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「やべえよ、やべえよ」

 

 ダドリーは、一人部屋で怯えていた。

 ヘレナの乗った馬車を襲わせた自分の所業がバレたのではないかと、部屋に籠る。

 王国として現在把握しているのは、ウェルビオ家の関与。

 それゆえ、ウェルビオ家の当主へ呼び出しをかけてはいるが、ダドリーへの直接的な接触は未だない。

 

 だからこそ、ダドリーを恐怖させた。

 どこまでバレているのかわからない。

 カウントダウンが見えない、時限式の爆弾を抱えている気分で過ごし続けた。

 

「……大丈夫、大丈夫だ。今回も、父上がきっとなんとかしてくれる……」

 

 絶望した気分の中、狂わなかったのは父の過去の振る舞い。

 幼いころから女に手を出していたダドリーは、トラブルに巻き込まれることも少なくなかった。

 ダドリーの父は、そのたびトラブルをもみ消してきた。

 

「ウェルビオ家の男にとって、女性とのトラブルは勲章みたいなもんだ」

 

 代々の女好きの血は、独自の貞操観念を作り出していた。

 

 

 

「入るぞ、ダドリー」

 

 ノックの音と共に、ダドリーの部屋の扉が開かれる。

 

「ち、父上!」

 

 部屋に入ってきたのはウェルビオ家の当主にしてダドリーの父、デイデラ・ヴェルビオ。

 ダドリーは、縋りつくような目でデイデラを見た。

 

「座りなさい」

 

 いつもと違うデイデラの声色に違和感を覚えもしたが、ダドリーはデイデラの言葉に素直に従った。

 

「先日、王都付近で馬車が襲われた事件は知っているな?」

 

「は、はい」

 

「幸い、死者が出ることはなかったらしいが、馬車を襲った盗賊たちがウェルビオ家からの依頼だと言っているらしくてな」

 

「は……ははは……。なかなか不届きなやつらですね。公爵家の関与を騙るなど、そんな不届きなやつらはさっさと処刑してしまいましょう、父上」

 

 ダドリーは、希望を得た。

 ウェルビオ家の関与の証拠が盗賊の言葉だけならば、いくらでも潰せると考えた。

 盗賊と貴族、どちらの言葉を世間が信じるかは明白である。

 

 デイデラは、ころころと変わるダドリーの表情を見て、大きな溜息を零す。

 

「私もただの騙りだと信じたかったが、盗賊の言葉は、真実を吐かせる神聖魔法によって得た証言らしい。疑う余地はあるまい」

 

「え……」

 

 ダドリーの表情が固まり、ダドリーはヘレナの魔法を思い出す。

 

(あ……あああああ……!?)

 

 ダドリーの思考は、浅い。

 浅くて浅くて、少し考えればわかる結論に辿り着けない。

 

 デイデラは、大きな封筒をダドリーの前に投げ置く。

 

「……父上、これは?」

 

「ウェルビオ家の関与が確実であれば、手ぶらで来るわけにもいくまい。これは、ヤハウェ国王にお渡ししようと思っている現状の調査結果だ」

 

 ダドリーは、封筒の中に入った紙を取り出す。

 上から下まで読み終えた時には、顔が青くなっていた。

 

「拍子抜けするくらい簡単に、誰の差し金かわかってしまった」

 

 封筒の中には、ダドリーがエオーリオ盗賊団へ、ヘレナ襲撃を依頼した動かぬ証拠が詰められていた。

 

 ダドリーは、ヘラヘラと誰にでも手を出し、そんな行いを隠そうともしない。

 それゆえ、自分の行いを隠すことに慣れていない。

 こっそりと行ったつもりの盗賊への依頼は、あっさりとバレてしまった。

 

 ダドリーは、デイデラの顔を見る。

 感情は期待。

 それでも、デイデラが守ってくれるという、期待。

 

「ダドリー。お前は魔法学院へ入学する時、家名に縛られず、本当の実力を試したいと言って家を出た。そうだな?」

 

 が、デイデラから返ってきた言葉は、ダドリーの予想に反していた。

 

「え……あの……? 父上……?」

 

「父上とは、誰のことだ?」

 

 デイデラは、ダドリーを斬り捨てる選択をした。

 女がらみであればいざ知らず、殺人を企てたとなれば庇うデメリットの方が大きいと考えた。

 

 デイデラの中で、ダドリーは所詮第三王子。

 ヴェルビオ家を継ぐ人間は、まだ二人のこっている。

 正妻の子供以外を含めれば、跡継ぎ候補は二桁に上る。

 

 ダドリーは、デイデラにとって替えが効いた。

 

「陛下には、先に私から事情を申し上げておく。襲撃を企てたのは、元ウェルビオ家のダドリーであり、当家は関与していないとな。それでも、なんらかの処罰は下るだろうが……」

 

「へ……は……?」

 

「まあ、それはウェルビオ家の問題だ。外部の人間であるお前が気にする必要はない」

 

「え……あれ……?」

 

 デイデラはそのままダドリーの部屋を後にした。

 

 ダドリーは、現状を飲み込めないままその場に座りつくすこと数時間。

 

「ダドリー・ウェルビオ、陛下がお呼びだ。至急、王宮へ来い」

 

 部屋に訪れた兵によって、王宮へと連行された。

 

 

 

 ヤハウェ、アダム、デイデラ、そして数人の貴族と兵たち。

 大勢に囲まれながら、ダドリーは玉座の間にて、ヤハウェを前に立ち尽くしていた。

 

(なんだよ……これ……。なんで俺がこんな目に……?)

 

 己の悪行が露呈したこと。

 あっさりと父に見限られたこと。

 公爵家という地位を失ったこと。

 そして今、エドナ国の国王の前に立っていること。

 その全てがダドリーにとって非現実的で、予想だにしておらず、ダドリーの脳で理解が追い付いていなかった。

 

 ダドリーの脳が機械であったなら、熱暴走してとっくに黒煙を上げているだろう。

 

「以上が、貴殿にかけられている疑惑であるが、間違いはないな? 申し開きがあれば述べてみよ」

 

 この場の進行を任された一人の貴族が、全ての証拠を提示したうえで、ダドリーへと問いかける。

 

「い……いや……これは……」

 

「これは?」

 

 理解が追い付いていないダドリーの脳でも、この場をどうにかしなければ、自分に未来がないことは理解できた。

 だが、証拠は十分で、言い逃れは不可能な状況。

 

「これ……は……」

 

 追い詰められたダドリーは――。

 

「……せいじゃない」

 

「ん?」

 

「俺のせいじゃない!! 俺は悪くない!!」

 

 責任の所在を転嫁した。

 

「俺のせいじゃない、とはどういう意味かな?」

 

「俺は、頼まれただけだ!! ミュリエルに!! ヘレナに命を狙われてるから、助けてくれって!!」

 

 場が、シンと静まり返る。

 アダムが思わず、怒りと驚きの表情で立ち上がるも、ヤハウェに制されて再び座る。

 

「それは、真実ですかな?」

 

 貴族から発せられた、この場全員の意思を代行した質問に――。

 

「真実だ!! そう、俺はミュリエルに騙されただけなんだ!! 俺は被害者なんだ!!」

 

 ダドリーは希望を見いだした。

 

 

 

 

 

 

「ミュリエル・スロバリンをここへ」

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