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第百三十四話:陸の者/ともだち探し

 ツルギ達が海でのんびりしていた頃、(らん)真波(まなみ)は港に来ていた。

 昨晩お祭りで出会った少女、ララと待合せをしているからである。


「うーん、朝から海風が気持ちいい!」

「日差しの強ささえなければ最高だったブイ……」


 潮の香りを乗せた風を浴びつつ、藍はぐぐっと身体を伸ばす。

 無防備にそんな体勢をとるものなので、胸部がかなり強調されてしまうが、幸い今は港に人が少ない。

 隣で日差しにやられているブイドラに反して、藍は夏の暑さすらも存分に楽しんでいる。

 なお真波は隣で、藍の無防備具合をこの上なく心配していた。


「どうしたの真波ちゃん?」

「えっと……藍が悪い人に騙されないか心配になって」

「なんで急に?」


 色気をばら撒いている自覚が一切ない女、武井(ぶい)藍。

 真波は心の中で「ボクが守護(まも)らなきゃ」と決意していた。

 それはそうとして、二人は港で待ち合わせているララを探す。

 人が少なく見通しも悪くないので、すぐに見つかるだろうと思い、二つはキョロキョロと周りに視線を向ける。

 しかしララの姿は見つからない。

 代わりに見つかったものといえば、十数匹のタヌキが群がって出来上がった大きな毛玉くらい。


「いやアレだぁぁぁぁぁぁ!?」

「またタヌキに埋もれてるブイ……」


 思わず叫んでしまう藍だが、急いで真波と共にタヌキを剥がしに向かう。

 そんな彼女達を、ブイドラとシルドラため息をつきながら見ていた。

 数分経って、ようやくタヌキを剥がし終える。


「ララちゃん、大丈夫!?」

「むきゅ〜、モフモフに溺れるです〜」


 藍が声をかけ肩を揺らすが、ララは目を回すばかりである。

 タヌキに埋もれて、酸素が不足していたようだ。

 ひとまずララは息を整えて、ようやく通常営業に入る。


「あウぅ、また助けラれましタです」

「ララちゃん、またタヌキだらけだったね〜」

「タヌキに好かれる体質なのかな? ちょっと憧れる」


 ララの服についたタヌキの毛をとってあげながら、真波はそんな事を呟く。

 しかしララや藍からは内心「そうでもない」と突っ込まれていた。

 そんなこともあり、ようやく今日の本題に入る。


「それで、今日は化神を探すのだろう?」

「ララのパートナー探しブイ!」


 ララの頭上をクルクルと飛び回りながら、今日の目的を口にするシルドラとブイドラ。

 昨夜の約束で、今日は皆でララの友達である化神を探す予定だ。

 とりあえず一同は港を後にして、島の中へと入っていく。

 その道中で藍達は、ララと色々話をするのであった。


「たしかララちゃんのお友達って、大きなタヌキの化神なんだっけ?」

「ハイ、ギョウブっていうです。ララと同じくらい大きいです」

「冷静に考えると、ものすごく大きいね」

「でも大きいならきっと見つけやすいよ!」


 大真面目にギョウブという化神の大きさを想像して、真波は少し不安を覚えてしまう。

 一方で藍は、頭の中で「おおきなタヌキ」を思い描きながら呑気にしていた。

 気づけば御土産屋が並ぶ商店街に入っていた面々。

 藍はふと視界に入ったご当地カードショップを見て、ある事を思った。


「そういえばララちゃんはサモンのデッキ持ってるの?」

「ハイ、持ってるですよ。会ったらギョウブと一緒にファイトをする約束なのです」


 そう言ってララはカバンから一つの召喚器を取り出してみせた。

 なんでも以前会った時はまだデッキを持っていなかったので、次に会ったらデッキに入ってもらう約束をしたらしい。

 それを聞いた藍は優しげな声で「そっか」と笑顔で答えた。


「ねぇねぇララちゃん。お友達がデッキに入ったらアタシとファイトしようよ」

「ランとファイトですか? でもララ強くないですよ」

「いいのいいの。強いかどうかじゃなくて、楽しく全力でぶつかるのがサモンの面白さだもん」

「オイラも藍と一緒に全力でぶつかりたいブイ!」


 楽しそうにファイトを申し込む藍とブイドラ。

 ララは生まれて初めて年上から申し込まれたファイトに、どこかワクワクとしたものを感じていた。


「まったく……雑種の喧嘩(ファイト)好きもここまで来るとはな」

「でも藍が楽しそうだから良いと思う。ボク達も後でファイトしてみる?」

「マナミが望むなら、我はそれを叶えるまでだ」


 ファイトの約束をして楽しげに盛り上がっている藍とララ。

 真波はそんな彼女達を見守りながら、自身の闘争心に少しだけ火を灯すのであった。


「……ところでご当地カードショップに寄り道は」

