バレンタイン記念!【悲報】絶対くっつくはずのない二人がくっついたことによって、世界が滅亡寸前なのですが、、、神様、世界を更生しようと最大の過ちを犯す。
2130年2月15日、人類史にとって驚愕すべき出来事が起きた。
相手への負の感情がリセットされたこの衝撃的な日は後に、負感情消滅日と呼ばれるようになる。
◆◆◆
前日、2130年2月14日 お昼の時間
東京屈指の名門校である、私立波亜都学園高校の西校舎裏にて、一年に一度の”あの”重大イベントが行われようとしていた!!!
「あなたのことがずっと好きでした!!!受け取ってください!!!」
そう!バレ~~~~~ンタインデーである。女子にとっては好きな人に自分の気持ちを伝える決戦の場、男子は本命チョコを好きな子から貰えるかビクビクしながら一日を過ごす、あのバレンタインである!!!
いや、全国の大多数の中高生のためにも、訂正しておこう。『好きな子にチョコと一緒に告白したら両思いでした!』こんなラノベみたいなことは滅多に起こるわけがないのである!!!
現代では、女子は友チョコ作りで友情確認。男子にとっては如何に女子からおこぼれを貰えるか。というイベントになってしまったのだぁぁぁ!!!頑張れ男子!
おっと、話が逸れてしまった。本題に戻ろう。
バレンタイン本来の意味が失われている中で、行われているのは正規の告白!
西に対するはこの学園一の美少女、花﨑 玲奈様。僕のようなカースト身分では話しかけることすら出来ない雲の上の存在だ。そして、今告白してる張本人である。
東に対するは、加賀谷 廉斗。ただイケメンだけが取り柄な奴である。ケッ
二人ともこの学校で絶大な人気を誇っており、ファンクラブまで出来ている始末。それには、二人が容姿だけでなく、運動・学力に関しても申し分のない出来であることも要因だろう。
取り柄がイケメン以外にもあったじゃねーか、この完璧人間め。
この前の定期テストでは、900点中、花崎さんが878点で2位、加賀谷が885点で1位で、3位とは80点以上の差をつけての点数だったそうだ。
名門であるこの学園は、それだけ定期テストも難しいと専らの評判だ。二人はこの学園創設以来の類い稀に見ない天才だそうだ。このことを聞くだけでも二人が他の人よりも次元が3つくらい違うことが分かるだろう。
しかし、二人は超の付くほど仲が悪かったはずだ。
定期テストに負けたことが悔しすぎた花崎さんがこの前、絶対復讐を(直接的な意味で)すると誓っていたし、お互いへの嫌がらせは、その取り巻きを含めて数知れずって感じだ。
この学園の裏掟3箇条の中に
①体育科の禿山を怒らせるな。
②副校長と絶対に目を合わせるな。
③花崎と加賀谷の権力抗争に巻き込まれるな。
とあるくらいだ。
それがまさか、花崎さんが告白してるなんて、、、まさかいつもの態度は好きな子には冷たくなるという、あれか?ツンデレか?ツンデレなのかぁぁぁ?
「ん?そこに誰かいるのか?」
まずい。廉斗に気づかれたらしい。
「以上、影の薄さでは学園一!陰地 味男 からの現地レポートでした!人生なんて不公平だ!わぁぁぁん。」
草陰から一目散に逃げ出す輩が一人。逃走途中で涙が散ったのはきっと見間違えではないだろう。
「何だったんだ。あれは、、、」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突然だが、今俺は一人の女子から告白を受けている。
普通なら、素直に喜ぶはずだが、相手はあの大嫌いな花崎だ。何か裏があると思って良いだろう。
ただ、花崎の整った顔と潤んだ目を見てると、その疑念がどうも怪しくなってきた。俺はどうしてこんなにピュアな子に疑いを持ってしまったしまったのだろう。。。
はっ!!!危ない。また花崎の術中に嵌まる所だった。
「返事を教えてくれるかな?」
花崎が笑顔で聞いてきた。
未だにこれが相手の本意かどうかは分からないが、ただ一つ言えることは、受け取るだけなら誠意が伝わっていいかもしれないということだ。
「(ついに花崎も改心してこの俺の魅力が分かったっていう可能性もな。)ああ、喜んで頂くよ」
そう言うと俺はそのチョコを鞄にしまおうとした。爽やかスマイル付きで。
その手を花崎が押さえ、こう言った。
「今、食べて。ねっ?」
上目遣いで俺を見上げてくる。くっ反則だ。
まぁ、そうか。好きな異性に「おいしい」と言ってもらいたいという乙女心が花崎にはあるのだろう。
その心に気づかない俺は迂闊だった。仮に俺を試しているのだとしても、毒は入れてないだろうから大丈夫だろう。
「分かったよ。食べてみるね。」
そう言うと、花崎の顔がパァァーっと明るくなった。おっ。こういう可愛い顏も出来るんじゃん。
綺麗に包まれた包装紙を開けると、中に小さく「加賀谷君へ」という文字がチョコペンで本体のハート型のチョコにチョコンと乗っかっていた。チョコだけに、、、
ゴホン、冗談はさておき、第一印象はすごく綺麗だと思った。
手作り感が溢れていて、相当時間がかかったんだろうなと思う。
見た目は満点だが、味の方はどうだろうか?もし、これで花崎のチョコが不味かったら、「完璧な花崎でも不得意なことはあるんだな?なぁ学年2位さん?」などと嫌味の一つでも言えるだろう。
さてさて、楽しみだ。パクッ
「・・・(モグモグ)」
味は、、、普通に美味しい方だと思う。ただ、後味に違和感が?
「うっ!!!」
「どうやら効いたようね」
この声は!目の前では花崎がさっきとは雰囲気が違って悪魔的な笑いを浮かべていた。
「随分と簡単に騙されたわね。そんなに私からのチョコが欲しかったのかしら?」
間違えた。してやられた。あいつが可愛いと一瞬錯覚したが、そんなもんじゃない。すっかり忘れていたが、こいつは元から最悪で生粋の悪女だ。
「そのチョコの中には下剤を少々入れさせてもらったわ。結構作るの大変だったのよ?あなたってそういうのに敏感だから、バレないように仕込まないといけなかったから。」
チョコの方も確かに手間がかかっていたのだ。下剤を入れたことがバレないように細工をして、微調整するので。
「感謝してよね!あなたのためだけに私の貴重な時間を3時間消費したんだから!」
こう聞くと、彼氏に尽くす彼女のような感じが出るが、それを言ってる本人は俺の反応を見てニヤニヤしている。うぅ、お腹痛い。
俺は馬鹿だ。なぜチョコに下剤を入れられることを考慮していなかった?いや、常識ではありえないだろう。今回ばかりは完敗だ。次は復讐してやる。だが、今はそれよりも前に、、、トイレへGO!
俺は花崎に背を向けて、トップスピードで走り出す。耐えろ!俺の肛門!!!
加賀谷がいなくなった後、花崎は誰もいなくなった空間に向かって話しかけた。
「美咲、もう出てきていいわよ。」
物置の陰から出てきたのは、花崎派NO.1 花崎自身が絶大な信頼を寄せる田村美咲だ。
「周辺のトイレは?」
「この近くの男子トイレの個室はすべて手を回した者によって占領させました。花崎様の義理チョコをもらえると聞いただけですぐに乗ったチョロい奴等です。」
「流石ね。動画は撮れた?」
「はい。」
「なら、それの音声を消して加賀谷の顏をドアップにして、学園の秘密裏ルートで拡散させなさい。」
「御意に」
そう答えると、美咲の姿はすぐにいなくなる。美咲は花崎のただの駒でしかないのだから、表舞台に出ないのは当然といえた。
「ふふっ。いい気味だわ加賀谷。テストで私に勝ったからって調子に乗ってるのが悪いのよ。これで彼も終わりね。」
普段は猫を被っている魔女は高笑いしながら、教室へと戻って行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その頃、加賀谷はやっと見つけた個室トイレでお腹のゲリラ龍と戦っている最中だった。
「くそっ。なんで、近くの校舎の個室が全部空いてないんだ!いつもは入ってる人なんてほぼいないのに!」
そして、一つの結論に至る。
「どうせ、花崎が手を回した奴等によるものだろう。」
これは大当たりである。
「こうなったら、最終手段『対花崎、俺流嫌がらせの100の方法』を開放せねばならないようだ。覚えていろよ!花崎!!!」
加賀谷の憎悪の炎は燃え上がった。反撃の狼煙が今上がった。
彼はこの直後、動画の件を知って悶えることになるのはまた別の話である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あ~面白かった。今回は完全に私の勝利だわ。どうしてこんなに加賀谷にちょっかいを出すのが楽しいのかしら?
