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これからの方針

(さて、これからどうするか)


 薄暗い洞窟。

 光る鉱石の淡い明かりに照らされながら、俺は考える。


 正直、気になることはある。

 俺が死んでから世界はちゃんと救われたのか。

 勇者と魔王が死んで、この世界の力関係はどう変化したのか。


 まぁ、いいか。


 俺は死んだんだ。後の事は他の奴らがやるだろう。

 餅は餅屋に、政治は政治家に、魔王は勇者にだ。

 俺は俺の役割を果たして死んだ。

 それならもう勇者としての俺の仕事は終わりだ。


(……思えば、長い人生だったな)


 昔から時間も、尊厳も、命さえも全て魔王討伐に捧げてきた。

 孤独に戦い、孤独に死んだ。


 今思えばその使命に縛られていたのかもしれない。

 それで平和になったのならそれでいいのだけれど。 


 とはいえ、今回は自由に生きよう。


 やりたいと思ったこと全部やろう。

 友達を作るのもいい。恋人なんかもいい。

 家族を持って家庭を築いて、今まで捨ててきた人並みの幸せを享受してもいいのかもしれない。


 ま、今は魔物なんだけど。


 なんなら、魔王になって世界征服でもしてしまおうか。


 なんて。

 でも気が向いたら向いた方向に迷わず進もう。

 その果てが地獄の底でも天国でも何も無い荒野でも、今回の命は自由に使おう。


(……………………はぁ)


 今まで気付かないふりをしていたが、俺は今気分が高揚している。

 一つ一つ今の感情を並べて整理していたが、これは少し認めたくない。


 俺がこんなにも楽しみな理由。

 生まれ変わった事に。新しい人生に。目の前に広がる自由に。無限に等しい可能性に。


 ――そのどれもが違う。


(気づきたくなかったなぁ……)


 それは魔王との約束を守れるから。

 

 死に際に交わした荒唐無稽な約束。


『もう一度戦おう』


 あのときは一蹴した。できるわけがない、と。

 それは生まれ変わりでもしない限りできない約束だ。

 しかし今俺は生まれ変わり、それができてしまう。


 ――そのことがたまらなく嬉しい。


(俺ってこんなやつだったのか)


 死んでから初めて見つけた自分だ。

 

(とはいえ、今すぐはできねぇな)


 多分今の俺に今までの力は無い。体が違う。

 今までの魔力も感じないし、スキルがあるかも分からない。

 というか物理的な身体が無い。


 大体あいつが生きているのかも分からない。

 今何年だ?


 生まれ変わったと言っても死んだ次の瞬間とは限らない。


(あいつはすぐ生まれ変わったけど、俺は1万年後でした。なんて事だったら元も子もないしな)


 ……あいつはもう2回目の死を迎えているのかもしれない。


 まぁ、気長にやるか。

 逆もあり得るんだ。あいつはまだ生まれておらず、生まれ変わるのは今から一万年後かもしれない。


(とりあえず生きねぇとな)


 話はそれからだ。

 この体でこの世界を生き抜く。

 全ての夢はそこから始まるんだ。

 一歩ずつゆっくりと歩みを進めていこう。


(じゃあ住むところ探すか。こんな所でぼーっとしてて何かに食われたら終わりだからな――)


 ――あ。


 そう溢した時には既に、俺はラットの口の中に居た。


 嘘だろ!? 全く気付かなかった。


 どうやら背後に忍び寄られていたらしい。


 目がないとこんなに不便なのか……。

 なんて反省は後だ。

 どうする?

 第二の命を生まれた瞬間に落とすなんてごめんだぞ!?


 そんなことを考えている間にもどんどん飲み込まれていく。


 あぁ、全身なんか暖かい。


 じゃなくて!?


 前世のスキルは使えないか?


「……」


 使えないな。そりゃそうか。


 まずいどんどん魔力が吸われていく。

 体がー溶けるー。


 待て待て待て待て、何かあるはずだ。


 確かウィスプは周囲の魔力を吸って生きていたはず……!


