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俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜  作者: 鴨山 兄助
第六章:高校生編③

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第百三十五話:やっぱり始まってない?

 (らん)から連絡があり、件の化神が見える女の子を連れてこっちに来るらしい。

 しかも探していた化神のカードも入手に成功したと。

 想像以上にトントン拍子で進んでるな。まぁその方が話が早くて楽なんだけど。


 で、現在俺とソラは浜辺で藍達を待っている。

 ちなみに速水とアイは海上ファイトをしていて……あっ、終わった。

 二人とも余裕の勝利だったな……出番のなかったウィズが滅茶苦茶不満そうだけど。


 時刻はちょうどお昼時。

 浜辺の人達も昼食準備を始めたり、海の家に行ったりしている。

 ……なんか海の家に「カードパックあり〼」って旗があるけど、見なかったことにしよう。

 で、俺達はというと。


「速水、火点けられるか?」

「ライターと着火ジェルがある。簡単だ」

「じゃあ俺は手の込んだやつの準備をっと」


 現在男2人でバーベキューの準備中です。

 食材はたっぷり買い込んでるので、件の女の子も満足させてやるぜ〜。


「キュプ〜イ、炭火の匂いって好きっプイ」


 まな板の上で食材を切っていると、頭上でカーバンクルが気の抜けた声を出している。

 昨日ウィズが言った「おっさん」というワードを思い出してしまうせいで、カーバンクルがまるで酒飲み親父に思えてしまうな。

 見た目はファンシーなウサギで声も可愛らしいのに、急激にシュール極まる。


「そういえば天川(てんかわ)、ソースの類は買ってきたのか?」

「安心しろ。出る前に別荘のキッチンで作ってきた」

「本当に頼りがいがある奴だ」


 ちなみに用意したのは無難な3種ソース。

 トマトベースのソースにマスタードソース、あとは和風の醤油ペッパーソースだ。

 お手軽で美味しいんだぞ。

 速水とそんなやり取りをしていると、後方から女子2名の声が聞こえてくる。


「私達、完全に戦力外ですね……」

「そうね……」

「アイちゃん、なんだか視線が変な気がするんですけど?」

「気にしないでちょうだい。気づきがあっただけよ」


 なんかアイが妙な事を言ってる気がする。

 ちなみにウィズは陽当たりのいい場所で、文字通り羽を休めている。

 時折り「太陽光が気持ちいいのね〜」っていってるし、多分あれ光合成中だな。流石は植物。


「プイ……さっきからずっとアイに見られてるっプイ」


 俺の頭上でカーバンクルがそうぼやいている。

 なるほど、確かに気になるよな。

 頭上に緑色のウサギを乗せながら調理作業している人間なんて、俺でも二度見する自信がある。

 そんな事を考えながら調理作業をある程度終えて、火についたバーベキュー用コンロで食材を焼き始めた頃。

 別行動していた原作キャラ達がやってきた。


「みんな、お待たせー!」

「3人共いいタイミングで来たな。もうすぐ最初の肉が焼けるぞ」

「えっ、お肉!? やったー!」


 こちらに来るや、飛び跳ねて大はしゃぎする藍。

 だから無邪気に跳ねないでください、揺れるんですよ、お山が。

 とりあえず破壊力が強い絵面から逃げるためにも、藍には肉を与えて静かにしていて貰おう。


「天川くん、この子が例の」


 九頭竜(くずりゅう)さんがこっそりと話かけてくる。

 彼女の後ろには、小学生くらいの女の子の姿があった。

 腰まである朱色の髪に、やや日本人離れした白い肌と青い瞳。

 その目線は明らかに俺の頭上にいっている。


「キュップイ。ボクのこと見えてるっプイ?」

「はい。緑のウサギさんララはじめて見ましたです」

「はじめましてっプイ。ボクはカーバンクルっプイ」


 カーバンクルが普通に受け答えしているという事は、本当に化神が見てるらしい。

 にしてもこの子、独特な日本語を使うんだな。


「ウサギさんが、カーバンクルです?」

「キュップイ! それでこっちはボクのパートナーっプイ」

「はじめまして、天川ツルギだ。藍からある程度は聞いてる」

「はじめましてです。ララは月島(つきしま)ララです」


 とりあえずララって子と挨拶をするのだけど……なんというか、すごく気になる事があるんだよな。

 思わず俺は、紙皿に乗せた肉に食らいついている藍の方を見てしまう。

 そして再びララちゃんの方を見る。


「?」


 可愛らしくキョトンとしているララちゃんなんだけど。

 うん、その、気のせいかな?