どうにか五限の授業には間に合ったみたいだけど、お腹を擦りながらこちらを睨んできたのは哀れとしか言えないわね。まったく、誰があいつの無様な様子を拡散させるという、ひどいことをしたのかしら?
私は何も知りませんよ?オホホホ
そんなわけで、私と加賀谷は同じクラスである。派閥の核なる人材が二人も同じクラスにいるのだから、クラス内も派閥が真っ二つに割れていた。
加賀谷の隣で仲良さそうに話しているのは、加賀谷の親友兼加賀谷派の実質NO.1の神路疾風だ。
あ、こっちを睨んできた。大方、彼から私の話を聞いているのだろう。
彼は加賀谷派の側近の一人であり、大体、加賀谷と行動を共にしている。指示を出すのは疾風の管轄で加賀谷派の司令塔と呼ばれている。まぁこのこともあって、鈍感な加賀谷は自分が派閥を立ち上げていることにすら気づいていないだろうが。
そんな私も美咲を始めとした人材に囲まれて、学園内では強力なバリケードを張って過ごしている。普段は取り巻きの人とは、普通の友達として接してるから楽しいわよ?青春してるって感じ。
おっと、いけない今は体育の時間だった。サッカーに集中しなければ。
今日の体育は男女合同サッカーだ。いつもは男女別でやってるが、今日は体育の教員が一人しかいないらしく、この形式になったらしい。うわあ、教師禿山じゃん。あの人怒ると、鬼神ですか?ってくらい怖いんだよね~。いつもは男子の方にしかいないけど、はぁ今日はツイてない。
「まずは、リフティングからやるぞぉ!一人目標10回!出来なかった奴は校庭一周な~」
10回?そんなの私には楽勝だ。サッカーは習ったことはないが、その気になれば30回くらいは才能で行ける。
1・・2・・3・・4・・5・・6・・7・・8・・あっミスった。
油断して一回ミスしてしまったが、この感じだと次には終わるだろう。
男子、特に加賀谷や元サッカー部の疾風はもう既に終わったらしい。
1・・2・・3・・4・・5・・6・・7・・8・・9・・ラスト!
最後にボールが落ちてくる瞬間、他の人のボールが私のボールに当たって、私のボールごとどっかに飛んでいった。あぁっ!まあ仕方ないか。次やれればいいでしょ。
・・・おかしい。何度やっても10回目の最後に他の人のボールが必ず当たる。辺りを見渡すと、加賀谷がボールを抱えて、ニヤニヤしてた。あいつか!
「はい!そこまで!!!最後まで10回出来てない人はグラウンド一周全力で走ってきて~」
面倒くさ。走ってる人を見てみると、ほぼ全員私の側近の面々だった。
まさかあれを全員に?
え?何?これで仕返し出来たと思っているのだろうか?確かにうちの校庭は一周で800メートルくらいあって広い方だと思うが、たかが800メートル走らせただけで、復讐って、、、脳内お花畑ね。
ああ、まったく息切れしてないのを見て、彼も気づいたようね。私がこんな距離は苦でも何でもないってことに。頭抱え込んでしまったわ。可愛らしいこと。
ただ、私以外の走った人は肩で息をしているようね。弱体化を狙うなら、彼らの作戦成功ってとこかしら?
「よし、次はシュート練習やるぞー!」
次はシュート練習のようだ。
「ごめんね。玲奈ちゃん。私たち、さっきのランニングで疲れ果てたから少し休憩してるね。後ですぐ戻るから!」
シュート練前にこう美咲から言われた。うん、かなり疲れてそうだったからしょうがないだろう。
私の前には加賀谷を含めた3人。後ろには疾風を含む20数人が並んだようだ。
「そちらから俺にパスを出したら、それを落とすからそのままゴールに向かってシュートしてくれ!」
禿山が生徒に指示を出す。
一番手は加賀谷だ。綺麗なフォームでゴール右上に突き刺すようなシュートを放った。
二番、三番と終わり、次は私だ。
丁寧にトラップして、山なりのボールでシュートした。よしっ、入った!
私はゴール奥に引っかかったボールを取ろうと、手を伸ばす。
そのすぐ横を、ビュン!と音を立ててボールがゴールに吸い込まれていった。
「ちっ、外した。」
そんな呟きが聞こえた気がした。え、外したって何?私が的ってこと?
その後も私を狙うように次々とボールが飛んでくる。
怖い。恐怖で足が動かなくなる。
次のキッカーは神路疾風。
その目はギラギラと肉食獣のように光っている。絶対に私を狙うつもりだ。
ズガァーーン そんな勢いで蹴り出されたボールは私に向かって一直線に向かってきていた。
このままだと私に直撃するだろう。
誰か。助けて!私は思わず目をつぶる。しかし、そのボールが私に当たることはなかった。
「おい。疾風やり過ぎだ。俺はこんなことしろなんて言った覚えないぞ?」
え?ゆっくりと目を開ける。目の前に立ち塞がり、片手でボールを弾いたのは、何があろうか加賀谷であった。
その言葉を聞いて、疾風がそっぽを向く。
「たまたま、当たりそうになっちまったんだよ。悪かったな、花崎。」
そう言って、踵を返し戻っていく。
「ほら、お前も気をつけろよ?」
そう言って、加賀谷は私にボールを投げ渡してきた。それだけ言うと、彼はそのまま走り去ってしまった。
「あ、お礼言い忘れた。」
加賀谷に一瞬でも見惚れてしまった自分を責めなければならない。でも、しょうがないよね。だってあんなにかっこよく助けられたら、、、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次は試合形式らしい。
今の私なら、断言出来るだろう。少し前の感情は気の迷いであったと。
さっきは加賀谷共々に泥を思いっきりかけられた。
私が友達と固まって話していたのだが、その周辺には昨日雨が降っていたこともあり、地面がぬかるんでいた。それに向かって、加賀谷達がボールを蹴ったことで、泥が綺麗に私たちに降りかかった。
しかし、それをたまたま目撃していた禿山に泣きついたところ、蹴った奴等全員大目玉を食らったらしい。半分涙目で帰ってきた。ざまぁみろ!!!
「クラスを2つに分けて、試合するぞぉー!分け方は自由だから、学級委員なりを中心として好きなように決めてくれ~」
こういうとき、私たちのクラスでは100%分け方が決まっている。もちろん、派閥毎に分かれるのだ。
そんなこんなで、とりあえず試合開始。
やはり、加賀谷と疾風が息のあったコンビネーションで得点を重ねていく。
こちらも決して弱いわけではなく、ボチボチ点数を取ってる感じだ。
派閥毎に分かれたといっても、最後の試合は派閥関係なく楽しく試合をしている。彼らも特にこういう勝負事の時は正々堂々やるタイプなのだ。派閥で分かれるのは、他に考えつく分け方がないというのと、仲が良い人もどうしても派閥内に限定されるので、結局こーなる。
「事件なんて起こるわけがない。」
と、思っていた時期も私にはありました。
事件が起こったのはゲーム終盤。簡潔に流れを説明すると、
加賀谷がボールを持った際に私がスライディング→加賀谷が転倒するもそのまま立ち上がって競り合い→体格で彼に劣る私がボールを取られる→そのままロングパスを出そうとしていた加賀谷の射線上に私が割り込もうとして、そのまま顏にボール、ドーン!!!
ただのお互いに負けたくないという意地の戦いだ。
それよりもボールが当たったのが痛すぎる。私はついに座り込んで泣き出してしまった。
「お、おい!大丈夫か?」
加賀谷が私を心配して、話しかけてきた。
「うわー。女子を泣かせた。加賀谷最低。」
「顏芸した後にそれかよ。」
「故意ですか?”恋”なんですか~?なーんちゃって」
などと加賀谷の方は散々な言われようだ。
禿山まで、騒ぎを聞きつけてやってきて、加賀谷は滅茶苦茶焦り始めた。
「せ、先生。これは違うんです。わざとやった訳では、、、」
「はぁ。おい、加賀谷。お前、男なんだったらさっさと花崎を保健室に連れて行け。それが思いやりってもんだろう?」
「分かりました。花崎、自分で立てるか?肩貸そうか?」
はい?何故こいつの肩を借りなきゃならんのだ。差し出されようとした手を振り払う。これくらい自分で歩けるっての!!!
