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俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜  作者: 鴨山 兄助
第五章:高校生編②

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第百十八話:エマージェンシー

 翌日、俺は学校をサボって町中を駆け回っていた。

 まずは速水の家の周辺。その町の至る場所。カードショップ。

 思いつく場所は手当たり次第に行ってみる。

 俺だけじゃない。ソラやアイ、(らん)九頭竜(くずりゅう)さん、そして牙丸(きばまる)先輩も動いてくれている。


「クソっ、どこに行ったんだよ」

「全然見つからないっプイ」


 今朝、家に速水のお祖母さんから電話がかかってきた。

 あの後速水は、家に帰ってきていないと。

 電話をとった母さんから話を聞いた瞬間、俺は慌てて家を出た。

 他の皆にもメッセージを送って、居場所を知らないか聞いてみる。

 ありがたい事に、他のみんなも速水の捜索を手伝ってくれる事になった。

 そして九頭竜さんから話がいき、牙丸先輩も捜索を手伝ってくれている。


「ツルギ、他の町かもしれないっプイ」

「じゃあ赤土(あかど)町か」


 俺の頭上でカーバンクルがそう言う。

 既に時間は14時、あちこち駆け回ったが速水は見つからない。

 スマホでグループメッセージを確認するが、発見の報告はない。

 俺は「今から赤土町を探す」とメッセージを送って、電車に乗り移動した。


(……地理は、前の世界と微妙に違う)


 ふと浮かんだ場所は、前の世界で速水が死んだ場所。

 だけどその場所は、この世界には存在しない。

 一応位置的には赤土町にあたるけど、あの町で死のうものなら今頃SNSで酷い話題になっている。

 電車移動の最中、念のために俺はSNSでそれらしき情報が出ていないかを調べる。


(幸いにして、今は何もなしか)


 それはそうとして、速水送ったメッセージは全て未読。

 昨日は一度既読になったけど、また逆戻りか。


(それだけはない……それだけは絶対に避ける)


 ただただ自分に言い聞かせる。

 それが無意味だと分かっていても、そうしないと心臓が落ち着かない。


 電車が無事に駅に着いて、俺は急いで改札を出る。

 平日の昼過ぎとはいえ、観光地でもる赤土町は人が多い。

 今だけはこの人の多さが僅かな安心になるかもしれない。

 人が多ければ、非日常の話題が出た時の速報性が高まる。

 速報なんて絶対に聞きたくないけどな。


「カードショップ、数が多いんだよ」


 やたらと多いカードショップを総当たりで確認する。

 だけど速水はいない。

 ならば本屋はどうかと思って向かうも、そこにもいない。

 そもそも一晩戻らず過ごせるような場所となると、数も限られるぞ。


「ネカフェ、速水が行くか?」


 気づけば時計も16時になっている。

 想像がつかない可能性を当たってみるかどうか考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ツルギくん!」

「ソラ、そっちはどうだ!?」

「見つかりません。どこに行ったんでしょう」


 それが分かれば今すぐ向かってる。

 念のため学校に居てもらっている九頭竜さんにメッセージで確認をとるが、速水は学校には来ていないらしい。

 現在他の町を捜索中のアイと藍も同様。


「学校周辺にも、いないみたいですね」

「サーガタワーの一般見学スペース……は無いか」


 あそこは要予約な上に、即日で入れるような場所でもない。

 いけても入り口付近が関の山。

 上層の研究室なんてもっと無理だ。


「そろそろ学校が終わった頃ですし、クラスの人達にも手伝ってもらった方が」

「だな。ちょっと連絡入れてみる」


 ソラに言われて、俺はアプリのクラスグループにメッセージを送ろうとする。

 その時であった、誰かが俺達の方へと近づいてきた。


「おやおや? 学校をサボってまでデートでもしてたのかい? 君は随分と余裕があるんだね」

「うわ出たっプイ」


 偉そうに話しかけてくる男子。というか何故か俺に何度も顔を見せつけに来る、粘着質なクラスメイト。

 今はカーバンクルでさえ嫌がる男、財前(ざいぜん)であった。


「君がうかうかしていると、僕が学園の頂点に――」

「ごめんなさい、少し黙っていてください」

「天川以外から塩対応だと!?」


 ソラに塩対応されたのが相当ショックだったらしい。

 財前がめちゃくちゃ変な顔を晒してる。

 でも実際問題、今はそれどころじゃない。


「悪いけど今日はお前の相手をしてる暇は――」

「勘違いするな。僕は君に注告をしに来ただけだぞ」

「注告?」


 何を言ってるんだコイツは。


「自分のチームメイトくらい、ちゃんと手綱を握ったらどうだ? あの速水とかいう奴、昨日よくない場所に行っていたぞ」


 俺とソラは、ほぼ同時に財前の方へと向いた。

 昨日だと?