 どこか藍に雰囲気似ているといいますか……まるで劇場版にのみ登場する妹分ポジションのゲストキャラ的な外見といいますか。

 夏休みのバカンスで訪れた離島。そこで化神が見える、藍(原作主人公)と雰囲気似ている少女と出会う。

 ……うん、完全に物語が始まっている気がする。


「天川くん、どうしたの? なんか遠い目になってるけど」

「気にしないでくれ……気が気じゃないのは俺だけだから」


 やっぱり始まってるよね。

 これ絶対に始まってるよね?

 俺の知らない劇場版の話が始まってるとしか思えないよ!?


(ウィズのいた施設の時点である程度覚悟はしていたけど……これ絶対何か事件起きそう)


 とりあえず後でデッキの内容再確認しよう。

 この時期なら多分負ける事はないと思うけど、念のためにね。


「とりあえず積もる話は後にして、みんなで飯食おうぜ」

「……ララもですか?」

「当然。一緒に食うと美味いぞ」


 一瞬暗そうな表情をしていたララちゃんだったけど、すぐに明るくなった。

 俺は単に遠慮していたのかなとも思ったけど、ララちゃんが一瞬浮かべた暗さに何か形容し難い重さを感じていた。

 そんな事など最初から無かったかのように、ララちゃんは九頭竜さんと一緒に藍の元へと行っていた。


「にしても化神が見える人間ってのも、意外といるもんなんだな」

「化神が宿るカードと出会えたり、そもそも適性があれば誰でもボク達と触れ合えるっプイ」

「お前が触れ合いって言うと、まるで会員制のアニマルカフェだな」


 使い捨てアルミ鍋に刻んだ材料等を入れながら、俺は軽くそう答える。

 ちなみに野菜の切れ端は、後でカーバンクルが美味しくいただく予定だ。


「……キュプイ?」

「どうした?」

「なんだか、変な感じがしたような気が……キュップイ?」


 頭上で首を傾げるカーバンクル。

 変な感じか……そういえば昨日から島全体が妙だって言ってるもんな。

 それに化神の見える女の子……ララか。


(変に関係とかなければ良いんだけど)


 俺はそんな願望を思い浮かべながら、ララちゃんと打ち解けている皆の元へと移動した。





「わぁ、ツルギくんの作ったソース! お肉よく合うね〜!」


 肉を頬張りながら、藍が満面の笑みで感想を述べてくれる。

 お口に合ったようで何よりだ。


「ねぇ天川くん、このお鍋ってもしかして……」

「ツルギ、これってもしかしなくても」


 なんか九頭竜さんとアイが悲壮感のある表情で聞いてくる。

 ちなみにそれはアヒージョです。

 せっかくなので夏が旬の野菜である茄子とゴーヤ、ミニトマトも入れてみました。

 エビは冷凍のやつだけどね。


真波(まなみ)……ウチの学校って料理部はあったかしら?」

「ない……作って有識者を募集する?」

「前向きに検討の余地があるわね」


 なんか深刻そうな話しているけど、君ら2人に必要なのは家庭科部だと思います。

 料理以外のスキルも人生には必要なんだよ。


「そうだ、アヒージョ用に〆のチーズとパンも用意してあるぞ」


 もちろんカマンベールチーズだ。

 最後まで美味しくいただきましょう。

 なんて事を考えていたら、九頭竜さんとアイが完全に沈黙してしまった。

 なんなら燃え尽きて灰になってる。そんなにショックか、生活力の差が。


「ツルギくん、もう少しこう手心を」

「ソラ、時間をかけた積み重ねは強いんだぞ」

「強すぎて2人が真っ白に燃え尽きてますよ!」


 だって事実ですしー。

 あとソラさんや、皿の上がずっと空な気がするんですけど。

 焼いた肉とか置いても秒で消滅してませんか?