しかし、奴は私が変なプライドで助けを渋ってると思ったらしく、そのまま私を抱え込んで歩き出してしまった。いわゆる”お姫様抱っこ”というやつだ。
「ん?んん~?」
周りがキャーキャー騒いでるが、関係ない。とりあえず、加賀谷の顔を一回殴り飛ばした。
「グヘッ!」
そうすると、必然的に私を支えていた支えもなくなるわけで、、、
「あ、しまった。」
ビタン!!!と盛大に体を地面に打ち付けるのであった。
結局、落ちたときに尾てい骨をやってしまい、歩けなくなった私は、殴られて白い泡を吹いてパッタリ動かなくなってしまった加賀谷と共に担架で保健室に運ばれた。
うわぁ、気まずい。
その後すぐにお見舞いに来てくれた美咲達に2・3個指示を出すと、私は保健室のベッドで眠りに落ちた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺が目を覚ますと、そこは保健室だった。
花崎に殴り飛ばされた後からの記憶が完全に抜け落ちている。きっと、保健室に誰かが運んでくれたのだろう。
俺は、ベットから体を起こすと、保健室の先生に
「俺ってどのくらい寝ていました?」
と聞いた。
先生の話によると、俺はどうも殴られた時に軽い脳震盪を起こして失神していたらしい。時間にしておよそ15分程度。これなら、6限の授業に間に合いそうだ。
「はぁ、猫被り性悪女にいつ謝ろうか。」
呟いた瞬間、ハッと周りを見渡す。あいつの諜報員はどこで盗み聞きしてるか分からないからな。
俺の隣のベットでは、誰かの寝息が聞こえていた。どうやら、先客がいたみたいだが、聞いてはいないみたいだ。危ない危ない。
さて、次の授業に遅れないようにそろそろ行くとするか!
彼は気づいていなかった。本人が隣のベッドで寝ていたことを、その片目が開いていたことを。
「誰が、猫被り性悪女ですって?!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
教室へ行くと、何かがおかしい。授業前だというのに、極端に人数が少ないのだ。
「おい、疾風。なんでこんなに人数が少ないか分かるか?健二も勇人もいないじゃねーか。」
健二と勇人はいつも一緒にいるメンバーの奴等だ。二人とは中学から一緒だし、自分で言うのも何だが、仲がめちゃくちゃいい。
「ああ、それはだな・・・」
物凄く気まずそうに疾風が話し始める。どうやら、田村美咲が「男子のみんな~義理チョコだよ~」とチョコをばらまいたらしい。自分たちの派閥の男子達を除いて
それを聞いて、大体察した。
疾風曰く、自分の派閥の男子には別の本命チョコを、という感じだったので、意図に気がつきにくかったとのことだ。
お前達、誘惑に抗えなかったんだな・・・
「も、もちろん、俺は意地でも貰わなかったぞ?」
疾風よ。お前も迷ったんか。
そもそも、この学園は一部の人が不快な思いをしないということで、バレンタインデーにチョコを持参するのは形式上禁止されている。まぁ、みんな守るはずがないが、、、
ということなので、チョコを渡すときは校門出てからか、こっそりと校舎裏で!というのが一般的だが、田村やりやがったな。
チョコには下剤がやはり入っていたようで、となると案の定、花崎が一枚噛んでいるようだ。
まぁ、いい。放課後になればあいつは泣きべそをかく運命にあるからな。それまでの辛抱だ。
そういえば、あいつ自体はどこ行ったんだ?
だが、俺はそれよりも気になるののが、消えた男子16人のことだ。
あいつら無事にトイレに行けたのか?
・・・トイレの個室って校舎内にそんなにあったっけ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(少し前の時間、廊下にて)
「クソっ!平井の奴、裏切りやがった!あいつ、みんなで協力しようって自分から言っといて、いの一番に東校舎2Fの個室に入りやがって!!!」
「裏切り者、まじ許さん。」
「平井死すべし。」
このような愚痴をこぼしながら、廊下を凄まじいスピードで走っているのは、健二、勇人、etc...の3人だ!最後の人は省略、いや名前を忘れた!とりあえずA君!
今走っているのが3人であるのは、全員で行くのは非効率なので、校舎が4階立てだから、各階4人ずつに分かれ、それぞれの階を担当した方が早いんじゃね?ということで「速やかにトイレを見つけよう大作戦」が遂行されている次第だ。
「流石に、西校舎まで行けば、沢山トイレがあるはずだが、、、」
そう苦しそうに呟くのは健二君。それに続いて勇人が重大なことを呟く。
「今、速すぎて一瞬気がつかなかったけど、多目的トイレがあったような、、、」
「」
全員、体の向きがシュバっと後ろに向く!
あ、健二が勇人を押し倒した!そして、A君が健二の足を引っかけた!!!
A君がダッシュで多目的トイレに向かう!そして鍵を閉める!!!
「おいっ!出てこい!水谷ぃぃぃ!!!お前を呪ってやろうか?」
【速報】作者に名前を忘れられた可哀想なA君、名字が水谷だった!!!
「てか、最初に見つけたの俺なんだけど???教えたのも俺なんだけど???何このひどい扱い!」
「こっちの命運がかかってる状況なんだ!悪いが他を当たってくれ!!!」
三者三様の言い分であった。
トイレ確保競争に敗れた二人はなお廊下を走り続ける。
「まずい。そろそろ腹が限界だ。」
「あぁ、俺もだな。」
だが、そこで平穏に終わらないのが常である人生である。
「廊下は走っちゃいかんぞー!!!」
そう言って、猛スピードで駆けてきたのは生活指導の先生だ。かなりのブーメランである。
「ちょっ、速すぎるんだが!」
「あれに捕まったらゲームオーバーだぞ!死にたくなきゃ走れ!!!」
廊下をウサインボルトも涙目である、100メートル9秒前半のペースで走る生活指導の先生。
それだけ生徒への愛情が厚いということである。
徐々にはっきりと輪郭が見えてきた先生の姿。察知能力でもあるのだろうか?
あれはまるで、、、
「完全に○ンターじゃねーか!サングラスかけてるし!!!」
「チッ、リアル逃走○じゃねーか。」
トイレへダッシュする生徒達とそれを追いかけ、廊下を走る生活指導担の先生による奇妙な追いかけっこが繰り広げられていた。
・・・とてもカオスな状況であった。
それからどうなったかは・・・当人達以外は分からない。
加賀谷:「結局戻って来なかったなー」
疾風:「なー」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何が猫被り性悪女よ!あいつ調子に乗って、、、そろそろ我慢の限界だわ!大体、怪我をしたのだってあいつのせいだし、トイレの水を頭からかけてやろうかしら?いや、それよりもあの動画を下級生にまで広げる方がダメージが深いかしら?
保健室から帰ってきた花崎玲奈は内心イライラしていた。
いつも学園の生徒から呼ばれているのは、「流石、花崎様。学年2位ですって。」とか、「あれが学年2位の風格、、、」とか、「成績も良くて、運動も出来て、顏も良くて、金持ちで、ホント完璧人間ね~」だの、
違う!みんな何も分かってない!!!
彼女は知っている。一部の人々からは裏で”万年2位”と呼ばれていることも、加賀谷廉斗の下位互換と思われていることを。
そう、彼女は一度も加賀谷に勝てたことがないのだ。
周りからは勝てなくても仕方ない。よく頑張った。あいつがおかしいなどと声をかけてくれる人が多いが、プライドが高く、中学まで不動の一位であった彼女にはかえってその心に傷をつけることとなった。
彼女にとって”加賀谷廉斗”という存在はただの目の上の存在でしかなかった。
憎たらしい。消えて欲しい。
彼は全て一位を奪い去っていく。性格も私よりいい。これが嫉妬でしかないことは自分でも分かってた。でも、過去の自分が報われるためには、今まで努力して頑張ってきた自分が正当化されるには、
こうするしかないのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
終礼が終わった。みんな次々に下校していく。
いつもより濃密な日だった気がする。というか、腹が痛すぎて死にそうだったんだけど!?