「先生も言っていたが、あの辺りは裏ファイト関係の」

「どこだ! どこで見た!」


 思わず財前の両肩を掴んで聞き出してしまう。

 いきなりで驚いたのか、財前は目を大きく開いていた。


「あっ、あそこだよ。駅から南の方に離れた、居酒屋が集まっている、人の少ない路地」


 あそこか。場所なら知っている。


「ツルギくん!」


 言われなくてもだ。

 俺はソラと一緒に、その路地に向かう事にした。


「色々サンキュ、財前!」

「だから僕は財前だッ! …………いや合ってるのか」


 後ろから財前の声が聞こえたが、気にせず俺とソラは駆け出した。


 そして駅から南の方へと進むと、どんどん人が少なくなっていく。

 この辺りは治安が良くないので、観光客もあまり近づないとの話だ。

 道路も汚いし、タバコの臭いが漂っている。


(あれ? この光景って)


 俺は路地に近づくにつれて、周り光景に見覚えがあった。

 一度立ち止まって、周辺を見回す。


「ツルギくん、どうしたんですか?」

「……まさか」


 記憶の中に、一つだけ該当する場所がある。

 アニメの中で、(まつり)誠司(せいじ)が裏の人間にウイルスカードを売るシーン。

 その時に地下施設の入り口となる酒場へ移動する最中……たしかこんな景色の場所を歩いていた。


 頭の中で急速にパズルのピース組み上がっていく気がする。

 政誠司という人間なら、そういう場所に連れ込む可能性は十分にありえる。

 だったらやるべき事は一つだ。


「ソラ、少し戻るぞ!」

「えっ、どうしてですか!?」

「速水の居場所がわかったかもしれない! けど入るには必要なもんがあるんだよ!」


 俺はそう言いながら来た道を戻り、駅前の銀行に駆け込んだ。

 ソラには少し外で待ってもらい、必要な事を終えた俺はさっさと銀行を出る。


「悪い。今度こそ行くぞ」


 と、その時であった。

 これまたよく知る人物が、俺達に駆け寄ってきた。


「天川、そっちは見つかったか!?」


 牙丸先輩だ。相当走り回っていたからか、汗もすごく息も絶え絶えだ。


「まだですけど、居るかもしれない場所は分かりました。今から行きます」

「そうか。ボクも一緒に行っていいか?」


 先輩、かなり責任感じてるみたいだ。

 これは断れないな。


「はい。じゃあ早速行きますよ」


 こうして俺はソラと先輩を連れて、再び例の路地へと駆け出した。

 記憶を頼りに、酒場が集まっている場所を探し出す。

 掲げられている看板を一つ一つ、見落とさないように確認して……そして、見つけた。


「あった」


 アニメでも見た酒場の看板だ。

 間違いない、ここは地下ファイト場の入り口になっている。


「牙丸先輩、万が一の時はソラを」

「言われなくても、君も逃すさ」


 俺は先頭に立ち、酒場の扉を開ける。

 中にはガラの悪い、いかにもな男達が酒を飲んでいる。

 こちらを品定めするよう見てくるが、今は無視だ。

 目的はカウンターにいる店員だけ。


「いらっしゃい。ご注文はアイスミルクでいいかな?」

「裏への扉を開けて欲しいんですが」


 腹芸だとか遠回しな表現だとか、そんなのしてる暇はない。

 俺は単刀直入に要求を伝えた。


「それを注文するという事は、色々と知っているという事だね」

「会員カードは無いですけどね」

「大丈夫。入場料さえ払ってもらえれば問題ない」


 ほら、入場料でなんとかなった。

 俺はどんな値段が提示されるのだろうかと考えていると、後ろからソラと牙丸先輩が耳打ちしてきた。


「ツルギくん、ここってもしかして地下ファイト場ですか?」

「天川、何故君がこんな場所を知っているんだ」


 まぁそうなるよな。

 だったら答えてやろう。


「政帝が常連さんみたいなので、知っちゃったんですよ」


 嘘は言ってない。全部も言ってないけど。

 とはいえ、流石に牙丸先輩にはショックだったんだろうな。

 めっちゃ顔を青くしている。

 さてさて、話を戻して入場料だ。


「入場料はいくらですか?」

「一人につき100万円だよ」


 なるほど。


「ひゃ、ひゃくまんえん!? 絶対払えませんよ!」

「クッ、こんなところで」


 あ〜、ソラと牙丸先輩。

 すごいリアクションしてるところ申し訳ないんですが。


「じゃあ現金一括払いでお願いします」

「これが漢気の支払いっプイ!」


 バサバサッ!

