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第九十九話:試練が終わり……ひと休み

 最寄りの先生に声をかけて、気絶した坂主(さかぬし)を回収してもらう。

 よかった……正直最初は政帝(せいてい)達しか責任者がいないのかと思っていた。

 まぁ白目剥いて気絶した坂主を前にして、先生は驚いていたから、そこだけは少し申し訳ないな。

 とはいえ流石に今この瞬間に真実を話すわけにもいかないからな。

 今は敗北のショックで気絶した事にしてもらおう。


 それはそうとして、これで5位圏内の状態で5勝目。


「これで第三の試練はクリアか」


 なんか壮絶だったような、呆気なかったような。

 なんとも不思議な感覚だ。

 とりあえず会場の大型モニターには、順位の繰り上がりが表示されている。

 召喚器の持つ色々な連動機能って本当に便利だな。


「お見事、君が最初の突破者だよ」


 パチパチと拍手をしながら、1人の生徒が近づいてくる。

 金髪高身長、いかにも女子受けしそうな甘い表情を浮かべる男。

 現六帝(りくてい)評議会の頂点に君臨する男、(まつり)誠司(せいじ)だ。三歩後ろには風祭(かざまつり)(なぎ)もいる。


「見事だったよ。まさかSクラスの生徒でも歯が立たないとはね」

「それはどうも。運も良かったんで」

「運命すら引き寄せる実力を持つ、ということだろう? 天川(てんかわ)ツルギくん」


 おっと、名前を覚えられていたか。

 まぁ、モニターに試練をクリアした生徒として名前表示されてたけどさ。

 それはそれとして、黒幕さんに顔と名前を覚えられてしまうのは……どうにもムズムズするな。


「君の活躍は聞いているよ。中学の頃は、無名の学校からJMSカップで優勝を掴みとったそうだね」

「最高の仲間がいたおかげですね」

「それだけじゃない。この合宿でも素晴らしい発想力で、試練を突破してきたじゃないか」


 うーん、なんだか気味の悪い流れだな。

 政誠司から敵意感じない、かといって友好的かと聞かれると……正直、表面的なものしか感じない。

 後ろの嵐帝(らんてい)こと風祭凪が無言なのも気になる。

 仕掛けてみるか。


「先輩……要件はストレートにぶつけて貰えると嬉しいです」

「おっと、君にはそっちの方が良かったんだね」


 何か空気が変化するのを感じた。

 政誠司は後ろに控えていた風祭凪の名前を呼ぶ。


「凪」

「はい誠司様」


 控えめなお辞儀をして、風祭凪が前に出てくる。

 すると彼女は1枚の書類を俺に差し出してきた。

 

「評議会補佐の入会書?」

「はい。誠司様はアナタの事を高く評価しています。決して損のある話ではないと思いますよ」


 などと言う風祭凪。

 受け取った書類を、俺はじっくり見てみる。

 なるほどねぇ……要するに俺を自分の部下にしたいって魂胆か。

 確かに普通の生徒なら喜んで書類にサインするだろうな。

 なんせ六帝評議会の序列第1位からの誘いだもん。官軍に入れば将来も安泰だろうさ。


 ただし……それは一般的な感性の持ち主だったらの話だけどな。


「序列第1位からのお誘いとは、光栄ですね」

「そうかい。僕は君と友好的な関係を築きたいと思っているよ」

「友好的な関係については大歓迎です……ただし」


 俺は手に持っていた書類を勢いよく破り捨てた。


「戦うべき相手の下につく気は全くない」

「……ほう」


 政誠司は面白い者を見るような目で。

 風祭凪は「なっ!」という声と共に顔を赤くして、俺を見てくる。


「悪いんですけど、近いうちに玉座を貰う予定なんで」

「なるほど……一流の野心を持つ男だったということか」

「アナタっ、誠司様の慈愛をよくも!」

「よせ凪」

「ですが!」

「よせと言っている」


 厳しい目つきで、政誠司は風祭凪を制止した。

 本当にあの先輩は忠犬だな。

 そんなんだから薄い本を大量生産されるんだぞ。

 風祭凪わからせ調教本をどれだけ目撃したと思ってんだ。


「天川ツルギくん。君は玉座に座って何をしたいんだい?」

「明るい未来。あとはその時に考えてやる」

「なるほど……野心以上に、恐ろしい程の欲を抱えているみたいだね」

「その欲で、守れるものが多すぎるんですよ」

「その言葉は理解するよ……とはいえ、僕も簡単に椅子を渡す気つもりはない」


 俺と政帝は、互いに目線をぶつけ合う。

 もう余計な言葉は必要ない。

 二学期のランキング戦、そこで答えを出してやる。


「行こう、凪」


 政誠司は踵を返して、俺の元を去って行った。

 風祭凪はこちらをひと睨みしてから、彼の後を追っていく。


 彼らにも色々事情はあるんだろうけど、こちらも必要な抵抗はさせてもらう。

 絶対にウイルスカード事件は解決して、その玉座を貰うからな。


(……あれ? そういえば)


 俺さっき坂主の使うウイルスカードと戦ったわけだけど。

 その後なにかに触ったような気がする。

 なにかカードを拾ったような、何もなかったような。

 上手く思い出せないな。


(……まぁ、いいか)


 とりあえず今は、合宿の課題こと「三つの試練」クリアを喜ぼう。

 そんな事を考えながら、俺は会場を後にするのだった。


 ……いや、出口どこだ?