こんな経験をした高校生は世の中にまたとないだろう。大口で食べなきゃ良かった。くそっ。
「加賀谷、帰ろうぜ!」
疾風達が待っている。だが、俺には一つやらなければならないことがある。
「すまん、今日は少し帰るまでに時間がかかりそうだから先に帰っててくれ。」
「分かった~じゃあな~」
「「じゃあね~」」
花崎グループは日本の大手食品会社を取りまとめる日本有数の大企業である。
黒塗りの車が校門前に止まった。
そして当然、花崎玲奈は、花崎グループの令嬢であるが、、、
「ご機嫌よう、私の愛しの子。」
「げっ!お母さん。」
中から出てきたのは、花崎玲奈の母である、花崎陽子。
実は彼女、ものすごいストイックな気質なのである。
世間ではこれをモンスターペアレント、通称モンペと呼ばれている。
花崎のスケジュールを数分単位で全部管理してるどころか、常に体温、心拍数などの体調管理を知っておかないと気が済まないタイプなのである。
花崎の左手についている時計はそれらを計測する機能がついているものだったりするらしい。
そんな母親なので、当然GPS機能も時計に付けてるのだが、、、今日はいつも以上にピリピリしているようだ。
「玲奈、あなたこの前、GPSが故障したから位置情報が分からなくなっていたって言ってたわよね?」
「はい。」
「でも、おかしいのよ。その時友達の家に勉強しに行ってるって聞いたのに、実際は友達と遊びに行っていたという情報を聞いたのよね~」
花崎の顔が青くなる。
「ちょっと、今付けてる時計を貸してごらんなさい。」
「はい。お母さん・・・」
「・・・やっぱり!あなた、ずっとGPS機能を消してたわね?セバス、新しい時計の依頼はいいわ。取り消しておいて。」
「かしこまりました。奥様。」
そう言ってるのは、執事のセバスチャン、ではなく、執事の熊手五郎さんだ。
初め聞いたときは、熊手五郎って名前かっこいい~と思いつつも、なんでセバスチャンって呼ばれてるのか不思議でならなかった。
後から、五郎さんから理由を聞いてみると
「奥様は雰囲気を大事にする方なのです。」
と何か意味深なことを言っていた。五郎さんが優秀すぎるから、そのあだ名が付いたような気がするのだが、まぁそれはおいておこう。
「友達とばっかり遊んでいると成績が落ちることしかないのに、どうしてあなたは分かってくれないのかしら?」
花崎は俯いている。
「はぁ、あなたみたいにうちの子もきちんとしてくれればいいのだけれどもね。教えてくれてありがとう、廉斗君。」
さて、俺の出番だ。花崎は「やられた!」という顏をしている。まさか、俺が彼女の母と知り合いだとは思わなかったらしい。
実はうちの母は花崎の母が主催する料理教室に通っており、母同士は顔見知りだ。
俺もたまに味見担当として狩り出されるので、もちろん向こうの母親もこちらのことを知っている。たまに学校で花崎がどんな様子かを定期的に聞かれるのだ。
その分、うちの子はあ~で、こ~でと勝手に話してくれるので、花崎の弱みを握るにはいい情報交換相手なのだが、
「礼には及びませんよ、花崎さん。跡継ぎの玲奈さんにはしっかりしてもらいたいですからね。」
すまし顔で淡々と思ってないことをペラペラと話す。花崎がめっちゃこっちを睨んでるが、無視だ。無視。
「あなたをうちの養子にしたいぐらいよ。そうだ!玲奈と結婚なんてどうかしら?旦那さんがしっかりしていたら、あの子もしっかりするだろうし。」
冗談じゃない。そんなことあってたまるか!
「いえいえ、玲奈さんに僕はつり合わないですよ。残念ですが、お断りさせて頂きますよ。」
やんわりと断った。
「ホントに残念ね~。いつでも気が変わったら歓迎するわ!」
そんな日は来ないだろう。絶対に
それから二三言話すと話は終わり、二人は車に乗り込んだ。その間ずっと、花崎は首根っこをつかまれた猫のような顏をしていた。
これで、おあいこになった訳だが、可哀想なことしたかな?
車に乗り込む直前、花崎が一瞬だけすごく悲しそうな顏になったのが妙に印象に残った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その日の晩のこと、
花崎宅にて、
母親に告げ口したのが加賀谷だと知った玲奈は言った。
「あの生意気な小僧は~~~~~」
加賀谷宅にて、
後から、花崎によって自分の動画が拡散されていることを知った廉斗は言った。
「あの最低な小娘は~~~~~」
「「絶対許さない!!!」」
◆◆◆
2130年2月14日23時58分、東京上空
何の変哲もない空間が突然歪んだ。その中から出てきたのは、この地球の創造した神の十代目子孫にあたる現・神様である。
神様は大きく伸びをして、虚空の闇に向かって言い放った。
「これより、人間更生計画を開始する。」
「罪状:汝、人間はこれまで知恵をもっていることをいいことに他の種を虐げ、まるで自分達が神であるかのように振る舞ってきた、その上、自然破壊をやめず、戦争を繰り返し、今の自分さえ得をしてればいいという欲深さまである。」
「なるほど、これでは救いようがない。だが、地球が滅亡するのは、我々神にとっても利益にならない。そこで我々は、愚かな人間達にもう一度やり直すチャンスをやろうと思う。」
「人間の醜い感情をリセットすることにしたのだ。そうすれば、世界が憎み合うことなく協力して、今直面している山積みの問題を解決すればいい。もし、それでも元の状態に戻るならば、そこまでだと見限るしかない。」
言っていることは辛辣だが、それを言っている神様の顔は見下しているというより、悲しみに溢れた顏であった。
「変な意地に囚われるな!いくら国家間の仲が悪かろうと、共通の課題に肩を並べて取り組めばいい。初心に帰れば良い。」
神様は涙ながらに言葉を紡いで、真摯に訴えかける。
『神権行使を人類歴2130年2月15日0時0分0秒にセット。準備を開始します。』
「人間達よ。また同じ過ちを繰り返すでないぞ。」
その言葉を残して神様は夜闇に消えた。
カチッ 2130年2月15日0時0分0秒
神が元いた空間から放射状に光が広がっていく。
さぁ、新たな時代の始まりだ。
◆◆◆
その日から世界が変わった
そして、波亜都学園高校にもまた、大きな変化が訪れていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
僕の名前は西川健太。
以前、女子更衣室を覗いたという冤罪をかけられ、それ以来、女子からはもちろんのこと男子からも軽蔑されている。クラスでも誰も話す人がおらず、彼は完全に孤立していた。
「はぁ~あ、せっかく沢山の友達を作ろうと勉強頑張ってこの学校に入ったのに、僕のイメージが最悪だからな~」
彼は一度、自殺も考えたこともある。それを何とか思いとどまりながらも、学校に行く頻度は日に日に少なくなっていった。
「今日は気分が良い方だから、学校に行くか。」
だが、そんな彼に転機が訪れた。
僕が教室に入った時だ。みんなが僕が入ってくるのが分かると、こう言ったのだ。
「「「西川君おはよ~!」」」
みんなが僕に挨拶してきたのだ。今までは僕の顔を見ても、すぐ顏を逸らされるか、気まずい雰囲気になって場が凍るかの2択だった。一体何があったというのだろう?
まさか、先生が人をいじめるのはやめましょう。とか言った感じか?
だが、皆の反応を見る限り、僕に対してだけじゃなく教室に入って来た人全員に声をかけてるようだ。
「おっ!健太じゃねーか。久しぶりだな!体調悪かったのか?」
声をかけてきたのは、昔、席が隣同士だったのでよく話していたが、事件があってから疎遠になっていた清水亮だった。今更どうしたのだろうという気持ちは拭えないが、不思議と嫌な感じはまったくない。
「心配してたぞ。無理すんなよ!」
清水、めっちゃ良い奴じゃねーか。
その後も、変化が続いた。清水を中心として、色々な人が話しかけてきた。
ペアワークの時には、清水がわざわざ誘いに来てくれた。
その日の帰りだって、、、
「おっ、健太!お前この後暇か?」
清水がやっぱり話しかけてきた。
「う、うん(何だろう?)」
「これから、この3人で公園行くんだけどよ。健太も一緒に行かねーか?」
残りの二人もこれに続く。
「西川君も行こうよ!」
「人数多い方が楽しいし!」
僕は心がじーんとした。これが友達。。。
「も、もちろん!どこに行くの?」
「あ~、俺らがこれから行くのはだな・・・」
「~~~~~で、~~~~すると、~~~だ。~~~~には、~~~~したらいい。」
「というわけで、一度家に帰ってからその公園に集合な!みんなお菓子持ってくるの忘れるなよ!」
「ああ、また公園で!」
「「「じゃあね~また後で!」」」
僕は家にダッシュで帰って、すぐにこう言う。
「母さん!これから友達と遊ぶんだけど、持って行くおやつ何がいいと思う?」
彼の本当の意味での学園生活がこれから始まるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぁ~、今日は暖かいな~」
温かい日差しにポカポカとした陽気、最近地球温暖化が進んでいるせいか暖かい日が多くなった気がする。
こんな描写が流れると、ゆったりと川辺でも歩いて登校してるのかな?と思いがちだが、実はそうではない。今は8時20分。学校が八時半から始まり、彼の家が学校から割と離れた所にあることを踏まえると、、、
彼はパンを加えて、全力ダッシュ!青春だね。
学校について、教室に飛び込むとちょうどチャイムが鳴る。
「最近、どんどんピッタリになってねーか?」
席についた途端、隣の席の疾風が話しかけてくる。
「ふっ、登校を極めし者はこれくらい日常茶飯事。」
「いや、褒めてねーから。むしろ、もっと早く来いって内心思ってるから。」
毎日、一秒ずつ遅くなってる気がするが気にしない。次は遅刻かな?
