に行方不明の本体を探し出さないといけない。
通常の環境ならカーバンクル達が簡単に探し出してくれるんだろうけど、この島に来てからの様子を考えれば頼りすぎない方が良さそうだ。
となれば俺や藍達のように化神を認識できる人間が動かないとダメだろう。
(あの施設の事もあるし、あまり良い予感はしないんだよな……)
俺はパラソルの下で座りながらそう考える。
視線の先では藍がララちゃんを誘って、他の皆と一緒にビーチバレーをしている。
ちなみに九頭竜さんとシルドラは激しい運動が苦手なのか、俺と同じくパラソルの下だ。
「……九頭竜さん、ちょっといいかな」
今なら藍には聞かれないだろう、そう判断した上で俺は昨夜見つけた施設の事を話した。
とはいえ流石に、藍の名前が書かれたレポートに関しては話せなかったけど。
最初は訝しげな様子だった九頭竜さんとシルドラも、ウイルスカードの材料と化神の墓場について話した瞬間、一気に真剣な表情になっていた。
「化神を材料に……天川くん、本当なの?」
「回収した白紙のカードもある。後でシルドラと確認してもらってもいいし、ウィズに直接聞くのも一つだと思う」
「ウイルスカード……ボクも危険性は聞いてたけど、政帝がそんなものを配ってたなんて」
あれ? 九頭竜さんに政帝とウイルスカードの繋がりって話したっけ?
「終業式の少し前に藍が教えてくれた」
ありがとう原作主人公さん。話が早くなるから助かったよ。
それはそうとして。藍へのデレが大幅に早まったとはいえ、九頭竜さんの理解力が高すぎるような気もするな。
「ここだけの話、ボクも政帝には少し思うところがあった」
「なにかウイルス関係で片鱗あったのか?」
「そういうのじゃない。でも帝王として、人間としての在り方と言えばいいのかな? そういうところに少し不安を覚える事があったのは事実」
「我もマナミからその話は聞いていた……だがここまで吐き気を催す代物に関わっているとは我々も想像できなかったがな」
心底嫌悪感を吐き出すような声で答えるシルドラ。
気持ちは十分以上に理解できる。俺もあの墓場を見た時は似たような心境だった。
だからこそ、あの政帝を倒さなきゃいけないんだけど。
「この前の速水くんの一件もある。二学期が始まったらボクも動いてみる」
「無茶はしないでくれよ……万が一九頭竜さんが無茶したら」
ここで少し火力を上げておきます。
「藍が泣くと思う」
「絶対に無茶はしない。ボクの魂を賭ける」
(わかりやすくて助かる)
今の九頭竜さんならこう言っておけば十分だろう。
流石に原作通りの展開になられると、九頭竜さんって最終的にウイルス感染する上に入院までするからな。
いくら原作通りの展開でも藍が政帝を倒すとはいえ、被害は少ない方が良いし、戦力は多い方が良いです。
「でも戦力は多い方がいい。天川くんもそう思わない?」
「思う。そして九頭竜さんがそれを言うって事は、何か心当たりでも?」
「何事も一筋縄じゃない。そういうこと」
なるほど、信頼できる人達に声をかけるってわけか。
とりあえず【暴帝】牙丸先輩は確定だろう。
あと想像できるのは……ツララ先輩かぁ、嫌だなぁ面倒くさいなぁ。
ツララ先輩に声かけるのは後回しにしてもらえないかなぁ。
原作では普通に戦力になっていたから強く言えないけどさー!
