マセガキに悩まされる美人保育士のおはなし
私は子どもが好きだ。
純粋無垢な子も、ヤンチャな子も、生意気な子だって大好きだ。
小学生くらいの頃は、将来は優しい人と結婚して、沢山子どもを産むんだなどと夢見たものである。
しかし、その夢は中学~高校生の辺りで儚く消え去った。
私は、子どもは好きだけど、男は好きになれなかったのだ。
というか、はっきりと嫌いである。
中学~高校時代、私はどうやら男に好かれる容姿や体つきをしているらしく、異様なくらいモテた。
最初はそれに浮かれもしたのだが、段々と男のイヤラシイ視線に寒気を覚えるようになる。
視線だけならまだ我慢できたが、当然のようにそれはエスカレートしていった。
教師や同級生からは偶然を装って触れられたり、覗かれたり、しまいには襲われかけたりと散々な目にあい、気づくと私は男嫌いになっていた。
男は汚いし、下品だし、野蛮だし、ゲロ以下のにおいがプンプンする。
漫画や小説に出てくる優しくて紳士な男なんて、この世には存在しないと思う。
ホント、消えてなくなればいいのに。
「せんせ~、おはよ~ございます♪」
「はい、優斗君、おはようございます♪」
そんな過激な考えを持つ私も、男の臭いのしない子どもであれば何も問題はない。
というか子どもであれば、たとえ性別が男だとしても天使である
下半身に付いた異物も、天使のものと思えば可愛いとさえ思えるのだから不思議なものだ。
私が保育士という道を選んだのは、必然と言っても過言ではないだろう。
もし自分が子どもを産めば、いずれは大きくなり、やがては嫌悪の対象になってしまうかもしれない。
しかし保育士であれば、皆育ち切る前に巣立っていくため、その心配がないのだ。
一番カワイイ時代だけを愛でることができる……
こんな最高な環境、飛びつくなという方が無理な話であった。
「せんせ~! おはよ~!」
「おはよう時哉君、今日も元気ね~」
この時哉君はヤンチャなうえに生意気なところがあるが、それでも天使であることに変わりない。
可愛くて抱きしめたくなる。
まったく、幼稚園児は最高だぜ。
おっと、よだれが出るところだった。危ない危ない。
もしヘブン状態になっているところを他の先生に見られたら、この楽園を追い出されるかもしれない。
表情には常に気を使っておかないと。
「せんせい、おはようございます!」
「っ! しゅ、修二君、おはよう……」
口内を噛んで気を引き締めた私の前に、また一人愛らしい子が挨拶に来る。
しかし、その愛らしさに反し、表情が曇ってしまった。
……私は、どうにもこの子が苦手なのである。
「せんせい、だいすき!」
修二君はそう言っていつものように、屈んだ私に抱き付いてくる。
そして同時に、私のおっぱいとお尻を触ってきた。
「っ! こら! 修二君! そういうことしちゃダメって言ってるでしょ!」
修二君は毎日のように私の体に触れてくる。
それも、おっぱいやお尻など、性的な箇所ばかりを……
初めは偶然かと思ったが、どうにもこれは故意にやっていることが最近発覚した。
「でも、パパとママはいつもやってるよ!」
「だ、だからそれは、修二君のパパとママだけだから……」
そう、修二君は、どうやらパパとママの真似をしているらしいのだ。
全く、なんと教育に良くない行為を!
そうは思うが、それを子ども相手に説明しても理解はしてもらえない。
内容が内容だけに親御さんにも言い出しにくく、頭を抱えている。
「でも、ぼくもせんせいのこと、だいすきだよ?」
修二君はそう言いながらも尻を撫でるのをやめない。
その手つきが、なんと言うか、とてもイヤラシイ……
割れ目の間を往復する指は、とても園児のものとは思えないほど卑猥だ。
どうしてこんな子どもが、こんなイヤラシイ触り方をできるのか……
これも一種の英才教育なのかもしれないが……、本当、イヤ過ぎる。
私はやんわりと修二君の腕を押さえ、少し距離を取る。
「ホラ、先生だけじゃなく、他の子たちにも挨拶してきなさい」
「うん!」
修二君は元気よく返事をして、みんなの所へ駆けて行った。
この反応だけ見れば素直で良い子なんだが、本当に、どうしてこんなことになってしまったのか……
保育園には、『お昼寝タイム』という最高の時間が存在する。
私は『お昼寝タイム』に子どもたちの寝顔を見るのが、一日のウチで一番好きな時間だった。
このときばかりは、あの修二君ですら天使になるのだから、やはり最高と言わざるを得ない。
「ん……」
そんなことを考えながら修二君の寝顔を見ていると、急に可愛いらしお目目が開かれる。
「あら修二君、起きちゃったの? 大丈夫よ、まだ寝てていいの」
というか寝ててください。お願いします。
私は少し強引に頭を撫で、何とか寝かしつけようとする。
しかしその努力も虚しく、修二君は私のお腹の辺りに抱き付いてきた。
「せんせい~、すき~」
……ああ、なんて可愛いのだろう。
あのイヤラシイ手つきさえなければ、この子は天使そのものだ。
本当、神は何故、この子にあんな業を背負わせてしまったのか……
「……私も、修二君のこと、好きだよ」
「ほんと~?」
「ええ、本当よ」
嘘ではない。
苦手意識はあるが、それでも修二君だってやっぱり天使だ。
好きか嫌いかで言ったら、絶対好きに決まっている。
「じゃあ、ちんちんにチュウして」
「…………………………は?」
そんな暖かな空気を、凍てつく波動が襲った。
コイツは今、なんと言った?
「ねえ! チュウして!」
そう言って修二君はズボンとパンツを降ろし、象さんを丸出しにする。
「修二君! こんなところでおちんちん出しちゃダメ!」
私は慌ててズボンを履かせようとするが、そのせいで象さんの目の前に来てしまった。
ガッデム!!!!!
「チュウして!」
「っ! そんなところに普通チュウはしないの!」
「うそだ! ママはいつもしてるもん!」
この、クソ淫売が!
子どもの前でなんてことしやがるっっ!
モラルってもんがあるだろうがっ!!!!!
「そ、それは修二君のママだけの愛情表現で……」
子ども相手に難しい言葉を使っても理解はされないだろうが、今の私はテンパっているので言葉を選ぶ余裕がない。
「ぼくもせんせいのにするから!」
だぁーーーーーーーーーっっっ!
マジで何やってんのお前らっ!?
バカなのっ!? 死ぬのっ!?
なんで私がこんなところで親にしか見せたことのないトップシークレットに危機感を覚えなきゃいけないの!?
怒りと混乱と恥ずかしさでどうにかなりそうだったが、私はなんとか修二君にズボンを履かせることに成功する。
そして強引に修二君の頭を鷲掴み、満面の笑顔を浮かべた。
「修二君のお母さん達はね、おサルさんごっこをしているだけなの。真似しちゃだめ」
「でも、すきだからって……」
「ダ・メ!!!!!!」
声に怒気をはらませながらそう言うと、迫力に気圧されたのか修二君は泣き出してしまった。
その場面を園長先生に見られた私は、あとで物凄く叱られてしまった。
しかし、事情を話すと流石に園長先生も同情はしてくれたらしく、クビにはならないで済んだ。
後日、修二君の両親に事情を説明すると、二人は照れながらも頭を下げてくれた。
しかし、その表情が少し嬉しそうだった気がするのは、私の気のせいだろうか……
そして十年後、修二君が改めて私にプロポーズをしてくるという珍事があったのだが、私は迷うことなくそのイケメン面に拳を叩き込み凹ましてやったのだった。