ふと、視線を前に向ける。
二列前に座っているのは、朝早く来て勉強するのが習慣となっているらしい花崎だ。
何故か。昨日の恨みが、積年の恨みがすっかり消えていた。
本当に嘘のように消えていたのだ。
あれ?花崎さんってこんなに可愛かったっけ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あれ?加賀谷ってこんなにかっこよかったっけ?
毎度のこと、教室に走り込んできた彼を見て、私が初めに抱いた印象だ。
彼と目が合った。慌てて、目を逸らす。
彼の顏を直視出来なくなってる?
いや、そんなはずはない。だって彼は、彼は、
因縁の、、、何だっけ?
私は憎んでいた彼のこと全てを忘れていた
こんなのはおかしい。そう思った私は彼に直接聞いてみることにした。
直接伝えるのは何なので、手紙を下駄箱の中に放り込んでおく。
”放課後、屋上まで来てください。花崎”
告白前のシチュエーションに被ってしまったが、これは仕方が無い。教室では言いにくいことだし、屋上で話すのは仕方が無いことなのだ。そう、仕方が無いことだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
帰りに下駄箱を開けると、中から手紙が出てきた。これってもしかして?
中身にはきれいな字で、屋上に来てください。とあった。花崎さんかららしい。一体どうしたと言うのだろう。
あれ?俺ってそもそも花崎”さん”って呼んでたっけ?
とりあえず、俺は仲間にも相談して、行くことに決めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(屋上にて、)
彼の姿を見た途端、私は思った。
好きっ!この気持ちは抑えられない。
自分の気持ちに嘘をつくのはやめよう。
大雨が降り始める。雷が鳴り始める。時間が無い。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「昨日のは、半分冗談でだったから、ちゃんと言わせてね?」
「好きです。付き合ってください。」
それを聞いて、安堵した自分がいた。この結果を望んでいた自分もいた。・・・ああ、俺は花崎のことがこんなにも好きだったのか。
「こんな俺で良ければ、よろしくお願いします。」
花崎さんは嬉しそうにはにかむ。
こうして、一組のカップルがめでたく誕生した。
その瞬間、運命の歯車がねじ曲がった。
◆◆◆
(神様のキャラ変わってますが、同一人物です)
まずいまずいまずいまずいまずい!
どうしてこうなった???
確かに、負の感情を失ったことへの反発力、復元力が働いてもおかしくはないとは思っていた。神が好き勝手働いて世界が元に戻ろうとするのは必然と言えた。
例えるならば、そう、人間一人一人が磁石だと考えたら分かりやすいかもしれない。
嫌いな人は会うのを避けるし、好きな人とはもっと一緒にいたいと思う感情。あれは、自然と人間に本来プログラムされているものである。
正の極と正の極を近くまで近づけると、反発するエネルギーが働くことは人間の中学生でも知っているあたりまえのことだ。
それでもだ。だとしてもだ。
神様はその影響も含めての今回の打算であったが、流石にあの二人の間の反発力は強すぎることは想定外であった。
「もし、これ以上近づかれると、世界が滅亡、あるいは・・・」
普通の人ならば、憎み合ってる人とすれ違う時に風が吹くなど、何らか小さな副作用が起きるだけだろう。ただ、あの二人ははっきり言って異常だ。
どれだけ憎み合えば、隕石が降ってくる?地割れ、地震が起きる?こんなの転変地異でしかない。
「あの不確定因子を早急に解決せねば。うっ!」
世界の理を書き換えたのだ。神様は力を消耗するのは避けられなかった。
これでは、2、3年まったく動けないだろう。いくら神様でも、二人の関係がかなり進んでしまうと介入出来なくなるので、神頼みするしかなかった。まぁ自分が神なのだが、、、
ひとまず、神様は二人の動向を注意深く見守ることにした。
◆◆◆
晴れて、正式なカップルとなった二人であったが、加賀谷廉斗はひたすら自分の勉強机の前で悩み続けていた。
さっきから数学の問題集を目の前に置いたのはいいものの、まったく筆が動いていない。
だがこれは決して、難問に当たった訳ではない。
彼は完全に上の空であった。
「恋人になったはいいが、何をしたらいいのか全っ然分からない!!!」
実は彼、かなり女子からモテてはいるが、彼女いない歴=自分の年齢である。
理由は単純明快、自分ではつり合わないと女子の方から萎縮してしまうからだ。
また、神聖な存在として、中学時代には女子の間で不可侵条約が結ばれていたのも原因の一つだと思われる。もちろん、彼が知る由もないが。
彼自身、モテてる自覚は一切無かったが、女子とは仲良くしていたつもりではあった。
事実、廉斗に自分から話しかけに来る女子は沢山いたし、クラスでの印象は悪印象ではなく、むしろ好印象だったと断言できるだろう。
しかし、周りはどんどん彼女が出来てるのに、自分だけ、というのは彼の中で確かなコンプレックスとなっていたのだ。
そんなわけだから、中学、高校では自分は恋愛対象に見られてない、、、そう思うだけで心が毎回キリリと痛む学校生活を送っていた。
だが、そんな自己嫌悪に陥る人生にも終止符が打たれた!!!
そんな生活を送っていた彼に、人生初めての彼女が出来たわけだから喜ぶのは当然のことで、
彼は昨夜から一晩中、花崎とのこれからの関係について考えていた。
贅沢な悩みである。非リア充からすれば、さっさと爆発しろ!と思うくらいに。
「やっぱりちょっと今日は早めに家を出て、待ち合わせ場所まで先に行ってるか!女の子に待たせるのは悪いし。」
実は、付き合うことが決まって別れる際に最近、災害多いから、ということで学園に一緒に登校しようと約束していたのだ。
髪を整えてから、大きな鏡の前に立ってはウロウロするという奇妙な行動をしていた彼はついに決心した。
「い~よしっっと!行くぞ~!」
そうして、玄関の扉を勢いよく開けて力強い一歩を踏み出した。朝日に照らされたその横顔は何か迷いが取れたような、そんな清々しい笑顔であった。
待ち合わせ場所は二人の通学路が被る交差点にした。
そこにしたのは、どちらかが気を遣うことはないし、すれ違うことがないよね、というのが理由だ。
そう、なのだが、、、
待ち合わせ場所まで行くと、そこには既に花崎の姿があった。
「えっ?」
まさか、花崎の方が先に来てるとは思ってなかった。こっちだってかなり余裕を持たせて来たつもりだ。だって今、集合時間の30分前だぞ?
「おーい!花崎さ~ん?起きてますか~?」
試しに彼女の顔の前で手を振ってみる。
彼女は完全に近くのベンチで寝落ちしかけてた。こいつ、何分前からいたんだ?
すごい暖かそうなオーバーコートを着て、うつらうつらしていた姿を見てると、天使かっ!ってツッコミを入れたくはなるが、
その天使様はゆっくりと目を開けた。
「夢の中で廉斗の声が、、、って、はっ!」
夢から覚めた花崎は勢い良く飛び上がって、その拍子に ガツン!
僕らは、盛大に顏を正面衝突させた。今、ガツンって言ったよな?
結局、出会って早々互いに撃沈して頭を抱えて悶絶する結果となった。
「お、おはよう加賀谷君。」
涙目で挨拶してくる花崎さん。あれ?さっきは廉斗って言ってたよーな
「おはよう。花崎さん。一体いつからいたの?待たせた?」
「いや、全然全然。さっき来たばかりだよ~」
絶対嘘だ。寝そうになっていた事を考えると、さては15分以上前からいたな?
でも、そしたら来た時間としては集合時間の一時間近く前!?
彼氏のために尽くす彼女っていうのもイイネ、うん。
そんな事を考えていると、
突然、空からカラスの変死体がドサドサッと3羽まとめて落ちてきた。怖っ!