 なんなら皿に乗った瞬間に消えてませんか!?


「ララちゃん食べてますか?」

「はい。美味しいです」


 ソラの隣で笑顔を浮かべるララちゃん。

 こうやって見るとソラとあまり身長変わらないんだな。

 あと2人の髪色のせいか、ここが日本である事を忘れそうになる。

 ……前の日本とアニメ世界の日本は別物か。


「ララちゃーん! とうもろこし焼いたから食べよーよ!」

「はいです!」


 藍が炭火で焼いたとうもろこしを両手に持って登場する。

 完全に絵面がアホの子のそれなんよ。楽しそうだからいいけど。

 ララちゃんも焼きとうもろこし齧りついて、美味しそうにしている。


(そういえば化神の皆さまは)


 ふとカーバンクル達がいる方を見てみると、4体の化神はパラソルの下でのんびりしている。

 ブイドラとシルドラ用のお肉は、後で焼いてこっそりあげる予定だ。

 だがそれはそうとして、頃合いをみて俺もパラソル下に移動しよう。

 勿論、藍やララちゃんと一緒にだ。


(日陰で休憩とか理由をつけて、カーバンクルに例のカードを見てもらおう)


 それまでは、夏休みの楽しいバーベキュータイムを楽しもう。

 細かい事を考えるのは、もう少し後だ。





 で、バーベキューも終盤になったところで計画を実行。

 日陰で休憩という名目で俺はパラソルの下に移動する。

 すぐにブイドラに頼んで藍とララちゃんを連れてきてもらうように頼んだ。

 2人は決して怪しまれずパラソル下に来てくれる。

 ちなみに九頭竜さんもパラソル下にいるのだけど……


「きゅ〜」


 普通にのぼせて休憩中である。

 多分だけど、初めて友達バーベキューというイベントに身体が追いつかなかったんだろう。

 ままならない性質の原作キャラさんだ。


「さてと、本題に入ろうか」


 俺がそう言うとララちゃんは、持っていた召喚器から1枚のカードを取り出して見せてきた。


「これがララちゃんのパートナー……だと思うカード」

「ギョウブです。ララのお友達なのです」


 俺はひとまずカードに目を通してみる。

 【陰陽】のエースになるSRカード〈【陰陽の怪狸(かいり)】ギョウブ〉か。

 ここから2段階の進化をする、サモンでは少し珍しいデザインの効果を持っている。

 それはさておき、やっぱりタヌキのカードが絡んでくるんだな。


「カーバンクル、どうだ?」

「キュプイ、ちょっと失礼するっプイ」


 カーバンクルはララちゃんが手に持っているカードに近づいて、くんくんと匂いを嗅ぐ。

 だがすぐに首を傾げてしまった。


「化神のカード、で間違いはないはずっプイ」

「ブイドラはエネルギー不足になってるって言うんだけど」

「プ〜イ、確かにエネルギーが不足してはいそうだけど……なんか変っプイ」


 見るからに頭を悩ませているカーバンクル。

 化神に関する事でここまで困るカーバンクルも初めてだな。


「なんというか、空っぽのようで空っぽじゃないような……」

「どういう事だよ」

「キュップイ。擬似生命体としての化神は確かにこのカードに宿っているっプイ。エネルギー不足も、確かにあるように思えるっプイ」


 だけど……とカーバンクルは続ける。


「肝心の化神がカードの外に出ている状態っプイ」

「それってつまり、今のカーバンクル達のような状態か?」

「そうっプイ。化神がカードの外に出ても基本的にはカード側に変化は起きないっプイ。同名の別カードに移ったはできるけど、そうしたらカード内のエネルギーごと移動する事になるっプイ」