「ダメブイ」

「ダメだよ藍」


 ブイドラと真波に止められて、藍はションボリとしながらカードショップを諦めるのであった。

 そして一同は大した当てもなく島の中を巡る。

 島に棲み着いている野生のタヌキなら際限なく見つけられるが、ララの友達である化神は見つからない。

 一応ララの心当たりを元に動いてみるが、まったく見つからない。


「なかなか見つからないブイ」

「だが島に化神の気配がある事は間違いない」

「ねぇシルドラ、それって今朝の子とは違う気配なの?」


 真波はシルドラにそう質問をする。

 アイのパートナーとなった化神、ウィズもこの島にいた存在である。

 真波はその気配だったのではと考えたが、シルドラはあっさりと否定した。


「いや違う。仮にそうだったとすれば、移動したパートナーの元に移動した時点で島全体から気配が消え始めるはずだ……だが未だに感じる気配に変化はない」

「じゃあ島のどこかに化神がまだいるのは間違いないんだ」

「そうだな」


 シルドラの説明に納得はする真波。

 しかしそれはそうとして、他の化神がどこにいるのかが気になっていた。


「しかし……こうも島中に化神の気配が漂うとなれば、こちらから居場所を特定する事も難しくなるな」

「4年もパートナー無しじゃあ、干からびてミイラになってそうブイ」

「ギョウブがミイラになってるですか!?」


 ブイドラの何気ない発言に、ララは顔を青くして声を上げてしまう。

 すかさずシルドラはブイドラの頭を蹴り飛ばすのだった。


「痛ァ!? なにするブイ!」

「馬鹿か貴様は。我ら化神がミイラになるわけがないだろう!」

「例えの話ブイ!」

「配慮を覚えろ。だから貴様は雑種なのだ」


 そう言い残すとシルドラは、ララの元に近づいて説明を始めるのだった。


「安心しろ。我々化神はエネルギー切れ以外で死ぬことはまずない」

「エネルギー、です?」

「お腹が空いてなければ大丈夫ってことだよ」


 真波がわかりやすく表現してくれたので、シルドラは「そういう事だ」と首を頷かせた。

 さらに付け加えるようにシルドラが続ける。


「これだけ化神の気配が漂う土地だ。多少の弱りはあれど、死ぬような事はありえないだろう」

「どっちにしろ、早く見つけてやるのが一番ブイ」


 最悪の事態はないという予想に、ひとまず安心するララ達。

 とにかく件の化神を探さねばならないので、さらに島の中を散策するのだった。

 そして巡り巡って、昨晩ララと出会った場所でもある隠神大社へと辿り着いていた。

 その瞬間であった、シルドラは一つの違和感を覚える。


「ん? 昨夜と感じる空気が違うな」

「そりゃあお祭り二日目とは言っても、屋台はこれからだもんね〜」

「違う。食欲から離れろ赤髪娘」


 シルドラから冷静な突っ込みをくらい、藍は少し心にダメージを負う。

 それを気に留めることもなく、シルドラは静かに周辺の気配を探っていた。


「シルドラ、どんな感じ?」

「気配が消えた……いや、これは入れ替わったのか? 変化している」

「じゃあそっちに行ってみよう。二人もいい?」


 真波の提案に頷く藍とララ。

 そのまま鳥居を抜けて、奥へと進んでいく。

 周辺は屋台の準備をしている人達ばかりだが、そちらはスルーして一同はシルドラの案内についていく。

 奥に進み、本殿の近くまでくる。


「……あちらか」


 そう言ってシルドラが指した方向は、昨晩訪れた森林のある場所であった。

 ここまで来るとブイドラも違和感に気づいたようである。


「藍、なんか昨日と違うブイ」

「じゃあこっちが当たりかもね」


 直感的にそう口にする藍。

 きっと目的達成ができるだろうと、根拠のない自信を胸に抱いて、藍はララの手を握るのだった。


「友達、いるといいね」

「……ハイです!」


 優しげな表情の藍に、ララは笑顔でそう返す。

 それを見て真波は内心「拝啓、お父さんお母さん。ボクのお友達は聖母かもしれません」と意味不明なメッセージを呟いていた。

 シルドラとブイドラに先導してもらい、森林の中に入っていく藍達。

 目に見える変化は、少し奥に行くとすぐにわかった。


「ねぇ真波ちゃん、なんか昨日と違うよね?」

「うん、木が普通になってる」


 昨晩は極太の木の根が下から上に向かって生えていた森林。

 根が絡まりあって壁を作っていたが、今はそんな事もない。

 普通の木が、普通に生えているのみ。

 異質なものは最初から無かったかのような雰囲気である。


「なんか、うっかり迷っちゃいそうだね」

「大丈夫ブイ。オイラ達がちゃーんと道案内するブイ」


 ブイドラという頼りになる相棒の言葉に、藍は大きな安心を覚える。