「じゃあ、早いけど外は寒いし、最近不吉だから先に学園行こうか~」
「そうだね!」
この今はまだ微々たる災害が自分たちのせいで起こってるとは、二人は夢にも思っていない二人はゆったりと歩き出す。あ、近くのマンションの5階から花瓶が落ちた。
通学途中はお互いに話すネタを探そうとするも、共通の話題があまりないというのもあって気まずい雰囲気が流れていた。何せ、相手は超お嬢様なのだ。
「あ、あ~あのチョコ美味しかったよ。下剤を除いたものは。」
何とか、ひねり出した言葉がそれ。
「それは、言わないでって約束~~~!あれは気の迷いっていうか、気を遣わなくていいから~~~!」
そう言うと、顏を赤くして手で顔を覆い、イヤイヤし始めた。
その姿は可愛かったが、地雷を踏んだみたいだ。
だが、それよりも気になるのが、、、
「なぁ、誰かにつけられてないか?」
「あ~↗あ~↘、あれはねぇ、うちのメイドさん。」
「はいっ?」
「私、実はいつもは学園まで車で送ってもらってるの。」
「へぇ~」
うちの学園は基本的に自動車通学は禁じてはいない。まぁ褒められたことではないのが確かだが。
それにしても、花崎さんは自動車通学なのか。知らなかった。いつも朝早くから教室で勉強してるから、遅刻ギリギリで飛び込む俺は登校中会うわけがないし、ほとんどの人がこの事を知らないだろうな。
ここで彼女の秘密を知れたのは大きい!
「それで今日は徒歩で行くと言ったら、お母さんが心配症だから監視を付けたみたいね~」
花崎さんは気まずそうに視線を横に逸らす。
「あ、あぁ~」
何となく察した。あの陽子さんだったら娘が心配になって外出するときも護衛の一人くらいは付けるんだろうな・・・あぁ、今日も空は青いなぁ。
「別に見られてることは気にしなくていいから!お母さん加賀谷君の事、気に入ってたし!」
「どうせ、関係がバレるのは時間の問題だからな~」
娘に恋人が出来たなんて知った日には盗聴器をつけてでも相手を特定しにかかるだろうしね。
彼女も同じことを考えていたらしく、二人揃って遠い目をする。
「花崎さんも苦労しているな~」
「それ!」
花崎さんが急に声を張り上げた。
「せっかく恋人関係なのに、さん付けって全然恋人っぽくないよね?」
「いや、そんなことは、、、」
これも、ある意味敬意を込めて呼んでいるのだが、、、
「ないよね???」
「はい。。。」
どうやら、俺には拒否権がないらしい。
「下の名前で呼ぶのがいいわね。」
「じゃあ、もちろん花崎さんの方からお手本を見せてくれるんだよな~?」
ニヤリ
「ほぇ?」
一瞬、何を言ってるのか分からなかったらしい。
しかし、顔を真っ赤にしながら、こちらを真っ直ぐ見て言った。
「う~~~っ!廉斗君。」
「うっ!」
今度は廉斗が恥ずかしがる番だ。完全にノックアウトである。
「ねっ?私も言ったからさ。廉斗君もほらほら!」
こんな時には相手を狼狽させる言葉を言った方がいいらしい。例えば、
「玲奈、好きだよ~」
こんな感じ。
それを聞いた途端、花崎さんは湯気がたったと思うくらい顏が真っ赤になり、プシュ~と言いながら膝に顏をうずめてしゃがみ込んでしまった。
軽い感じで言ったんだけど、効き目抜群!反応が案外面白いぞ
「こっち向いて玲奈~」「恥ずかしがっている顏を見せてよ~玲奈~」
「やめてぇぇ~」
と言いながら、嬉しそうに手をバタバタしてる。
ナニ、コノ可愛い子。
あ、ダンプカーが近くの川に突っ込んだみたいだ。
こうして、俺たちは下の名前で呼ぶ関係となった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから、学園に着いた後はお互いに普通に授業を受けていたが、少し普段と違うことがあった。
それは、昼休みのこと、
俺はいつもの4人組で飯を食おうと教室の端で机を繋げて、弁当箱を広げていると、
横の健二が俺の横腹をグイグイ肘でつついてくる。何なんだこいつは。とりあえず、トマトをパクリ。
「どう?彼女さんとの関係は。」
思いっきり、吹き出しそうになった。あぁ勢いでトマトが喉に、、、ゲホッゲホッ
健二と勇人がめちゃめちゃニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「いや、なんでお前らが知ってるんだよ。」
「実はさ~。俺ら屋上にいたんだよね~。ほら、屋上で呼び出されて廉斗がボコボコにやられないように?」
と勇人。
「いや、それはないだろ。お前達、ただ気になって潜伏してただけだろ絶対。」
「あ、あははは~」
と疾風。いや、分かりやすっ!こいつら、確信犯や。お巡りさん~!
「しかし、これで俺たちにも彼女が出来る可能性が高まったっつーことだ!」
え、モテない俺にも彼女が出来たから、俺たちにも出来るって?地味に傷つく。。。
「今まで、廉斗が全部女子の視線持ってくから、俺ら埋もれてたもんな~」
「いや、ないだろ。それは。」
即答した。なーにを言ってるんだこいつらは。まぁ、お世辞でも嬉しいけど。
「これだから、無自覚イケメンは~」
「でも、いいよなぁ。花崎さんって学園内だと3本の指に入るくらいの美少女だからな~。しかも、次のミス波亜都の優勝候補じゃなかったっけ?」
「彼女、いるだけうらやまし。」
ここで、お調子者の健二が爆弾投下!
「それに、ほら!ボインボインだし!」
ボインボインだし!ボインボインだし!・・・その声がやけに響いた。
健二は気づいていない。後ろにその本人が仁王立ちでいることに。
健二自身は両手の平を胸の前に出して、ゆっさゆっさとジェスチャーしてる。・・・流石に気付けよ。
「健二君?」
冷ややかな絶対零度の声が健二の後ろで響いた。
それを聞いた途端、健二は固まり、ギギギッとロボットのように首を回して後ろを向く。
何とか弁解しようと健二が口を開く。
「いや、大変麗しい花崎様のことをみんなで褒め称えてい・・・」
「完全なセクハラだよ!セクハラ!」
横から田村が最後まで言い終わらないうちに強引に口を挟む。
「こいつらとワイワイ話してただけです。責任は4等分です。」
責任の分配、実に平等である。聞こえはいいけど、、、
「いや、俺は違くないか?」
「こんな奴とは友達じゃないです。」
「今日から他人です。縁切ります。」
「友情脆いな!おい!」
理不尽だ~という叫びも空しく、健二は玲奈達一行に引きずられていった。南無南無。
屋上で彼らが告白を聞いていたのはバレなかったらしい。きっと、それを知ったら玲奈は恥ずかしすぎて立ち直れなくなりそうなので黙っておく。
それに、バレた瞬間半殺しにされるだろうしね。命拾いしたな、お前等。
いや、もう健二は死んだか。
「墓立てとく?」
「そだな。今日が健二の命日だ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
健二が瀕死で帰ってきた後、玲奈がこっちに寄ってきた。どうやら、さっき来たのも俺に用があったかららしい。
「廉斗君、少しいい?」
「ん?何だ?」
「この土日、両方空いてるんだけど、どこかに遊びに行かない?」
おー。デートのお誘いか。
「こっちもどっちも空いてるよ。どこ行く?」
「遊園地とかどうかな?」
「いいね。じゃあ空いてそうな土曜日に行こうか。」
「そ、そういえば、さっきの話だけど、廉斗も健二君とああいうこと話して、、、」
顏を赤くしながら、もじもじと話す玲奈。
「いや、完全に誤解だぞ?あれは単に健二の暴走っていうか、気分悪くしたらごめんね。」
「いや、いいの!もし、そうだったら心の準備とか(ゴニョゴニョ)」
「え、今なんて?」
「ん!なんでもない!!!ホントに!」
すると、周りの輩が騒ぎ出す。
「このどす黒い感情を忘れてたみたいだけど、何て言うんだっけ?あー嫉妬か、」
「夜道で刺されろ!」
「見せつけるな!このイチャラブカップル!!!」
言ってる本人達は、声を抑える気はないらしい。思いっきりこっちまで聞こえた。いや、聞こえるように言われたのが正しいかな?
流石の花崎、ゴホン、玲奈もこれには苦笑いをしていた。
俺はすごい優越感に浸っていたがな!!!へっ!
うおっ!外から野球ボールの流れ球が!
「というか、何で遊園地?」
「そりゃあ、何でって、、、恋人で行くと言えば遊園地じゃない?かも?」
「何故、お前が疑問形なんだよ」
結局、行き先は遊園地に決まりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(デートに誘う前日、夜)
花崎玲奈はベットの上で寝転がりながら、田村美咲とスマホで通話していた。
「ねぇ、美咲ちゃん。例えばの話だけどさ。もし、彼氏が出来たら行くべきオススメデートスポットってどこか分かる?」
『ん~。そうですね~。お相手はどんな感じの人ですか?』
「爽やかイケメンで何でも出来て、優しくて、、、って例えばの話だから例えばの話!!!」
危ない!完全に美咲ちゃんに乗せられるとこだった!
