第九話:チンピラを片付けよう
異世界転移して一ヶ月程が経過した。
俺個人の今後の方向性(聖徳寺学園への進学)に関しては決まったが、流石に受験はまだまだ先だ。そうすぐには結果を見れない。
ならばひとまずと、学業の成績を上げることにした。
第一志望はサモンの専門学校。当然サモンの成績が重視される。
俺は中学のサモン授業を頑張る事にした……のだが。
やはりと言うか何というか、この世界のサモンの授業はあまりレベルの高いものではなかった。
なんよ、ほとんど基本ルールのおさらいみたいな授業だったぞ!
退屈過ぎるわい!
そんで俺が全問正解したら周りが妙に俺を持ち上げてきたけど、むず痒いったらありゃしねーわ!
これも少し悩みの種。
あのデビュー戦の後、俺は何度か学校でサモンファイトをしたのだが、当然の事ながら全勝。
すると周りのクラスメイトや先生達は、えらい勢いで俺を持ち上げてきた。
手の平返しとでも言えばいいのだろうか? 物凄い勢いで媚び売ってくる奴も多くて、少し辟易してる。
女子に至っては昼飯時に囲んでくる始末だ。
……ちょっといい気分だったかも。
とはいえ、急に態度を変えられては俺としても戸惑う。
もう少し静かな生活がしたいもんだ。
「完全に贅沢な悩みだよなぁ」
だが事実だ。
実はもう一つ悩みの種もあって、サモンの相手が一瞬でいなくなった事だ。
「流石に1killコンボやり過ぎたかな?」
相手に失礼がないよう、全力で挑んでいたわけだけど。
派手にやり過ぎたのか、最近は俺が誘っても相手してくれる奴が殆どいない。
悲しい……せっかくサモンの世界に転移したってのに。
「まぁ、相手してくれる奴が完全にゼロって訳じゃないのは救いだよな~」
特に委員長こと速水。
アイツも聖徳寺学園へ進学希望らしく、サモンの話題や練習相手として意気投合した。
実は今日も一緒にサモンで暴れ散らかす予定だ。
「えーっと、会場はこっちだよな?」
今日は日曜日。絶好の大会日和だ。
俺と速水は、一緒にサモンの大会に出る約束をした。
現在俺はスマホを片手に、会場となるドームへ向かっている。
「しっかし、大会成績で受験が有利になるとか。相変わらずスゴい世界だな」
完全に前の世界で言う〇〇検定系の扱いである。
しかもこの世界のサモンファイターのレベルを考えれば。完全に俺の独壇場だ。
これは出場する以外の選択肢はない。
「天川、こっちだ」
そうこうしている内に会場近くに着いた。
既に速水が受付近くに立っている。
「おっす速水。もう受付は済ませたのか?」
「まだだ。お前を待っていたんだよ」
「そりゃ遅れて悪かったな」
今日の大会は単発ながらも、規模の大きい大会だ。
参加者、観客共にスゴい人数である。
前の世界では考えられない光景だな。
ギャラリーの多さに、少し緊張を覚えてしまう。
「なんだ天川、緊張してるのか?」
「こういう規模の大会は初めてだからな」
「それもそうか。ついこの前まで召喚器も扱った事が無かったからな」
「そうだな」
「大会のダークホースとして、派手に暴れてやればいいさ」
「それは速水も同じだろ。デッキのチューニングは大丈夫か?」
「お前のおかげで最高に仕上がっている。決勝で天川と戦うのが楽しみだ」
信頼してくれるねぇ。なら頑張って、その期待に応えますか。
となれば、まずは大会の受付だ。
俺と速水が受付をしようとした、その時だった。
「ん? あれって」
ふと、俺の視界に見覚えのある白髪の少女の姿が入ってきた。
あのアニメビジュアルは間違いない、同じクラスの赤翼ソラっさんだ。
なんか騒いでいるけど、隣にいるのは……なんかガラの悪そうな男だな。
「どうしたんだ、天川」
「速水、あれ赤翼さんじゃね?」
「……確かにそうだな。何かトラブルにでも巻き込まれているのか?」
「速水、先に受付済ませててくれ。俺ちょっと様子見てくる」
「俺も行こう。学級委員長として見過ごせない」
俺と速水は受付の列を外れ、駆け足で向かった。
「赤翼さん。なんかあったのか?」
「天川くん、速水くん」
涙目でこちらを見てくる赤翼さん。
対するガラの悪い男の手には、一つのデッキが握られていた。
「なんだテメェら。関係ねー奴はすっこんでろ」
「クラスメイトが絡まれてるんだ。気にするなって方が無理だろ」
「天川に同じくだな」
赤翼さんを庇うように、男の前に立つ。
しっかしガラ悪いなコイツ。
「で、赤翼さん。何があったんだ?」
「……私、うっかりこの人にぶつかっちゃって、謝ったんですけど、デッキを取られちゃったんです」
「なんだと!?」
速水はキッと男を睨みつける。
それは俺も同じだった。
つまり男の手にあるデッキはアイツのではなく、赤翼さんのもの。
「女子中学生からデッキ強奪するなんて、恥ずかしいと思わないのか?」
「おいおい人聞きが悪いな。俺はただ慰謝料を貰っただけだよ」
「ふざけるな! デッキはファイターにとって命も同然なんだぞ!」
速水君、めっちゃキレてるな。
まぁ心境で言えば俺も同じく怒ってるんだけど。
「だから貰ったんだよ。大会にでるようなデッキなら高く売れるからなぁ!」
「……は?」
要するにあれか? 金の為に人からデッキを巻き上げてる糞野郎ってわけか。
俺は躊躇うことなく、召喚器を取り出した。
「ターゲットロック!」
俺の召喚器と糞野郎の召喚器が無線接続される。
「おい、糞野郎」
「あぁん!? なんだクソガキ」
「俺とファイトしろよ」
流石に俺も堪忍袋の緒が切れた。
この糞野郎はここで潰す!