 つまりエネルギーが確認できる時点で、ララちゃんが持っているカードは今現在の化神の本体だと言い切れるという事か。

 だけどそうなると奇妙な話にもなる。


「なぁカーバンクル。エネルギー不足で出られなくなった化神なら、そもそも本人不在状態にはならないんじゃないか?」

「そうっプイ。だから変なんだっプイ」


 なるほど、だから「空っぽのようで空っぽじゃない」なのか。


「普通エネルギー不足になった化神は、強制的にカードに戻って休眠状態になるはずっプイ。なのにこの化神はエネルギー不足を起こしているはずなのに、外で存在の維持ができている事になるっプイ。矛盾のような現象っプイ」

「てことは、ララちゃんのパートナー……ギョウブは外で活動してるのか」

「そういうことになるっプイ。もしも化神として死んでしまったら、あの白紙のカードみたいになるっプイ」


 あの白紙のカード。ウィズのいた施設にあった化神の死体達か。

 そうなってないなら、どこかで生きていると判断していいんだろう。

 とはいえ、急にあのカード達のようになられても後味が悪いんだけど。


「えーっと……もうちょっとわかりやく教えて?」


 カーバンクル話についてこれてないのか、藍の目が点になっている。


「とりあえずララちゃんパートナーは生きている。だけどご本人がカード外に出ているという不思議現象が発生している」

「なるほど」

「本当にわかってるのか?」


 妙に簡略化された顔で答える藍に、思わず突っ込んでしまう。

 とはいえ俺も全てを理解できている自信はないのだけど。


「ギョウブ、大丈夫ですか?」

「生きてはいる。ただカードの外に出ちゃってるから、探さないといけない……で合ってるのか?」

「大体合ってるっプイ。だけど闇雲に探さなくても大丈夫。カードがパートナーの人間が持っているなら、化神も帰り道がすぐにわかるっプイ」

「つまりララちゃんがカードを持っていれば、勝手に帰ってくると」


 そう聞くカーバンクルは「その通りっプイ」と肯定してきた。

 だったら案外話は早そうだな。


「ギョウブ、帰ってくるですか?」

「ララちゃんがカードを大切に持っていれば、向こうから来るってさ」

「よ、よかったです」


 相当安心したのか、身体から力が抜けてしまっているララちゃん。

 随分パートナーを心配していたんだな。これは化神ともいいコンビになってくれそうだ。


「そういえばカーバンクル。不足したエネルギーはどうするんだ?」

「う〜ん。外で存在を維持できているなら特別なことは必要ないかもしれないっプイ」


 カーバンクルは「一応ファイトをして少しでもエネルギーを補ってあげても良いかも」と言う。

 だけどこの様子なら、そこまで大胆な事は必要ないのだろう。

 まぁその方が良いかもしれない。俺自信、ここから化神に大きなエネルギーを供給する方法がアレしか思い浮かばない。

 流石にこんな小さい子に、ウイルスカードを関わらせちゃダメだ。


「じゃあ思ったより大丈夫ってこと?」

「カーバンクル曰くそうなんだろうな。後は外から化神が帰ってくれば良いだけ」

「だってララちゃん!」

「本当によかっタのです。ギョウブ……早く帰ってきてくださいです」


 本当に安心しきった様子のララちゃん。藍はその横で心から喜んでいる。

 それもそうか、藍もブイドラとは付き合いが長いだろうし。


「キュップイ、だけど」


 ふと、カーバンクルが小さく何かを呟こうとする。


「なにか混ざっているような……普通のエネルギーとは別の、なにか変なものが混ざっている気がするっプイ」


 そう口にしたカーバンクル。

 喜んでいる最中の藍とララちゃんには聞こえていないらしい。

 変なものが混ざっている……一瞬ウイルスかと思ったけど、カーバンクルならすぐに見抜く筈だよな。

 じゃあ何が混ざってるんだ?


「うーん……なにか全然わからないっプイ」


 頭を悩ませるカーバンクル。

 だけど俺には起きている事態の検討もつかない。


(変な悪さをするもんじゃ無ければ良いんだけどな)


 根拠もなく、そう願うばかり。

 今の俺にはそれしか出来なかった。

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