『ふふふ、それはいい人ですね。』
「だから、違う~~~!!!」
『加賀谷君と行くなら、遊園地とかいかがでしょうか?』
「ちょっと!話聞いてた?しかも、断定しとるし!」
『彼もまだ恋愛には疎そうですし、友達感覚で誘える遊園地ならハードルも低くて楽しめますよ!』
「ぐすん、いいもん。どうせ学園でいつかはバレるもん。」
『ついに認めましたか(笑)』
「あ~今、語尾に(笑)って付けたでしょ!!!分かるんだからね~!」
「とりあえず、アドバイスありがとう!明日、彼に学園で誘ってみるわ。」
『ご武運を!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
髪型良し!身だしなみ良し!
デート当日、私はキチッとコーデを決めて、スタンバイ。
今日は新しいワンピースを下ろしたのだ。廉斗、気に入ってくれるといいけど、
遊園地までは廉斗が家まで向かいに来て、エスコートしてくれることになっている。
もうすぐ来そう、”ピンポーン”来たみたいね。
扉を開けると、そこには私の彼氏である廉斗がいた。
「おはよう!」
「おはよう。おっ!今日も可愛いね~。服がとても似合ってる。」
「ありがとうっ!」
こうやって、恥じらいもなく素直に可愛いって言ってくれると、こちらとしてもすごい嬉しい。もう好きっ!
「じゃあ、行こうか。」
「うんっ!」
遊園地までは電車2本を乗り継ぐ。その間は雑談やらで時間を過ごした。
途中、踏切の故障だったり人身事故とかで、結局遊園地に着いたのはお昼を過ぎたくらいであった。
「不運だったね~。」そうお互い言いながら、まずはエントランスから入場する。
「まずは、お昼ご飯食べよっか!こんな時間になったちゃったし!」
廉斗が昼食の提案をしてくる。
「そうね!かなりお腹が空いたかも。」
私もこれには大賛成だ。さっきからお腹が空いて胃が収縮してる。
「じゃあ、近くの食べ物売ってる売店で食べよっか。」
「今ならハンバーガー3個は行けそうだな~」
さっきから、看板のメニューと睨めっこしている廉斗。
体格がガッシリしてることもあって、廉斗はやはり食べ盛りの男の子なのだろう。
「決めたっ!玲奈はもう決めたの?」
「もう決まってるわ。廉斗みたいに迷わなくていいもの。」
「そりゃあ、そっか。じゃあ、店員のお姉さん。このレギュラーハンバーガーを3つお願いします。」
「かしこまりました!(ポッ)」
店員のお姉さんの顔が一瞬赤くなったのは気のせいだろうか?これは、牽制するか、所有権を主張しとかなければ!とりあえず、店員さんをキッと睨んでおく。
「お連れのお客様はどうなさいますか?」
む~。流石プロの店員。顔色一つ変えないで対応してくる。先程の頬の赤みも一瞬で消えた。
だが、それもすぐにこの後青くなった。
「じゃあ、このデラックスメガバーガーを3つ!!!」
え、さっきまで感情をおくびにも出さなかった店員が絶句してる。
隣の廉斗も顔を引きつらせている。
何か私、やらかした?
「あれ?もう材料がないとか?」
「いえいえ。そんなことはありません!少々お待ちくだひゃい!」
さっきまでの完璧な店員はどこ行った、、、舌噛んで痛そう。
説明しよう!デラックスメガバーガーは通常のハンバーガーの約3倍の大きさでバンズの大きさはそのまま!パティの大きさ6倍の一日三十食限定の超メガ盛りバーガーである。
このジューシーなお肉が美味しいと口コミで聞いてから、ここのお店で一回食べて見たかったのよね~。
「え~っと、玲奈さん?さっき、迷わなくていいっておっしゃってませんでした?というか、そもそも全部食べられます?」
そこで何故敬語?
「そりゃあ、迷ってないわよ。最初から決めてたもの。ホントは5個くらい食べたかったんだけど、これでも自重した方よ。まだまだこの後も食べたいからね。」
「そ、そうか。よく食べるのは豪快でいいと思うよ。うん。」
そうしてるうちにハンバーガーがやってきた。あれ?店員さんの顏隠れてる~笑
「デ、デラックスメガバーガー3つとレギュラーハンバーガー3つでございます。ゼェゼェ」
店員さんはトレイを持ってるのも辛そうだ。
トレイを席まで運んで、いざ実食!
周りの人がジロジロ見てるが気にしない!いただきます!まず一口目をガブリ!!!
ん~♪口の中でほどける肉の柔らかさにあふれ出る肉汁。甘めのデミグラスソースも相まって、最高!!!これで買ったかいがあったというものだ。
そのままの勢いでペロリと一個目を平らげる。
ざわざわ
「すげーよ。あの人、大の男も怯むあのハンバーガーをたった3分で」
「ああ、あんなにスリムな体型なのに何処に消えてるのやら。」
「ママァ、あの人大食いの人?僕もあのハンバーガー欲しい。」
「しっ!あんなの見ちゃいけません。あなたには普通のハンバーガー買ってあげるから、ねっ?」
何かすごい注目されてる気がする。モグモグ
「玲奈が幸せそうに食べてるのを見てると、こっちの食べる気がうせ、幸せになってくるよ。アハハ。」
一瞬何か言いかけた気がするが、気のせいだろう。
それよりもさっきから廉斗の顏に表情がない。体調悪いのかな?さっきから一個の半分しか食べてないし。
「廉斗君、大丈夫?食べるの無理そうだったらもらうよ?」
スッとハンバーガーが目の前に差し出される。
無言はオッケーのサインだろう。じゃあ、いただきます~
「は~!美味しかった!ありがとね!廉斗!」
ハンバーガー代は結局、廉斗が奢ってくれた。
廉斗が小声で
「お金足りるかな~。このペースだと帰りの運賃無くならないかな~」
と呟いていたのは、玲奈には秘密である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、次に二人が向かったのは、メリーゴーランドである。
玲奈本人たっての希望でこうなった。理由を聞いたら、
「だって、メリーゴーランド一緒に乗るって恋人っぽくない?」
だそうだ。本人が嬉しそうなのでそれでいいか。
「さて、並びましょ、並びましょ。」
背中をグイグイ押してくる。早く行きたいのは分かったから、押すなって
玲奈は白馬、俺はラクダに乗った。何でラクダかって?そりゃあ珍しいからだ。他にも象とかシマウマとか、もう何でもアリじゃねーか!
「ふふふ、見て見て~!」
そう言いながら、玲奈は白馬の胴周りを地面に付かずにグルングルンと回っていた。すごい身体能力だな~。俺にも、、、出来るか。
俺も対抗してやることにした。グルングルン
それを見た玲奈は今度は、白馬の上で片足立ち・・・
あれ?玲奈の体勢的にかなり際どいんだよな~。教えてあげないと気づかないだろう。
遠心力でかなりめくれ上がってるし、俺には見えなくても外で見てる人に見えるのはまずい。
「おい、玲奈。色んな意味でヤバい」
その言葉で分かったようだ。慌ててスカートを押さえるが、そうなると体勢が崩れるわけで、、、
「あっ!」
「危ないっ!」
危機を察知した俺は、彼女を白馬の真下でキャッチ・・・ギリギリセーフ!一点入りました!
「ありがとう。死ぬかと思った。」
「ほら、すぐ調子乗るから~危なっかしいんだよ~」
なーんて会話をしてると、目の前に怖い顏をした係員の人が。
二人ともつまみ出されました。自業自得でした。はい。
「ね?次はあれにしよ?」
というわけで、目の前にあるのは、コーヒーカップ。
今、カフェにいるかって?そんなことはない。今いるのは人間用コーヒーカップの中だ。
普通に乗る分には楽しいけど、たまに狂人がいると、殺人兵器になる代物でもある。
カップに乗り込んだ玲奈はというと、キラキラと目が輝いている。
本当に嫌な予感しかしない。
カップが回り始めた。取っ手に手を掛けた玲奈は、序盤から、、、
え、ちょっ!まっ・・・
「~~~~~~~」
「い~やっほ~い!」
「ギャ~~~~」
絶叫が響き渡った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局、私に散々カップを回された廉斗は方向感覚がフラフラなまま、ベンチでぐったり。
「本当にごめんね~。まさかあんな少し回しただけで、気分が悪くなっちゃうなんて思わなかったの!」
「めちゃめちゃ嫌味だな。うっ、気分が、、、」
「でも。廉斗にも苦手なものがあるのね~」
「そりゃあ、そうだよ!人間だもの。それに、限度ってもんがあるわ!!!」
「廉斗も普通の人間で安心したわ。」
「え、言外に俺のこと人間だと思ってなかったって意味含んでるよね?ね?」
含んでませーん。宇宙人かと思ってただけですぅ~完璧超人だったし。
「でも、私って前に友達と乗ったときもお一人でどうぞって避けられたのよね~」
「その人、ちゃっかり地獄を回避してる?!」
「何よ。地獄って失礼な。それより、次が時間的にラストになりそうね。ここまで全部私のリクエストだから、最後くらい廉斗の行きたい所に行きましょ!」
「う~ん、じゃあお化け屋敷?」
「・・・えっ?」
実は私、大のお化け嫌いなのだ。
「お化け屋敷は子供騙しすぎて、つまらないよ~。ジェットコースターとかどうかな?ねっ?」
「誰かさんのせいで盛大に酔ったあとにジェットコースター乗れると思います?」
すごい白い目で見てきた。
「うっ」
ぐぅの音も出ない。
「でも、ここのお化け屋敷って怖くて有名らしくて、この遊園地の名物らしいよ。」
「えっ?そうなの?」
いや~~~~そんなの余計いや~~~~~~
「もしかして、玲奈ってお化け屋敷がめちゃめちゃニガ・・・」
「そんなことない!!!」
最後まで言わせてなるものか!ここが正念場よ!頑張れ私!
