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あの日の戯れ

作者: 広野つむぎ

あれ以上に最低な人間にならないように生きていくのに必死だ。大切な人が現れるたびに、微かに思い出されて苦しくなる。

立派にはなれなかった私をあの時のように笑ってくれるだろうか。


あの時、こうしていれば、ああしていれば。

君と今も変わらず、隣で笑い合えていたのだろうか。

思い出を思い出のまま綺麗なままで残しておきたいという気持ちもあるし、もう一度会ってあの頃に戻って笑いたいとも思う。

できることなら会いたい、でも会いたくない。

君と初めて会った日のことを覚えていない。


空がどんなで、どんな服を着ていて、何を思っていたか。


母親が当時の写真を見せながら「あの時のあなたは、とても楽しそうだったのよ」なんて言うからけど、覚えてないからふーんという感じだ。

「二人はどうやって会ったの?」と聞かれる度に、当時の写真と母親の話がリンクし、本当の記憶みたいに写真に写る2人が頭を駆ける。本当は何も覚えていないのに、あたかも記憶の中で体験したかのように頭の奥深くに潜んでいる。

気づけばすでに君の隣が特等席で優先席で、誰からの許可もなく座れた私は少し傲慢でわがままだった。

だからかもしれない。神様は罰を与えた。成長と共に、違和感も一緒に大きくなり心と共存していった。


「どうして私たちは兄弟じゃないの?」


知らないうちに違和感が私の心に土足で入り込んでいた。初めて会った日のことを知らない私にとっては、君は兄弟で家族だった。

どうしてお母さんとお父さんが別なんだろう。どうして毎日遊ぶのに、帰る家が別なんだろう。毎日遊ぶんだから、ずっと一緒に同じ家にいればいいのに。

こんなことを考える私は普通じゃないかもしれない。

遊ぶ内容は決まっていて、お飯事、鬼ごっこ、サッカー、野球。大体がこのどれかでルーティーンのようになってしまっていた。飽きてネタが尽きてしまう日もあったから「何する〜?」と言い合ってその日が終わる日もあった。

それでも、一緒にいることをやめなかった。



どうして、私とあの子は同じ家に住んでいないの?


周りは「他人だから」当然のようにそう答えるのを知っていて私もその事実を知っている。でもどこかなぜか違和感があってその事実がおかしいのではなんて思えてしまう。

こんなことなら、初めて会った日のことを意地でも覚えておくべきだった。意地でも覚えておきたかった。そうすればこの当たり前の事実を事実として受け入れられたし、自分がこんなことを思うなんておかしいとも思わずに済んだはずだ。



「どうして二人はよく遊んでるの?」


そんなの、一緒に遊びたいからに決まってる。

でも私たちは本来、住む世界が違うところにいる人たちなのだと知った。私は、いい子を装うのが得意で先生が大好きだった。でも片方は、やんちゃで自由でどちらかと言うと問題児だった。

いわゆる似合わないというやつらしかった。ただ一緒にいたいだけなのに、似合う似合わないを他人にジャッジされるなんて、生きにくい世の中だ。

最初は担任の先生だけの素朴な疑問だったのに、同級生からも言われ始めた。いつの間にか牙に見えて刺そうとしているのではないか思えてきた。


「なんで一緒にいるの?」

「あんな奴と一緒にいないほうがいいよ」


どうしてそんなこと言われないといけないんだろう。たまに意地悪だけど、優しいのに。これがドラマや漫画だったら、ここで威勢よく「好きな人と一緒にいて、何が悪いんだ!」息巻くだろう。でも社会はそううまくはこと運べない。言ったことでいじめられたら、一緒にいることで嫌われたら。

あの頃の私はまだまだ子供で、生き方を知らなかった。みんなと同じように生きていくことでしか生きれなかった。社会は好きな人たちだけで構成されていないから、好きな人だけと一緒にいるのは、まだ何も知らない子供の私にとって覚悟も勇気も持ち合わせていなかった。



「どうして、いつも遊んでくれるの?」


学年も性別も違って、住む世界だって違う。


「なんとなく。まぁいいじゃん。そんなことは。」


君はいつもそんな風に答えた。

ただ近所で、遊ぶ人が近くに他にいなくて。そんな理由だったら嫌だなと思いながら、繰り返されるそれに、繰り返される答え。


ここで「君だからだよ」なんて言ってくれたら変わっていたのだろうか。いや、きっと変わっていなかった。



「ねぇ、もう家に来ないでよ。一緒に遊ぶのもうやめよ。ちゃんと同級生と遊びなよ。」



「されて嫌なことを人にしない」小学校の道徳で最初の方に習ったこの言葉を守れなかった。一番言われたくない言葉を言い放った。

自ら捨てたくせに、またあの道を歩いてしまうのは、再会を願っているからか。それとも後悔からなのか。未練がましく隣の窓をふと眺めてしまうのは、君が窓を開けるのを待っているからなのか。


「ごめん。本心ではなかったよ」

たった一言言おうとしも言えずに、何年も経つとどんどん何もできなくなくなる。時間と共にこの言葉から新鮮さを失い、陳腐な戯言になっていく。喧嘩して仲直りを長引かせると、意地の張り合いになってしまうように、前にも後ろにも進めずに右往左往して結局どこにも行けずにしゃがんで丸くなってしまう。


もう未練がましい気持ちだけが残り、萎むのを待つしかなくなってしまった。

萎み切ってしまうのをひたすらに待つだけなのは寂しいから、またどこかで会えたら、なんて馬鹿馬鹿しい妄想を繰り広げる。会ったってどうしていいか分からないくせに。


近所じゃなかったら出会えなかっただろうし、同級生だったら話せなかっただろう。この関係性だから一緒にいれたのだろう。年齢も性別も違うから、きっといつかは疎遠になってしまうだろう。永遠なんて存在しないし、不変なものも存在しない。


大切なものを大切に。

大切の仕方なんてまだ分からないし、素直でもないし、天邪鬼だけど。大切にしたいものを大切にしたい。


こんなことを思うのはこんな苦い思い出があるからで、これがなかったら、こんなことをこんなにも強く思わなかったのだろうか。

こんな気持ちを引きずらないと生きていけないほど、不器用にしか生きれない。

こんな風にしか生きれない私をどう思うのだろう。






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