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「アダム。呼び出した理由は、わかっているな?」

 

「……はい、父上」

 

 アダムと四人の攻略対象が接触した翌日、アダムは実父であるエドナ王国国王、ヤハウェ・エドナから呼び出しを受けた。

 

 アダムは玉座の間にて、玉座に座るヤハウェを見上げていた。

 普段ならばアダムとヤハウェの会話は、公の行事を除き、どちらかの私室で行われる。

 が、罪人を裁く時や民からの嘆願を聞く時に使用される玉座の間に呼ばれたことで、アダムはこの呼び出しが親子の会話ではなく事情聴取であることを理解していた。

 

「フェリックスから話を聞いた」

 

「はい」

 

「お前には、婚約者がいるはずだ。にも関わらず、学院の女生徒と、何度も密会していたらしいな。この話は真実か?」

 

「……真実です」

 

 ヤハウェを前に、アダムは偽らない選択をした。

 偽りを述べることは虚言の罪に問われる。

 また、アダム自身、罪悪感はあれど己の行いは正しいものだったと確信ももっているため、すべてを話せばヤハウェも理解してくれるという想いもあった。

 

「そうか。では、婚約者のいる身でありながら、何故そのようなことをしたのか、お前の口から理由を話してみよ」

 

「はい」 

 

 アダムは話した。

 ヘレナと接触した日のこと。

 ヘレナから聞いた、リーバリ村の事件のこと。

 そのうえで、ヘレナと共に事件の真相を暴くため動いたことを。

 

「なるほどな」

 

 一通りの話を聞き終えたヤハウェは、なおも厳しい表情を崩さない。

 

「アダム、お前の言い分はわかった。お前の行いは、この国を想う王族として、間違ってはいない」

 

「で、では!」

 

 ヤハウェの言葉に、アダムの表情が明るくなる。

 父はきちんと理解してくれたのだと。

 

 が、アダムの表情とは逆に、ヤハウェは眉間にしわを寄せる。

 

「だが、一人の人間としては、大間違いだ」

 

「え……」

 

「お前の行動が、婚約者を悲しませるとは思わなかったのか?」

 

「それは……考えました。しかし、事件の解決を優先することが、国にとって正しいと判断しました。それに、ミュリエルも、きっと話せばわかってくれると」

 

「そうだろうな。彼女は聡明な子だ。だが、聡明ゆえに、耐えきれぬほどの感情を一人で抱えこんでしまうこともある。今回のようにな」

 

「…………」

 

 アダムは覚悟をしていた。

 ミュリエルを悲しませる未来の覚悟を。

 同時に、聡明なミュリエルであれば、何も言わずともアダムの行動を理解をしてくれるものと思い込んでいた。

 思い込みたかった。

 罪悪感を和らげるために。

 考えが甘かったと気づいたときには手遅れ。

 

 ミュリエルが皆に愛され、皆がミュリエルのために動くことを、アダムは思い至れなかった。。

 

「アダム」

 

「はい」

 

「この件は、すでに学院中で噂になっている。婚約者がいるにもかかわらず、平民に手を出した王子、とな」

 

「……はい」

 

 ヤハウェは、アダムが手を出していないことは考えている。

 が、事実として噂は経ってしまった。

 噂は、時に事実よりも真実になる。

 

「王族は、全ての貴族と民の見本になるべき存在なのだ。故に、お前に何の咎めもないのでは、他の者に面目が立たん」

 

「……覚悟は……できています」

 

 ヤハウェは、大きく、息を吸った。

 

「アダム・エドナ。お前を、二ヶ月の謹慎とする。しばし一人で、頭を冷やせ」

 

「……はい」

 

「行ってよいぞ」

 

 アダムは頭を下げ、玉座の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

「ヘレナさん、ちょっといいかしら?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 同刻、ヘレナは魔法学院の教師から呼び出された。

 

 呼び出された内容は、概ねアダムと同じ。

 ただしヘレナの場合、平民がこともあろうに婚約者のいる王族に手を出したという噂なのだから、教師からの視線はアダムよりも厳しいものだった。

 

「ち、違います! 私は決して、アダム様にそのようなことは!!」

 

「真偽がどうであれ、貴女の軽率な行動が、学院の風紀を著しく乱したのは確かです」

 

「……っ!!」

 

「ヘレナさん、貴女に半年の謹慎を言い渡します。実家に戻って、よく反省なさい」

 

「半年!?」

 

「退学にならないだけ、幸運だと思いなさい」

 

「そ、そんな……!」

 

「用件は以上です。教室に戻って、荷物をまとめてください」

 

 教師の有無を言わさぬ迫力に、ヘレナは部屋を後にした。

 

「貴女には、期待していたのですけどね」

 

 背中に投げかけられた教師の言葉が、ヘレナの心に強く刺さった。

 

 

 

 

 

 

 ヘレナが教室に戻った時には、既にヘレナの居場所はなかった。

 第二王子に手を出した女。

 そんなレッテルは、ヘレナにできた僅かな友達も距離を置くに十分だった。

 もともとヘレナのことをよく思わない貴族たちにとっては、なおさらである。

 

 ヘレナは手早く荷物をまとめ、教室を早々に後にした。

 

(周りが、見えなくなってたんだな)

 

 学院の廊下を歩きながら、ヘレナは自分の行動を反省していた。

 

(ようやく手に入れた公爵家の情報に舞い上がって、張り切って、……それで)

 

 冷静になって考えれば、婚約者を持つ異性と二人きり。

 噂が立つのは必然。

 アダムと違い、ヘレナはその考えに行きついていなかった。

 情状酌量の余地があるとすれば、初めてアダムに声をかけた時点で婚約者の存在など知らなかったこと。

 判断の誤りがあるとすれば、後々ミュリエルが婚約者であると判明した後も、今まで問題になっていないことを理由に問題視さえしなかった。

 長年追い求めていた真実に近づけたという喜びの前に、楽観的な解釈をしてしまったこと。

 

(一言ミュリエル様に謝りたいけど……。今、二年生の教室に行くわけにもいかないもんね……。孤児院に戻ったら、手紙を出そう……)

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