「お化けなんてって思ったけど、そんなにクオリティーが高いなら満足出来ると思うわ。ささっと行ってささっと終わらせましょ!」
お化けなんて怖くない。お化けなんて怖くない。お化けなんて怖く・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「う~ん、じゃあお化け屋敷?」
特に行くところが思いつかなかった俺は、お化け屋敷を提案した。お化け屋敷は得意ではないが、苦手でもないので、ちょうどいいし。
「・・・えっ?」
今の反応を見て、思った。あ、これ絶対、玲奈お化け苦手なやつや。
「お化け屋敷は子供騙しすぎて、つまらないよ~。ジェットコースターとかどうかな?ねっ?」
この逸らし方は確定。
「誰かさんのせいで盛大に酔ったあとにジェットコースター乗れると思います?」
これが俺の本音だ。いや、だってさっきまで死ぬ思いしてたからね!
「うっ」
「でも、ここのお化け屋敷って怖くて有名らしくて、この遊園地の名物らしいよ。」
断れないように話を持ってくか。怖がってる玲奈の姿も見たいし。二ヒヒ
「えっ?そうなの?」
あと、もう一押しかな?
「もしかして、玲奈ってお化け屋敷がめちゃめちゃニガ・・・」
「そんなことない!!!」
遮られた。
「お化けなんてって思ったけど、そんなにクオリティーが高いなら満足出来ると思うわ。ささっと行ってささっと終わらせましょ!」
最後に本音が詰まってるがな、、、
こうして、俺たちはお化け屋敷へ向かった。
結論から言おう。滅茶苦茶怖かったです。はい。主に色んな意味で完全にホラーの域でした。
お化け屋敷の中に入ると、まず初めにこんにゃくが垂れてきました。
こんにゃくなんて、って思うでしょ?ここのこんにゃくはすごい濡れてて突然首筋に当てられた時は心臓止まるかと思った。
それにタチが悪いことに、このこんにゃく、ずっと俺らの後をついてくるのだ。
あっ、お化け!ピトッ ひぃやぁぁぁ!
あっ、骸骨だ!ピトッ ひぃやぁぁぁ!
もう、こっちの方が恐怖です。
でも、だんだん終わりが近づいてくる。
そうすると、自然とこんにゃくに愛着が湧いてくるわけですね。
ゴールにたどり着くと、記念に付きまとってたこんにゃくもらえました。。。って、どんなサービスや!
玲奈の方はというと、、、
「ひっ、生首が宙に浮いてる!」
「きゃあ!井戸から河童!」
「お化けぇぇぇぇ」
半ベソだった。お化け屋敷の人も怖がらせがいがあっただろうな~
古典の妖怪もいるんだね。
「廉斗!あそこ!あそこにミイラ男が~ひゃあ!」
ミイラ男ってハロウィンのイメージしかないんだよな~。西洋風と言い、ジャンルは何でもアリってとこか。
思いっきり抱きついてくるのはいいのだが、そうするとこんにゃくを防ぐ手立てがないわけで、、、
二人して悲鳴を上げながら、何とか最後までゴールしたのであった。
ちなみに終わった後、玲奈はこんにゃくを愛おしそうに撫でてた。あ、こっちは逆に大丈夫だったのね。
怖がりには正攻法で、怖がらない人には刺激のルートで怖がらせる。
うん。これ以上、あまり考えないようにしよう。
日がすっかり沈んだ頃、俺たちは中央広場へと足を運んでいた。
「お、そろそろだな。」
「え?何が?」
「まぁ見ててなって」
時計に合わせて、
「さ~ん」
「え、何のカウントダウン?」
「に~い」
「怖い怖い」
「い~ち」
「はいっ!」
「あ、、、」
その視線の先には・・・
「わぁ~。綺麗~!」
辺り一面にイルミネーションが光っていた。ここで、すごく綺麗なイルミネーションがあるというのを聞いて、ライトアップのタイミングを狙って訪れたのだ。
「来て良かったな。」
「うん!一生の思い出になるよ!」
その日の夜、東京を首都直下地震が襲った。
◆◆◆
おまけ(数年後の未来)※三人称視点です。
「覚えてる?この遊園地。初めてデートに来た場所なんだけど」
「えぇ、覚えてるわよ。今は廃園になってるけど、外から見てみると当時のままね~」
二人の男女がこの思い出の場所を訪ねていた。今はもう廃園となってしまったが、そこにあったアトラクションはそのままの状態で残されていた。あんなに賑やかだったエントランスには、無数の立入禁止のテープが貼られていた。
「まだまだ動きそうなのにホントに残念」
「じゃあ、もしまだ中に入れると言ったら?」
「え?」
男の方がニヤニヤしながら、女の方の手を取る。
「ついておいで」
そこは、エントランスからちょうど真反対側の警備員が使っていた監視所だった。
中に入ると、部屋全体が埃臭くはあったが、ここに人が昔使っていた生活感がまだ残っていた。
ハンガーにかけられた警備服、戸棚に入っている本、まだ外に捨てられずに置いてあるスナック菓子の袋など。残された遺留品が部屋に色を与えていた。
「こっちだ。」
園内へ入る扉に鍵はかかっていなかった。
出た場所はちょうど元々売店だった所らしい。いくつものテーブルが乱雑に置いてあり、プラスチック椅子は一カ所に積み重ねられていた。
男は積み重ねられている椅子のうち2つだけ引っ張り出して、二人で近くのテーブルで座った。
「今まで色々なことがあったよなぁ。」
「そうね。」
「特にこの遊園地での初デートは凄かったぞ?メリーゴーランドでお前が調子乗って落ちそうになるわ、コーヒーカップでは逆に目を回されたし、」
「フフフ、あの後酔って大変だったもんね~。一人でベンチで辛そうにしてたっけ?」
女の方がニヤニヤしながら、男の脇腹をつつく。
「「そして、何と言ってもお化け屋敷!!!」」
二人同時で綺麗に声が重なって、お互いに思わず笑みがこぼれる。
「大変だったけど、こうして今まで過ごしてきて幸せだったなと思うよ。」
「私もよ。あなたと過ごしていると、とっても楽しいもの。」
お互いにしばらく無言で空を見上げて過ごす。
どのくらい経っただろうか?男は急に真剣な眼差しで
「玲奈聞いて欲しい。」
と、切り出す。
「どうしたの?急に畏まっちゃって。」
女は不思議そうに首をかしげる。
「玲奈、俺と結婚してくれないか?」
どうやらプロポーズのようだ。
女の方は向日葵が咲いたような笑顔になった。そして、その返答は、、、
「はい。こちらからもお願いします。これからもよろしくね!蓮斗!」
大小様々な隕石がこれを祝福?するように宇宙から降り注いだ。
遊園地周辺に巨大なクレーターが量産される中、当の二人はもう慣れたのか、静かに微笑み合った。
めでたしめでたし。
神様は思った。
いや、もうこれ完全に地獄絵図と化してるんだけど、、、人類滅亡かな???
天使達は騒いだ。
「え、なーにこれ。ラグナロクなの?」
人類滅亡はどうやら避けられないようです。
(終)
いかがだったでしょうか?楽しめたら幸いです。
分かりにくいと思うので補足:二人の間に斥力が働いていると思って頂ければ。
よろしければ、評価お願いします!
ちなみに私の好きな数は5ですね!今日のラッキーナンバーも5らしいですよ!(大嘘)
↓↓↓来年チョコが倍増するボタン↓↓↓