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「その後、私は村にやってきた兵の一人に、私が死んだと扱う様に命令して村を去りました」

 

「……何故、そんなことを?」

 

「盗賊たちの狙いが、村の殲滅だったからです。もしも村人に生き残りがいると分かれば、やつらはきっと私を殺すまで、血眼になって探したでしょう。自分で言うのもなんですが、私の神聖魔法は私が起きている間なら、無敵の能力を誇ります。しかし、寝ている時に襲われたら、なすすべもありません」

 

「言葉が起点となるなら、そうだろうな」

 

 魔法の発動方法は二種類ある。

 能動的な発動と、受動的な発動。

 前者は、自分の意思で行動した時、つまり魔法を使うと願ったり言葉を発するという行動を契機に、発動する魔法。

 後者は、自分が指定された状況に置かれた時、つまり剣や斧といった武器の類が自身の体に近づいたことを契機に、発動する魔法。

 

 アダムたち公爵家の人間は、能動的な魔法も受動的な魔法も習得しており、仮に就寝中であろうと悪意ある人間からの攻撃に対処できる。

 対し、無理やり能力を覚醒されたばかりの当時のヘレナはそんな習得をしている訳もなく、能動的な発動が精いっぱいだった。

 

「リーバリ村から離れた私は、しばらく姿を隠し、村を転々とし、物を請いながら日々を生きました。数週間して、リーバリ村の消滅と村人全滅の報が耳に入った時、悲しみよりも、自分が死んだことでようやく隠れる必要がなくなったと安堵しました。その後は、孤児として小さな孤児院に身を寄せ、魔法が使えることを隠し、ただの子供として生きてきました」

 

「……辛い、過去だったな」

 

「いえ、私は生きています。私は、過去の真実を必ず暴き、村を襲ったやつらを正当な裁きの場に引きずり出します。この事件が解決しない限り、私は死後、家族に合わせる顔がありません」

 

 アダムは、ヘレナに対し、慰めの言葉をかけた。

 それは本心からだ。

 が、その一方で、アダムはヘレナの話のただ一部分が、頭にこびりついていた。

 

 

 

 ――なんてったって、客は公爵家様らしいからな!

 

 

 

 盗賊の発した、ただ一言。

 

 言葉が偽りか、聞き間違いである可能性はある。

 盗賊たちの親玉が、下っ端の盗賊たちにやる気を出させるため、公爵家からの依頼であると騙った可能性はある。

 

 しかし、公爵家がリーバリ村を襲わせたことが真実であれば、見逃すことはできない。

 村一つ分の人命を奪った責、村一つを滅ぼした理由、その先にある目的。

 禁呪の実験か、国家への反逆か、なんにせよ悪い結論にしか至らなかった。

 

 アダムは息を飲み、ヘレナを見つめる。

 欲しいものは、一つ。

 

「最も重要なことを訊こう」

 

「はい」

 

「その話、証拠はあるのか?」

 

「御座います」

 

 アダムの心臓が高鳴る。

 ブルーは、アダムの手に、一枚の紙の切れ端を渡した。

 

「……これは?」

 

「逃げている途中、偶然見つけた一番偉そうな人が持っていた、紙の切れ端です。ポケットからはみ出していた紙を見て、何故だか咄嗟に手を伸ばし、破ってとりました」

 

 アダムの手の中におさめられた紙は、平民では決して手の届かない、高級な素材のものだった。

 もちろん、一盗賊が愛用するようなものでもない。

 これ程の高級紙を使用する人間は、エドナ王国において、侯爵家以上に限られる。

 

 さらに、紙の端っこに付着したインク。

 印の右下部分だけが、破りとられたもの。

 

「……公爵家の、印だな」

 

 公爵家の印は、家紋を除き、全てが同じデザインだ。

 紙に残る印の一部は、間違いなく公爵家の印のそれだった。

 もちろん、偽造された書類の可能性も、僅かには残るが。

 

「わかった。それで君は、私に何を望む?」

 

 ヘレナの持つ証拠は、完璧とは言えない。

 そのうえでアダムは、万が一公爵家が犯罪に加担していた場合の危険性をとった。

 公爵家の人間を――自身の友人を、信用したかったという思いもある。

 信用したいからこそ、疑うのだ。

 

 ヘレナは、深々と頭を下げた。

 

「リーバリ村の件、アダム様にも調査にご協力をいただきたいです。私では……。平民の私では……、調べられることに、限度がありますので……」

 

「わかった」

 

 即答だった。

 ヘレナでは、公爵家の内情に探りを入れることは不可能だ。

 それができるのは、同じ公爵家と王族のみ。

 アダムは、ヘレナの想いを正しく理解していた。

 

 ヘレナは顔をあげ、アダムを見る。

 ヘレナの表情は、安堵と歓喜が浮かんでいた。

 が、王族の前で気の緩んだ表情を見せてしまったことに気づき、ハッとした表情を浮かべた後、真剣な表情へと戻す。

 

「……それと、ご友人である公爵家の方々には」

 

「内密に、だろ? わかっている。この件について、彼らは友人とは言え容疑者だ。私一人で、内密に調べよう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 ヘレナが去って、アダム一人残された多目的室。

 アダムは窓の外を眺め、ミュリエルのことを思い浮かべる。

 

(君に隠し事をしてしまうことを許してくれ、ミュリエル)

 

 これからは、ミュリエルに内密で動くだろう。

 これからは、ミュリエルに内密でヘレナと会うだろう。

 アダムの行動が、ミュリエルに届けば、ミュリエルに不信感を抱かせることは、アダムも理解していた。

 

「しかし、それでも私はやらなければならない。この国の、第二王子として」

 

 愛よりも正義を。

 

 アダムは、正義の名のもとに、動き始めた。

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