 俺は持っていた鞄から100万円の束を三つ、カウンターに出した。

 店員さん、クール装ってるけど結構驚いてるな。タバコ落ちそうですよ。


「あぁ……確かに」


 数えるのは後でゆっくりお願いします。

 とりあえずこれで裏への扉は開いた。


「コホン。じゃあ案内します」

「ソラ、先輩! 面白い顔してないで行くぞ!」

「……だから銀行に行ったんですね」

「なぁ、天川ってスゴいお金持ちなのか?」

「あれで一般家庭らしいですよ」


 後ろから牙丸先輩の「冗談だろ」という声が聞こえるなぁ。

 ウチは一般家庭ですよ。

 ちょっと前の世界で当たり過ぎたハズレSRを定期的にオークションとかで売り払ってるだけですよ。

 いや本当にありがとう、ショップのオリパで無駄に入りまくっていた重症患者(クソザコ)の皆様。

 君達の犠牲は忘れない。


「こちらの階段から続いています」


 俺達は奥へと案内されて、裏の施設へと繋がる扉へと案内された。

 扉の向こうは下り階段。俺達は躊躇う事なく階段を下りていった。

 長い階段と長い通路を進むと、広々とした空間に出る。


 アニメでも見た事がある。

 政誠司が交渉の場として利用していた、違法な賭けファイトをする地下施設だ。

 ここは観客席ってやつか。


「まさか地下にこんな施設が本当にあるとはな」


 実物の地下ファイト施設を目の当たりにして、牙丸先輩複雑そうな顔になっている。

 無理もないか、政誠司がここに通っているとなればな。

 それはそうと、なんか客席が妙だな。


「先輩、なんか静か過ぎませんか?」

「天川もそう思うか。サモンファイトの観客とは思えない静かさだ」


 所謂歓声と呼べるような声は全く聞こえない。

 なんなら席に座っている人達は、不自然なくらい無言無表情だ。

 試しに顔を覗き込んでみるが、反応はない。

 起きたまま意識を奪われているのか?


「ツルギ……この人達、みんな感染してるっプイ」

「マジかよ……これ全部?」


 目視だけで40人はいそうだぞ。

 それが全員ウイルス感染済みってのは流石に想定外だぞ。

 ……イリーガルな人達だから後回しでいいかな?

 

「これは驚いたな、著名な人物が随分といる」


 牙丸先輩も様子がおかしい観客を見て回ったのだろう。

 その上でのコメント。どうやら著名な金持ちが何人も遊びに来ていたらしい。

 だけど皆揃って反応がない。少なくとも生きてはいるのだけど。


(……ん?)


 客席の足元に、黒い霧のようなものが漂っているように見えた。

 やっぱりウイルスカードの影響がでているんだな。

 そう思った次の瞬間、ソラが声を上げて俺を呼んできた。


「ツルギくん! ファイトステージを見てください!」


 俺は慌ててファイトステージの方に視線を向ける。

 ちょうど立体映像が消えた直後らしい。

 ステージの片側には今しがたライフが0になって敗北したファイターが一人、その場で気を失っている。

 反対側に立っていた対戦相手は……俺達が探していた人物であった。


「速水」


 やっと見つけた……そう思ったのも束の間。

 ファイトステージには黒い霧が既に漂っていた。

 その意味を理解した瞬間、俺は速水に何が起きたのか察してしまった。


「天川、何か様子がおかしいぞ」

「ツルギくん、速水くんが全然反応してくれません」


 何度か名前を呼んだソラだったが、速水は無反応。

 牙丸先輩も観客席から声をかけるが、やはり速水は無反応。

 そうだろうな……あの状態で周りの声なんて聞こえるわけがない。

 俺は腰のホルダーから召喚器を取り出す。


「速水、ウイルスに感染している……」

「ウイルス、いったい何の?」

「もしかして、この前ツルギくんが言っていた『人間にウイルスを感染させるカード』ですか?」

「そうだ。速水が感染させられたんだ!」

「そんなカード、聞いたことがないぞ」


 牙丸先輩の反応は当然だと思う。

 きっとソラも半信半疑だっただろう。

 だけど現実なんだ。速水はウイルスに感染している。

 恐らく観客席の人達の様子がおかしいのも、ウイルスカードの影響だろう。


「速水ッ!」

「あっ、ツルギくん!」

「天川!」


 俺は召喚器を握りしめて、観客席からファイトステージへと飛び降りた。

 今の速水に言葉を届ける方法は、一つしかない。


「なぁ……速水、俺の声が聞こえるか?」

「……テン、カワ」

「名前はちゃんと答えられるんだな。じゃあ次は、昨日からお前に何があったかを答える番だ」

「ツルギ、それじゃダメっプイ」


 速水は目が虚ろである。

 だが眼鏡の向こうでも、確かに確認できた。

 アイツの目が赤く染まっていた。

 ウイルスに感染している証拠である。


「速水、頼むから教えてくれ……昨日なにが」

「ダメっプイ……それじゃ何も届かない」

「ターゲット……ロック」


 こちらの質問に答える事なく、速水は俺の召喚器にターゲットロックしてきた。

 声が届いていないというよりは、意識を操られているような……


「アレに感染したらもう、戦うしかないっプイ!」

「ファイト……勝利……倒すべき、相手は……」


 息を切らせるように、何かに抗うような声で搾り出す速水。

 だがすぐに飲み込まれてしまい、赤く染まった目をこちらに向けてきた。


「天川、ツルギ! それが、友の望み!」

「ッッッ! 速水ィィィィィィ!」


 俺が絶叫すると同時に、頭上にいたカーバンクルがデッキのカードに戻る。

 戦いは避けられない。

 自分の感情が爆発するのを感じながら、俺は召喚器から5枚の手札を引いた。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 必ず……戻してやるからな。

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