 迷子になりながらも、なんとか地上に戻ってきた俺。

 ホテルのロビーに行くと、待機していた先生に召喚器を確認された。

 どうやら俺が最初の突破者らしい。


「クリアしたら今日と明日はほとんど自由時間だから。のんびり羽を伸ばしなさい」


 などと言われたが、一人じゃどうにも退屈だ。

 とはいっても、幸いにしてホテルにはカフェが併設されている。

 コーヒーでも飲みながら他の皆を待ちますか。

 ……にしても妙だな。なんか身体にスゴい疲労を感じるぞ。


「そんな時は、男のブラックで癒されましょう」

「苦いのに、よく飲めるね」


 あっ、九頭竜(くずりゅう)さんが来た。


「九頭竜さん2番目?」

「うん。天川くんの方が早かったんだね」

「最後の方は少し大変だったけどな。とりあえずコーヒータイムでもして待とうぜ」

「うん、そうする」


 そして九頭竜さんはメニュー表を見始めた。

 ちなみにシルドラは連戦の疲れでカードの中で休息中らしい。

 そういうシステムなんだな。


「あら、やっぱり二人の方が早かったのね」


 3番目の突破者はアイだった。

 そして九頭竜さんはメロンクリームソーダを注文していた。


「喫茶店で待つのも、一興よね」

「のんびり羽伸ばせるしな~、アイは何たのむ?」

「私はハーブティーを」


 流石は金持ち。洒落たもんを頼むんだな。

 なんて考えていると、次の突破者がこちらに来た。


「やっぱり、ツルギくんでした!」

「流石にお前たちはクリア済みだったか」


 ソラと速水(はやみ)がやってきた。

 聞くところによると、ソラが4番目で速水が5番目らしい。

 これ身内で上位独占できそうだな。


「ソラは何か飲むの?」

「私はアイスティーにします。流石にヘトヘトです~」


 アイの隣で、ソラが溶けていた。

 やっぱり連戦は疲れるもんな。


「俺は炭酸水を。できれば硬水がいいな」

「速水も珍しいもん頼むな~」


 高校一年生にしては意識高すぎると思うぞ。


 それはそれとして……ふと俺はある事が気になった。


「九頭竜さん、(らん)とはファイトしなかったのか?」

「ん。挑まれなかった。もしくは挑まれるより先にクリアしちゃった」


 メロンクリームソーダを堪能した直後だからか、少し緩んだ顔で答える九頭竜さん。

 そうか……少し意外だな。

 藍の性格的な事に加えて、ブランクカードを入手した直後だ。

 一目散に九頭竜さんに挑みにいったものかと思っていた。


 ……いや待てよ?

 確かアニメで藍と九頭竜さんが次にファイトするのは、二学期のランキング戦だったな。

 これはアレか? 歴史の修正力的な現象なのか?

 そうだとしたら……それはそれで面白いな。


 なんて事を考えていると。


「あぁぁぁ! もうみんなクリアしてたのー!?」

「お疲れ藍。とりあえずジュース飲むか?」

「飲むけどー! なんか敗北感がすごいよー!」


 いや藍さんや、それでも君6番目のクリアよ。

 挑戦者109人の中の6位よ。

 普通にスゴいと思うんだけどな。


「あっ! 真波(まなみ)ちゃん、それメロンクリームソーダ?」

「ひょえ!? そ、そうだけど……」

「じゃあアタシもそれにするー!」


 藍は店員さんにメロンクリームソーダを注文している。

 その一方で九頭竜さんはというと……


「お、同じ……お友達と、同じジュースを……これは夢? それともボクの妄想?」


 こうやって見ると本当におもしれー女だな九頭竜さん。

 なんだかブラックコーヒーがいつも以上の美味に思えるぞ。


 あっ、そういえば。


「みんなは政帝からなんか声かけられたか?」

「ん? なんの事だ」


 速水は何もなし。

 他のみんなも……どうやら何もなかったみたいだな。


「じゃあアレは俺だけか」

「天川くん、なにかあったの?」


 九頭竜さんが真面目に聞いてきたので、俺は試練クリア直後の事を話す。

 で……全部話し終えた結果がこの反応だ。


「て、天川……お前なぁ……」

「あら、私はツルギらしくて好感が持てるわよ」


 速水が額に青筋を浮かべながら頭を抱えている。

 アイを見ろよ、俺に優しいリアクションだぞ。

 いやまぁ……思いっきり序列第1位に喧嘩売ったのは事実だけど。


「もー、ツルギくん! 無茶しちゃダメですよ」

「だってココで喧嘩売っといた方が話が早くなりそうだったし」

「メッです!」


 うーん、ソラにも叱られてしまった。

 でも序列第1位の椅子を奪いに行くことは否定しないあたり……やっぱりソラは優しい子ですよ。


「いいなぁ……アタシも政帝に声かけられたらファイト挑んだのに」

「……」

「あれ、真波ちゃんどうしたの?」


 考え込む九頭竜さんに、藍が声をかける。


「うん、ちょっとだけ……珍しいなって思って」


 そう言う九頭竜さん。

 まぁ現時点だと、その通りだろうな。

 政誠司が色々動き始めるのは、この合宿が終わった後の事だし。


「まぁ、二学期のランキング戦で勝って。六帝評議会に入ってやるさ」

「天川……本当に変なことはするなよ?」

「安心しろ速水」


 事件が起きない限りは……極端なことはしないよ。


『過労死じゃないなら、なんでもいいプイ』

「ん? 今の誰の声だ?」


 聞き覚えがない声が聞こえた気がする。

 なんか不穏なワードだったような気もするけど……気のせいか?

 とりあえず今は、目の前の問題をどうにかしよう。

 

「さて、これでゼラニウムこと身内組は全員クリアしたし……この後どうする?」


 俺達には明日の午後まで空白の時間がある。

 急にできちゃったコレをどうするのか、俺達は話し合うのであった。

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