「ところで天川くん、なんで藍がいる時に話してこなかったの?」
痛いところ突いてくるなぁ。できれば気づかずスルーして欲しかったんだけど。
「藍やブイドラに聞かれたら不味い内容でもあったの?」
「……例の施設に藍を向かわせたくない。これじゃあダメかな?」
「貴様、何を見た」
少し凄みのある声で問いただしてくるシルドラ。
とはいえ流石に真実は言えない。
「よくないもの……それしか言えない」
「藍にとって……だから言わなかった?」
九頭竜さんの言葉に、俺は無言で頷く。
すると九頭竜さんは「そう」とだけ言って、それ以上追求はしてこなかった。
「良いのかマナミ?」
「天川くんは意味のない嘘をつくような人じゃない。それに、本当に必要ならちゃんと話す人だって分かってるから」
「そうだな。でなければ我々にこの話もしないか」
シルドラも納得してくれたのか、それ以上の追求をしてこなかった。
本当に必要なら……その時が来るかは全くわからない。
だけどできる事なら、あんな真実を知ることなく全てを終わらせて欲しいもんだ。
「ふえぇぇぇ〜、マナミ〜」
そんな話をしていると、ヘロヘロになったララちゃんがこちらにやって来た。
ビーチバレーで疲れてしまったのだろうか。
「チェンジです〜、マナミとララでチェンジです〜」
「えっ、チェンジって?」
ララちゃんが九頭竜さんの手にタッチをした瞬間、凄まじい勢いで藍が駆け寄ってきた。
「まーなーみーちゃーん! 選手交代だよぉぉぉ!」
「えっ!? ボクはそういう運動はちょっと」
「楽しいから大丈夫だよ! 行こう!」
テンションが上がりすぎて目が輝きに満ちている藍。
九頭竜さんは肩をガシィッと掴まれるや、引きずられるようにビーチバレーに連れていかれてしまった。
「待って藍! ボクは球技とか苦手で!」
「夏の汗は青春の汗だよ!」
「聞いて藍!?」
抵抗虚しく藍に連行されてしまう九頭竜さん。
心配したシルドラもさっさと彼女達の方へと飛んでいってしまった。
嵐が過ぎ去った後のような気持ちになってしまうが、とりあえず汗をかいて疲れているララちゃんに飲み物を渡してみる。
「はい、スポーツドリンク」
「あ、ありがとうございますです」
ペットボトル入りのスポーツドリンクをごくごく飲むララちゃん。
どうやら運動は好きだけど、体力はそこまでらしい。
ドリンクを飲み終えると、ララちゃんはキョロキョロと何かを探すように周囲に視線を向け始めた。
「カーバンクルはいないですか?」
「あぁ、カーバンクルなら『ちょっとお昼寝するっプイ』って言ってカードに戻っちゃった」
「お疲れだったです?」
まぁ昨日からめっちゃ頑張っていただいたので、そろそろ休んで貰わないとね。
ファイト以外ではホワイト環境を徹底したいもんですよ。
ファイト中は過労死が美徳となります。
「あうぅ、ララもっとカーバンクルをモフモフしたかったです」
「たしかに、モフモフしてる化神ってカーバンクルだけだもんな」
ブイドラとシルドラは鱗つきでザラザラだし、ウィズは木の根の塊だからお肌ザラザラだし。
女子受けモフモフは今のところカーバンクルしかいないな。
……ウィズ曰く年齢がおっさんらしいけど。
「そういえば、ララちゃんって海外から来たの?」
ビーチバレーをする皆を見ながら、パラソルの下でララちゃんに質問をしてみる。
あっ、藍のスパイクの衝撃で九頭竜さんが飛んだ。
「はい。おカーさんアメリカ人。おトーさん日本人です」
「なるほど。普段はアメリカ在住ってことか」
「ハワイです。毎年日本のおバアちゃんに会いに来てるです」
「てことは、この島にお婆ちゃんが住んでるって事か」
「はいです。7歳の時に島でギョウブと会いましたです」
今朝藍達から聞いた通りの内容だな。
しかし当の化神が行方不明なのが困る。
エネルギーも少ないらしいし、随分長いこと彷徨ってるみたいだし。
(また夜に動いてみるかな。運良く化神のギョウブが見つかればラッキーだし)
何よりこの島に棲む化神なら、あの施設についても何か知ってそうだ。
そんな事を考えていると、ふとララちゃんの表情に気がついた。