 そうしているうちに、昨夜辿り着いた場所まで来ていた。

 シルドラとブイドラも動きが止まる。


「ここは、昨晩のタヌキ祭りだった場所だな」


 そういうシルドラだが、昨日とはまるで光景が違う。

 ララが座っていた木の根はそもそも消えており、見通しがよくなっている。

 タヌキはチラホラといるが、決して密集しているとは言えない程度だ。

 何より目立っていたのは、昨日は木の根やタヌキに隠れて見えていなかったソレである。


「これ……なにブイ?」

「これ漫画で見たことある。祠ってやつじゃない?」


 ブイドラの疑問に藍が答える。

 一同の視線の先には、一つの古びた祠が鎮座していたのだ。

 年季の入った雰囲気を醸し出している祠だが、あまり手入れされている様子もない。

 扉はあるが既に破損しており、中には枯葉が山ほど詰められている。


「やっぱり、あった……ギョウブと会った時も、これがあったです!」


 ララ曰く、4年前に会ったのもこの祠の前だったらしい。

 翌年からその場所に必ず行くものの、木の根に隠れて見つけられなかったと言う。

 一度は自分の夢かと疑っていたが、出会った場所が実在したことで、ララは目を輝かせて喜んでいた。


「でも中が葉っぱダらけです」

「そうだね〜。ちょっと掃除してあげよっか」


 そう言って藍はララと一緒に、詰め込まれいる枯葉を掻き出し始めた。

 そんな彼女達を見ながらシルドラは何かを感じ取る。


「どうしたのシルドラ?」

「あの祠……何かいる」


 シルドラの言葉に真波は「えっ」と小さく感嘆をこぼす。

 だがすぐにその思いは消し飛ばされてしまった。

 藍が枯葉の中から何かを見つけたのだ。


「あれ? なにか固いものが……」


 枯葉の塊を取り出して、丁寧に剥がしていく藍。

 少しずつ中に隠れていたものが姿を現していく。

 半分見えたあたりから、藍とララは表情を明るくさせていた。

 そして、ついに全てが露わになった。


「ララちゃん、このカードって!」

「ハイ……これ、ギョウブなのです!」


 出てきたのは1枚のカード。

 記載されている名前は〈【陰陽の怪狸(かいり)】ギョウブ〉であった。

 描かれている姿もララが言っていた通り、タヌキである。


「ねぇブイドラ! このカードって」

「くんくん、間違いなく化神のカードブイ」

「うむ、確かに雑種の言う通りではあるな……だが」


 ブイドラとシルドラによる見解も出た。

 間違いなく探していた化神だとわかり、藍はララと一緒に飛び跳ねて喜ぶのであった。


「やったねララちゃん!」

「ハイです! 本当にありがとうございますです!」


 ララは目に涙を少し浮かべて感謝を述べる。

 しかし全ての問題が解決しているわけではない。

 喜ぶ二人にブイドラが話しかけた。


「藍、喜ぶ前にコイツのエネルギーをどうするか考えるブイ」

「……エネルギー?」

「このカード、多分エネルギー不足起こしてるブイ。じゃなきゃここまで無言じゃないブイ」


 そこで藍は先程のシルドラが言ったことを思い出した。

 死んではいないが、弱ってはいるかもしれない。

 エネルギー切れを起こすと化神は死んでしまう……という事を思い返して、藍は心底焦り始めた。


「あわわわわ、どうしよブイドラ!?」

「カードから出てこれない化神のエネルギー問題なんて、オイラも専門外ブイ」

「ならば詳しそうな化神に聞けば良いのだ」


 ガックリと肩を落とすブイドラに、シルドラがそう告げる。


「詳しそうな……あっ、カーバンクル!」

「あの者なら何か知っているだろう。尋常でないエネルギーの塊だからな」

「藍、ちょっくらカーバンクルのとこに行くブイ!」

「もちろん! ツルギくんに連絡するね」


 すぐさまスマホを取り出して、藍はツルギに連絡をとる。

 真波はララの頭を撫でながら「大丈夫、きっとなんとかなるから」と少しでも安心できるようにしていた。


「もしもしツルギくん!? ちょっと大変なことになっちゃって――」


 電話でツルギに現状を説明し始める藍。

 そんな中、シルドラは何か奇妙なものを感じていた。


(カードから出られない弱った化神……だが何か妙だ……周辺から感じる化神の気配に変化がない……そして形容し難い異物のような、この何か……)


 化神とは異なる何かの気配を感じるシルドラ。

 しかしその出所が目の前にあるカードなのか、それとも別の場所からなのか。

 検討もつかなければ確信にも至れないので、シルドラはそれを上手く言葉にできなかった。

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