「俺が勝ったら、赤翼さんから奪ったデッキを返せ」
「お前が負けたらどうするんだ?」
「俺のデッキをくれてやる」
「フン、いいぜ。受けてらる」
交渉成立だ。速攻で潰してやる。
「おい、天川! 流石にその条件は」
「そうですよ! もし負けたら天川くんのデッキが」
「大丈夫だって。俺強いから」
それに受付の時間もある。
ちょっと本気出させてもらうぞ。
「なんだなんだ? 場外ファイトか?」
「デッキを賭けてファイトするんだってよ」
「頑張れー坊主!」
流石はサモン至上主義世界。一瞬でギャラリーができた。
「さっさと終わらせて、お前のデッキも有難くいただくぜ」
「絶対に奪い返す」
初期手札5枚をドローする。
……おや? この手札はもしや?
「さぁ、始めようかァ!」
「あぁ……そうだな」
急にあの糞野郎が少し哀れに思えてきた。
だが赤翼さんのデッキを取り戻すためだ。手加減はしない。
「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」
ツルギ:ライフ10 手札5枚
チンピラ:ライフ10 手札5枚
仮想モニターに先攻後攻の表示が出る。
あっ、俺が先攻だ。
「あっ、これ勝ったな」
「あん? テメェ何言ってるんだ?」
「スタートフェイズ。メインフェイズ」
悪いな糞野郎。
恨むならその運の悪さを恨め。
「〈ケリュケイオン〉を召喚。魔法カード〈召喚爆撃!〉を発動。〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚」
「あっ」
「あっ」
後ろから、速水と赤翼さんの気の抜けた声が聞こえてくる。
だってしょうがないじゃん。初手で揃ってたんだもん。
「カーバンクルを破壊してお互いに1点のダメージ。俺にくるダメージは〈ケリュケイオン〉で軽減。カーバンクルは破壊されても手札に戻るので、無限召喚します。無限ダメージあざっしたー」
「えっ、ちょ、おま」
何か言っている気がするが、問答無用。
無限の爆撃が、チンピラを襲う。
チンピラ:ライフ10→9→8→7→6→5→4→3→2→1→0
ツルギ:WIN
「(相手に防御札なくてよかったー)」
まぁそれはともかく、やっぱり華麗にコンボが決まるのは気持ちが良い。
……なんか周りからドン引きの空気を感じるけど、気にしないもん!
それはさておき。
俺は間抜けな顔で尻餅ついてる糞野郎に歩み寄る。
「おい、約束だ。奪ったデッキを返せ」
「テ、テメェ、何かイカサマでも」
「お気に召さないなら何度でも相手してやるけど。どうする?」
「……クソっ」
流石に観念したのか、糞野郎は赤翼さんのデッキを取り出した。
これで一件落着……そうなる筈だったのに。
「こんなデッキィ!」
「なっ!?」
周りから何人もの悲鳴が聞こえる。
あろうことか糞野郎は、赤翼さんのデッキをすぐ隣にある川に投げ捨ててしまった。
「ギャハハハハハハハ、ザマーみやがれ!」
サモンファイターにあるまじき暴挙。
糞野郎はその場で大人たちに取り押さえられた。
いや、今はそれどころじゃない!
「速水、俺のデッキ頼む!」
「天川!」
俺は速水にデッキを預けて、すぐに川へと飛び込んだ。
オマケ『ツルギが売却したハズレカード』
【第二回】
●モンスターカード
【蒼き狼王】ハーンロボ
系統:凶狼
P8000 ヒット2
召喚コスト:自分の場の系統:〈凶狼〉を持つモンスターを1体破壊する。
効果①:相手ターン中に自分のモンスターが破壊されていて、自分がダメージを受けたなら、このカードを手札から召喚コストを支払って召喚できる。
効果②:自分の場の系統:〈凶狼〉を持つモンスターを1体回復させる。
効果③:【貫通】
//召喚コストと召喚時効果が致命的に噛み合っていない。【貫通】を持っている割には、パワーもヒットも低い。耐性すら無い。
//ツルギ「間違ってもこれを家宝にしようとは思わない」