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 魔法学院の闘技場。

 魔法や武術の訓練のために、生徒へ解放された施設。

 闘技場には常に数人の兵が待機しており、生徒からの要望があれば助言や訓練相手をしてくれる。

 

 ヘレナは毎日、闘技場を訪れて、兵と模擬戦を行っていた。

 時には剣を振る。

 時には槍を振る。

 

「踏み込みが甘い!」

 

「はい!」

 

「ほら、また隙!!」

 

「痛っ……!? すみません!」

 

 兵の持つ模造刀が、容赦なくヘレナの腹部に叩きつけられる。

 ヘレナの表情は痛みで歪むも、すぐに体勢を立て直す。

 

(もっと……強くならないと……!)

 

 馬車が襲われた日からずっと、ヘレナは剣術や槍術の訓練をしている。

 言葉によって他人を操ることができる、最強クラスの神聖魔法であっても、耳を塞がれれば役に立たない。

 必要なのは身体能力だと痛感した。

 

 謹慎中は、孤児院で独学で学んだ。

 魔法学院に復帰してからは、闘技場の兵に教えを請い、正統な型を学んでいる。

 実践と知識。

 ヘレナの飲み込みは早く、文字通り日々上達していた。

 

「卒業したら、自分たちの隊に欲しいくらいだ」

 

 ヘレナを教える兵たちは、早めのスカウトとしてヘレナに声をかけている。

 

「ありがたいお言葉ですが、私は騎士団を目指していますので」

 

 そして、にべもなく断られていた。

 訓練を終え、一息ついたところで、ヘレナは闘技場に立つもう一人の生徒を見る。

 ミュリエル・スロバリン。

 初めてヘレナが闘技場に訪れた時、その姿を見て驚いた。

 将来は政治に関わり、戦場とは無縁の世界で生きる彼女が、誰よりも研鑽を積んでいたのだから。

 

 ヘレナとの違いは、剣術や槍術ではなく、魔法の訓練に特化していたこと。

 金属魔法を自在に操り、兵の槍に対して無数の金属の槍で迎え撃ち、兵の真剣に対して金属の鎧で防いでみせた。

 

「はあっ!」

 

「うおっ!?」

 

 否、防ぐだけでなく、そのままミュリエルが攻勢に転じ、兵をその場にひっくり返した。

 ふう、と一息つくミュリエルとヘレナの目が合う。

 

「お疲れ様です、ヘレナさん。今日はもう終わりですか?」

 

「はい、今日はここまでにしようと思います。ミュリエル様は、まだ続けるのですか?」

 

「ええ。もう少しだけ」

 

 ひっくり返された兵が起き上がり、武器を交換する。

 剣にも、槍にも、弓にも、もちろん拳にも、あらゆる武器に対応するためのミュリエルの特別訓練コース。

 ミュリエルと兵は、再び対峙する。

 

 ヘレナは、ミュリエルの訓練が再開したのを見届けて、闘技場を後にした。

 

(羨ましいなぁ……)

 

 戦闘に不向きであると言われる神聖魔法は、ヘレナの復讐の武器にはなりにくい。

 ミュリエルの金属魔法やアダムの炎魔法といった、直接的に攻撃に使える魔法を、ヘレナは時々羨みもした。

 しかし、ヘレナは前向きで合理的である。

 叶わぬ願いはさっさと捨てて、神聖魔法でできることを考える。

 

 

 

 訓練を終えたヘレナは、続いて収監所へと向かう。

 ヘレナの神聖魔法は、罪人の可能性がある人間の口を割らせるのに適していた。

 リーバリ村の事件に関しては、容疑者が貴族であったために使用できなかったが、平民相手であればむしろ歓迎された。

 両手両足を縛り、目隠しをした容疑者に、ヘレナは指示されたとおりの質問をしていく。

 

「答えなさい。果実を盗んだのは貴方ですか?」

 

「俺だ」

 

「答えなさい。一昨日、夜道で人を襲ったのは貴方ですか?」

 

「ち、違う」

 

 神聖魔法の信用は高く、収監所の兵たちは、実際に罪を犯したのか否かの調査にかかる労力が大幅に減ったとヘレナを歓迎していた。

 ヘレナはと言えば、一人に尋問をするごとに相応の対価として金銭を得ていたため、損はない。

 復讐をするにあたり、資金は多ければ多いほど良い。

 

「いやあ、君が来てから、仕事がスムーズになって助かるよ。賃金は弾むから、できればうちでずっと働いてほしいな」

 

「ありがたいお言葉ですが、私は騎士団を目指していますので」

 

 ヘレナの評判は高い。

 収監所の兵たちからの評判も高い。

 ヘレナは着実に、収監所の兵たちからの信頼を得ていた。

 

「じゃ、これ今日の賃金ね」

 

「ありがとうございます!……あれ? なんだか、少し多くないですか?」

 

「しっ! いつも助かってるからね。ちょっとだけ、サービスしといた。……上には内緒だぜ?」

 

「……ありがとうございます!」

 

 一部の兵が、ヘレナのために、少しくらい規則を破ってもいいと思えるくらいには。

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