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 アダムの動きもあり、リーバリ村の調査は、順調とは言い難くも確実に進んでいた。

 リーバリ村の事件の日とその前後、各公爵家の動きを洗える限りに洗い出していた。

 

 結果。

 アミアカ家、白。

 ヴェルビオ家、不明。

 スロバリン家、不明。

 パンテリア家、不明。

 フレグレント家、白。

 二つの公爵家の潔白を証明した。

 

(できれば、スロバリン家は白の確証を得たかったのだがな……)

 

 アダムにとっての最善は、叶わなかった。

 リーバリ村の事件に関する情報を最も保有しているスロバリン家だ。

 もしもスロバリン家が白であれば、スロバリン家に協力を取り付けることができた。

 なにより、ヘレンと相談の上ではあるが、ミュリエルという婚約者を協力者として引き入れ、アダムの隠し事も終わったはずだった。

 

「上手くいかないものだな」

 

 アダムは、椅子の背もたれに背を預ける。

 

 残るは三つ。

 ウェルビオ家は、定期的に当主が様々な家を訪問していた。

 ウェルビオ家の当主は側室を十人以上抱え、普段から女遊びが絶えず、定期的に他の家をめぐっている。

 そのうちの一回や二回、遊びのふりをして裏の取引をした可能性は残る。

 

 スロバリン家は、事件の数週間前から表に出ない手紙のやりとりをしていた形跡があった。

 スロバリン家は業務として、表に出ない手紙を使って各地の領主の不正監視や密告をしばしば行う。

 そのうちの一回や二回、業務のふりをして裏の取引をした可能性は残る。

 

 パンテリア家は、そもそも情報が手に入らなかった。

 家の内情を頑なに外部へ見せようとしない振る舞いは、裏の取引を隠すためという可能性が残る。

 

「次は、どこから調べるか……」

 

 そんなことを考えていると、生徒会室の扉がノックされた。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 扉が開くと、四人の男子生徒たちが入ってきた。

 フェリックス・アミアカ。

 ブラントン・パンテリア。

 ダドリー・ヴェルビオ。

 エドワード・フレグレント。

 四人の攻略対象たちだ。

 

 普段、訪れることはない者たち。

 アダムは、想定しない訪問者に目を丸くする。

 椅子から立ち上がって、四人の方へと近づく。

 

「どうしたんだ、みんな揃って」

 

 四人の表情は、いつになく険しいものだ。

 四人を代表して、フェリックスが一歩前に出る。

 

「……アダム、君はどういうつもりだい?」

 

「ど、どういうつもりとは? 一体なんだ。話が見えない」

 

「ここ最近、特定の女子生徒と生徒会室で会っているそうじゃないか。ヘレナさん……だったかな? それも、二人きりで」

 

「………………」

 

 アダムの頭に、ヘレナの姿がよぎる。

 今、アダムの目の前に広がる光景は、アダムがヘレナに協力すると決めた時に描いていた未来の一つだ。

 アダムは一呼吸し、真面目な表情でフェリックスを見る。

 

「彼女とは何でもない。ただ、相談に乗っているだけだ」

 

「相談? いったい何の相談だい?」

 

「それは……」

 

 アダムは、フェリックスの後ろを見る。

 ブラントン・パンテリア。

 ダドリー・ヴェルビオ。

 現時点で、リーバリ村の事件の容疑者であることをぬぐいきれない二人がいる。

 

「言えない」

 

「訳ありか」

 

 それゆえ、アダムの回答は決まっていた。

 

「なんだそれは!! アダム!!」

 

「よすんだ、ダドリー」

 

 そんなアダムの回答に納得できなかったダドリーが、一歩前に出る。

 が、すぐにフェリックスの手で止められた。

 

「ですが!!」

 

「アダムにも、事情はあるのだろう」

 

 フェリックスとしても、アダムが婚約者を裏切る真似をするとは考えていなかった。

 一方で、婚約者に何も言わず、女子生徒と二人で会い続けているアダムの行動を良しともしなかった。

 

「アダム、せめてミュリエルには事情を話すべきだ。君の前では気丈に振舞っていたのだろうが、ミュリエルは今回の件で、心を痛めている」

 

「…………っ!!」

 

 ミュリエルが心を痛めるのも、アダムがヘレナに協力すると決めた時に描いていた未来の一つだ。

 だが、ミュリエルのスロバリン家も、未だ容疑者であることをぬぎきれていない。

 アダムの返答は当然――。

 

「……すまないが、ミュリエルにもまだ言えない」

 

「アダム!!」

 

 フェリックスの制止を振り切り、ダドリーがアダムの胸ぐらをつかむ。

 普段のへらへらした態度とは打って変わって、険しい表情だ。

 それゆえ、フェリックスも、他の二人も、アダムさえも、ダドリーの手を放させることができなかった。

 真剣さが、伝わってくるがゆえに。

 

「ミュリエルに言えない事情ってなんだよ……」

 

「それは……言えない」

 

「なんだよそれ……」

 

「…………」

 

「なあ、答えろよアダム」

 

「…………」

 

「悲しんでる婚約者を放っておいて、他の女と二人っきりで会う正当な理由があるなら、この場で言ってみやがれ!!」

 

 誰も。

 この場の誰一人、ダドリーの言葉に反論をする者などいなかった。

 

 こうなることを覚悟していたアダムでさえ、ミュリエルの悲しんでいる姿を想像すると胸が締め付けられ、考えていた言葉が出てこなかった。

 

「そ……れは……」

 

 言い訳がましい言葉を発することで、精いっぱい。

 ダドリーの肩を、フェリックスが優しくたたく。

 そこまでにしておけ、という無言の言葉。

 ダドリーは息を荒くしたまま、アダムから手を放す。

 

 アダムは、その場に力なくへたり込んだ。

 フェリックスは、そんなアダムを見下ろす。

 

「アダム。君には君の考えがあるのだろう」

 

「…………」

 

「しかし、私たちは全員、ミュリエルの味方だ。理由は、さっきダドリーが言ってくれた通りだ」

 

「…………」

 

「今回の件、私から貴方のお父様へ……国王様へ報告する。私の行動で、君が皆に隠してでもやろうとしていたことは失敗し、君は私を恨むかもしれないが、私には恨まれる覚悟がある」

 

「…………」

 

「私たちは、これ以上ミュリエルを……。あんなに寂しげに笑う彼女を、見たくはないんだ」

 

 そのまま四人は、生徒会室を去っていった。

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