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「目覚めの事実」 都市伝説ネタ8「悪女」より

作者: 雷禅 神衣

ルカと言う女に出会ったのは偶然だった。

いや、偶然と言うよりは必然と言うべきか。ナンパが正当な出会いであるなら必然と呼べる。

元来、出会いとは偶然のような必然と表現される事が多い今日、それが逆ナンであっても必然だと拓海は思っていた。

ルカはなかなかに魅力的だ。目鼻立ちの整った表情に豊満なバスト。

程よく引き締まったウエストは、その下に繋がる脚線美を見事に引き立てており、突き出たヒップは桃を連想させる。

しなやかに伸びた腕にはシルバーのブレスレッドが輝いている。まるで彼女の美貌を絶賛するかのように。

「実はこの近くにあるホテルに宿泊しているのよ。良かったらこの後遊びに来ない?」

そう言い放ったルカの顔は赤く染まっており、その瞳は潤んでいた。

そんな顔で誘われて断わる男などいない。拓海は二つ返事でOKし、その後のテンションを維持するためにワインを飲み干した。

それにしても見れば見るほど魅力的な女だ。ちょっとした仕草一つが絵になる。

それでいて品のある動きは川の流れのように穏やかだ。

時折テーブルへ目を落とす俯いた眼差しは、まさしく「妖艶」の二文字が良く似合った。

そんな彼女を見ているだけで拓海の酒は進んだ。下半身が今にも暴走しそうな興奮を覚えたが、呑むペースに衰えは無い。

「お酒強いのね」

「そ、そうかな。普通だと思うけど」

「私、お酒強い人タイプなのよね」

拓海は舞い上がった。赤ワインから白ワイン。挙句の果てには上質な年代ものまでオーダーし、浴びるように呑んだ。

「素敵よ・・・。それじゃ、そろそろ行こうか」

「あ、ああ。そうだね」

拓海はおぼつかない足取りで歩き出した。会計を済ませて店の外へ出る。

そして拓海の意識はそこで途切れたのだった・・・。


目を覚ました拓海は、自らを襲う倦怠感で一杯だった。凄まじい嫌悪感が漂い、頭がガンガン痛む。

「ここは・・・・なんだこれ・・・」

自分が置かれた状況の異変に気付いたのは、自分が全裸だったからではない。

どういうわけか拓海は全裸で無数の氷が入ったバスタブの中に居たのだ。

「イテテ・・・なんだよ、これは」

両手両足がバスタブの外に出ている格好で寝ていたようで、氷水に浸かっていたのはどうやら背中だけのようだった。

拓海は昨日の事を何とか思い出そうと記憶を辿った。

街中でルカと言う女に声を掛けられ、それから呑みに行った。

彼女は自分が近くのホテルに宿泊していると言い、部屋に来ないかと拓海を誘った。

そこまでは覚えているのだが、その先の記憶が何故か途切れていた。

見たところ、拓海の居る場所はホテルに設置されているバスルームのようだ。

と言う事はルカが宿泊するホテルに来た事は間違いない。

しかし彼女とベッドを共にした記憶は無かった。

「くそっ!騙されたのか・・・」

そう思って拓海は起き上がるとバスタブから這い出た。

「ん?なんだこれは」

バスタブから出た拓海の目に、小さなテーブルが飛び込んできた。

テーブルの上には電話とメモが置かれている。走り書きのような文字だが、いかにも女が書きそうな文字だった。

「目が覚めたらすぐに救急車を手配してください。命に関わります」

メモにはそう書かれていた。

「なんだよ、これは」

恐らくあのルカと言う女が書いたのだろう。

やがて頭が覚醒して来ると、背中が妙に痛む事に気付いた。

先ほどまで氷水に浸かっていたため麻痺していた痛みが、体温の上昇と共に解凍され、本来の痛みが蘇る。

「ぐはああっ!!なんだ、くそ!」

その痛みは凄まじくもはや立っている事さえままならなかった。

拓海は受話器を取り、まずはフロントに連絡を入れた。事情を説明するとフロントの係員は

「すぐに救急車を呼びますから」と言って通話を終えた。

しばらくするとフロントの係員が入ってきて「大丈夫ですか」と慌てた声を上げる。

その後数分もしないうちに救急車が辿り着き、救急隊員が拓海を運びこんだ。

だがその時既に拓海の意識は無かった・・・。


気が付くと拓海はベッドの上にいた。どうやら病院のようである。

「気が付きましたか」

「先生・・・僕は一体・・・」

「どうやら貴方も標的になったようですね」

「標的?」

「まずはこちらをご覧ください」

そう言って医師が差し出したのは拓海の背中を撮影した写真だった。

「これは・・・・」

そこにはまったく見覚えの無い大きな傷跡が残っている。まるで手術でもしたかのような大きな傷跡だ。

「これはごく最近付けられた外科手術の縫合痕です。傷跡から察するにまだ12時間と経っていないでしょう」

「縫合痕!?う、嘘でしょ?僕手術なんてしてませんよ」

「勿論、この病院でもしてません。もしかしたらと思って貴方の身体を調べてみたんですがね」

そう言うと医師は言おうか言うまいか悩んでいるような仕草を見せた。

「僕の体に・・・何かあったんですか?・・」

「ええ・・・実は内視鏡で調べたところ、貴方の体から腎臓が一つ無くなっているんです」

「じ、腎臓が・・・無い!?」

「ええ。実は最近貴方のような患者さんが増えているんですよ。どの患者さんに聞いても意識を失う前に女と会っていたと言うんですね。

それでその女に誘われて部屋まで行くらしいんですが、その後の記憶が無いと言うんです」

その証言は拓海のケースと一致している。

「これはあくまで噂なんですがね。どうやらその女は睡眠薬入りのワインを飲ませて眠らせ

その隙に男の体から腎臓を摘出し、臓器のブラックマーケットで売っているらしいんです」

「な、なんですってっ!」

「警察もその女を追っているらしいんですが、何せ裏社会です。なかなか捕まらないらしいですよ」

「それじゃ、僕の腎臓は・・・・」

「言い難いんですが・・・・もう手遅れです」


その瞬間、拓海は己の欲望に負けた事を心底後悔した・・・。



END

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