 それなら――


 俺は全身の魔力を広げ、ラットの全身に行き渡らせる。

 そして、一気に吸収した。


 俺の魔力と共にラットの魔力も引きずり込む。


 すると――無いはずの手足の感覚がした。

 その感覚を意識すると理解できた。


(……俺の体がラットになってる)


 普通のネズミより三倍ほど大きい、ネズミ型の魔物。

 その体を俺は自由に操ることができた。


(なるほど……思ったよりも何とかなりそうだな)


 どうやら、ウィスプは魔物の体を乗っ取れるらしい。

 

 そういえば聞いたことがある。

 ウィスプはほとんど物理的に存在しない。だから他の魔物の体を奪う個体も居る、とか。


 とはいえ、どこまで乗っ取れるんだ?

 例えばドラゴンなんかの強い魔物は乗っ取れるのだろうか?


 多分無理だな。


 魔力が足りない。体を乗っ取るには相手の魔力を食い尽くし、その全身に魔力を行き渡らせる必要があった。


 俺より魔力が多い相手や、魔力が行き渡らないほど体が大きい相手は無理だろうな。


(……でも)


 ラットの魔力を吸収したことにより、自分の魔力が向上している感覚がある。


 段々と魔力の大きな魔物を倒していけば、いずれはどんな相手でも取り込めるだろう。


 例えドラゴンや、悪魔だとしても。力をつけていけば魔王でさえも取り込める。


(とりあえずこれからの方針が決まったな)


 魔物の世界は弱肉強食だ。強者は生存し弱者は淘汰される。


 今の俺は完全に淘汰の対象だろう。


 幸いここは魔物が集まる洞窟らしい。

 ここの魔物を倒して食らい、大きな力を身につける。


 丁度周囲に気配がする。

 今度は複数。


 先程のラットの群れか、数十程のラット達が距離を取ってこちらを窺っている。


(まずはこいつらを喰らい尽くそう)


 周囲を見渡し、ラット達と目が合う。

 すると、奴らの動きが止まった。


(……来る)


 瞬間、奴らは一斉に襲いかかってきた。


(久しぶりだな。この手の魔物と戦うのは)


 勇者として旅立ち、魔王領に入った頃。よく弱い魔物に襲われた。

 奴らは一匹の力が弱い分、群れを作って身を守る。


 あの時は群れを剣の一振りで薙ぎ払えたが、今はできない。


 こういう時は瞬間的に一対一の状況を作り出し、一匹ずつ倒す。


 こちらを包囲した状態からラット達は一気に向かってくる。


 それに対し俺はこちらからも飛び出し、先制で噛み付く。

 そして一匹倒して空いた穴からそのまま包囲の外に抜け出した。

 

(それにしてもこの身体……速いな)


 自らもラットとなった自分の身体を操り、気づく。


 このラットの速さは明らかに他の奴より速い。


(スキルか)


脚力強化コンセントレート

全霊の牙(レックレス)


 実際に動かすと、身体中の魔力が足と牙に集中していくのが分かる。

 恐らく、前のこの体の持ち主は文字通り死ぬほど必死に走り、敵に食らいついていたのだろう。

 他の一切を捨て去る程に。


(おあつらえ向きか)


 一回でスキルの使い方を理解し、俺は突進。


 一閃。


 圧倒的な速さで他のラットを翻弄し、その牙で全員を仕留めた。


(これで全部だな)


 口に溜まる血を吐き捨てながら、一息つく。ひとまずラットは片付いた。


(さて、喰うか)


 そう思いラット達に近づこうとすると、その耳にまた何かの足音が聞こえてきた。


(きりが無いな)


 流石はウィスプの沸く洞窟と言ったところか、魔物の数が多い。

 その豊富な魔力から多くの魔物が集まり、熾烈な生存競争をしているのだろう。


 俺は突然現れた異物。警戒されるのは当然か。

 

(まずは飯が食えるくらいにはここを安全にしないとな)


 そして周囲の気配に向かい、俺はスキルを使って飛び出した。


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