視線の先は皆でビーチバレーを楽しむ藍の姿。ララちゃんの目は、どこか羨ましさを抱いているような感じがしてならなかった。
「……スポーツとか、好きなの?」
「はいです。でもララはすぐヘロヘロになりますです」
「なら動きの少ないやつが合うのかな。サモンとか良いぞ、激しく身体を動かさなくても楽しめるからな」
「……ララ、あまりサモンしたことないです」
ありゃ、これはかなり予想外の返事。
召喚器を持っているから、この世界ではごく普通のファイターかと思っていた。
「友達からサモンに誘われたりしないのか?」
「ララ、ハンブンなので友達いないです。みんなどこかにいっちゃうんです……だから、おカーさんたちも」
どこか諦めのようなものを含むような声色でそう言うララちゃん。
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、『ハンブン』つまりそういう事なのだろう。
海外だとそういうコミュニティ形成はかなりしっかり線引きされていると聞く。
もちろん、良くも悪くもだ。
(世界は変われど、本当に変わって欲しいところまでは不変なんだな)
そういう点に関しては嫌になってしまう。
特にサモン至上主義と言ってもいい今の世界で、サモンに誘ってもらえないという事実は相当酷い現実なのだろう。
(国境や人種も無く楽しめるのがカードゲームの良いところなのに……現実は都合よくいかないもんだな)
とはいえサモンで勝利した場合は違うのだろう。
まだ経験が少なすぎるララちゃんには先の話過ぎるんだけど、明日を変えられる可能性があるだけまだ良い方と捉えられるか。
「ギョウブは、ララちゃんの友達なんだな」
「はい。はじめての友達なのです」
「そっか……じゃあ早く見つけないとな」
これは頑張って探し出してやらないと、流石に後味が悪くなる。
話を聞くとララちゃんのデッキは、ギョウブを入れる前提で組んだ【陰陽】のデッキらしい。
向こうのカードショップを巡って、頑張って必要なカードを揃えたのだとか。
……この世界でカード揃えるって相当頑張ったな。
「ランもマナミも、友達がたくさんいるです」
(ごめん、九頭竜さんはこの前まで友達ゼロだったんです)
「ララにはきっとできないです。どうすれば友達が増えるのかわからないです」
「……そんなに難しく考えなくても大丈夫だろ」
俺はララちゃんが持っている召喚器を指差して、ほとんど反射的にそう言う。
「サモンってさ、言葉が違っても人種が違っても一緒に遊べるんだよ」
「いっしょに、ですか?」
「そうだ。ファイトの中で自分の思いを表現できるし、相手の気持ちだって知ることができる。友達作るには一番いいきっかけだと思うぞ」
実際そうだった。
この世界で新しく出来た仲間達は、皆サモンが切っ掛けだった。
サモン至上主義という世界に闇があるなら、同じだけ光もある。
ただのワガママであっても、俺はそうであって欲しいと心から思っていた。
「どうすれば……サモンしてもらえるですか?」
「簡単だ『サモンしようぜ』って言うだけ。あとはファイトして友達になればいい」
「……なかなおりも、できますか?」
「ん? そりゃあもちろん。思いっきりサモンでぶつかり合えばいいんだ」
この世界、サモンでどうにかできる場面が滅茶苦茶多いからな。
たまにそうでない場面に遭遇すると困るのが難点なんだけど。
「早くギョウブを見つけてデッキを完成させてやろう。そしたらさ、俺や藍達がいくらでもファイトの相手してやるからさ」
「ツルギやランがファイトしてくれるですか!?」
「おうよ、俺らこう見えて強いんだぜ。ララちゃんを強いファイターにしてやる!」
「エヘヘ、とっても楽しみなのです! ララ最初はランとファイトがしたいです!」
先程までとは打って変わって、明るい表情になったララちゃん。
こうなっては最後まで付き合う他ない。
何としてもギョウブを探し出して、その後はみんなでララちゃんとサモンファイトだ。
「あっ、また九頭竜さんが飛んだ」
視界の向こうでシルドラが「マナミィィィ!?」と叫んでいたが、九頭竜さんの返事は無さそうだった。




