5. コーン大激怒
ユニコーン、それは空想上の一角獣。
処女になつくという特性を持つため、現実に存在しているこじらせ処女厨のことを揶揄することに使われることがある。
短くしてコーンと呼ばれることも多い。
コーンは基本的に火が出ていないときは無害な存在で、姿が見えない。
ところが、いざ男という煙が立ち始めると話は違う。
「残念です」、「中古」、「見損なった」、「切る」など心ない発言を繰り返すのだ。
さらには、曲がりに曲がった妄想で、話をでっち上げるなんていうこともする恐ろしい存在だ。
俺は、様々な動画や炎上騒ぎを見ていたことがあるため、コーンの存在には気づいていたが、
極端で歪んだ姿は決して快いものではなく、あまり見たくなかった。
もちろん自分自身はそういう存在ではない、そう思っていた。
ある日のこと、サーラが初めての相手とコラボをしていた。
相手は数ヶ月前に登場し、人気を集め始めているA男だ。
元はホストという経歴らしく、話を盛り上げるのが得意で、軽口が面白い。
サーラのコラボ相手にしては珍しいタイプだ。
配信が始まった。
最初は、サーラはいつもの相手とは違ったタイプに戸惑った様子は見せず、いつもようにおっとりと進めているように見えた。
ただ、視聴している側からすると、コラボ相手のA男の絡みがひどく鼻につく。
サーラと初コラボのわりに馴れ馴れしく、サーラを貶して笑いを取ろうとするように見える場面がしばし御受けられたからだ。
「サーラちゃんって、ほんと抜けてるよね。」
「えー、そんなことないと思いますけど。」
サーラは笑いながら言うが、見ている俺としては
抜けているだって?抜けているのはお前のオツムだろ。
「ちゃん」じゃなくて「さん」つけろ。
俺は見るのをやめようと思ったが、この男がどんな所業に出るのか気が気でなく、
イライラしながらも見続けるしかなかった。
A男の暴挙は止まらない。
「あなたの友達がお肉屋さん屋さんにいます。どこの部位を買ったでしょうか?」
「え、なんだろ?もも肉かな?」
「はい、心理テストの結果それはあなたが自信のある部位でーす。
確かにサーラちゃんは綺麗な足しているよね。」
「え!?って見えてないじゃないですか。」
A男の発言に、サーラが苦笑しながら言った。
「心の目で見た。リスナーさんへのサービスってことで、一回見せてみてよ。」
A男もにやりと笑って言った。
バンッ。
俺は怒りのあまり机に台パンし、苦悶の表情で俯く。
この男、許せん。
すると、画面には登場していないが、そのキャラの声が聞こえるという
俗に言う天の声が聞こえた。
「コラコラ、サーラちゃんをいじらない。」
「あっ、エルナちゃん来てくれたんだ。」
エルナの声にホッとしたように嬉しそうな声でサーラが言った
「ここからは、私とサーラちゃんの二人で進めていくから、A男は出てって。」
「そんなぁ、俺も、混ぜて」プツん。
A男の接続が強制的に途切れた音がした。
「はい、追い出し。ごめん、今日って何配信してたの?」
「今日は、みんなからもらったメッセージ読みをしてるんだ。
今日エルナちゃん忙しいからって、別の人とコラボすることになったからずっと心細かったんだよ。」
「ごめんごめんって。」
そして、その後はエルナとサーラの配信が続いた。
殺意に芽生えた俺の心に、平穏が戻っていった。
やっぱりこの二人は鉄板。
花園に邪魔者は不要。