私メリーさん。今あなたの──
それは突然の電話だった。いつもと違う黒電話のようなけたたましい音。俺はそれを消すかのように、番号も見ないで電話の向こうの相手に話しかけた。
「はい鈴木ですけど?」
「私メリーさん。今あなたのアパートの前にいるの」
「え?」
ガチャ。ツーツーツーツー。
え、ウソだろ? これって噂のメリーさん? 都市伝説にあるやつ! それが俺の部屋に来るってことだよな!?
やった!
女が男の部屋に来るっていうのはつまりそういうこと。そういうことがオーケーってことでしょ!?
彼女いない歴年齢の俺にもとうとう運が回ってきたァ!
俺は速攻で部屋をドタバタと片付け、枕の下に避妊具を隠した。
「えーと、あとやっておくことは……」
すぐにベッドインではロマンもなにもない。軽く食事とかしたほうがいいだろうか? コーヒーの粉よし、ミルクある、砂糖ある。完璧だ。
その時、またもやけたたましい着信音!
「彼女だぁ!」
俺は一も二もなく電話に飛び付いた。
「はーい、もりもりぃ~」
「私メリーさん。今アパートの階段を一歩上がったわ」
一歩! 一歩のご報告ありがとうございます!
「はーい。まってまぁぅす」
ガチャ。ツーツーツーツー。
来た来た来た来たぁー!
もうそこまで来てるよぉ。カギはぁ、今開けました! 開けましておめでとうございます!
さぁメリーちゃぁん。早くおいでー!
俺は、浴室に向かいシャワーからお湯がでるかを確認した。チェックよし。ついでにトイレの水も。当然流れます。オールオッケー!
そこに着信。もはやワンコールで取る俺。
「はーい、メリーちゃん、まだぁ?」
「私メリーさん。今あなたのアパートの前にいるの」
あれ? なんか離れてない?
きっと気のせいだと思い、俺はベッドのシーツのシワを伸ばした。
そしてまた着信。俺はそれをすぐに取る。
「はい。鈴木です……」
「私メリーさん。今あなたのアパートの前にいるの」
いや動いてない。動いてないよぉ。早く来てよぉ!
「メリーちゃん、俺、迎えに行こうかなぁ?」
「!!!」
ガチャ。ツーツーツーツー。
様子がおかしいぞ? メリーちゃんはちゃんと来るんだろうか? まさかこないとかないよな。メリーちゃんに限って……。
そして着信音にホッとする俺。急いで電話にでる。
「メリーちゃん?」
「私メリーさん。今あなたのアパートの前の交差点にいるの」
いや離れてる! さっきより遠くなってるよ! こりゃ今日はこないのかな? いや、そんなことさせない!
俺はアパートの窓を開けて交差点を見た。すると、白い服の長い髪の少女が、電話を持ったままハッとした感じで塀の影に隠れたのだ。
「見ぃぃいいい~つけたぁぁぁあああ!!!」
俺は急いで靴を履いてアパートを出る。三階から一階までの階段を駆け下りると、そこで着信だった。
「メリーちゃん! 今どこなの?」
「私、もう駅まできたの」
「そうはさせない!」
ガチャ。ツーツーツーツー。
俺は車に乗り込みエンジンをかけ、駅まで走る。そして電話をかけた。
「もしもしメリーさん? 俺今君の元に向かってるよ」
ぐふふふふふふ。
ホラー。ですか? これは。